ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンターズギルドが、かつてない大混乱に陥っている!
ある朝、目を覚ましたハンターたちは、自分たちの身体がすっかり入れ替わっていることに気づく。無敵の大剣使いは可憐な少女に、弓の名手は筋骨隆々の男に。原因は、謎の古龍が落とした呪われた「逆鱗の欠片」。元に戻るためには、その古龍を討ち倒し、すべての欠片を集めなければならない。
しかし、狩猟はめちゃくちゃだ!軽やかになった新たな身体を満喫する者もいれば、重すぎる武器を持ち上げることすらできない者もいる。「俺の髭を返せ!」「この長いまつ毛はなんなんだよ!?」街は笑い声と悲鳴に包まれ、アイルーたちはそれを見て、ちょっと楽しみすぎている様子だ。
そんな中、最大の厄介事は、若きハンターコンビ、リョウとユラに降りかかる。生意気な少年リョウは、ふわふわの金髪を持つ可憐な少女の姿に。相棒のユラは、クールな銀髪の美女から、背の高いハンサムな少年へと変わってしまう。彼らは常に言い争う犬猿の仲だったが、今では互いの新しい身体を前に、うろたえてまともに話すこともできない。
狩猟の最中でさえ、リョウはスカートが気になっ
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック - 鏡の空で叫んだ言葉、元の体に戻った二人
冷たい風が、耳の奥でキンと鳴った。
リョウは足を止めて、息を吸う。金髪がふわりと揺れて、肩に張りついた。
「[whispers]ここが、鏡の揺りかご……」
山頂の空気は、薄くて冷たい。なのに、肌にまとわりつくような重さがあった。
洞窟の入り口は、巨大な口みたいにぽっかりと開いている。岩壁が銀色の鉱物——シルヴァナイト——で覆われていて、それがわずかな光を反射して、キラキラと青白く光っていた。
ユラはリョウの隣で、弓を握りしめている。短い黒髪が風に乱れて、切れ長の黒い目が洞窟の奥をにらんでいた。
「[serious]準備はいい?」
「[angry]当たり前だろ!」
リョウは背中の大剣に手をかけた。でも、ついさっきまで息が止まりそうなほどの登山をしてきたから、腕がパンパンだ。
「[excited]ちょっと待ってよ、あたしがまだ息整ってないって!」
うしろから、チアキがぜえぜえ言いながら追いついてきた。濃紺のポニーテールが汗でくっついて、額に張りついている。大型の双刃斧を引きずりながら、琥珀色の目でリョウをにらんだ。
「あんた、女の子の体なのに、なんでそんなに速いわけよ!?」
「[angry]知らねえよ! 足が勝手に動いたんだ!」
「[cold]二人とも、中に入るわよ」
ユラが一歩、洞窟の中へ踏み出した。
その足音が——
カツン。
——四方八方から、返ってきた。
カツン、カツン、カツカツカツ……
リョウの背筋に、冷たいものが走った。
「[scared]な、なんだこれ!?」
洞窟の壁が、鏡みたいに音を跳ね返す。ユラのたった一歩が、十人分の足音になって、あちこちから迫ってくる。
「[surprised]うわっ、きもっ!」
チアキが叫ぶと、その声が——
『きもっ!』『きもっ!』『きもっ……』
——こだまになって、洞窟じゅうに渦巻いた。
「[scared]ちょっと、これやばいじゃん!? 敵どこにいるのか全然わかんないよ!」
『敵どこにいるのか全然わかんないよ!』『どこどこどこ……』
チアキの声が、十方向から自分たちに向かって飛んでくる。
「[angry]うるせえ! 黙って歩け!」
『黙って歩け!』『歩け歩け歩け……』
リョウの怒鳴り声も、全部おうむ返しにされて、洞窟がガンガンとうるさくなる。
「[cold]……これがシルヴァナイトの鏡面地帯。音と光が乱反射して、方向感覚が狂う」
ユラが低い声で言った。その声も、何重にもなって響き渡る。
チアキが、リョウのうしろにぴったりとくっついた。
「[scared]リョウ、あんたはあたしが守るからね!」
「[surprised]は? なんでそうなるんだよ!」
「あたし、さっきの男の姿のあんたに一目惚れしたって言ったじゃん! その人を守るためには、今のあんたを守んなきゃでしょ!?」
「[angry]意味わかんねえよ!!」
リョウが叫んだ瞬間——
スッ。
ユラが、リョウとチアキの間に割り込んで立った。
割り込むというより、まるで最初からそこにいたかのように自然に。
「[cold]……雑談は後。行くわよ」
