ダーウィンズゲーム:ゲームオーバーの向こう側
あの日、渋谷で世界が終わった――。
中学の卒業式、親友・シノヅカは言った。「何かあったら、絶対に俺が守るから」。その言葉を胸に、二年後の夏。二人で訪れた渋谷のスクランブル交差点で、突如スマホに浮かんだ蛇の紋章――「ダーウィンズゲームへようこそ」。シノヅカは苦しみながら意識を失い、周囲の人間は二人を認識すらしない。助けるため、迅は自らゲームへと飛び込んだ。
目覚めたのは、誰もいない、空の白い、音のない渋谷。左手首に刻まれた蛇の紋章。与えられた能力は「遅延蒐集(ディレイコレクター)」――触れた物体の時間を約2秒遅らせる、あまりに地味な異能。ポイントを奪い合い、ゼロになれば「転送」される――つまり死。逃げ場のないゲームの中で、迅はかつて母が言った言葉を思い出す。「止めるんじゃなくて、ずらすの。そうすれば、遅れた分は必ず取り戻せるでしょ」。
金属バットを振るうプレイヤーとの初戦闘。遅延蒐集を発動し、辛くも逃走。だが、宮下公園で迅は明確な「視線」を感じる――このゲームのどこかから、誰かが自分を観察している。シノヅカはどこにいるのか。謎の視線の正体は。地味な能力を武器に、少年はゲームの深淵へ
ダーウィンズゲーム:ゲームオーバーの向こう側 - 火神槌――サンセットレーベンズの誘い
ゲームに参加してから、三日が過ぎた。
俺、神崎迅は、渋谷のゲーム空間でどうにか生き延びていた。生き延びていた、と言っても、戦ってポイントを稼いでいるわけじゃない。ただ、他のプレイヤーに見つからないように、影に隠れて息を潜めているだけだ。
現実の渋谷と重なっているのに、ここは別の世界みたいだった。街の形は同じなのに、人の姿が少ない。たまにすれ違うのは、みんな左手首に蛇の紋章を刻んだプレイヤーばかりだ。普通の人たちは、この結界の中に入ってこられない。俺たちは、見えない檻の中に閉じ込められている。
腹が減っていた。
ゲーム開始時に運営から支給された食料は、もう底をつきかけている。パンみたいな固いビスケットと、水のペットボトルが数本。あとは、ポイントで買えるという噂の食料を手に入れるしかない。でも、俺のポイントは残りわずかだった。
左手首の紋章を念じると、半透明の数字が浮かび上がる。
残り、五ポイント。
一ポイントが十万円に換金できるという。つまり、五十万円分の価値がある。でも、このゲームの中では、五ポイントなんて一瞬で消える。誰かに襲われて、奪われたら終わりだ。マイナスになった瞬間、転送が執行される。どこへ飛ばされるのか、何が起こるのか、誰も知らない。でも、戻ってきた者はいない。
つまり、死だ。
俺は右手の親指の付け根を、無意識にこすった。そこには、小さな星の傷跡がある。シノヅカとお揃いで彫った、小学生の頃の傷だ。
「……シノヅカ」
親友の名前を呟く。
あいつは今、現実の病院で眠っている。ゲームに巻き込まれて、意識不明のまま。医者には原因がわからないと言われた。蛇のメールを開いた瞬間、シノヅカの意識はどこかへ飛ばされてしまったんだ。
俺は、あいつを助けるために、このゲームに参加した。
シノヅカのスマホに届いた蛇のメールを、俺が代わりに開いた。そうすれば、あいつがどこへ行ったのか、手がかりが掴めると思ったから。
でも、三日経っても、何もわからない。
ゲームのルールは、まだ断片的にしか理解できていない。ポイントを奪い合うこと。マイナスになったら転送されること。異能と呼ばれる特殊能力が一人一つ与えられること。
