ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて
ロックは、木人形を一体だけ動かせるだけの外れスキル「パペットマスター」を持つDランク冒険者。周囲から嘲笑され、日々は薬草採取で細々と食いつなぐ孤独なものだった。しかし、酒場で出会った中年の薬草師バルドを助けたことから、その日々が少しずつ動き始める。
バルドのおかげで安定した収入を得られるようになり、木人形との連携も日増しに上達していくロック。そんな彼を、エルフの土魔術師リリア・ファロンディールが、魔の森の三ヶ月に及ぶ調査任務に誘う。彼女が操る二体の強力なゴーレムに圧倒されながらも、ロックは人形と共に戦う自分だけのスタイルに、確かな手応えを感じ始めていた。
突如、キラーアントの巣に足を踏み入れ、クイーンアントと対峙する危機が訪れる。絶体絶命の窮地の中、ロックとリリアは共闘し、辛くもこれを討伐。リリアは礼として、ロックにクイーンの魔石を託し、人形への融合方法を伝授する。すると人形は、味方を強化し敵を弱体化させる新たな支援能力「リンクフィールド」を覚醒させるのだった。
それは、決して無能なスキルなんかじゃない。誰にも真似できない、自分だけの力。ロックは初めて、心からの自己肯定を得る。支
ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて - 刺さるのは木人だけ——俺たちの戦い方
迷宮の入り口は、思ったより静かだった。
王都の北西にそびえる古い石造りの遺跡——罠感知スキル持ちの斥候が三人、重傷で運び出された場所。ロックは背中の木人を背負い直し、隣に立つレオンを見た。
レオンの顔は、やっぱり少し青ざめている。手に持った依頼書をぎゅっと握りしめて、書かれた文字を何度も読み返していた。
「[scared]斥候が三人……全員、重傷……」
声が震えている。
ロックは、もう一度依頼書に目を落とした。そこには簡潔に、罠の種類が記されていた——毒矢、落とし穴、天井崩落。いずれも熟練の斥候でさえ回避が難しいという。
「[quiet]……なあ、レオン」
ロックは背中の木人を地面に下ろした。高さ九十センチ、下手くそな笑顔。ガルドが補強してくれた関節が、かすかに軋む。
「[serious]俺の木人が先に行く。お前のはすぐ後ろで、落ちてくる石とか、俺の後ろから来る罠だけ見てろ」
レオンは一度だけ、深く息を吸った。
「[firm]……わかりました」
その時——
ガタン。
レオンの木人が、一歩踏み出そうとして足を引っかけた。通路の入り口に転がっていた小石に、つま先をぶつける。
「わっ」
あわてて木人を支えようとしたレオンが、自分も一緒によろける。そのまま木人と抱き合うように、壁にぶつかった。
「[laughing]……なにやってんだよ」
ロックが吹き出す。緊張で張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。
レオンは耳まで真っ赤にして、木人を起こす。
「[embarrassed]す、すみません……」
「[gentle]いいさ。緊張してる証拠だ。行くぞ」
ロックは、自分の木人に魔力を送った。
木人の魔石が、ぽうっと青白く光る。リンクフィールドがじわじわと広がって、半径十五メートルの範囲がロックの感覚とつながった。
通路の壁から、かすかな魔力の反応が浮かび上がる。
「[quiet]……ここだ」
最初の罠。
ロックは木人をゆっくりと前進させた。壁の隙間から突き出した、細い穴。そこに隠された毒矢の発射口だ。
木人の手が、その穴に伸びる。
——瞬間。
ザシュッ。
毒矢が飛び出した。狙いは正確に、木人の腕。
木の外装をえぐり、どすっと突き刺さる。薄緑色の毒液が、矢尻からじわりと滲み出ていた。でも——それだけだ。
「[surprised]先輩……!」
レオンが息を呑む。
ロックは、木人の腕に刺さった毒矢を指さした。
「[calm]ほら、刺さるのは木人だけだ」
毒矢を抜く。木の表面が少し腐食していたけど、構造には影響がない。ロックは木人の腕を軽く叩いて、関節がちゃんと動くのを確かめた。
レオンが、小さくつぶやいた。
「[whispers]すごい……」
「[matter-of-fact]まだだ。今のを見たか? 床に反応する罠もある。足元をよく見ろ」
ロックの目は、もう次の罠に向いていた。リンクフィールドが捉えた魔力の反応——通路の床の一部が、ほかよりわずかに明るく光っている。
落とし穴の罠だ。
木人を慎重に、その床に近づける。体重がかかった瞬間——
ガコン。
床板が、ぱっくりと口を開けた。
木人の足が、空を蹴る。でも、ロックの操作で体勢を崩さず、穴の縁に手をかけて踏みとどまった。
「[urgent]レオン、今の見えたか? あれを踏んだらアウトだ。お前の木人も、絶対にこのエリアの床に乗せるな」
「[nervous]は、はい!」
レオンは自分の木人を、必死にロックの後ろにつけようとする。でも——
一歩、床に足をついた瞬間。
ミシミシ。
レオンの木人の足元で、床板が嫌な音を立てた。
「[panicked]え——」
ガコン!!