ユラの耳が、ほんの少しだけ赤くなっている。でも、本人はそれに気づいていない。
チアキがムッとした顔でユラを見た。
「なに、ユラ? あんた、いつもそうやってリョウの隣に立つじゃん」
「[cold]違う」
「違くないでしょ!」
「[whispers]うるさいな、もう……」
リョウは耳をふさぎたくなった。洞窟の反響で、三人の言い争いが何倍にもなって、頭の中でグルグルと回る。
(音がない場所——)
リョウは目を閉じた。
(静かな方角が、古龍の巣だ)
耳をすます。自分の心臓の音が、ドクドクとうるさい。チアキの文句、ユラの冷たい声、全部が反響して混ざり合う。
でも——
ほんの一瞬だけ、すべての音が消える方角があった。
洞窟の、いちばん奥。
「[serious]……こっちだ」
リョウは目を開けて、まっすぐに奥を指さした。
ユラが、ほんの少しだけ目を見開いた。
「[whispers]……わかるの?」
「[serious]頭を使えって、いつも言ってたのはお前だろ」
リョウがニヤリと笑う。
ユラは一瞬きょとんとした顔をして、それから、ふっと口元をゆるめた。
「[gentle]……そうね」
チアキが、リョウとユラの間で口をとがらせる。
「なにあれ、二人だけの世界じゃん!」
『二人だけの世界じゃん!』『世界じゃん世界じゃん……』
洞窟が、チアキの声を何度も繰り返す。
リョウは真っ赤になって、奥へと走り出した。
「[angry]うるせえ! 行くぞ!」
音が、死んだ。
洞窟の奥は、静寂そのものだった。
シルヴァナイトの反射が、ここでは不思議と消えている。かわりに、広い空洞の中央で、銀白色の巨大な塊が、ゆっくりと呼吸していた。
全長42メートル——古龍ミラヴォルテ。
鏡のような鱗が、かすかな光を反射して、虹色にきらめいている。閉じられた目のまぶたも、翼も、牙も——すべてが銀色に輝いていた。
「[whispers]……でか」
リョウの声が、かすかに震えた。
その震えが、空気を伝わったのか——
ミラヴォルテの目が、開いた。
縦に裂けた瞳孔が、ギラリと光る。
グルルルルル……
低い地鳴きが、空洞じゅうに響き渡った。
「[excited]来た!!」
チアキが双刃斧を構えて、飛び出した。
「あたしが囮になる! あんたたちは左右に散って!」
「[surprised]おい、一人で——」
「[excited]大丈夫だって! あたしはキバのパーティで一番の突撃バカって言われてんだから!」
チアキはニカッと笑って、ミラヴォルテの正面に踊り出た。
「こっちだよ、デカブツ!!」
双刃斧を思い切り岩に叩きつける。
ガキィィィン!!
火花が散った。
ミラヴォルテの巨体が、ゆっくりとチアキの方を向く。そのたびに、床がズシン、ズシンと揺れた。
「[serious]ユラ、今よ!」
ユラが叫ぶ。
リョウはうなずいて、地面を蹴った。
ユラの体——女性の体——の軽さが、ここで活きる。リョウは岩壁を蹴って、空中に跳び上がった。スカートがふわりと舞い上がり、上昇気流に乗って、高く、高く——。
その下では、ユラがリョウの体——男性の体——で大剣を両手に構え、ミラヴォルテの翼膜に向かって走り込む。
「[serious]一気に決めるわよ!」
大剣が、空気を裂いた。
ザシュッ!!
翼膜に深々と刃が食い込む。ミラヴォルテが苦痛の叫びを上げ、巨体がのけぞった。
その瞬間——
リョウは空中で体をひねり、真上から真核鱗——胸部にある、一枚だけ光を反射しない漆黒の鱗——めがけて急降下した。
「[angry]せーのっ!!」
風がゴウゴウと耳を鳴らす。スカートが大きくめくれた。
「[scared]うわああああスカートめくれるぅぅぅ!!」
「[angry]今それを言う!?」
ユラが下から叫び返す。
それでも、リョウの手は止まらない。ポーチから14片の逆鱗カケラを取り出し、真核鱗に向けて——
その時だった。
ミラヴォルテが翼を大きく広げた。
鏡面の翼が、空洞いっぱいに光を乱反射させる。あらゆる方向から、まばゆい光が三人を襲った。
「[scared]な、に——」
光の中で、ミラヴォルテの口が開く。
鏡面ブレス——。
銀色の光の奔流が、口から放たれた。でも、それはまっすぐには飛ばない。シルヴァナイトの壁に反射し、方向を変え、さらに反射して——
——ユラに向かって。
「[scared]ユラ!!」
リョウは空中で、考えるより先に体をひねっていた。
カケラを落とす。
重力に任せて、体をユラの方へ投げ出す。
ブレスの光が、リョウの全身を飲み込んだ。
——ゴオオオオオオオオン!!