俺の異能は、遅延蒐集。触れた物体の時間を、数秒だけ遅らせる能力だ。
初めて使ったのは、参加した夜のことだった。センター街で、いきなり金属バットを持った男に襲われた。あの時は必死で、バットに触れた瞬間、男の動きが二秒だけ遅れた。その隙に逃げ出せた。
地味な能力だ。攻撃力はない。でも、使い方次第で生き延びられる。そう信じるしかなかった。
夜のセンター街は、現実の渋谷よりもずっと暗い。街灯は半分以上が消えていて、ネオンサインもまばらだ。ゴミが散乱し、壁には落書きが残っている。生ゴミの匂いと、錆びた鉄の匂いが混ざって、鼻の奥がツンとした。
俺は裏通りを歩いていた。
大通りは危険だ。ソロプレイヤー同士の争いが、いつどこで起きてもおかしくない。実際、昨日もスクランブル交差点の近くで、二人の男が叫びながら殴り合っていた。周りのプレイヤーは、見て見ぬふりをしていた。関わったら、自分も巻き込まれる。
このゲームは、他人を信じちゃいけない世界だ。
でも、それじゃあ、シノヅカの手がかりなんて見つからない。
俺はポケットから、一枚の写真を取り出した。折り目がついて、少し色褪せた写真。シノヅカと一緒に、海へ行った時のものだ。二人で笑っている。
あの頃は、こんなことになるなんて、想像もしていなかった。
「……まだだ。まだ、終わってない」
俺は写真をしまい、歩き出した。
その時だった。
背後から、足音が聞こえた。
一人じゃない。二人……いや、三人。
俺は足を速めた。でも、足音も速くなる。心臓が、ドクドクと脈打ち始めた。
振り返るな。走れ。
そう思った瞬間、目の前の路地から、人影が現れた。
「おいおい、こんな夜中に一人で散歩かよ。物好きだな」
男は、金属バットを肩に担いでいた。黒いパーカーに、ジーンズ。左手首には、蛇の紋章。年は二十歳くらいか。ニヤニヤと笑っている。
後ろから、もう二人。俺を挟むように、じりじりと近づいてくる。
三人組のソロプレイヤーだ。
「大人しく、ポイントを全部渡せ。そうすりゃ、痛い目には遭わせねえよ」
リーダー格の男が、バットを揺らしながら言った。
俺は、ゆっくりと後退した。でも、後ろの二人が、道を塞いでいる。
袋小路だ。
どうする。
俺は、自分の左手首を見た。蛇の紋章が、微かに熱を帯びている。
逃げるしかない。
俺は、リーダー格の男の顔をまっすぐ見据えた。
「……悪いけど、やるなら、覚悟してからにしろよ」
声が、震えなかったのは、奇跡だった。
「は? ガキが何言ってんだ?」
男が、バットを振り上げた。
その瞬間、俺は動いた。
前に出る。
男のバットは、俺の頭を狙って振り下ろされる。でも、俺は避けなかった。代わりに、右手を、バットに伸ばした。
触れる。
遅延蒐集、発動。
バットの動きが、止まった。いや、正確には、二秒だけ遅れた。
男の顔が、驚きに歪む。
「なっ——!?」
俺は、その隙に、男の脇をすり抜けた。
走る。
全力で。
背後から、怒声が聞こえる。
「待ちやがれ!」
足音が、追いかけてくる。
曲がり角を曲がる。路地を駆け抜ける。ゴミ箱を蹴倒す。
でも、三人は、思ったより速い。
俺は、路地の奥へ、奥へと逃げ込んだ。
そして、行き止まりに突き当たった。
壁だ。
高いコンクリートの壁。登れそうにない。
振り返ると、三人が、ゆっくりと近づいてくる。
リーダー格の男が、バットを引きずりながら、笑った。
「逃げ場はねえぞ。観念しろ」
俺は、壁に背をつけた。
どうする。
こういう時、どうする?
