最弱評価士の無限査定
ユシィは帝国魔法学院の入学試験で、自身の能力「査定」を披露した――対象の強さや価値を数値化するだけの平凡なスキルだ。試験官たちは笑った。「戦闘には役に立たない」と。
七年後、魔法騎士団は彼女の能力を「最弱評価」と評し、辺境の警備隊へと追放する。辺境はモンスターが徘徊し、盗賊団がわずかな集落を脅かす荒れ地だった。
しかしユシィは真実を知る。彼女の能力は「査定」ではなく、「無限分解」だったのだ。すべてが彼女の操作できるパラメーターである。敵の魔力をゼロにし、武器の硬度を百倍にし、モンスターの知能を抑え、森の成長を加速させることもできる。ユシィは笑い始める。そして――彼女の暴走が始まった。
盗賊団は一瞬で崩れ、モンスターの巣は彼女の前に崩壊する。辺境の町は急速に繁栄し、首都からの視察団も注目するようになる。「最弱」の烙印はすでに過去のものとなった。
だが、影から観察者が現れる。隠された組織「数字の堕落者」――彼女と同じ能力を持つ者たちだ。そしてユシィはまだ知らない、この世界全体が誰かの「査定」によって動いているという真実を。
辺境で咲く少女の力は、やがて帝国の礎を揺るがすだろう。
最弱評価士の無限査定 - 最弱の刻印——E級、辺境へ
【スキル:《査定》が発動します】
【対象評価結果——戦闘適性:E級/非戦闘型・情報系/推奨配置:非戦闘部門】
「……は?」
声に出すつもりはなかった。
でも、それは自然と漏れていた。
ユーティエ・シルヴァニス——漆黒のショートヘアを斜めに流した、長身の若い女が、白壁の判定室に立っている。白い襟付きシャツ、黒のスラックス、革製の軽装を羽織ったその体型はスレンダーで、左耳の銀ピアスが部屋の蒸気魔石灯の光を弾いていた。深い琥珀色の瞳は——今この瞬間——試験官の顔を静かに見ている。表情は動いていない。
ただ、左手人差し指の魔法紋が、淡く脈打っていた。
試験官は書類から目を上げることもなく、もう一度読み上げた。
「シルヴァニス・ユーティエ。魔法騎士団適性判定——非戦闘型、情報系、E級。以上です」
以上です、という言葉の軽さが、逆に重かった。
——七年。
帝国魔法学園。修業年限七年、全寮制。帝政ヴェルシェンが誇る、魔法教育の最高機関。入学者約三百名、卒業者の十五パーセントが魔法騎士団へ進む。首都フェルゲシュタットの城壁内に広がる十二万平方メートルの敷地。ユーティエはその七年間を、ここで過ごした。
そして今日、その終着点がここだ。
判定室の隣の席で、同期の誰かが小さく息を吐いた。哀れみとも安堵ともとれる、あの種類の呼吸を、ユーティエは七年前にも聞いた気がした。
——フラッシュバックは、唐突にやってくる。
七歳。帝国魔法学園の入学試験。大きすぎる審査室、高い天井。七歳のユーティエが審査官の前に立ち、初めて能力を披露した日。
対象物に意識を向けると——数値が浮かぶ。机の硬度。羽ペンの魔力残量。審査官の体力値。それらが宙に可視化されたとき、静寂が部屋に落ちた。
「……これが、君の能力?」
審査官が隣の同僚と顔を見合わせた。その視線の意味を、七歳のユーティエは理解できなかった。でも理解できなかったことが、逆に正確な記憶として刻まれている。
「戦場で何の役に立つ?」
誰かが小声で言って、忍び笑いが広がった。
現在のユーティエは、その記憶を七年分の距離で眺めている。動揺しないのは、慣れたからではなく——最初から分かっていたからだ。この国は、戦闘に役立つ能力を優遇する。火を出す、雷を操る、相手を吹き飛ばす。そういう力が評価される場所で、「対象の数値が見える」などというものは、お荷物以外の何でもない。
帝政ヴェルシェンの魔法適性評価制度は、生後三ヶ月で魔力量を測定し、七歳で属性・系統が判定される。S級からF級の七段階。その評価が、文字通り生涯の進路を決める。A級は一万人に一人。B級以上でなければ、魔法騎士団——帝国正規軍の精鋭部隊、月給金貨四十五枚、社会的地位は下級貴族相当——の受験資格すら持てない。
E級は、どこに属するか。
答えは分かっていた。
辞令書を受け取ったのは、判定の三十分後だった。
「辺境警察、トゥラーゲ管区詰所への配属を命ずる」
人事官の声は丁寧だった。それが一番、腹に来た。叫んでくれた方がまだ良かった。丁寧な声で手続きを進めるということは、これが粛々と回る歯車の一部に過ぎないという意味だ。ユーティエ・シルヴァニスという人間が辺境に消えることは、帝国という機械にとって何の摩擦も生まない。
