ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンターズギルドが、かつてない大混乱に陥っている!
ある朝、目を覚ましたハンターたちは、自分たちの身体がすっかり入れ替わっていることに気づく。無敵の大剣使いは可憐な少女に、弓の名手は筋骨隆々の男に。原因は、謎の古龍が落とした呪われた「逆鱗の欠片」。元に戻るためには、その古龍を討ち倒し、すべての欠片を集めなければならない。
しかし、狩猟はめちゃくちゃだ!軽やかになった新たな身体を満喫する者もいれば、重すぎる武器を持ち上げることすらできない者もいる。「俺の髭を返せ!」「この長いまつ毛はなんなんだよ!?」街は笑い声と悲鳴に包まれ、アイルーたちはそれを見て、ちょっと楽しみすぎている様子だ。
そんな中、最大の厄介事は、若きハンターコンビ、リョウとユラに降りかかる。生意気な少年リョウは、ふわふわの金髪を持つ可憐な少女の姿に。相棒のユラは、クールな銀髪の美女から、背の高いハンサムな少年へと変わってしまう。彼らは常に言い争う犬猿の仲だったが、今では互いの新しい身体を前に、うろたえてまともに話すこともできない。
狩猟の最中でさえ、リョウはスカートが気になっ
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック - 門前のイケメン、心臓に悪すぎるわ!
リョウは宿屋「湯煙キャラバン」の窓から外をのぞいた。
空は、まだうす暗い。東の空が白み始めたばかりで、街の石畳は深い青に沈んでいた。
(今のうちだ)
リョウは、ふわふわの金髪を一つに束ねた。手つきはぎこちない。昨日まで短かった髪が、今は背中の真ん中まである。まとめてもまとめても、ほつれて顔にかかる。
「[angry]くそっ、うっとうしいな!」
小声で悪態をつきながら、スカートのすそを押さえた。
スカート。
このひらひらした布が、もどかしくてたまらない。歩くたびに足にまとわりつくし、ちょっとした風でふわりと浮き上がる。昨日、訓練場で転んだ時の泥が、まだすそにこびりついていた。
大剣を引きずる。
ずるり。ずるり。
重い鉄の塊は、今のリョウの細い腕では、かつぐことさえできない。地面に刃先をこすりながら、一歩、また一歩と進む。
(誰にもバレるなよ)
街の門までは、あと少し。
朝もやの中、石造りのアーチ門が灰色のシルエットになって見える。門番たちは、まだ勤務についていない時間だ。抜け出すなら今しかない。
ずるり。
大剣が石畳をひっかく。
リョウは奥歯をかんだ。
(星級、はく奪だって?)
昨日のメルヴィの冷たい声が、耳の奥でよみがえる。星二つまで積み上げてきた二年間が、この体のせいでゼロになる。冗談じゃない。
だったら、一人で行く。
鏡鳴きの山へ。
古龍ミラヴォルテのところへ。
逆鱗のカケラを集めて、自分の体を取り戻す。誰の助けもいらない。誰かに頼るのは、大嫌いだ。
あと十歩。
門まで、あと十歩。
その時だった。
ヒュッ——
空気を裂く音。
リョウの髪を、何かがかすめた。
ダンッ!!