頭の中が、真っ白になりかける。
でも、まだだ。
まだ、終わってない。
俺は、右手を握りしめた。
遅延蒐集は、触れた物の時間を遅らせる。でも、一度に触れられるのは、一つの物だけ。三人を相手にするには、力が足りない。
それでも、やるしかない。
「……来いよ」
俺は、低い声で言った。
男たちが、一斉に動いた。
その時だった。
——ドォン。
重い音がして、路地の入口から、炎が吹き上がった。
いや、炎じゃない。
アスファルトが、溶けていた。
赤く灼熱した地面が、ぐずぐずと泡立っている。その中心に、一人の男が立っていた。
黒い短髪を刈り上げた、高校生くらいの男。意志の強い黒い瞳が、真っ直ぐに俺たちを見据えている。右手の甲には、火傷の痕。左手首の蛇の紋章を、隠しもせずに晒していた。
須藤要。
サンセットレーベンズのリーダーだ。
俺は、まだ彼の名前を知らなかった。でも、その圧倒的な存在感に、息を呑んだ。
要は、ソロプレイヤー三人組を、冷たい目で見た。
「……うちのクランのメンバーに、手を出すな」
その声は、低く、静かだった。
でも、三人組の顔色が、一瞬で青ざめる。
「さ、サンセットレーベンズ……!?」
「火神槌の、須藤要か……!?」
男たちは、後ずさりした。
要は、右手をゆっくりと持ち上げた。拳が、赤く光り始める。空気が、ビリビリと震える。
火神槌。神話級の異能。拳に超高熱を纏わせ、触れたものを爆発的に燃焼させる。
一撃で、ビルの壁を溶断する威力。
その拳が、三人組に向けられた。
「三秒以内に、消えろ。……それ以上、ここにいるなら、容赦はしない」
男たちは、悲鳴を上げて、逃げ出した。
あっという間だった。
路地には、俺と要だけが残された。
俺は、壁に背をつけたまま、へたり込んだ。
助かった。
心臓が、バクバクと音を立てている。
要は、俺の前に歩いてきた。
「……大丈夫か、迅」
俺は、顔を上げた。
「え……なんで、僕の名前を……?」
要は、俺の右手の親指の付け根を、じっと見た。
「その傷。シノヅカと、お揃いの星の傷だろ」
俺は、ハッとした。
「お前……シノヅカを知ってるのか!?」
要は、静かに頷いた。
「ああ。……俺は、シノヅカの親友だ」
俺は、言葉を失った。
シノヅカの、親友。
あいつは、俺以外にも、親友と呼べるやつがいたのか。
いや、それよりも。
「お前も、プレイヤーなのか。ダーウィンズゲームの」
要は、左手首の紋章を、俺に見せた。
「ああ。……それで、お前もな」
俺は、自分の紋章を見た。
蛇の刻印。
逃れられない、証。
要は、壁に背をつけて、俺の隣に立った。
「シノヅカが、ゲームに巻き込まれたって聞いたのは、つい最近だ。俺が、もっと早く気づいていれば……あいつを、守れたかもしれない」
その声には、深い後悔が滲んでいた。
「……お前のせいじゃない」
俺は、言った。
「シノヅカが、あのメールを開いたのは、偶然だ。誰も、止められなかった」
要は、黙って聞いていた。
沈黙が、路地に落ちる。
しばらくして、要は口を開いた。
「迅。……俺のクランに入らないか」
俺は、顔を上げた。
「クラン……?」
「サンセットレーベンズ。俺が率いるクランだ。メンバーは、今、五人。お前が入れば、六人になる」
要は、俺の目をまっすぐ見た。
「このゲームは、一人じゃ生き残れない。ポイントを奪い合うだけのソロプレイヤーは、いつか必ず、誰かに狩られる。でも、クランなら、仲間と支え合える。……それに、シノヅカを助ける手がかりを、一緒に探せる」
俺は、息を呑んだ。
シノヅカを助ける手がかり。
それが、俺の目的だ。
「……お前は、なんで、そこまでしてくれるんだ?」
要は、少しだけ、笑った。
「シノヅカの親友だからな。それに……俺は、あいつを守れなかった。せめて、あいつの親友くらいは、守りたい」
その言葉に、嘘はないように思えた。
俺は、右手の親指の付け根を、強く握った。
星の傷。
シノヅカとの、約束の証。
「……わかった。入るよ。でも、条件がある」
「言ってみろ」
「シノヅカを助ける手がかりを、最優先で探してほしい。それと……俺の能力は、地味だ。足手まといになるかもしれない。それでもいいなら」
要は、鼻で笑った。
「地味でも、生き延びられる能力は、強い。お前の遅延蒐集は、使い方次第で、化ける。……それに、足手まといかどうかは、俺が決める」