ユーティエは辞令書を受け取った。
その手が——一瞬だけ、白くなるほど紙を握りしめた。
それだけだった。
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宿に戻ったユーティエは、支給品の木箱を床に下ろした。
箱の側面には「辺境警察配属者用装備一式(標準支給)」と焼き印が押してある。鍵を外し、蓋を開ける。
【装備品査定を開始します】
まず出てきたのは、短剣だった。
「……」
錆が浮いている。刃こぼれが、三箇所。刃渡りは二十センチ程度、グリップのテーピングは半分剥がれかけている。査定値が自動的に視界に浮かんだ——耐久値: 12/100。使用可能回数: 推定8〜12回。
次は外套。広げると、虫食い穴が開いていた。補修跡が三箇所。当て布の色が本体と微妙に違う。防寒性能値: 31/100。防水性能値: 14/100。
「……なるほど」
ユーティエは無表情のままで呟いた。そして次を取り出す。
長靴だった。左右で靴底の厚みが違う。左が三センチ、右が二・五センチ。測ったわけではないが、査定値が正直に教えてくれた。これを履いて走ったら、五分で腰がやられる。
で、最後に——一冊の冊子が出てきた。
「辺境勤務心得——生存率向上のための一〇〇の知恵(第七版・改訂増補)」
七版まで改訂されている、という事実に、ユーティエは一秒だけ考え込んだ。改訂されるということは、内容が更新される何かがあったということだ。何が更新されたのか。考えたくはない。
ページを繰る。
第一条——「死なないことを最優先とせよ」
第三条——「牙顎獣と目が合ったら走るな(走っても無駄なため)」
第十七条——「仲間が魔獣に食われているのを目撃した場合、声を上げることは自身の位置を知らせる行為となるため推奨しない」
ユーティエは冊子をそっと閉じて、箱に戻した。
何も言わなかった。驚きもしなかった。これが予想の範囲内だったかのように——実際、予想の範囲内だったから——静かに蓋を閉めた。
荷物の整理を続けていると、一枚の証明書が床に転がった。古びた紙、黄ばんだ縁。拾い上げると、見覚えのある書式だった。
七歳時に発行された、能力登録証。「査定・E級」の文字。帝国の公式スタンプ付き。
ユーティエはそれを一秒だけ見た。
そして荷物の奥深くに、仕舞い込んだ。
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フェルゲシュタットを発つ馬車は、夜明け前に動き出した。
御者は口数の少ない中年の男で、ユーティエが乗り込んでも振り返らなかった。それはむしろ、有難かった。
馬車の窓から、首都が遠ざかっていく。朝霧の中に沈む石造りの建物、魔石灯が作る橙色の光、ミーレ河の水面の反射——フェルゲシュタット。人口六十二万。大陸中央西寄りに位置する、帝国の心臓部。帝国魔法学園の敷地も、魔法騎士団の本部も、皇帝の居城「白燎宮」もある、この世界の中心。
ユーティエはそこから離れていく。
旅程は約七日間。帝国本土を東へ進み、ゲルヴァン山脈のカスパール峠を越え、さらに東へ百九十キロ。目的地はトゥラーゲ管区——帝国最東端の辺境、首都から約八百二十キロ。人口約三千二百人、怪物の出没率は帝国平均の十四倍。帝国にとって「捨て地」同然と呼ばれる地域だ。
馬車が揺れる。ユーティエは窓外を流れる景色を見ていた。
街道沿いの樹木。幹が視界に入ると、数値が自動的に浮かぶ。密度値: 78。成長年数: 推定四十二年。水分含有率: 61パーセント。
これが、ユーティエの世界の見え方だった。
あらゆるものに数値がある。木にも、石にも、馬にも、人にも。御者が手綱を持つ馬を横目で見ると——疲労耐性値: 54/100、現在疲労: 23パーセント——が浮かんだ。あと三時間は問題なく走れる。そういう情報が、望まなくても流れ込んでくる。
便利か、と問われると——答えに詰まる。
数値は正確だ。感情で歪まない。嘘をつかない。木の本当の強度が分かる。人の本当の体力が分かる。戦場で敵の能力を把握できる、と言い張ることもできる。
でも帝国はそう評価しなかった。戦えない、という一点で、切り捨てた。
(私は世界を正確に見ている)
ユーティエはぼんやりと思った。
(でも世界は、私を正確に見ていない)
この非対称性に名前をつけるなら——孤独、だろうか。数値で見える世界と、感情で生きる他者のあいだにある、埋まらない溝。七年間、学園の同期と話すたびに感じてきた、あの微妙なズレ。「すごいね」と言われるが、すごいとは思われていない。「便利そう」と言われるが、羨ましいとは思われていない。