床が開く。レオンの木人が、落とし穴に向かって傾いた。
「[shouting]レオン! 操作を止めるな!」
ロックが叫ぶ。同時に、リンクフィールドを全力で拡げた。青白い光が広がって、レオンの木人を包み込む。
レオンの両手から、操作の感覚が吸い込まれていく——自分の木人が、今どこにいて、どれだけ傾いているか。フィールドの中で、それが手に取るようにわかる。
「[gasp]これ……」
フィールドの中では、操作の感触がはっきりしていた。いつもよりずっと、くっきりと。木人の位置も、傾きも、どれだけ踏みとどまれば穴から逃れられるかも。
レオンは、無我夢中で魔力を込めた。
木人の手が、落とし穴の縁を掴む。木の指が、がりがりと石を削りながら——なんとか、穴から這い上がった。
どさり、と木人が通路に横たわる。
「[panting]はあ……はあ……」
レオンは、肩で息をしていた。額に汗が光っている。
ロックは、小さくうなずいた。
「[quiet]そういうことだ」
「[shocked]これが……フィールドの感触か」
レオンはしばらく、自分の手のひらを見つめていた。
——さらに奥へ進む。
通路は狭まり、天井が低くなっていく。湿った空気が、肌にまとわりついた。
「[whispers]先輩……あれ」
レオンが指さした先——天井に、二か所の支点が並んでいる。重そうな石板が、今にも落ちてきそうに支えられていた。
ロックは、リンクフィールドで内部を探った。
「[tense]……クソ。二か所同時に外さないと、作動する仕組みだ」
左右の支点が、それぞれ構造的に絡み合っている。片方だけ外せば、もう片方に引っ張られて石板ごと落ちてくる。
一体だけじゃ、手が足りない。
「[serious]レオン」
「[gulps]……はい」
「[firm]お前の木人で、右の支点を押さえろ。俺のが左をやる。合図は俺が出す。いいな」
レオンの木人が、ガタガタと震えながら右の支点に近づく。操縦者の手も震えていた。それでも——両手を、しっかりと支点に当てた。
ロックの木人が、左の支点に手をかける。
「[loud]——今だ!!」
二体が、同時に機構を押し込んだ。
ギギギギ……
天井が、わずかに揺れる。
石くずが、ぱらぱらと落ちてきた。ロックの肩に、レオンの頭に、細かい石が降りかかる。
でも——それだけだった。
石板は、落ちてこなかった。
沈黙。
それから——
「[crying]やった……!!」
レオンが、叫んだ。
「[proud]よし!!」
ロックも思わず、声を上げていた。二人の声が、狭い通路に響き渡る。
二体の木人は、まだ支点を押さえたままだった。石くずで汚れて、木の表面が傷だらけになっている。それでも——立っていた。
ロックは、木人の頭をぽんと叩いた。
「[soft]よくやった」
——最奥部。
広い部屋の中央に、封印石が鎮座していた。青白い光を放つ、人の頭ほどの大きさの石。依頼書に描かれた目標物だ。
ロックは、木人を封印石に近づけた。
木人の手が、石に触れる。
——次の瞬間。
ぶわっ。
封印石から、光の波が広がった。迷宮全体を走っていく。罠が解除され、魔力が空気に溶けていく。依頼完遂の魔法的な印だ。
レオンは、その場に崩れるように膝をついた。
自分の木人を、両手で抱える。ぼろぼろになった木の体。毒矢の刺さった痕。落とし穴の縁にこすれた傷。そして、さっきまで天井を押さえていた両手には、石の粉がこびりついている。
「[crying]刺さっても……壊れるだけだ……」
涙が、ぼろぼろとこぼれた。
「[crying hard]刺さっても、壊れるだけだ……人が傷つかない……これが、これが僕たちの戦い方なんだ!!!」
迷宮の奥で、レオンの叫びがこだました。
ロックは、その声を聞いていた。
胸の奥で、何かがはっきりとした形を取っていく。
(派手じゃなくていい)
(これでいいんだ)
ラステラで笑われた日々。スケルトン討伐で罵られた言葉。全部が、今は遠くに感じる。
この木人と、この戦い方で——ちゃんと、冒険者をやっていける。
その確信が、揺るぎなく胸の真ん中にあった。
ロックは、木人の頭をぽんと叩いた。
「[quiet]帰ろう」
レオンは涙を拭って、うなずいた。
木人の腕には、まだ毒矢が刺さったままだ。大破した木の隙間から、魔石の青い光が漏れている。
二人は、笑いながらそれを抜いた。
「[slightly laughing]これ、ガルドさんに直してもらわないと」
「[smiling]僕のも……あちこちギシギシいってます」
出口へ向かう通路は、罠が全部解除されて、静かだった。
遠くに、外の光が見える。
依頼書をぎゅっと握りしめて、ロックは一歩を踏み出した。
銀貨五十枚——じゃなくて、金貨一枚だ。ガネッタにちゃんと報告しないと。
それから。
ギルドの連中が、どんな顔をするか。
ロックの胸の内には、初めての感覚があった。
(俺は、これでいいんだ)
そう、思える自分が。
木人の手を引きながら、ロックは光の中へ歩いていった。Noveliaとは?
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