ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンターズギルドが、かつてない大混乱に陥っている!
ある朝、目を覚ましたハンターたちは、自分たちの身体がすっかり入れ替わっていることに気づく。無敵の大剣使いは可憐な少女に、弓の名手は筋骨隆々の男に。原因は、謎の古龍が落とした呪われた「逆鱗の欠片」。元に戻るためには、その古龍を討ち倒し、すべての欠片を集めなければならない。
しかし、狩猟はめちゃくちゃだ!軽やかになった新たな身体を満喫する者もいれば、重すぎる武器を持ち上げることすらできない者もいる。「俺の髭を返せ!」「この長いまつ毛はなんなんだよ!?」街は笑い声と悲鳴に包まれ、アイルーたちはそれを見て、ちょっと楽しみすぎている様子だ。
そんな中、最大の厄介事は、若きハンターコンビ、リョウとユラに降りかかる。生意気な少年リョウは、ふわふわの金髪を持つ可憐な少女の姿に。相棒のユラは、クールな銀髪の美女から、背の高いハンサムな少年へと変わってしまう。彼らは常に言い争う犬猿の仲だったが、今では互いの新しい身体を前に、うろたえてまともに話すこともできない。
狩猟の最中でさえ、リョウはスカートが気になっ
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック - 突撃!アジト大騒乱と、心臓を撃ち抜いた男の顔
冷たい風が、包帯ごしに腕を刺す。
ずるり。
リョウは右脚を引きずりながら、氷の岩場を進んだ。折れた腕は固定し、包帯が巻かれている。大剣は川に流されて、もうない。
「[whispers]……いてて」
アジトは、もうすぐだ。岩壁にへばりつくように建つ、石造りの牢獄。見張りが二人、たいまつの前に立っている。
リョウは腰を低くした。
(頭を使え。力じゃねえ)
右手が冷たい雪を握る。握りしめて、固めた。
——ブンッ。
雪玉が飛んだ。
バサッ。
離れた岩に当たり、音を立てる。
「[surprised]ん? 今の何だ?」
一人が、たいまつを掲げて近づいてくる。リョウは岩陰に隠れ、もう片方の手で石を掴んだ。
——ゴロゴロゴロ……
今度は大きな石を、斜面に向かって蹴り転がす。
「おい、あっちにも何かいるぞ!」
二人目の見張りが、斜面の方へ走っていく。
(よし……)
リョウは一人になった見張りの背後に、静かに忍び寄った。包帯の下で、折れた骨がきしむ。
「[serious]わりぃな」
ゴッ。
左手一本で、首筋を打った。
見張りが崩れる。たいまつが雪に落ちて、ジュッと消えた。
リョウはその体を、ゆっくり岩陰に引きずる。息が荒い。冷たい空気が、肺を焼いた。
「[whispers]……あと、ひとり」
もう一度、雪玉を飛ばす。今度は牢獄の裏手だ。
「[angry]クソ、何なんだよチクショウ!」
残った見張りが、大声で悪態をつきながら裏へ回る。その隙をついて、リョウは鉄格子の入り口に体を滑り込ませた。
ギギギ……
冷たい鉄の扉を、背中で押し開ける。
月明かりだけが、牢の奥を照らしていた。
「……ユラ」
声が、暗闇に吸い込まれる。
牢の奥で、何かが動いた。
「[cold]……遅い」
ユラだ。
鉄格子の向こうで、短い黒髪が揺れる。ユラは壁にもたれて、膝を抱えていた。声はいつも通り、冷たい。
でも。
目が、潤んでいるのをリョウは見逃さなかった。
「[angry]うるせえ! これでも必死に……あっ」
ずるり。
右脚がもつれて、リョウは床に転んだ。
「[whispers]……バカじゃないの」
ユラが、小さく笑った。
「[scared]な、なんで笑うんだよ! すげえ痛いんだぞこれ!」
「[gentle]……来てくれて、ありがと」
リョウの言葉が、喉で止まる。
ユラは天井を見上げて、何も言わない。でも、鉄格子の間から伸ばした指が、リョウの包帯をそっと引っ張っていた。
「[crying]……バカ」
声は震えていた。
その時だ。
——ドガッ!!