矢だった。
リョウの目の前の石畳に、一本の矢が深々と突き立っている。黒い矢羽が、朝の風に震えていた。
「[scared]うわっ!?」
リョウは飛びのいた。スカートのすそを踏んで、もつれる。
バランスをくずした。
傾ぐ視界。
——ドタリ。
思いきり尻餅をついた。
「……ッ」
スカートがひらりと広がる。ふとももに冷たい風があたった。あわててすそを押さえる。
その時。
カツ、カツ、カツ。
静かな足音。
門のむこうから、誰かが歩いてくる。
朝日が、その人物の背中から差し込んでいた。
リョウは顔を上げた。
——そして、息が止まった。
銀色の髪。
朝日をはじいて、まぶしいほどに輝いている。短く切られた黒髪。違う。違うけど、その立ち姿は——
切れ長の黒い目が、冷たくリョウを見おろしていた。
手には弓。
背中には矢筒。
革の胸当てが、引き締まった体にぴったりと沿っている。
男だ。
信じられないほど、きれいな顔をした男。
「[cold]私だ、ユラよ」
無表情で言った。
低い声。
昔はもっと高かったはずの声が、今はしっかりと男の響きを持っている。
リョウの胸が、ドキリ、と跳ねた。
(……ユラ)
わかってる。わかってるけど——
心臓が、うるさい。
今まで聞いたことのない、激しい脈打ちが、胸の真ん中を叩いている。顔が熱くなって、何を言っていいのか、わからない。
「[whispers]お前……」
声が震えた。
ユラは無表情のまま、リョウの前に立っている。
朝日が、銀の髪を金色に染める。弓を構える指が、無駄なく整っている。肩幅が広くて、腰の位置が高い。
完全に、男の体だ。
(あのユラが)
(こんなイケメンになってるなんて)
リョウの口が、勝手に動いた。
「[angry]お前が女になってないなんてずるい!!」
自分でも、何を言ってるのかわからない。
ユラの眉が、ぴくりと動いた。
「[cold]……何が?」
「[angry]だって! おれはこんな女の子の体で、スカートはうっとうしいし、大剣は重くて引きずるしかねえし、髪は顔にかかってうざいし!!」
リョウは地面に座り込んだまま、わめきちらした。
「[angry]お前も女になってれば、おれとおそろいだったのに! そしたらもうちょっと気が楽だったのに! なんで一人だけ男のままなんだよ!」
ユラは、ため息をついた。
「[sarcastic]……はぁ。バカじゃないの」
「[angry]うるせえ! やってみろよ!」
いつもの口げんかだった。
でも。
リョウが顔を上げて、ユラの顔をまともに見た瞬間——
ドキン。
また、心臓が跳ねた。
黒い目が、朝日の中で光っている。昔は切れ長の紫の目だったのに、今は鋭い印象の漆黒だ。
(きれいな目だ)
思ってしまった。
たちまち顔が熱くなる。
リョウはあわてて、うつむいた。
ユラも、黙った。
「……ッ」
何か言いかけて、やめる。
風が、門のあいだを吹きぬけた。
ひらり。
リョウのスカートのすそが、ふわりと浮く。
「[angry]ばっ、見るな!」
リョウは真っ赤になって、スカートを押さえた。
ユラの顔も、ほんの少しだけ赤くなっていた。
「[cold]……見てないわ」
「[angry]見ただろ! 今、ちらっと見た!」
「[cold]見てないと言ってるでしょうが」
「[angry]見たくせに!」
「[cold]……もういいわ。立ちなさい」
ユラは弓を背中にかけて、リョウに手を差し伸べた。
ごつごつとした、男の手。
リョウは、その手をまじまじと見つめた。
(手、でかいな)
(ていうか、前のおれの手じゃん、これ)
前の自分の体の手なのに、なぜかドキドキする。
「[whispers]……あ、ありがと」
自分でもびっくりするくらい、声が小さくなった。
リョウは、ユラの手を取った。
あったかい。
引き上げられる。
立ち上がった拍子に、スカートのすそがまたふわり。
「[angry]もう、このスカート、ほんとやだ!」
リョウはスカートをぎゅっとにぎった。
「[cold]私だって不便だわ。この胸——じゃなくて、この肩幅のせいで、弓の弦が引きにくいのよ」
ユラは自分の胸をさわろうとして、手を止めた。
真っ赤になる。
「[sad]……あなたはいいわね。私の体、そんなに柔らかいんでしょ」
「[angry]何がいいんだよ! 重いんだぞ、ここ!」
リョウは自分の胸のあたりを指さして、叫んだ。
