鳴潮学園へようこそ!~転生したらツンデレと甘えんぼとお姉さんに好かれすぎて修羅場なんだけど!?~
見たこともない教室で目を覚ました俺。隣に座っていたのは、ゲーム『鳴潮』のツンデレ剣士・ヨウオウだった。かつてはクールで強かった彼女が、今は制服姿で顔を赤らめ、もじもじしている。しかも、俺を「ダーリン」と呼んで甘えてくるアンコや、優しいけど怖いお姉さんタイプのキョウカまでいる! みんなゲームでは超強力なキャラだったのに、一体どうなってるんだ!?
大パニックの中、俺は悟った。どうやら俺たちは、『鳴潮学園』という普通の高校に転生してしまったらしい。戦いはなく、平和な日常。ほっとしたのも束の間、ヨウオウ、アンコ、キョウカの三人が、俺に好意を持っていることが発覚! 朝から晩まで、「お弁当作るわよ!」「ダーリン、ぎゅっとして!」「先輩、部活と私、どっち選ぶ?」と大騒ぎ。
でも、一番の問題は、三人の間に漂う危険なオーラ。え、まさかゲームの力がまだ残ってるの!? ヨウオウがキスしようとすると手が紫色に光り、アンコは嫉妬すると台風を巻き起こし、キョウカは笑顔で重力を使って俺をその場に凍りつかせる! 絶対に惚れてはいけない三人の女の子たちと送る、平和な学園での超危険なドキドキラブコメディ。俺、ここで生
鳴潮学園へようこそ!~転生したらツンデレと甘えんぼとお姉さんに好かれすぎて修羅場なんだけど!?~ - ツンデレ剣士の決意!紫電に込める不器用な想い
教室の空気が、なんだか重い。
理由はわかってる。
自分の席を見ないようにしながら、カケルは廊下側の窓枠に寄りかかっていた。あの日から、どうしても教室の中心が怖い。
(あれ、絶対に普通じゃなかったよな……)
昨日の入学式。アンコが抱きついてきて、ヨウオウがキレて、教室が突風と稲光でめちゃくちゃになった。先輩のキョウカに重力で床に縫い付けられて、俺はもうダメかと思った。
誰もケガしなかったのが奇跡だ。
(平穏な学園生活って、なんでこんなに遠いんだ)
ため息をついて、ふと窓の外に目をやる。中庭のクスノキが、四月の柔らかい日差しにキラキラ揺れてる。
その時だった。
「――あ」
声が聞こえた。鈴を転がすような、でもすごく静かな声。
首を回す。
俺の席に、誰かが座ってた。
銀色の長い髪。
窓からの光を受けて、さらさらと流れる銀髪。肩を通り越して、背中までまっすぐに伸びてる。見たことのない女子だ。
他のクラスメイトはまだ来てない。
教室には、俺とその子だけ。
彼女は――じっと、俺を見てた。
無表情に近い。でも、瞳だけが違った。色がよくわからない。青? 紫? 深い湖の底みたいに、吸い込まれそうになる。
「[gentle]やっと会えた」
彼女が、小さく微笑んだ。
「え……」
「[gentle]ずっと、探してた」
誰だ、この子。
心臓がドキドキ鳴る。多分、いい予感じゃない。
「あ、あの、君、誰――」
言いかけた瞬間だった。
バンッ!
