ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンターズギルドが、かつてない大混乱に陥っている!
ある朝、目を覚ましたハンターたちは、自分たちの身体がすっかり入れ替わっていることに気づく。無敵の大剣使いは可憐な少女に、弓の名手は筋骨隆々の男に。原因は、謎の古龍が落とした呪われた「逆鱗の欠片」。元に戻るためには、その古龍を討ち倒し、すべての欠片を集めなければならない。
しかし、狩猟はめちゃくちゃだ!軽やかになった新たな身体を満喫する者もいれば、重すぎる武器を持ち上げることすらできない者もいる。「俺の髭を返せ!」「この長いまつ毛はなんなんだよ!?」街は笑い声と悲鳴に包まれ、アイルーたちはそれを見て、ちょっと楽しみすぎている様子だ。
そんな中、最大の厄介事は、若きハンターコンビ、リョウとユラに降りかかる。生意気な少年リョウは、ふわふわの金髪を持つ可憐な少女の姿に。相棒のユラは、クールな銀髪の美女から、背の高いハンサムな少年へと変わってしまう。彼らは常に言い争う犬猿の仲だったが、今では互いの新しい身体を前に、うろたえてまともに話すこともできない。
狩猟の最中でさえ、リョウはスカートが気になっ
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック - フロスラプトル30匹と、ドキドキは止まらない
岩場は、朝日を浴びて白く乾いていた。
リョウは自分の足を見おろす。ブーツはちゃんと履いてる。足のサイズも、この体になってから何度も確かめた。でも——
ずるっ。
「[angry]うわっ!」
右足が岩の上をすべった。視界がぐにゃりと傾ぐ。スカートのすそがふわりと持ち上がり、ふとももに冷たい風があたった。
——ガシッ。
太い指が、リョウの細い腕をつかんだ。
「[cold]……二度目よ」
低い声。
リョウが顔を上げると、銀色の髪が朝日にきらめいていた。切れ長の黒い目が、無表情でリョウを見おろしている。肩幅が広くて、腰の位置が高い。完全に、男の体だ。
ユラがリョウの腕を引いて、体を起こす。
リョウの胸が、ドキリと跳ねた。
(この手……あったかい)
心臓がうるさい。顔が熱くなって、何を言っていいのかわからない。
「[cold]その体、慣れないなら無理しないで。休む?」
ユラの声はいつもより少しだけ、ほんの少しだけ柔らかい気がした。
でも、リョウはすぐに腕をふりほどいた。
「[angry]べ、別にいいんだよ! 自分で歩けるっての!」
声がうわずった。
ユラはため息をつく。
「[sarcastic]……はぁ。バカじゃないの」
「[angry]うるせえ! やってみろよ!」
いつもの口げんかだった。
でも、二人の歩く間隔は、昨日よりほんの少し縮まっていた。
――ずるっ。
「[scared]うわあっ!」
三度目だった。
今度は大げさに転びそうになったリョウの腰を、ユラが片手で支える。まるで荷物を持つような手つきで。
「[cold]三度目よ」
「[angry]わかってるよ!」
リョウは顔を真っ赤にした。心臓がドキドキする。そのドキドキをごまかすために、口が勝手に動いた。
「[angry]なんでそんなにデカいくせに足音が静かなんだよ! 気配がないんだよお前は!」
八つ当たりだった。自分でも意味がわからない。
でも、ユラは眉一本動かさなかった。
「[cold]……元の体がそうだったからよ」
その声が、やっぱり少しだけ柔らかい。
リョウは何も言えなくなって、うつむいて歩き出した。
ずるり。ずるり。
大剣を引きずる音だけが、渓谷にこだまする。
しばらく黙って歩いた。トルーネ渓谷は深くえぐれた谷底に、シュトラール川の支流が白く泡立って流れている。岩壁には苔がびっしりとついていて、冷たい空気が肌にまとわりついた。遠くで風がうなり、岩の間をすり抜ける音がする。
渓谷が折り返す地点に差しかかった時だった。
――ガサガサガサ!
リョウの足が止まる。
前方の岩の上から、無数の小さな影が飛び降りてきた。
二本足で立つ、トカゲのような姿。鋭い牙。鎌のような爪。青黒い鱗が朝日をはじいて、ぬらぬらと光っている。
一匹、二匹、三匹——
十、二十——
フロスラプトルだ。
群れは瞬く間に二人の進路をふさいだ。逃げ道は、ない。ぐるりと輪を作り、小さな目が一斉にリョウとユラを向いた。
「[whispers]……マジかよ」
リョウは大剣を構えようとした。
でも、重い。
両手で持ち上げた大剣の先が、くんっと下がる。体重が乗らず、刃先が地面をガツンと叩いた。反動で自分がよろける。
「[scared]くそっ!」
となりで、ユラが弓を引いていた。
ブチン。
嫌な音がした。
弦が千切れた。ユラの顔が一瞬だけこわばる。
「[cold]……男の力がありすぎるわ」
ユラはすぐに二本目の弦を取り出した。手早く弓に張る。もう一度引く。
——ブチン。
また千切れた。
三度目。今度は弓本体が、バキリと嫌な音を立ててへし折れた。
ユラの手に残ったのは、ただの棒切れだった。
二人は同時に、目を見合わせた。
一瞬の沈黙。
「[angry]お前の弓が!」
「[cold]あなたの大剣こそ」
フロスラプトルたちが、じりじりと距離を縮めてくる。牙をカチカチ鳴らす音。鋭い爪が岩をひっかく音。
リョウは、頭上の崖を見上げた。
渓谷の壁に、真っ白な雪が積もっている。朝日が反射して、まぶしいほどに輝いていた。雪の量、傾斜、高さ——リョウの頭の中で、何かがカチリとはまった。
「[serious]……あの雪なら、いける」
リョウは大剣を地面に引きずったまま、崖に向かって走り出した。
「[surprised]ちょっと、何をする気!?」
ユラの声が後ろから飛んでくる。
リョウは答えなかった。崖の岩場を蹴り、よじ登る。スカートがじゃまで足がもつれそうになる。それでも歯を食いしばった。
息が切れる。腕がパンパンに張っている。
雪壁の根元にたどり着いた。
リョウは大剣を両手で持ち上げた。重い。でも、振らなくてもいい。叩けばいい。
一発目。
空振り。
刃が空を切って、リョウの体がふらつく。
「[angry]くそっ!」
二発目。
ゴン。
雪壁に小さなヒビが入った。
三発目。
渾身の力で、大剣の柄を雪壁の根元に叩き込んだ。
ドドドドド——
雪壁全体が、崩れ始めた。
白い雪の塊が、轟音とともに谷底へと滑り落ちていく。リョウは崩れる雪の上を、転がり落ちながら渓谷底へと逃げた。
ザアアアアアアアア!!