入り口の扉が、けたたましく吹っ飛んだ。
「ヒャハハハ!! 誰かと思えば、川に落ちた小娘じゃねえか!」
キバだ。巨大な体が、月明かりを背負って立っている。ぎらつく金色の目、左頬の傷跡。手には鍵の束が握られ、腰のポーチには逆鱗のカケラが数片、白く輝いていた。
「生きてやがったとはなあ! だがここで終わりだ!」
キバは鍵の束を、嘲るように振ってみせた。
「この鍵は渡さねえ。てめえはここで死ね。元の体になんか戻ってたまるかよ!」
「[angry]やってみろよ!」
リョウは岩に手をついて、立ち上がる。包帯の下で、骨が軋む。痛みで目の前が白くなった。
でも、引かない。
リョウはキバに飛びかかった。
「このガキがぁ!」
二人は床の上で取っ組み合いになる。キバの拳がリョウの腕にめり込み、リョウは折れた腕ごと体当たりをした。
その時だ。
——キィィィン……
高い音。
リョウのポーチと、キバの腰のポーチが、同時に白く光った。逆鱗のカケラが、至近距離で共鳴する。
視界が、歪んだ。
「[scared]う、お……っ!?」
リョウの体が、カッと光に包まれる。金髪が逆立ち、スカートがはためく。
一瞬——本当に一瞬だけ、リョウの姿が変わった。
蜂蜜色の髪が黒く縮み、碧眼が勝ち気な黒目に変わる。肩幅が広がり、身長が伸びて、包帯がはち切れそうになる。
19歳の、本来の男性の姿。
「[angry]うおおおおお!!」
リョウはキバの腕を、力任せに押し返していた。歯を食いしばり、汗が飛ぶ。
その顔を、チアキは見た。
——ドキン。
牢獄の入り口に立っていたチアキの、心臓が一度だけ大きく跳ねた。
吊り目の琥珀色の瞳が、大きく見開かれる。ポニーテールが、ふるりと震えた。
(あ……)
チアキは自分の胸を、ぎゅっと掴んだ。
(あの顔、あの目——なにあれ。すごい。すごすぎる。全然知らなかった)
「あの力強い目つき、あたしの好みどストライクじゃん……! あの男、私がもらう!」
チアキは叫んだ。
キバの手が止まる。リョウも、ユラも、全員の動きが止まった。
「[surprised]……は?」
リョウの体は、もう元に戻っていた。蜂蜜色の金髪、たれ目の大きな碧眼。小さな手、華奢な肩。ぽかんと口を開けて、チアキを見上げている。
「[surprised]ちょっと待て。なに言って——」
「あんたでしょ! さっきの男! すっごい良かった! どこいったの? あの人が本物のあなたでしょ!」
チアキはずんずんと近づいて、リョウの両肩を掴んだ。
「[angry]これが俺の今の体なんだけど!? どっちが本物って、どっちも俺だけど!?」
「違う違う! あたしが好きなのは今のじゃなくて、さっきの男のほう!」
「[angry]同じだって言ってんだろ!!」
二人の口論が、牢獄にこだまする。
その一部始終を、ユラは静かに見つめていた。鉄格子の向こうで、表情は変わらない。でも——耳が、リンゴみたいに真っ赤になっている。
「[cold]……早く開けなさいよ」
ユラの低い声が、牢に響いた。
リョウはハッとして、キバを見る。キバも、あまりの展開に呆気に取られて、鍵の束を手にしたままだ。
「[serious]今だ!」
リョウはキバの手から鍵の束を奪い取った。キバが我に返って掴みかかろうとするが、その前にチアキが立ちはだかる。
「キバ、ちょっと待ちなって!」
「[angry]てめえ、どっちの味方だ!」
「あたしはあたしの恋の味方だよ!」
ガチャリ。
鍵が回った。鉄格子が開く。
リョウは牢に飛び込んで、ユラの腕を取った。包帯に巻かれた手で、ユラの手をぎゅっと握る。
「[serious]立てるか」
「[whispers]……ええ」
ユラはリョウの肩を借りて立ち上がった。そして、何も言わずにリョウの包帯を引っ張って、折れた腕の傷をのぞき込む。