爆音。
リョウの体が、光の奔流に押し流されて、崖の縁に叩きつけられた。金髪が焼け焦げ、スカートが破れて、小さな体がぐったりと動かなくなる。
「……リョウ?」
ユラは大剣を落とした。
刀身が岩に当たって、ガランと音を立てる。
「[scared]リョウ、リョウってば!」
ユラはリョウの体——男性の体——で、リョウのそばに駆け寄った。膝をついて、動かない体を抱き起こす。
「[crying]ねえ、返事してよ……リョウ……」
返事はない。
リョウの目は閉じられたまま。碧眼が、うすく開いて、何も映していない。
ユラの肩が、震え始めた。
「[crying]なんで……なんでいつも、そうなるのよ……っ」
これまでずっとクールだったユラの仮面が、音を立てて崩れていく。
切れ長の黒い目から、涙が、ひとつぶ、こぼれた。
「[crying]あなたはバカね……私がどれだけ、あなたのことを……っ」
声が震える。涙が、止まらない。
「[crying]……大好きよ……!! 私、あなたのことが、大好きなのよぉぉぉ!!」
ユラの叫びが、シルヴァナイトの鏡面に反射して、空洞じゅうに響き渡った。
『大好きよ』『大好きなのよ』『大好き……』
その声が、何度も何度も、リョウの体に降り注ぐ。
——その瞬間。
リョウのポーチから、14片の逆鱗カケラが一斉に飛び出した。
銀白色の光が、空洞いっぱいに広がる。
まばゆい光はリョウとユラを包み込み、あたたかい——まるで、朝日みたいな——温かさで、二人の体を震わせた。
光が、収まる。
リョウは、目を開けた。
自分の手を見る。
——大きい。
骨ばっていて、硬くて、剣ダコだらけの、男の手。
「[whispers]……戻った」
リョウはゆっくりと起き上がった。
ツンツンの黒髪が、視界の端で揺れる。
目の前に、銀髪のユラが立っていた。
腰まで届くストレートの銀髪が、風に揺れている。切れ長の紫色の瞳が、真っ赤に泣きはらして、リョウを見つめていた。
左の耳たぶの銀のピアスが、キラリと光る。
「[crying]……バカ」
ユラは、リョウの胸ぐらを掴んだ。
細い指が、リョウのシャツをぎゅっと握りしめる。
「[crying]なんで、いつも、むちゃばかり……っ」
リョウは、ユラの肩を抱き寄せた。
「[serious]……わりぃ」
ユラの体が、腕の中で小さく震える。
リョウは、声の限りに叫んだ。
「[angry]俺も——お前が好きだ!!」
空洞に、声がこだまする。
「[angry]男の体でも、女の体でも、どっちでもいい! ユラじゃなきゃ、ダメなんだよぉぉ!!」
『ダメなんだよぉぉ!!』『なんだよぉぉ……』
シルヴァナイトが、リョウの告白を何度も繰り返す。
その声を聞きながら、ユラはリョウの胸に顔をうずめて、声をあげて泣いた。
「[crying]……バカじゃないの」
「[laughing]うるせえ」
二人は抱き合ったまま、顔を見合わせて——笑った。
涙でぐしゃぐしゃの顔で、笑い合った。
「[excited]ちょっと!! イチャイチャしてる場合!?」
チアキの叫び声が、二人を現実に引き戻す。
ミラヴォルテが、傷ついた翼を震わせながら、まだ立ち上がろうとしていた。
リョウはユラから離れて、大剣を拾い上げた。
自分の手に、しっくりとなじむ感触。
(これが、俺の手だ。俺の体だ)
「[serious]ユラ、やれるか」
「[cold]……言われなくても」
ユラは弓を構えた。しなやかな銀髪が、風にふわりと舞い上がる。
リョウが、駆けた。
大剣を片手で引きずり、ミラヴォルテの正面に躍り出る。
「[angry]お前の呪いは、ここで終わりだぁぁ!!」
大剣を両手で振り上げて、真核鱗——漆黒の鱗——に叩き込んだ。
——ガキィィィィン!!
火花が散る。鱗にヒビが入る。
その一瞬の隙を、ユラは見逃さなかった。
「[serious]穿矢——」
弓弦が、空気を切り裂く。
ヒュッ——
一筋の矢が、ヒビの入った真核鱗を貫通した。
——ドォォォォン!!