教室のドアが、勢いよく開いた。
「[angry]あんた! なんで人の席に座ってるのよ!」
声の主は、ヨウオウだった。
いつもより高い位置で結んだポニーテールが、怒りで震えてる。切れ長の黒い瞳が、俺と銀髪の子をにらみつけてた。
「ちょっと待てって、ヨウオウ――」
「[angry]うるさい! あんたもあんたよ! 朝っぱらからなに女の子と二人きりで教室にいるの! だらしない!」
ち、違うんだって。
俺はただ、ここに立ってただけで――
「[gentle]うるさい人」
銀髪の子が、小さく首をかしげた。
「シノ。今日からこの学園に転入する」
「転校生……?」
「[gentle]うん。よろしくね、カケル」
彼女は立ち上がると、スッと俺の腕に近づいた。
綺麗な指が、俺のブレザーの袖に――触れそうになる。
「――っ!」
ヨウオウの顔が真っ青になった。
「ちょ、ちょっとあんた! なに馴れ馴れしく触ろうとしてるのよ!」
ヨウオウは一気に駆け寄ると、俺とシノの間に体をねじ込んだ。まるで壁になるみたいに。
「[cold]……邪魔」
「[angry]あんたこそ邪魔よ! カケルは私の――」
言いかけて、ヨウオウの口が止まる。
耳が、みるみる真っ赤になった。
「私の……その……な、仲間なんだから! 守るのは当然でしょ!」
「[sad]……仲間」
シノは、少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「[gentle]それでもいい。私は、カケルに会いに来たから」
その言葉に、ヨウオウの肩がビクッと震える。
「[angry]も、もういい! あんたの相手なんてしてられない!」
ヨウオウはそう叫ぶと、背を向けて教室を飛び出して行った。
廊下を走り去る足音が、だんだん遠くなる。
「ヨウオウ……?」
なんであんなに怒ってたんだ。いや、怒ってるっていうか――なんだか、傷ついてるみたいだった。
「[gentle]行かないの?」
シノが、静かに言った。
「あの子、泣きそうだった」
「えっ」
どうしてこの子はそんなことがわかるんだ。
でも、言われてみれば――心配だ。
「……悪い、ちょっと行ってくる!」
俺は鞄を机に放り投げると、ヨウオウの後を追って教室を出た。
背後で、シノが何か言った気がしたけど、それどころじゃなかった。
放課後。
武道場「凪館」は、古い木のにおいがした。
築四十年の床が、歩くたびにギシギシ鳴る。壁には無数の竹刀傷が刻まれてて、これが剣道部の練習場だってすぐにわかる。
扉の隙間から、中をのぞいた。
ヨウオウが、一人で竹刀を振ってた。
真っ直ぐな背筋。迷いのない素振り。
面を着けてないから、ポニーテールが動きに合わせて大きく揺れる。汗が一筋、こめかみからあごへ伝って、床に落ちた。
(すごい集中力だ……)
でも、なんだか怖い。
目が、笑ってない。
「――はっ!」
気合とともに、竹刀が空を裂く。
その動きには、怒りが込められてる気がした。
(声、かけづらいな……)
俺が入り口で迷ってると、ヨウオウの動きが止まった。
「[angry]……見てないで入ったらどう?」
気づかれてた。
「あ、ああ……お邪魔します……」
俺はおそるおそる武道場に入った。
「[angry]なにしに来たの? あの銀髪の子と仲良くすればいいでしょ」
竹刀を構えたまま、こっちを見ないで言う。
「いや、だってお前、なんかすごい剣幕で飛び出したから……心配で」
「[angry]べ、別にあんたの心配なんていらない!」
振り返ったヨウオウの顔は真っ赤だ。
竹刀の先が、小刻みに震えてる。
「それより、なんであの子はあんたの名前を知ってたの? あんた、どこかで会ったことあるの?」
「いや、それが全然わからなくて……」
「[sad]……ふうん」
ヨウオウはまた前を向いて、素振りを再開した。
でも、さっきより動きが鈍い。
「[serious]私はね、みんなを傷つけたくないの」
小さな声で、ぽつりと言った。
「前世の記憶があるせいで、力が暴走する。あんたの周りはみんな覚醒者で、いつ何が起きてもおかしくない。私なんかが近づいたら、今度こそ誰かが――」
「ちょっと待てって」
俺は、つい声を張り上げてた。
「関係なくないだろ。だって俺たち、同じ転生者で、それに――」
少しだけ間を置く。
「仲間なんだから」
ヨウオウの背中が、ピタリと止まった。
竹刀を握る手が、ぎゅっと強くなる。
「[whispers]……仲間」
聞こえるか聞こえないかの声だった。
その時だった。
「カケル。ここにいたの」
冷たい風が吹き込んだ。
入り口に、シノが立ってる。
銀髪が夕日を受けながら揺れて、瞳がじっと俺を見つめてた。
「し、シノ……」
「[gentle]さっきは途中だったから。もっと、話がしたい」
無表情のまま近づいてくる。
まるでヨウオウが目に入ってないかのように、俺の腕に手を伸ばした。
――次の瞬間。
バチッ!!
紫色の光が走った。
「なっ」
ヨウオウの握る竹刀から、紫の稲妻がほとばしる。
電流は竹刀を伝い、宙を裂いて、壁に――ドンッ!