「[angry]弓を構えようとするたびに、邪魔で邪魔で! それに、走るとゆれるし!」
「[cold]……あなたのそういう無神経なところ、ほんと嫌いよ」
「[angry]おれだってお前のその冷たい言い方、大っ嫌いだ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら、二人は自然に肩を並べて歩き出していた。
気がつけば、門を抜けて、街道に出ている。
朝日が、野原を黄金色に染めていた。
遠くに見えるのは、ヴィルゲン山脈の険しい稜線。その北東の端に、ひときわ高くそびえる独立峰——鏡鳴きの山。
リョウは、ずるずると大剣を引きずりながら歩く。
ユラは、そんなリョウを横目でちらりと見た。
ひらり。
風でスカートが浮く。
(……無防備すぎる)
ユラは、あわてて視線を前に戻した。
心臓がうるさい。
(リョウのくせに。リョウのくせに、なんでそんな、かわいいんだ)
顔が熱い。
「[cold]スカート、ちゃんと押さえて歩きなさいよ」
「[angry]押さえてるだろ! ていうか、そんなにおれのスカートが気になるのかよ!」
「[cold]気になってないわ」
「[angry]ウソつけ! さっきからチラチラ見てるくせに!」
「[cold]見てない」
「[angry]見てた!」
二人の後方、五十メートルの物陰。
ガサリ。
茂みが揺れた。
ギルドの追跡調査員、メルヴィが単眼鏡をおろす。
「……呪いの元凶かどうかはまだわからないけど、あの二人、なんか怪しいわね」
メルヴィはめがねを押し上げる。几帳面な性格の彼女は、報告用の羊皮紙にさらさらとメモを取っていた。
『被疑者リョウ、被疑者ユラ、朝の門前で密会。口論の様子。不自然なツーショット。トルーネ渓谷方面へ向かう模様』
メルヴィは羊皮紙をしまうと、軽い足取りで二人のあとを追い始めた。
——トルーネ渓谷。
岩がごつごつとそそり立つ、深い谷だ。シュトラール川の支流が、谷底を白く泡だてながら流れている。
リョウとユラは、谷の入り口まで来ていた。
岩場の影は暗く、ひんやりとした空気が流れている。
「[sad]……弓が重い」
ユラは自分の腕を見おろした。
太くなった腕。力がありあまっている。そのせいで、矢をつがえるたびに弓の弦を引きすぎて、へし折ってしまう。
「[cold]あなた、この体でよく大剣が振れたわね」
「[angry]振れてねえよ! 昨日は一日中、転んでばっかだったんだ! すげえあざだらけだぞ、見るか!?」
リョウはスカートのすそを、つかんだ。
「[angry]……いや、今はやめとく」
自分で言っておいて、真っ赤になる。
「[cold]バカじゃないの」
ユラもまた、顔が熱くなった。
——その時。
ゴゴゴゴゴ……
地の底から響くような、重い咆哮。
リョウの背筋に、冷たいものが走った。
次の瞬間——
ドガァァァン!!
岩陰が、爆ぜた。
飛び散る石片。
あまりの衝撃に、リョウの体が宙に浮く。
「[scared]うわっ!!」
地面に叩きつけられる。
顔を上げた先に——
巨大な牙。
二本の牙が、白くぎらついている。
ガルムファング。
体長五メートルを超える巨大牙獣だ。岩のようにごつごつした灰色の皮膚。四つの目が、ぐるぐると動いて、リョウとユラをにらみつけた。
ギャオオオオオオ!!
耳をつんざく咆哮。
リョウはあわてて大剣を構えた。
重い。
両手でようやく持ち上げる。
「[scared]くそ……!」
振り回そうとしても、体がついていかない。大剣の重さに上半身が引きずられて、よろめく。
ガルムファングが、巨大な前足を振り上げた。
「リョウ!!」
ユラが弓を構える。
矢をつがえる——が、指が震えてうまくいかない。
バキン。
力がありすぎて、弦を引きすぎた。矢がへし折れる。
「[scared]……ッ!!」
ガルムファングの巨大な牙が、リョウに迫る。
リョウは大剣をかざした。
ガキィン!!
牙と刃がぶつかる。
火花が散った。
——でも、リョウの細い腕では、受けきれない。
ずずずず……
地面を引きずられていく。
「[scared]くっそおおお!!」
その時。
ヒュン——
矢が、風を切った。
ユラが放った捨て身の一射。
矢は、ぐるぐると回るガルムファングの四つの目の一つに——
グサリ。
深々と突き立った。
ギャアアアアアアア!!!