漆黒の鱗が、粉々に砕け散る。
ミラヴォルテの巨体が、大きくのけぞった。銀白色の鱗が、剥がれ落ち、光の粒子となって消えていく。
ギャオオオオオオオ……
断末魔の叫びが、空洞を揺らした。
そして——
静寂。
42メートルの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
光の粒子となって、空気に溶けるように、消えていった。
その頃——ベルクハイム。
酒場「グリューネ・ホルン」で、ハンターたちが一斉にどよめいた。
「[surprised]も、戻った!! 俺の体が戻ったぞ!!」
「[crying]うわあああん、やっとおれの体だああ!!」
「[laughing]ヒャハハハ!! これでまた酒が飲めるぜ!!」
街じゅうから、歓声が上がる。
ギルド本部の受付では、メルヴィが眼鏡を押さえながら、窓の外を見ていた。
「[whispers]……やったのね、あのバカたち」
メルヴィの口元が、ほんの少しだけゆるむ。
鏡鳴きの山の頂上。
チアキは、双刃斧を肩に担いで、空を見上げていた。
自分の手を見る。元の、日焼けした自分の手だ。
「[sad]……戻ったか」
リョウとユラが、並んで立っている。
元の体に戻った二人——黒髪の少年と、銀髪の少女。
チアキは、リョウの顔をじっと見つめた。
「[gentle]……やっぱり格好いいじゃん、あんた」
リョウが、照れて後ろ頭をかく。
「[whispers]……うるせえよ」
「[laughing]でもね」
チアキは、リョウから目を離して、遠くの山々を見渡した。
「[gentle]あんたには、もうあの人がいるじゃん。あたしの入るスキ、ないでしょ」
ユラが、リョウの隣で、ほんの少しだけ胸を張った。
「[cold]……ええ、当然よ」
「[laughing]はいはい、わかったわかった!」
チアキは笑って、背を向けた。
「あたしはキバを探しに行くよ。あいつ、きっとどこかでふてくされてるからさ」
「[serious]……あいつも、元に戻ったのか」
「知らん。でも——ちゃんと生きてればいいなって」
チアキは振り返らずに、手をひらひらと振って、山道を下りていった。
翌朝。
ベルクハイムの門前に、三人が帰り着くと——
「[excited]おおおお!! 戻ったぞ!! 英雄の帰還だ!!」
門の前には、元の体に戻ったハンターたちが、ずらりと並んで待っていた。
メルヴィが、群衆の前から歩み出る。
眼鏡の奥の目が、キラリと光った。
「[serious]リョウ、ユラ。あなたたちの星級剥奪は——撤回します」
「[surprised]え?」
「むしろ、表彰ものよ。古龍ミラヴォルテを倒し、呪いを解いた——あなたたちは、フェルガナ狩猟士団始まって以来の英雄だわ」
メルヴィは、一つ咳払いをして、眼鏡を押さえた。
「[whispers]……まあ、あの時の剥奪宣言は、ちょっと早まったけどね」
「[laughing]ちょっとじゃねえだろ!!」
リョウが笑うと、周りのハンターたちもドッと笑った。
その夜——酒場「グリューネ・ホルン」で、祝宴が開かれた。
大獣肉の炙り焼き定食が山盛りに運ばれ、エールのジョッキがカチンカチンとぶつかり合う。
壁に飾られた歴代の討伐記録のいちばん上に、店主のブレントが新しい額を掲げた。
『古龍ミラヴォルテ討伐——ハンター リョウ、ユラ、チアキ』
「[excited]よっ、英雄!」
「[laughing]男に戻った気分はどうだ!?」
「[angry]うるせえ! 飲め飲め!」
リョウは真っ赤になって、エールをあおった。
ユラは、リョウの隣で、静かに微笑んでいる。
銀髪が、ランプの灯りに照らされて、きらきらと輝いていた。
明け方。
酒場の外に出ると、空がうすく白み始めていた。
リョウとユラは、ギルド本部の石造りの建物を見上げながら、並んで立っている。
「[serious]なあ、ユラ」
「[gentle]……なに?」
「[whispers]また、喧嘩しながら組むか。狩りの相棒、変わらずによ」
ユラは、リョウの顔をちらりと見て、それから空を見上げた。
「[gentle]……あなたがむちゃばかりするから、しかたないわね」
ユラの手が、そっとリョウの手に触れた。
リョウは、その手をぎゅっと握り返す。
東の空に、朝日が昇り始める。
鏡鳴きの山の頂が、遠くで銀色に輝いていた。入れ替わりの呪いも、喧嘩も、全部ひっくるめて——この旅は、ここから始まる。
二人は手をつないだまま、新しいクエスト票をギルド本部から受け取って、次の目的地へ歩き出した。
空は、晴れ。