ダンダダン!呪われし性転換ラブコメ騒動!
オカルト好きギャルのモモと、宇宙人マニアのオタク・オカルンは、心霊スポットでの命がけバトルでおなじみのコンビ。今日も今日とて、捨てられたおもちゃから生まれた呪い『シーメールコレクター』を退治しようとするが、その最後っ屁のドジな呪いがとんでもない事態を引き起こす。モモの目の前で、オカルンが女の子に変身! そしてモモ自身も、まさかの男の体になってしまった!
「えっ……わ、私のアレが……!? ってかオカルン、めちゃくちゃ可愛いんですけど!」
「や、やめろよモモちゃん……そんな服ビリビリの格好で近づくなって!」
さらに学校では、元ヤンのジジが金髪ツインテのギャルになって現れ、みんなのアイドル・アイラちゃんは男装のイケメンと化して女子たちを悩殺。クラスメイトのシラトリくんに至っては、美少女になった自分にまんざらでもない様子で、もう大混乱!
呪いを解くには、一週間以内にシーメールコレクターのコアを破壊しなければならない。だが、慣れない体で過ごす毎日は、ドキドキの連続。着替えにトイレ、お風呂――何もかもがぎこちなくて、くすぐったいハプニングだらけ。
おまけに、元に戻りたい気持ちと、このままで
ダンダダン!呪われし性転換ラブコメ騒動! - 夜のガラクタ原野と、守られた私の、うるさい心臓
月曜の夜。
商店街の明かりが、一つ、また一つと消えていく。
カケヌケ通りに面した古書店『ヨミガエリ堂』の前。モモたち五人は蔵前老人から受け取った地図を囲んで、最後の作戦確認をしていた。夜風が古い看板をギシギシと鳴らしている。
「[serious]よし、行くぞ」
自分の野太い声に、まだ慣れない。ごほん、と咳払いをした。肩幅のある父さんの学生服が、夜風にバタバタと揺れる。
「……あ」
オカルンが小さく声をあげた。
モモが振り返ると、そこにはもう一人、人が立っていた。
肩まで伸びた黒髪。夜の闇に溶けそうなほど、しっとりと落ち着いている。切れ長の目元。白い肌。
美少女だった。
でも、その無表情は、誰よりもよく知っている。
「白鳥……?」
「[cold]……うん」
白鳥翔太。クラスメイトの一人だ。いつも一人で本を読んでいるようなやつで、モモもあまり話したことはなかった。でも、今回の呪いで、白鳥も女の子になってしまったらしい。
「[surprised]え、お前なんでそんな普通な顔してんの!? 怖くないの!?」
金髪ツインテールのギャル――中身は元ヤンキーのジジが、目を丸くして叫んだ。女子制服がパンパンに張っている。
白鳥は、自分の長い黒髪をそっと指で梳いた。
「[cold]……別に、嫌じゃない」
その声は、ほんの少しだけ、いつもより柔らかかった。
全員が、微妙な間を置く。
「[sad]嫌じゃない、って……」
イケメン男子の姿になったアイラが、困ったように眉を下げた。もともと学園のアイドルだった彼女は、今は長身の美形だ。その仕草は完全に女子のものだから、妙なアンバランスさがある。
「……どういう意味だろう」
オカルンが、モモの耳元に顔を近づけて、小声で言った。
さらさらの黒髪が、モモの腕に触れる。女の子になったオカルンの、小さな唇が、すぐ近くにある。吐息が耳にかかって、くすぐったい。
ドキン。
胸の真ん中が、熱くなった。
「[angry]う、うるさい! 知らん!」
モモはオカルンをぞんざいに払いのけた。腕が、柔らかいものに当たった気がしたけど、考えないことにした。
「[laughing]……あらあら」
アイラがイケメンの顔で微笑む。
「[serious]まあいい。白鳥も一緒に来るか? ガラクタ原野に行くんだ」
モモは気を取り直して、白鳥を見た。
白鳥は、こくりと頷いた。
「[cold]……やっと、外側と中身が一致したから」
その言葉に、全員の動きが止まった。
ジジが、ツインテールを揺らしながら、ぼそりと呟く。
「[whispers]……よくわかんねえけど、お前がいいなら、いいのか?」
白鳥は、もう何も言わなかった。ただ、ガラクタ原野の方角を、静かに見つめていた。
……
懐中電灯の光だけが頼りだ。
