鳴潮学園へようこそ!~転生したらツンデレと甘えんぼとお姉さんに好かれすぎて修羅場なんだけど!?~
見たこともない教室で目を覚ました俺。隣に座っていたのは、ゲーム『鳴潮』のツンデレ剣士・ヨウオウだった。かつてはクールで強かった彼女が、今は制服姿で顔を赤らめ、もじもじしている。しかも、俺を「ダーリン」と呼んで甘えてくるアンコや、優しいけど怖いお姉さんタイプのキョウカまでいる! みんなゲームでは超強力なキャラだったのに、一体どうなってるんだ!?
大パニックの中、俺は悟った。どうやら俺たちは、『鳴潮学園』という普通の高校に転生してしまったらしい。戦いはなく、平和な日常。ほっとしたのも束の間、ヨウオウ、アンコ、キョウカの三人が、俺に好意を持っていることが発覚! 朝から晩まで、「お弁当作るわよ!」「ダーリン、ぎゅっとして!」「先輩、部活と私、どっち選ぶ?」と大騒ぎ。
でも、一番の問題は、三人の間に漂う危険なオーラ。え、まさかゲームの力がまだ残ってるの!? ヨウオウがキスしようとすると手が紫色に光り、アンコは嫉妬すると台風を巻き起こし、キョウカは笑顔で重力を使って俺をその場に凍りつかせる! 絶対に惚れてはいけない三人の女の子たちと送る、平和な学園での超危険なドキドキラブコメディ。俺、ここで生
鳴潮学園へようこそ!~転生したらツンデレと甘えんぼとお姉さんに好かれすぎて修羅場なんだけど!?~ - 嵐を呼ぶ弁当大作戦!ダーリンは私だけのもの!
午前の授業が終わるチャイムが、教室に軽やかに響いた。
カケルは机に突っ伏していた顔を上げる。頭の中にはまだ昨日の夕焼けと、屋上でのヨウオウの横顔がちらついてた。
(なんだかなあ……)
あの後、結局ろくに言葉を交わせなかった。ヨウオウは照れ隠しに怒ったふりをして、先に武道場へ戻っちゃったし。
腹がグウと鳴る。
「腹減った……」
購買でミソラあんパンでも買うか。180円で結構腹持ちがいいんだよな。
席を立って廊下に出る。
四月の午後の日差しが廊下に差し込んで、少しだけまぶしい。海からの潮風が窓から流れ込んで、カーテンをふわりと揺らした。
(今日くらい平和な昼休みがほしい)
購買部は本館の一階の端っこにある。購買のおばちゃん・トミさんは生徒の恋愛事情にやけに詳しいから、できれば今日は話しかけられたくない。
——ところが。
曲がり角を曲がって、カケルは足を止めた。
廊下の真ん中に、ピンク色の爆弾が待ってた。
「[excited]だーりん!」
声と同時に、ふわふわの桃色ボブカットが目の前で揺れた。大きな琥珀色の瞳がまんまるに見開かれて、嬉しそうにカケルを映してる。小柄な体で、両手にでっかい風呂敷包みを抱えて——
「うわっ!」
逃げる間もなく、アンコが突っ込んできた。
風呂敷包みを器用に脇に抱えたまま、カケルの胸に飛び込んでぎゅうっと抱きつく。甘いシャンプーのにおいと、ほかほかのお弁当のにおいが一緒に鼻をくすぐった。
「ななな、ちょっと待てって!」
「[excited]今日のランチ、ダーリンのために朝5時に起きて作ったんだよ! すっごくがんばっちゃった!」
言いながら、アンコは風呂敷をちょっとだけ開いて見せた。でっかい三段重ねの弁当箱が、キラキラのピンクの布に包まれてる。
「か、買い食いするつもりだったから……悪い」
「[sad]えぇ……ダーリン、アンコの手料理、いやなの?」
「そうじゃなくて!」
「[sad]いやじゃない? じゃあ食べてくれる! よかったぁ!」
ぴょんぴょん跳ねるアンコ。
(話が通じてない!)
