鳴潮学園へようこそ!~転生したらツンデレと甘えんぼとお姉さんに好かれすぎて修羅場なんだけど!?~
見たこともない教室で目を覚ました俺。隣に座っていたのは、ゲーム『鳴潮』のツンデレ剣士・ヨウオウだった。かつてはクールで強かった彼女が、今は制服姿で顔を赤らめ、もじもじしている。しかも、俺を「ダーリン」と呼んで甘えてくるアンコや、優しいけど怖いお姉さんタイプのキョウカまでいる! みんなゲームでは超強力なキャラだったのに、一体どうなってるんだ!?
大パニックの中、俺は悟った。どうやら俺たちは、『鳴潮学園』という普通の高校に転生してしまったらしい。戦いはなく、平和な日常。ほっとしたのも束の間、ヨウオウ、アンコ、キョウカの三人が、俺に好意を持っていることが発覚! 朝から晩まで、「お弁当作るわよ!」「ダーリン、ぎゅっとして!」「先輩、部活と私、どっち選ぶ?」と大騒ぎ。
でも、一番の問題は、三人の間に漂う危険なオーラ。え、まさかゲームの力がまだ残ってるの!? ヨウオウがキスしようとすると手が紫色に光り、アンコは嫉妬すると台風を巻き起こし、キョウカは笑顔で重力を使って俺をその場に凍りつかせる! 絶対に惚れてはいけない三人の女の子たちと送る、平和な学園での超危険なドキドキラブコメディ。俺、ここで生
鳴潮学園へようこそ!~転生したらツンデレと甘えんぼとお姉さんに好かれすぎて修羅場なんだけど!?~ - 休戦協定と謎の真実!みんな大切って言ったら全員に怒られた件
屋上に、風が吹いていた。
さっきまでの戦いが嘘みたいに、四月の柔らかな日差しがコンクリートを温めている。
「あははっ……はあ、もう、お腹痛い……」
アンコは涙をぬぐいながら、おにぎりの包みを広げた。ふわふわの桃色のボブカットが、笑いの余韻でまだ揺れている。ヨウオウも肩を震わせ、キョウカも口元を手で押さえていた。さっきまで三人を縛っていた恐怖と緊張が、笑い声で少しずつ溶けていく。
カケルはそんな三人を見て、ほっと息をついた。
(よかった。みんな、ちゃんと笑えてる)
防水シートの上に転がったおにぎりを拾う。アンコが握ったそれはまだほんのりと温かくて、海苔がしんなりし始めていた。一つ口に放り込む。塩加減がちょうどいい。
「[gentle]おいしい……」
アンコが、かすれた声でつぶやいた。自分で握ったおにぎりを両手で持って、小さくかじる。琥珀色の大きな瞳が、涙で濡れている。
「[gentle]うん。うまい」
「[gentle]……あったかい」
キョウカもシートの上で膝を抱え、おにぎりを受け取った。まだ指先が少し震えている。深緑色の瞳が、穏やかに細められた。
「別に……これくらい、普通だから」
ヨウオウだけは、まだ少しだけ強がっていた。でも、竹刀袋を枕にして寝転がりながら、おにぎりをもしゃもしゃと食べている姿には、いつもの鋭さが欠けている。
その時だった。
——ギィ。
錆びた鉄扉が、もう一度だけ開いた。
「あらあら。賑やかね」
スクールカウンセラーの氷室カナエが、屋上に立っていた。薄いベージュのスーツ姿で、いつもの穏やかな微笑みを浮かべている。でも、その手には小さな無線機が握られていた。
「ひ、氷室先生……!?」
カケルが飛び上がる。三人も驚いた顔で氷室を見た。
「[gentle]ごめんね、ずっと見てたんだけど」
氷室は申し訳なさそうに微笑みながら、四人に近づいてきた。コンクリートの上を、パンプスがコツコツと鳴る。
「見てたって……ここ、屋上ですよ!? あんた、どうやって……」