ガラクタ原野の入り口は、昼間とはまるで違う顔を見せていた。捨てられた冷蔵庫や洗濯機が、闇の中で奇妙な形の影を作っている。風が吹くたびに、壊れた人形の部品がカタカタと鳴った。
「[serious]気をつけろよ。足元、ガラクタだらけだ」
男体化したモモが先頭に立って、廃材をかき分けて進む。力が強くなったから、これくらいはわけない。
――ガサッ。
「きゃっ」
後ろで小さな悲鳴が上がった。
振り返ると、オカルンが背の高い廃材の山にスカートを引っかけていた。女の子の体になって、重心が変わったから、思うように動けないのだ。
モモは無言で手を伸ばした。
オカルンが、その手を、じっと見つめる。
大きくなったモモの手。指が長くて、節くれだっている。
「……ありがとう」
オカルンは小さな声で言って、その手を握った。
言おうとして、声が出なかった。
モモの手は、温かかったから。
「うるせえ、さっさと掴まれ」
モモはぶっきらぼうに言って、オカルンを引き起こした。でも、手を離すのが、ほんの少しだけ遅れた。
一方。
「[angry]ちくしょう、このギャルみたいな体、マジで歩きづれえ!」
ジジが、ガラクタの山にヒールを引っかけて、よろけた。派手なネックレスが、懐中電灯の光を反射して、キラキラと周囲に光を撒き散らす。
「[cold]……目立ちすぎ」
後ろから、ぼそりと白鳥が言った。
「[angry]うるせえ! 俺だってこんな体、望んでねえ! ……まあ、若干かわいいとは思うけど」
ジジは声を荒げてから、最後の部分だけ小声で付け加えた。
「[surprised]え、今なんて言った?」
イケメンのアイラが、にっこりと爽やかな笑顔で聞き返す。
ジジの顔が、ボッと赤くなった。
「[angry]な、なんにも言ってねえ!」
……
そんな風に、バタバタと騒がしく進んでいた時だった。
ザワッ――。
足元の廃材の山が、鳴った。
「……止まれ」
モモが、手で制した。
霊力をこめた目で闇を見通す。地面が、波打っている。黒い、小さな塊の群れが、四方八方から押し寄せてくる。
「ガラクタ・ムシ……!」
オカルンが叫んだ。
黒い甲虫型の小怪異。それが二百体以上、津波のように六人を包囲する。カチカチと無数の顎が鳴る音が、闇に響いた。
「[angry]くっ!」
モモは霊力で、目の前の数体を弾き飛ばした。青白い光が走り、虫が吹き散る。しかし、数が多すぎる。何匹かが消えても、後ろから次々と湧いてくる。
「[scared]俺もやる!」
ジジが叫んで、廃材のパイプを振り回した。でも、ギャルの体では、思うように力が入らない。パイプが空を切るだけだ。
「[serious]オカルン! 加速しろ!」
「[scared]わ、わかって――!」
オカルンは、ターボババアの力で加速しようとした。
瞬間。
バランスを崩した。
女の子の体の重心が、自分のイメージとズレている。一歩踏み出した足が、廃材の山を踏み外した。
「あ――」
体が、傾く。
ガラクタの山の斜面を、転がり落ちていく。視界が回る。
そして、底に叩きつけられた。
「いっ……!」
痛みで息が詰まる。
顔を上げると、無数の赤い目が、自分を見下ろしていた。
ガラクタ・ムシの群れが、オカルンめがけて殺到する。顎をカチカチ鳴らしながら。
(やられる――)
そう思った、瞬間。
「オカルン!!!」
雷のような怒号が、ガラクタ原野に轟いた。
――考えるより先に、体が動いていた。
男になったモモの体が、バネのように跳ねる。
「ウオオオオオ!!!」
霊力が、爆発した。
周囲の廃材が、数十個まとめて、青白い光に包まれて宙に浮く。壊れたテレビ、へし曲がった自転車の車輪、無数のプラスチック人形。それらが弾丸のように、ガラクタ・ムシの群れに叩きつけられる。
ガキィン! グシャア!
甲虫の甲殻が砕ける音。
モモは、まるで嵐のようだった。廃材を吹き飛ばしながら、群れの真ん中に飛び込む。
――いた。
群れに飲み込まれそうになっている、小さな影。
「……捕まえた」
左腕一本で、オカルンの体を抱え上げた。
軽い。
こんなに軽かったのか。
オカルンの体は、震えていた。
「――吹っ飛べえええ!!!」
モモは、右手を突き出した。
パアアアアン!!!