馬車の窓ガラスに、ユーティエ自身の顔が映っていた。
漆黒の前髪が斜めに流れて、左目をわずかに隠している。琥珀色の瞳は——我ながら、何も映していないような顔だと思った。別に落ち込んでいるわけではない。ただ、これが自分の顔だ。感情が外に出ない顔。学園の同期には「怖い」と言われたこともある。
怖い、か。
まあ、いいと思った。
御者の馬が、蹄鉄で石畳を打つ音だけが続く。ユーティエはそのリズムに合わせて目を閉じた。
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四日目の朝、馬車はゲルヴァン山脈のカスパール峠に差し掛かった。
標高二千百メートル。空気が薄くなる。窓の外が変わる——なだらかな沃野から、岩と霧と、灰色の空へ。峠の帝国側に「ゲルヴァン関」という検問所があったが、兵士は三人しかいなかった。一人が眠そうな目でユーティエの辞令書を確認し、「どうぞ」と言った。それだけだった。
峠を越えた瞬間、景色の色が変わった。
沃野の緑が消えて、霧だけになった。木々の形が変わる。針葉樹が増え、枝が重なり、日光が届かなくなる。空の色が、白から鼠色へ。
ユーティエは窓から目を離さなかった。
これが「帝国の側」から「捨てられた側」への越境だと、頭ではなく体で感じた。言葉にしたわけではない。ただ、帝国本土の空気と、ここの空気が違う。まるで別の世界に踏み込んだような——いや、踏み込まされたような感覚だった。
(そうか。これが辺境か)
他に感想はなかった。
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七日目の夕暮れ。
馬車が止まった。
「グレンツァーです」
御者がそれだけ言った。
ユーティエは荷物を持って降りた。
最初の印象は——静かだった。
石畳はない。土の地面。木の柵が集落の外縁を囲んでいて、その一部が古くなって傾いている。建物は煤灰色で、窓に明かりはまだ少ない。夕霧が薄く漂って、遠くの木立がぼんやりとしている。
ここが、トゥラーゲ管区グレンツァー。人口約六百八十人。帝国最東端の集落。
ユーティエは辺境警察の詰所を探した。すぐに見つかった——木造二階建て、建物の外壁に「辺境警察トゥラーゲ管区詰所」と書かれた板が打ちつけてある。板は少し曲がっていた。
扉を押すと、蝶番が軋んだ。外れかけている。
中に入ると、人の気配はなかった。一階が執務室兼留置場。窓から差し込む夕光の中に、埃が浮いている。壁には刃物で何かを刻んだ跡がある。「前任者」が残したものだ、とユーティエは思った。何を刻んだのかまでは読めなかった。
武器庫の棚を開けると、錆びた刃が並んでいた。備品台帳を引き出して開くと、「紛失」「紛失」「紛失」という記入が目立つ。執務机の引き出しには、半分書きかけの辞表が入っていた。
ユーティエはそれを引き出しから取り出し、机の端に置いた。
そのまま、立ち止まった。
(なるほど)
と思った。特に他の感情は湧かなかった。これが現実の正確な姿だ、と認識しただけだ。怒りは情報処理の妨げになる。悲嘆は状況を変えない。ならば、今できることをする。
ユーティエは手帳を取り出した。
【建物耐久値査定開始】
壁面強度: 41/100。床板の劣化: 三箇所に要修繕箇所あり。二階の荷重上限: 推定二百二十キログラム。窓の鍵の精度: 機能不全二箇所。
手帳にさらさらと書き込む。数値を読んで、記録する。誰も見ていなくても、誰に頼まれたわけでもなくても、ユーティエはそれをした。これが自分が世界と向き合う、唯一の方法だから。
外で、霧が濃くなってきていた。東側の木立の向こうに——シュヴァルツ樹海の縁が見えた。暗黒森林。面積約四千八百平方キロメートル。魔獣の主要生息地。その黒い輪郭が、霧の中に沈んでいく。
ユーティエは窓から、しばらくそれを眺めた。
特に怖いとは思わなかった。ただ、数値が知らせてくれる。「あそこには何かいる」——脅威係数が、微かに揺れていた。
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翌朝、夜明け直後。
詰所の二階の宿舎で目を覚ましたユーティエは、地形把握のために外に出ることにした。
霧がまだ残っている。空気が冷たい。深呼吸すると、湿った木と土の匂いがした。靴底の違う長靴を履いて——やはり少し歩くと左右の重心がズレる——詰所を出た。