雪崩が、フロスラプトルの群れを正確に飲み込んだ。
悲鳴のような鳴き声があがり、青黒い鱗が白い雪に消えていく。散り散りになった数匹が、岩場の向こうへと逃げていった。
静寂。
雪の煙がおさまると、渓谷はすっかり白く変わっていた。
——ズボッ。
雪の中から、リョウの頭だけが出ていた。
金髪に雪がからまっている。顔中、雪だらけ。スカートはもちろん、ブーツの中まで雪が入っていた。
ユラが雪をかきわけて近づいてくる。
リョウの両腕をつかんで、力いっぱい引っ張り出した。
「[gentle]……ほんとバカよね」
ユラの声はあきれていた。でも、その口元が、ほんのわずかにゆるんでいる。
「[gentle]でも、使えるわ」
ぼそっと付け加えて、小さく微笑んだ。
リョウは、その笑顔を正面から見てしまった。
朝日を背にした銀色の髪。切れ長の黒い目が、ふわりと細められている。いつもは冷たい印象のその顔が、今は信じられないほどやわらかい。
ドキン。
胸の奥が、大きく跳ねた。
「[surprised]え、お前今笑った!? 笑ったよな!? なあ!」
リョウは素っ頓狂な声を出した。
ユラはすぐに表情を戻した。
「[cold]……気のせいよ。さあ、進むわよ」
ユラは背を向けて、さっさと歩き出す。
「[excited]いや絶対笑っただろ! おい待てよ、ユラ!」
リョウは雪だらけのまま、しばらく動けなかった。
夜になった。
渓谷の岩場で、焚き火がパチパチと音を立てている。
リョウは濡れた服を火のそばに広げて、毛布にくるまっていた。ユラは火をはさんで向かい側に座っている。
星空が、谷の切れ間から細長く見えた。風が吹くたび、炎がゆらゆらと踊る。
リョウは、ちらりとユラを見た。
焚き火の明かりが、ユラの横顔をオレンジ色に染めている。黒い髪が風に揺れて、切れ長の目が炎を反射してキラキラ光っていた。
(なんか……うまく言えないけど)
リョウは、自分の胸のあたりを見おろした。
さっきまでドキドキしてた心臓は、今はちょっとだけ落ち着いている。でも、落ち着いているのに、なんだか温かいものが残ってた。
「[whispers]……お前のそのイケメンな顔、なんか慣れねえな」
独り言のように、ポツリとつぶやいた。
ユラは少し間を置いてから、静かに言った。
「[gentle]……あなたのその顔も、悪くないわよ」
リョウは顔を上げた。
ユラは火を見つめたままだった。でも、その頬が、ほんの少しだけ赤い気がした。
二人は気まずくなって、どちらからともなく別の話題に逃げた。天気の話、フロスラプトルの習性、ギルドの受付嬢メルヴィの愚痴——どうでもいいことばかりを、早口で話した。
でも。
焚き火の明かりの中で、リョウは思った。
(おれ、こいつのこと、もっと知りたい)
それがよくわからなくて、怖くなって、毛布で顔を隠した。
ユラはそれを横目で見て、気づかれないように小さくため息をついた。
(元の体じゃないのに、こんなにドキドキするなんて)
ユラは自分の胸のあたりをぎゅっとつかんだ。
(リョウへの気持ちが、変わらない。この体でも——同じだ)
動揺が、心の中でじんわりと広がった。
焚き火が、静かに燃えている。
——その時だった。
リョウのポーチの中で、何かが熱を帯びた。
「……あつっ」
リョウがあわててポーチを開けると、白い光が漏れ出した。
逆鱗のカケラだった。
手のひら大の鏡面状の結晶が、ぼんやりと熱を帯びて、白く輝いている。
リョウが手に取ると、光の筋がすっと渓谷の先——鏡鳴きの山の方角を向いた。
「なんだよこれ……」
ユラが立ち上がって、リョウのそばに近づいた。
「[serious]……カケラが、別のカケラの場所に反応してる」
「は?」
「[serious]ギルドの資料にあったわ。逆鱗のカケラ同士は、近づくと共鳴する習性があるって。つまり——」
ユラの声が、低くなった。
「[cold]山の麓に、すでに誰かが別のカケラを持って先回りしてる」
リョウの手の中で、カケラがまた熱を帯びた。
二人の表情が、引き締まる。
そして。
渓谷の遠い闇の中——
岩陰から、静かに二人を見守っていた人影が、ゆっくりと踵を返した。
重い足音。
異様に広い歩幅。
その影は闇に溶けて、誰にも気づかれずに消えていった。