廊下を通りかかる生徒たちが、チラチラこっちを見てる。耳まで真っ赤になったカケルは、アンコの圧力に押し切られるしかなかった。
「……わかった、食べるよ」
「[excited]やったぁ! じゃあ潮風テラスに行こ!」
アンコはカケルの腕に自分の腕をからめて、ぐいぐい引っ張っていく。
中庭のクスノキの下に着くまで、ずっとそうだった。
潮風テラスは、昼休みの喧騒から少しだけ離れた場所だ。大きなクスノキが一本、涼しい木陰を作ってる。ベンチがいくつか並んでて、他にも数人の生徒がランチを食べてた。
「[excited]はい、ダーリン! あーんして!」
カケルがベンチに座るなり、アンコは弁当箱を開いて卵焼きをつまみ、カケルの口元に差し出した。
「あーん、じゃなくて! 自分で食えるから!」
「[sad]えー、せっかく愛情込めて作ったのに」
(愛情……)
カケルは心の中でため息をつきつつ、アンコの卵焼きを素直に口に運んだ。甘くて、だしのいい香りがふわっと鼻に抜ける。
「うまい……これ、本当に朝5時から?」
「[excited]うん! ダーリンが喜ぶ顔、想像しながらずーっと作ってたの。卵焼きはね、お砂糖ちょっと多めがポイントだよ。唐揚げはニンニク少しだけ入れてるの。梅おにぎりはね——」
ぺらぺらと嬉しそうに説明するアンコの顔が、キラキラ輝いてる。
カケルは次に唐揚げを一つ、ぱくりと食べた。
「うま……これマジでうまい」
本音がつい漏れた。
その瞬間——
アンコの頬がぱっとピンク色に染まった。
「[gentle]ふふっ、もっと言っていいよ?」
そっと、アンコがカケルの腕にぎゅっと絡みついた。
柔らかい感触と、温かい体温が伝わってくる。
(重い……でも、なぜか悪くない……)
カケルの胸の奥が、ちょっとだけ温かくなった。
——その時。
「カケル」
静かな声が、すぐ後ろから聞こえた。
振り返ると、そこにはシノが立ってた。
銀色の長い髪が、潮風にふわりと揺れる。深い湖の底みたいな瞳が、じっとカケルを見つめてた。
「昨日の話の続き、聞いてもいい?」
彼女は何事もなさそうな顔で近づいてくる。
その瞬間——
アンコの笑顔が、ぴたりと止まった。
「……ダーリン」
笑顔はそのまま。でも、目だけが違った。琥珀色の瞳が、無表情にカケルとシノを交互に見つめて、最後に据わった。
ヒュゥ……
突然、中庭に生暖かい風が吹き始める。
木の葉がざわざわと鳴り、地面の砂が少しだけ舞い上がった。
「なんか風強くなった?」
近くでランチを食べてた生徒が顔を上げる。
「[cold]ダーリン、この人だあれ?」
アンコの声から、いつもの明るさが消えた。
「え、えっと、昨日転校してきたシノって——」
「[cold]ふうん。あたし、知らないなあ。ダーリンは昨日この人と会ったの?」
「いや、それが——」
「私はシノ。カケルに会いに来た」
シノが静かに言った。
その言葉に、アンコの肩がビクッと震える。
「[cold]……へえ」
アンコの周りの空気が、ぐるぐる回り始めた。
さっきまでの生暖かい風が、急に冷たく変わる。
「[excited]ダーリンは私だけのもの! あなたは誰!?」
叫んだ瞬間——
ビュオオオオオッ!!
半径5メートル圏内に、風速15メートル級の突風が炸裂した。
「うわっ!」
お弁当箱のおかずが全部空中に舞い上がる。卵焼き、唐揚げ、梅おにぎり——全部がくるくる回りながら宙を飛んでいく。
「な、なんだ!?」
「竜巻!?」
近くのテーブルの上にあった書類やトレーも一斉に吹き飛んだ。ジュースのカップが倒れて、オレンジ色の液体が地面に染みを作る。
「うわあああ!」
中庭にいた十数人の生徒が、一斉に逃げ出した。
誰もが何が起きたかわかってない。ただ、突然の暴風にパニックになってる。
——数秒後。
風が、ぴたりと止んだ。
静寂。
そして——
ぽすっ。
小さな音がした。
一個だけ飛び散らなかった唐揚げが、カケルの頭の上に着地した。
「……」
アンコは、両手を口に当てて青ざめてた。
「[scared]また……やっちゃった……」
小さく呟くアンコの目に、一瞬だけ違う色が浮かんだ——深くて、暗い、痛みの色。前世で大切な仲間を守れなかった時の表情が、重なったように見えた。
「……アンコ」
カケルは頭の上の唐揚げを取りながら、彼女のその表情を見た。
(重い愛情の奥には、もう誰も失いたくないって気持ちがあるんだな)
笑えない何かが、胸の奥に刺さる。
「大丈夫だ、アンコ。誰も怪我してな——」
言いかけた瞬間。
ドタドタドタッ!
中庭の入り口から、誰かが走ってくる足音がした。
「[angry]これはアンコの嵐声だな! カケル、無事か!?」
剣道着のまま駆け込んできたヨウオウが、散らかった中庭を見渡して、険しい顔でこっちをにらみつけた。ポニーテールが怒りで震えてる。
「よ、ヨウオウ——」
「[angry]アンコ! あんたまたやったのね! カケルに何かあったらどうするのよ!」
「[angry]うるさいなあ! ヨウオウには関係ないでしょ!」
アンコの瞳が再び据わった。
「[angry]関係ある! カケルは私の仲間なんだから!」
二人の間に、ピリピリとした空気が走る。
ヨウオウの右手が、うっすらと紫色に発光し始めた。アンコの周りの空気も、また少しだけ渦を巻き始める。
「ちょ、ちょっと待てって二人とも! ここでやったらまた大惨事——」
カケルが止めようと手を伸ばしたその時。
「面白い」
中庭の入り口で、シノが静かにつぶやいてた。
彼女の瞳が一瞬、青紫色に輝いて、
「覚醒者の感情反応——嫉妬、怒り、独占欲。これらが能力を増幅させるトリガーなんだ」
何かをメモするように、細めた目で二人を観察してる。
「な、なに言って——」
カケルが言いかけるより早く、シノは踵を返して立ち去った。
銀髪が潮風に揺れて、一瞬だけ眩しく輝く。
カケルにはその背中が、何か不気味な影を落としているように見えた。
「……覚醒者の感情反応?」
(シノって、一体——)
胸の奥に、冷たい不安がじわっと広がる。
でも今はそれどころじゃない。
「[angry]アンコ! あんたがまた私の邪魔を——」
「[angry]邪魔はそっちでしょ! ダーリンはあたしの——」
二人の言い争いは、どんどんエスカレートしていく。
(ああ、もうダメだ……)
カケルは頭を抱えて、散らかった中庭のベンチにどさっと座り込んだ。
(平穏な学園生活って、やっぱり遠い……)
潮風が、散らかった書類とおかずの残骸を、少しだけ寂しく揺らしていた。
紫の光と突風の予感が、テラスに不穏な空気を漂わせる。
昼休みの終わりを告げるチャイムが、もうすぐ鳴ろうとしていた。