霊力の衝撃波が、球状に広がる。
ガラクタ・ムシの群れが、一瞬で吹き散った。黒い波が、逆流する。周囲の廃材もまとめて、一帯が更地のように開けた。
しん、と静寂が戻る。
モモは、肩で息をしながら、前を見据えていた。
自分でも、驚いていた。
(俺……こんな力、出せたのか?)
手が、少しだけ震えている。
でも、それ以上に。
(オカルンを、守れた)
その事実が、胸の内側で、熱い塊になっていた。誇らしいような、恥ずかしいような、よくわからない感情。
腕の中のオカルンが、ゆっくりと目を開ける。
周囲を見渡す、大きな瞳。宙を舞う廃材。吹き飛ぶ怪異。
その中心で、自分を抱きかかえる、広い背中。
(モモちゃんの……背中だ)
オカルンは思った。
恐ろしいほど、頼もしい。
自分のことを、守ってくれている。
その事実が、体の内側から熱くなっていく感覚を引き起こした。胸が、苦しい。
「[serious]怪我ないか?」
モモが低い声で聞いた。
「……うん」
オカルンは、それしか言えなかった。
モモはオカルンを、平らな廃冷蔵庫の上に、そっと下ろした。
二人は、その後、まともに目を合わせられなかった。
「[excited]お前ら、いちゃついてる場合じゃねえぞ!」
ジジが、離れた場所から叫んだ。
「[angry]いちゃついてない!!!」
モモは顔を真っ赤にして、全力で否定した。
アイラだけは、黙ってその光景を見ていた。
(オカルンくんを守る、モモちゃんの顔……)
イケメンのアイラの胸の中に、複雑な何かが積もっていく。
……
騒動が収まった後。
白鳥が、冷静に地図と現地を見比べていた。
「[cold]……あそこだ」
白鳥が指さした先。
他のエリアと比べて、ガラクタ・ムシが異常に密集している一角があった。懐中電灯の光を乱反射させて、その場所だけが不気味にチカチカと光っている。
「[serious]廃冷蔵庫は、あの光の真ん中だ。プリティ・マリンは、そこに眠ってる」
蔵前に聞いた話が、全員の頭をよぎる。
「[angry]よし、今すぐ突っ込むぞ!」
モモが一歩踏み出した。
「[serious]……待って」
オカルンの声だった。
女の子の、でも、はっきりとした声。
「今夜は無理だ。もっと作戦が必要」
「[angry]でも!」
「[serious]モモちゃん」
オカルンは、真っ直ぐにモモを見つめた。その大きな瞳に、モモの姿が映る。
女の子の顔でそう言われると、妙に怒りにくくて。
「……ぐ」
モモは言葉を飲み込んだ。
「[cold]火と強い光が弱点だ。それを使う方法を考えれば、道は開く」
白鳥が淡々と付け加える。
モモは、ギリ、と唇を噛んだ。
悔しい。でも、オカルンと白鳥の言うことは正しい。さっきのだって、たまたま上手くいっただけだ。二百体を相手にあれをもう一度やるだけの集中力は、今は持っていない。
「[serious]……撤退するぞ」
絞り出すように、そう言った。
六人は、夜のガラクタ原野を後にした。
来た道を戻りながら、誰も口を開かなかった。
タイムリミットは、あと五日。
でも、モモの心臓は、さっきからずっとうるさかった。
オカルンを守れたことと、それから、腕の中の小さな温もりを思い出すたびに、胸の真ん中がドキドキと脈打つ。
「[whispers]……ちくしょう」
誰にも聞こえないように、モモは小さく呟いた。
隣を歩くオカルンの横顔を、チラリと見る。
オカルンも、俯いたまま、自分の心臓を必死に押さえていた。
(さっきの、モモちゃんの背中――)
思い出すだけで、顔が熱くなる。守られて嬉しいというだけじゃない。
脳みそがぐちゃぐちゃになるような、説明できないときめき。
二人の間には、言葉にできない何かが、確かに生まれていた。
夜の帳が深くなる。
神衝町の、小さな星が一つ、雲の切れ間から顔を出した。
明日は火曜日。
戦術の練り直しが、次の課題として、六人の前に立ちはだかっていた。