グレンツァーの南側の街道を歩く。人の姿はほとんどない。朝が早すぎる。
宿場兼酒場「煤灯亭」の前を通ると、窓に明かりが灯っていた。店主が仕込みをしているのだろう。窓ガラス越しに、誰かが動く影が見えた。それだけだ。ユーティエは通り過ぎた。
そのまま東側に足を向ける。シュヴァルツ樹海の外縁部。木柵の防壁が尽きると、樹海の縁が始まる。そこから先は、木の密度が上がる。日光が遮られ、地面が湿り気を帯びる。霧の質が変わる——薄かったものが、どこか粘度を持ったような白さになる。
五分ほど歩いたとき、音がした。
落ち葉を踏む音。
一つではない。
ユーティエは足を止めた。
視界の右側から、茂みが揺れた。次に左から。そして正面から、低い唸り声が来た。
【危険生物を感知——牙顎獣、七体】
全身の血が冷えるような感覚。でもユーティエは動かなかった。
姿が見えた。体長二メートル半、体重およそ二百キログラム。鋼並みの顎、太い四肢。褐色の短毛。目が黄色く光っている。一頭が低く構えて、ゆっくりと間合いを詰める——群れが、ユーティエを囲む形に展開していた。
逃げ道がない。
ユーティエは腰の短剣に手を伸ばした。錆びた短剣。耐久値十二。刃こぼれあり。
【対抗可能性評価——0.3パーセント未満】
知ってる、とユーティエは思った。
それでも手は動かなかった。逃げるための判断をする前に、体が先に動いていた——左手の魔法紋が、じくりと熱を持った。
【《査定》発動】
いつも通り、数値が浮かぶ。七頭それぞれのパラメータが、視界に現れた。筋力値。突進速度。顎圧。群れの連携係数。先頭の一頭——筋力値: 87/100。突進速度: 毎秒九メートル。顎圧: 四百二十キログラム相当。
ここで、何かが違った。
指先に、奇妙な感覚が走った。
いつもは「見るだけ」だった。数値は読むもので、触れるものではなかった。でも今——数値が、触れられる気がした。まるで紙の上に書かれた文字に、指を置いているような感覚。押せる、と思った。直感だ。論理ではない。でもその確信は、いつもの査定値よりもずっと鮮明だった。
先頭の牙顎獣が、低く身を沈めた。跳躍の直前の構え。
ユーティエは意識を集中した。視界に浮かぶ「筋力値: 87」の数字に、指先の感覚を向ける——押す。
数値が動いた。
87、74、61、48、33、19、7、2、0。
一秒もかからなかった。
牙顎獣が、突進の途中でがくりと膝を折った。四肢の力が抜けて、地面に崩れ落ちる。まるで糸が切れた操り人形のように。
他の六頭が、止まった。
恐慌だ、とユーティエは分かった。群れの連携が崩れていく——群れの連携係数: 71→44→21。仲間が突然倒れるのを見た獣の反応。理解できない恐怖。
ユーティエは次の一頭を見た。筋力値: 83。
押す。
0へ。
また一頭が倒れた。
その後は早かった。四頭、五頭、六頭。順番に数値を書き換えて、十数秒も経たないうちに、七頭全員が地に伏していた。
霧の中に、静寂が戻ってきた。
ユーティエは倒れた牙顎獣の群れを見渡して——自分の右手を見た。
手が震えている。
怖かったから、ではない。恐怖なら、もっと前から来ていたはずだ。これは別の震え——理解できないものに触れた時の、体の、正直な反応だった。
「……これは」
声が掠れた。
「査定じゃ、ない」
数値を読む力ではなく——数値を書き換える力。
七歳の時に「査定・E級」と記録された能力は、何を見落としていたのか。帝国の試験官たちが失笑した、「戦場で何の役に立つ?」と言われたあの力は——本当は、何だったのか。
問いは、霧の中に溶けた。答えは来なかった。
ユーティエはしばらく、その場に立ち尽くしていた。
右手の震えが、ゆっくりと治まっていく。霧が動く。朝の冷気が、頬を撫でていった。
やがて、歩き始めた。詰所への道を、ゆっくりと。
背後で——倒れていた牙顎獣たちが、数分後に起き上がった。足を震わせながら立ち上がり、樹海の奥へと消えていく。力を奪われたのではなく、一時的に書き換えられただけだったことを、ユーティエはまだ知らない。
【ステータス更新——真の能力が覚醒の兆しを示しています】
詰所の扉を開けると、昨日と同じ光景があった。傾いた棚、錆びた刃、机の端に置いた辞表。変わっていない。でも今朝見えるものは、昨日と少し違う気がした。
ユーティエは手帳を開いた。
新しいページに、一行だけ書いた。
「数値は——動かせる」
インクが乾くのを見ながら、ユーティエ・シルヴァニスは静かに、次のことを考え始めた。