小さな焦げ穴が開いた。
「え……あ……」
ヨウオウが、自分の手を見つめる。
手のひらが、うっすらと紫色に光ってる。小刻みに震える指先。
「[scared]やだ……また……いやぁっ!」
竹刀が床に落ちた。
ヨウオウは自分の右手を左手で押さえつけるようにして、一歩、二歩と後ずさる。
「私、またやっちゃった……私のせいで……」
声が震えてる。
目の縁に、涙がにじんでた。
「だって、だってあんたが、あの子と――」
「[calm]面白い」
シノが、静かにつぶやいた。
「力が漏れてる。嫉妬……それとも、別の感情?」
興味深そうに首をかしげると、踵を返して武道場を出て行った。
でも俺の目には、シノの瞳が一瞬、青紫色に輝いたように見えた。
(今の、なんだ……?)
でも、それよりも。
「ヨウオウ!」
俺は慌てて彼女に駆け寄った。
「来ないで!」
ヨウオウが後ずさる。
背中が壁に当たって、もう逃げ場がない。
「[crying]私、周りの人を傷つけてばかりなの。前世でも、現世でも――力が強すぎて、いつも誰かを……!」
「大丈夫だ」
俺は、思い切って彼女の右手を握った。
ひんやりとした小さな手。それに、まだ少しピリピリと痺れが残ってる。
「誰も傷ついてない。壁にちょっと焦げ跡がついただけだ」
「でも……」
「それに、これは不可抗力だ。あのシノって子が、急に来たから――」
「[crying]そうじゃない……私が、嫉妬したから……」
自分の口から出た言葉に、ヨウオウはハッとした顔をした。
それから、見る見るうちに首まで真っ赤になる。
「ち、違う! 今のは違うの! あんたに嫉妬したんじゃなくて、なんていうか、その――」
「ヨウオウ」
「[angry]だ、だから怒らないでよ! 別にあんたのためじゃないんだから!」
もう、めちゃくちゃだ。
でも、さっきまでの怖がった顔より、ずっといい。
「……屋上、行かないか?」
俺は、そっと彼女の手を引いた。
屋上に続く階段は、誰もいなかった。
施錠されてるはずのドアは、俺の持ってる合鍵で開く。なぜか入学初日から持ってた鍵。前の持ち主は不明。
ガチャリ、と音がして、海風が二人を包み込む。
「綺麗だ……」
空は、オレンジとピンクのグラデーション。
ミソラ湾の海面がキラキラ輝いてて、遠くでフェリーが小さく汽笛を鳴らした。視界の端に、白い灯台が見える。
「あの灯台、ミソラ灯台っていうんだ。十二月にはイルミネーションがついて、めちゃくちゃ綺麗なんだぜ」
「……ふうん」
二人、並んでフェンスにもたれた。
沈黙。
でも、さっきまでの重たい空気じゃない。
「なあ、ヨウオウ」
「なに」
「俺、お前にずっと助けられてるよな」
ヨウオウが、驚いた顔でこっちを見る。
「前世でも、今でも。俺の知らないところで、ずっと心配してくれてたんだろ。あの入学式の時だって、アンコが突風起こしたのを止めようとしてたし」
「[surprised]……なんで、そんなこと覚えてるのよ」
「覚えてるよ。俺、流されやすいけど、助けてもらったことは忘れない」
ヨウオウが、唇を噛んだ。
「[whispers]あんたは……私の……」
声が震える。
「私の、大切な――」
言葉が、止まった。
顔が、夕日より真っ赤になった。
俯いて、ポニーテールの先がフェンスに触れる。ぎゅっと拳を握って、何かをこらえてるみたいだ。
(……言いかけたのか?)
俺の胸の奥が、じわりと温かくなる。
長い、長い沈黙。
それから――
「[angry]だ、大事な仲間なんだから! 守るのは当たり前でしょっ!」
顔を上げたヨウオウは、涙目で、それでも必死にキッと俺をにらんだ。
「だから、あんたが他の誰かとピンチになったら、私が絶対助けるんだから! 感謝しなさいよね!」
「……ありがとう、ヨウオウ」
俺は、思わず笑ってしまった。
「[angry]な、なに笑ってるのよ!」
「いや、不器用だなと思って」
「[angry]う、うるさい! だらしない!」
そう言いながらも、彼女はもう泣きそうな顔じゃなかった。
口元が、ほんの少しだけ緩んでる。
夕日が沈む。
「そろそろ帰るか」
「ええ……ちょっとだけ、もう少し」
二人、海を見ながら、しばらくそうしていた。
屋上へ続く扉の陰で。
銀色の髪が、そっと揺れていた。
シノは、フェンスに並ぶ二人の背中をじっと見つめてる。
「[whispers]……カケル」
その瞳が、夕闇の中で、不気味な青紫色に輝いた。
何かを確かめるように、小さく、一度だけ頷く。
そして、音もなく階段を下りていった。
二人はまだ、それに気づかない。