「[gentle]校舎の中に監視カメラが何基かあるの。それと、あなたたちの能力の波動を追跡する小型センサーもね」
氷室はこともなげに言った。
「監視……?」
ヨウオウが、ゆっくりと体を起こす。切れ長の瞳が、鋭く氷室を見据えた。
「[serious]私は、内閣府直属のトワイライトデスク——レゾナンス覚醒者の監視と保護を担当する機関のエージェントよ。カウンセラーは潜入のための隠れ蓑。この学園にも、覚醒者がいるって情報があったから」
「トワイライトデスク……」
カケルは、前に聞いた言葉を思い出していた。エコー管理条例——通称、静波令。覚醒者の能力を公共の場で使うことを禁じる、政府の法律。
「[cold]じゃあ、最初から俺たちを……」
「[serious]ええ。あなたたちが覚醒者だって、ずっと前から知ってた。でも、危険かどうかは判断しかねてたからね。だから今日、様子を見に来たの」
「ちょっと待てって! あの時、俺に静波令の警告をしたのは——」
「[gentle]あの時点では、あなたたちを守るか追跡するか決めかねてたの」
氷室はあっさりと言い切った。カケルは言葉を失う。
(この人、笑顔でとんでもないこと言うな!)
心の中のツッコミが暴れそうになる。でも、今はそれどころじゃなかった。
氷室は無線機を耳に当てた。
「[serious]……そう。了解。屋上まで連行して」
誰かと短く話して、無線を切る。
「[serious]もう一人のエージェントが、シノって子を校舎の中で確保したわ」
「確保……!?」
アンコがおにぎりを落としそうになった。
「[serious]彼女はエコー増幅機構——覚醒者の感情を強制的に増幅して、完全覚醒のデータを集めようとしていた反政府組織のメンバーよ」
反政府組織。その言葉が、屋上の空気を張り詰めさせた。
「そんな……じゃあ、シノは最初からそのために……」
「[serious]ええ。あなたたちは、彼女の実験台にされるところだった」
——ザッ、ザッ。
複数の足音が、階段を上がってくる。
鉄扉が開き、黒いスーツの男に腕を掴まれたシノが現れた。銀色の長い髪が、風もないのにふわりと揺れる。そして、シノは無表情のまま、まっすぐにカケルを見た。
「……」
目が合った。一瞬だけ。
でも、その間に、シノの唇が小さく動いた。
——あなたが核になる。組織はそれを知っている。
音は聞こえなかった。でも、口の動きで確かにそう言った。
「えっ……?」
カケルが問い返すよりも早く、シノは連れて行かれる。黒いスーツの男たちが、無言で彼女を階段へと引きずっていく。銀髪が翻り、鉄扉の向こうに消えた。
「[serious]……彼女が何か言った?」
氷室が鋭く尋ねる。
「い、いや……別に」
とっさに嘘をついた。なぜか、そうしなければいけない気がした。
核。組織。
頭の中でその言葉がぐるぐる回る。でも、あまりにも意味がわからなかった。
「[serious]そう。まあいいわ。とにかく、今日のことは——」
氷室は四人を見渡した。
「[gentle]報告書には書いておくけど、あなたたちは被害者扱いにするから心配しないで。能力の公共使用も、今回は緊急避難ってことで不問にするわ」
「[surprised]……え? いいんですか!?」
「[gentle]代わりに——」
氷室の笑顔が、一瞬で深まった。
「[cold]次に同じことが起きたら、今度は全員、能力抑制プログラムに参加してもらうから。六ヶ月間、合宿形式のプログラムよ」
四人の顔が、一斉に青ざめた。
(やっぱりこの人、笑顔で一番怖いこと言う!!)