俺は、少しだけ、心が軽くなった。
「……わかった。よろしく、頼む」
俺は、立ち上がった。
要は、俺に背を向けて、歩き出した。
「行くぞ。拠点まで案内する」
俺は、その後を追った。
夜の渋谷を、二人で歩く。
要は、歩きながら、ゲームの仕組みを説明してくれた。
「ポイントは、一ポイント十万円に換金できる。でも、換金したら、ゲーム内のポイントは減る。マイナスになったら、転送だ」
「転送って、やっぱり、死ぬのか?」
「わからない。誰も、帰ってきた者はいない。だから、死と同義だと思っていい」
俺は、ゴクリと唾を飲んだ。
「クランは、ポイントを共有できる。メンバーが稼いだポイントを、クラン全体で管理するんだ。そうすれば、一人がマイナスになるリスクを減らせる」
「なるほどな。……でも、ポイントを奪い合うゲームで、共有って、難しくないか?」
「だから、信頼できるメンバーを集めるんだ。裏切ったら、クラン全員が危険に晒される。だから、クランは、簡単には作れないし、簡単には入れない」
要の声は、真剣だった。
俺は、彼の横顔を見た。
年は、俺とそう変わらないはずなのに、ずっと大人びて見える。
「……それと、気をつけろ。このゲームには、下位プレイヤーを食い物にする連中がいる」
「食い物にする?」
「ああ。ランキング三位、金平英明。あいつが運営する『カネヒラ・ミューチュアル』って保険組合だ。加入者から、毎週、ポイントの三割を、保険料として徴収する。代わりに、攻撃された時の報復を約束するんだが……実態は、ただの搾取だ」
俺は、眉をひそめた。
「三割も取られるのか。……そんなの、加入するやつがいるのか?」
「いる。ランキング下位のプレイヤーは、いつ襲われるかわからない恐怖に怯えている。保険料を払えば、金平の分身が守ってくれる。そう信じて、加入するんだ。……でも、実際は、金平は、加入者を守る気なんてない。あいつは、ポイントを集めることしか考えていない」
要の声が、低くなった。
「金平の異能は、分身増殖。最大五体の実体分身を作り出し、本体と位置を入れ替えられる。だから、殺そうと思っても、本体を特定するのが難しい。……あいつは、自分の安全を確保した上で、下位プレイヤーから搾取しているんだ」
俺は、拳を握りしめた。
そんなやつが、このゲームにいるのか。
許せない。
「……シノヅカが、金平の保険組合に、何か関わっていた可能性は?」
要は、少し考えてから、答えた。
「わからない。でも、金平は、このゲームの情報を、かなり持っている。ランキング三位だからな。……シノヅカの手がかりが、金平の持つ情報の中にある可能性は、ゼロじゃない」
俺は、胸の奥が、熱くなった。
シノヅカの手がかり。
金平英明。
その名前を、忘れない。
「……要さん」
「なんだ」
「金平の情報、調べよう。シノヅカのためにも、絶対に」
要は、少しだけ、笑った。
「ああ。……そのために、まずは、お前をメンバーに紹介する」
俺たちは、宇田川町の雑居ビルへ向かった。
ビルの三階。
「レーベンズ・ルーム」。
それが、サンセットレーベンズの拠点だった。
扉を開けると、中は、思ったより広かった。
ソファが二つと、テーブル。壁際には、モニターが何台も並んでいる。部屋の隅には、簡易キッチンと、冷蔵庫。生活感がある。
そして、三人のメンバーが、俺を待っていた。
一人目は、黒髪のボブカットの少女。左目の下に、泣きぼくろ。くすんだ緑色の瞳が、俺をじっと観察している。右手首には、赤い紐のミサンガ。
柏木鈴音。解析屋の異名を持つ、情報分析担当。
二人目は、茶髪の青年。眠たげな三白眼。ソファにだらしなく座って、スマホを弄っている。右手の指先が、黄色く染まっている。
前坂隆二。嘘発見器を持つ、狙撃手。
三人目は、水色がかった黒髪のツインテールの少女。大きな琥珀色の瞳。ソファの隅っこで、小さくなっている。左手首の紋章の周りに、水の流れのような痣がある。
スイ。水を操る、二重人格の少女。
要は、俺を紹介した。
「神崎迅だ。今日から、ここのメンバーになる。異能は、遅延蒐集。触れた物の時間を遅らせる能力だ」
レインが、口を開いた。
「……柏木鈴音です。よろしく、迅くん」
声は、小さく、落ち着いていた。
リュージが、ソファから身を起こした。