ガルムファングが、断末魔の咆哮をあげて暴れる。
巨体がのたうつ。地面がえぐれ、岩が砕ける。
目を射抜かれたガルムファングは、狂ったように暴れまわったあと——
ズズズズ……と後退して、谷の奥へと消えていった。
静寂。
リョウは地面に座り込んだまま、荒い息をついていた。
「[scared]た、助かった……」
そう言って、ユラの方を見て——
息をのんだ。
ユラの左肩が、服の上から血でにじんでいた。
「ユラ!!」
リョウは地面をけって、駆け寄った。
「[cold]……大したことないわ」
ユラは平然としている。でも、顔色が青白い。
ガルムファングの尾が、ユラの左肩をかすめていた。岩のように固い尾だ。打たれただけで、肉が裂けている。
「[angry]大したことないわけあるか!! 見せろ!」
リョウはユラの肩をつかみ、服をくつろげた。
さっきまで、この手にドキドキしていたのに、今はそれどころじゃない。
肩口がはだけて——
リョウの手が、止まった。
左肩に。
大きく広がった、星形の古傷。
「……なんだ、これ」
声が、震えた。
ユラの体が、こわばる。
「[cold]……昔の傷よ」
「[angry]こんな傷、ただの傷じゃねえだろ! どうやったんだよ!」
リョウは、ユラの目をまっすぐに見た。
黒い目が、動揺に揺れている。
「[whispers]……これは……」
ユラは言いよどんだ。
口を開きかけて——閉じる。
「[angry]言えよ!」
「[sad]……まだ、言えないわ」
沈黙。
風が、谷を吹きぬけた。
リョウは、自分の右腕を、ぐいと差し出した。
「[serious]見ろ」
リョウが服のそでをまくると、そこには古い火傷のあとがあった。
赤く、引きつった皮膚。
「[serious]おれ、孤児院育ちなんだ。弱みは見せたくねえっていうのは、同じだ」
ユラは、その傷を見つめた。
「[serious]でも、今はお互いボロボロだろ。だったら、ちょっとくらい話したっていいじゃねえか」
ユラの黒い目が、わずかに光った。
「……リョウ」
「[gentle]言いたくねえなら、それでもいい。でも、おれは、お前のことを知りたい」
ユラは、しばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「[whispers]……私は、名門商家の生まれだったの」
リョウは、黙って聞いた。
「[sad]家が決めたレールに乗るのが嫌で、十六の時に家出した。その時の傷……」
そこまで言って、ユラは口をつぐんだ。
「[cold]……やっぱり、今はまだ言えないわ」
リョウは、小さく息をついた。
「[gentle]……わかった。でも、これだけは言っとく」
ユラを見る。
「[serious]お前が何を隠してても、おれはお前の相棒だ。それだけは、変わらねえからな」
ユラの目が、大きく見開かれた。
——ガサリ。
遠くで、足音がした。
リョウとユラは、同時に顔を向ける。
五十メートルほど後方の茂み。
メルヴィが、息を殺して身をひそめていた。
……でも、メルヴィはあえて接触しない。
(星形の傷。名門商家。孤児院育ちの火傷)
メルヴィは心の中でメモを整理した。
(この情報を本部に飛ばさなければ。怪しい——でも、まだ証拠には足りないわ)
メルヴィは音をたてずに後退し、訓練された鳩を空に放った。
パタパタパタ——
白い鳩が、朝の空へと舞い上がっていく。
リョウは空を見上げた。
「[serious]……ギルドか?」
「[cold]わからないわ。でも、ここにとどまってる理由はない。先へ行きましょう」
ユラは左肩に包帯を巻きながら立ち上がった。
リョウもうなずく。
ずるり。
大剣を引きずって、二人は渓谷の奥へと歩き出す。
岩場を抜けると、前方に開けた谷間が見えた。
そこで、リョウの足が止まる。
「……なんだ、あれ」
谷のむこう。
岩の上に、無数の小さな影が群がっていた。
二本足で立つ、トカゲのような姿。鋭い牙と、鎌のような爪。
フロスラプトル。
一匹、二匹、三匹……
五、十、二十——
三十匹を超える大群が、谷の先で待ち構えていた。
「[whispers]……マジかよ」
リョウの手に、冷たい汗がにじむ。
ユラは弓を握りしめた。
「[cold]行くわよ、リョウ」
「[serious]……ああ」
ずるり。
大剣を引きずる音が、渓谷にこだました。
リョウとユラは、無数の光る目が待つ谷の奥へと、一歩を踏み出す。
風が、二人の間を吹きぬけていった。