カケルは心の中で叫んだ。
氷室は小さく手を振り、パンプスを鳴らしながら屋上を去っていった。
——バタン。
鉄扉が閉まる。
再び、四人だけの屋上が戻ってきた。
「……何だったの、今の」
ヨウオウがため息をつく。
「トワイライトデスク……僕たち、ずっと見られてたんだね」
キョウカも、いつもの微笑みを引っ込めて、真剣な顔になった。
「でもさ! ダーリン、最後にすごくかっこよかったよね!」
アンコが空気を変えようと、明るい声を出す。
「[excited]あのシノって子の前で、『やめてくれ』って! あれ、ぜったいダーリンの声が私たちを助けたんだよ!」
「た、たまたまだって……!」
「[gentle]ううん。ありがとう、カケルくん。私たち、助けられた」
キョウカが、今度は心からの笑顔で言った。
「……ふん」
ヨウオウはそっぽを向いている。でも、耳が真っ赤だった。
カケルは三人の顔を、一人ずつ見た。
胸の奥が、じりじりと熱くなる。
(ああ、もう——)
「……なあ」
声が震えた。
三人の視線が、カケルに集まる。
「俺、みんなのことが、全員、大切なんだ」
カケルは両手をぎゅっと握りしめた。爪が手のひらに食い込む。
「誰かを選ぶなんて、できない。でも——」
息を吸う。潮風が、肺を満たした。
「このままみんなが傷つくのは、絶対に嫌なんだ。俺、力もないし、何もできないけど……でも、みんなが目の前で苦しむのは、もう、嫌だ」
屋上が、しんと静まった。
遠くから、ミソラ湾の波の音だけが聞こえる。ざざー、ざざー。
最初に口を開いたのは、ヨウオウだった。
「[angry]な……っ、それって告白でもないし、断りでもないし、つまり何も言ってないのと同じじゃ……!?」
ヨウオウが立ち上がる。顔は真っ赤で、手が無意識に刀の形を作った。
——パチッ。
手のひらが、うっすらと紫に光りかける。
「やばっ」
でも、光はすぐに消えた。能力を使い果たした後だから、もうまともに出ないらしい。ヨウオウは悔しそうに手を振り、ぺたんと座り込んだ。
「[laughing]あはは! ヨウオウ、また光らせようとしてる! できないくせに〜!」
「[angry]う、うるさい! アンコだって風出せなくなってるでしょ!」
「[excited]そんなことないもん! ダーリンへの愛の風はまだ——あ、あれ……?」
アンコが手をバタバタさせた。でも、風はまったく起こらない。ふわふわのボブカットが、しょんぼりと揺れた。
「[excited]あれ〜? ダーリンを抱きしめたい気持ちはこんなにあるのに〜!」
「[sad]くっ……全部あの女のせいで……!」
ヨウオウが地面を叩く。
「[gentle]ふふ。焦らなくていいよ。待ってあげる」
キョウカが優雅に微笑みながらカケルに近づいた。
「[gentle]でも——待つのが得意じゃないって、知ってるでしょ?」
彼女の深緑色の瞳が、すっと細められた。同時に、カケルの体が一瞬だけ重くなり——
——ぷに。
キョウカが、その場に崩れるように座り込んだ。
「[surprised]……あら。失敗かしら」
「せ、先輩、何しようとしたんですか!?」
「[gentle]ちょっとだけ、あなたを独り占めしようと思ったの。でも、力が戻ってないみたいね」
キョウカはまったく悪びれずに微笑んでいる。
——ピリッ。
——ビュウ。
——ドン。
三人の能力が、どれもうまく出なくて、むしろそれが妙におかしかった。ヨウオウの手はライターの火みたいにチカチカと紫に明滅し、アンコのそよ風はカケルの前髪をちょっとだけ揺らし、キョウカの重力はカケルの肩に軽く手を置いたくらいの重さしかない。
「[laughing]ぶっ……あははは!」
カケルは、ついに耐えきれずに笑い出した。