「へえ、新しいお仲間か。俺は前坂隆二。まあ、適当にやろうぜ」
軽い口調。でも、その目は、俺を値踏みしている。
スイは、俺と目が合うと、慌てて視線を逸らした。
「……スイ、です。よろしくお願いします」
声が、震えている。
俺は、三人に、軽く頭を下げた。
「神崎迅です。よろしく。……まだ、このゲームのことは、よくわかってないけど、精一杯やるよ」
リュージが、ニヤリと笑った。
「精一杯、ね。……なあ、迅の兄ちゃん。お前、なんで、このゲームに参加したんだ?」
俺は、一瞬、迷った。
でも、隠すことじゃない。
「親友が、ゲームに巻き込まれて、意識不明になった。……あいつを助けるために、俺は、このゲームに参加したんだ」
リュージは、俺の目を、じっと見た。
その瞳が、微かに、細められる。
嘘発見器。
彼の異能は、相手の嘘を、赤い靄として視認する。
俺の言葉に、嘘はない。
リュージは、数秒の沈黙の後、フッと笑った。
「……まあ、嘘じゃねえな。面白い。親友のために、命を懸けるか。……嫌いじゃねえぜ、そういうの」
レインが、俺を見て、言った。
「迅くん。あなたの異能、遅延蒐集は、情報が少ないわ。……でも、触れた物の時間を遅らせるなら、使い方次第で、強力なサポートになる。これから、一緒に、検証していきましょう」
俺は、頷いた。
「ああ。……頼りにしてる」
レインは、少しだけ、表情を柔らかくした。
その夜、遅く。
突然、全員の左手首の紋章が、同時に熱を帯びた。
運営からの通知だ。
紋章を念じると、半透明のメッセージが、視界に浮かび上がる。
――新イベント、ハンティングゲームを開催する。
――ターゲットは、ランキング三位、金平英明。
――詳細は、追って通知する。
部屋の中が、静まり返った。
要が、低い声で言った。
「……来たか」
俺は、紋章に浮かぶ文字を、何度も読み返した。
金平英明。
さっき、要から聞いたばかりの名前だ。
「ハンティングゲーム……ターゲットを、狩るイベントか」
レインが、モニターを操作しながら、言った。
「ええ。過去にも、似たイベントがあったわ。運営が指定したターゲットを、最初に倒したプレイヤーに、特権が与えられる。……今回は、金平が、そのターゲットになった」
リュージが、ソファから立ち上がった。
「へえ。金平の野郎、運営に目をつけられたか。……まあ、当然だろ。あれだけ好き勝手やってりゃな」
スイが、おそるおそる、口を開いた。
「……金平さんって、ランキング三位の人ですよね。分身が、いっぱい出てくるって……。そんな人と、戦うんですか……?」
要は、スイを見て、頷いた。
「ああ。……金平は、下位プレイヤーから、ポイントを搾取している。あいつを、これ以上、野放しにするわけにはいかない」
俺は、要の顔を見た。
その目には、強い決意が宿っていた。
「迅」
「……なんだ」
「お前の言う通り、金平は、このゲームの情報を、かなり持っている。シノヅカの手がかりも、あるかもしれない。……だから、俺は、このハンティングゲームに、クランで参加する」
俺は、拳を握りしめた。
シノヅカの手がかり。
金平英明。
やっと、見えてきた。
俺の戦う理由が。
「……ああ。やろう、要さん。金平を倒して、シノヅカの手がかりを、見つけるんだ」
要は、俺の肩を、ポンと叩いた。
「その意気だ。……ただし、無茶はするな。お前は、まだ、このゲームの戦い方を知らない。まずは、自分の能力を、もっと理解することだ」
俺は、頷いた。
窓の外を見る。
夜の渋谷が、暗く、広がっている。
この街のどこかに、金平英明がいる。
そして、シノヅカの手がかりが、眠っている。
俺は、左手首の紋章を、じっと見つめた。
蛇の刻印。
このゲームに、参加したことを、後悔したことはない。
だって、ここに、シノヅカを助ける道がある。
それなら、俺は、戦える。
「待ってろよ、シノヅカ。……必ず、お前を、助けるからな」
その言葉は、静かな部屋の中に、消えていった。
窓の外では、渋谷の街並みが、不気味な静けさに包まれていた。
ハンティングゲームの通知が、全てのプレイヤーに届いた夜。
渋谷のゲーム空間は、新たな戦いの予感に、ひっそりと、ざわめき始めていた。Noveliaとは?
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