「[sad]……バカ。なぜもっとひどい怪我をして来るのよ」
そっぽを向いて、ユラは言った。
リョウの胸の奥で、何かがじんわりと温かくなる。
「[whispers]心配してくれてたのか」
「[angry]……してない」
耳は、真っ赤だった。
「[angry]貴様ら……よくも好き勝手に!」
キバが吼えた。
怒りに任せて、巨大な拳を振り上げる。筋肉が盛り上がり、血管が浮き出る。
「カケラは渡さねえ! この体は俺様のものだ! 二度とあんなみじめなチビの俺には戻らねえんだよ!!」
ユラが、リョウの腕から静かに離れた。
一歩、前に出る。
「[cold]……キバ。あなたが憎いのは、昔の自分自身でしょ」
ユラの声が、牢獄に凪いだ水面のように広がる。
キバの動きが、凍りついた。
「[cold]あなたは、ずっと言ってたわ。『最底辺』の自分が嫌だったって。『非力な自分が許せなかった』って。でも——今のあなたは、弱かった自分を否定するために、強くなったんじゃない」
「[scared]黙れ……黙れえええ!!」
「[cold]その体は鎧じゃない。逃げ場所よ」
キバの拳が、だらりと下がった。
金色の目が、大きく見開かれる。唇が震え、歯の根がカチカチと鳴った。
「[crying]……うるせえ。なんで、なんで俺のことがわかるんだよぉ……」
キバの膝から、力が抜ける。
ドサリ。
岩の床に、腰を落とした。
リョウは、キバの前に立った。
「[serious]……お前のカケラ、全部もらうぞ」
キバは何も言わない。ただ、腰のポーチから逆鱗のカケラを数片まとめて取り出すと、乱暴にリョウの胸に押しつけた。
「[whispers]……もう、いい」
キバはうつむき、岩に背を向ける。
「[surprised]キバ!? なんで負けてるの!? いつものあんたはもっと——」
「[angry]うるさい!!」
キバの荒い声が、牢獄に響いて消えた。
チアキは口をとがらせて、リョウの方を向いた。
「[excited]まあいいや! あたしもついてくからね!」
「[surprised]は? なんでだよ!」
「呪い解けばあたしも元の体に戻れるでしょ? それに——」
チアキはリョウの顔をのぞき込んだ。
「[whispers]さっきのあんた、すごく良かったよ。また見られるかもと思ったら、離れらんないじゃん」
「[scared]見られてたのかよ!?」
リョウは真っ赤になって、後ずさった。
その時だ。
スッ。
ユラがリョウとチアキの間に、音もなく立った。
「[cold]……行くわよ。古龍は待ってくれない」
ユラの声は澄んでいて、抗議を許さない。チアキは一瞬ムッとした顔をしたが、ユラの冷たい目を見て、肩をすくめた。
三人は牢獄を出た。
雪が、やんでいた。
夜明け前の空に、鏡鳴きの山の山頂がそびえ立つ。頂上の岩壁が、シルヴァナイトの光を反射して、青白く輝いていた。
ミラヴォルテの巣——鏡の揺りかご。
リョウのポーチの中で、逆鱗のカケラが全部で14片、銀白色の光を放っている。
「[serious]……行くぞ、ユラ」
「[cold]言われなくても」
ユラは、リョウの右隣を歩く。わざとらしく近い距離。
「ねえねえ、リョウ!」
チアキが後ろから声をかける。そのたびに、ユラはほんの少しだけ、リョウとチアキの間に自分の体を滑り込ませていた。自分でも気づかない、小さな動き。
リョウは前を向いて、頬をかいた。
「[whispers]……なんか、めんどくせえことになったな」
でも、その顔は——ほんの少しだけ、笑っていた。
ポーチの中のカケラが、一際強く輝く。まるで、山の頂上を指し示すように。
冷たい風が、三人の髪を揺らして、氷の道を登っていった。