「[excited]だーりん! 笑った!」
「[embarrassed]べ、別に笑うようなことじゃ……ぷっ」
ヨウオウも、怒った顔を保てずに吹き出す。
「[gentle]あらあら」
キョウカも、口元に手を当てて笑った。
四人の笑い声が、屋上に響き渡る。
その時、カケルは思った。
(ああ、こいつらのそばにいると、妙に安心するんだよな)
前世でも、きっとそうだったんだろうか。
今でも、やっぱりそうだ。
でも、それが恋愛なのか、仲間意識なのか——自分ではまだ、わからなかった。
そして、この場で一番大事なのは、その答えを急ぐことじゃない。
「[serious]……なあ、提案があるんだけど」
カケルが言うと、三人の視線がまた集まった。
「一時休戦、しないか?」
「休戦……?」
「ああ。今、みんな能力を使えないだろ? それに、さっきの氷室先生の話じゃ……政府に見つかったら、まずい。だから、とりあえず——」
「[angry]誰かを選ぶまでは、お互いに牽制しあわないってこと!?」
「そ、そういうことになる……かな」
沈黙。
三人が、ちらりとお互いを見た。
「[angry]……納得したわけじゃないから」
ヨウオウが顔を真っ赤にして、そっぽを向く。
「[excited]絶対に私が一番好きにさせるんだから! 覚悟しててよね、ダーリン!」
アンコが元気に宣言する。
「[gentle]焦らなくていいよ。待ってあげる」
キョウカが、また同じ言葉を繰り返した。でも、今度は本当に優しい微笑みだった。
三人が口々に主張を重ねる。
でも、それはもう喧嘩じゃなかった。
「……わかった。ありがとう」
カケルは小さく頭を下げた。
——こうして、しぶしぶながらも、一時休戦が成立した。
日が傾き始めていた。
四人は、アンコの残りのおにぎりを全部平らげながら、ぐったりしたまま並んでミソラ湾を眺めている。夕焼けが海面をオレンジに染め、灯台が小さく浮かんでいた。
「[gentle]……今日だけは、感謝しといてやる。次は認めないから」
ヨウオウが、ぽつりと言った。
「[sad]ダーリンって、やっぱりバカだよね。でも、好き」
アンコが、カケルの肩にそっともたれかかる。温かい体温が、シャツ越しに伝わってきた。
「[gentle]カケルくん、また守ってもらっちゃったね」
キョウカが初めて、計算のない笑顔を見せた。夕日に照らされた黒髪が、きらきらと輝いている。
カケルは何も言わずに、ただその光景を見ていた。
(なんていうか……)
うまく言葉にできない。
でも、悪くない。
——そう思った。
翌日の月曜日。
教室の自分の席に着いたカケルは、机に突っ伏した。
「[tired]平穏な学園生活って、もう絶対無理なんだろうな……」
誰に言うでもなく、呟く。
——プルル。
スマートフォンが同時に三回、震えた。
『明日の弁当は俺が作る(私が)』
『朝6時にコーポ潮風着くから!』
『放課後、少しお話がある。微笑』
「[scared]うわあああああ!?」
カケルは思わず叫んだ。
新しい日常が、以前より少しだけ温かく、そして確実に、以前より危険な形で始まろうとしている。
カケルは覚悟を決めて、机の引き出しを開けた。
——そして、手が止まった。
中に、一枚の小さなメモが入っている。昨日まではなかったはずだ。
そこには、鉛筆でこう書かれていた。
『次に来るのは私ではない』
きっと、シノが連行される直前に落としていったのだろう。
震える手で、その紙を握りしめる。
組織。次の誰か。
そして——自分が、核。
「……まだ、終わりじゃないのか」
教室の窓から、ミソラ湾が見えた。
今日も、波は変わらずに打ち寄せている。でも、その穏やかさが、逆に恐ろしかった。
この海の向こうに、何がいるのか——まだ、誰も知らない。