ヘタリア 世界めちゃくちゃ大騒動!? みんな逆になっちゃった!
イタリア=ヴェネチアーノが朝、悲鳴とともに目を覚ますと、自分が可愛い女の子になっていた! 慌ててドイツの家に駆け込むと、そこには裂けたドレスをかろうじてまとった、筋骨隆々の戦士のような女性になったドイツの姿が。
しかし、異変は彼らだけではなかった。日本は物静かな大和撫子の美女に、アメリカはハイテンションな金髪美女に、フランスは自分の新しい低い声に衝撃を受けるハンサムな青年に、そしてロシアは巨大で微笑みを浮かべる女性になっていた。この騒動の原因である呪いの本の責任者、イギリスは魔法の暴発で小さく怯えた子供の姿に。
刻一刻とタイムリミットが迫る。次の満月までに材料を集め、イギリスの家で対抗呪文を唱えなければ、この恥ずかしい姿のまま世界会議に出席する羽目になる。イタリアは女の子としてパスタを作ることを楽しみ始め、日本は剣術の代わりに優雅な仕草を練習し、大混乱が巻き起こる。
しかし、本当の問題は? それは「気持ち」だった。ドイツが女性になったイタリアに予想外の優しさで接し、日本に嫉妬の炎が燃え上がる。男性になったハンガリーは、オーストリアから複雑な視線を向けられる。誰もが元に戻りたいと願
ヘタリア 世界めちゃくちゃ大騒動!? みんな逆になっちゃった! - 大和撫子、降臨!ドイツの上着と日本の小さなため息
インターホンが、静かに鳴った。
ミュンヘン郊外の森に囲まれたドイツの家に、落ち着いた電子音が響き渡る。窓の外では、六月の午前の光が庭の樅の木々を黄金色に染めていた。小鳥たちの声が、どこか遠くに聞こえる。
「……客か?」
ドイツが眉をひそめてソファから腰を上げる。ワンピースの布地がまたミシリと音を立てた。イタリアはキッチンからひょこっと顔を出す。手にはまだ湯気の立つパスタ皿。
「だれだろ? パスタ食べてるときに来るなんて、いい度胸だよ〜」
「お前は黙ってパスタを食っていろ」
ドイツは重い足取りで玄関へ向かった。
ガチャリ。
扉が開く。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。
いや——正確には、女性の体になった日本だった。
「[gentle]おはようございます、ドイツさん」
彼女は艶のある長い黒髪を後ろで三つ編みにし、淡い桜色の着物を完璧に着こなしていた。背筋がピンと伸びている。切れ長の黒い瞳は静かに落ち着いていて、その立ち姿はまるで一幅の絵画のようだった。
ドイツは一瞬、言葉を失った。
「[surprised]日本……お前、もうそんな格好を」
「[gentle]ええ。幸い、女性用の着物の着付けは心得ていましたので。ただ、帯の結び目を後ろにするか前にするかで少し迷いましたが」
彼女は小さく微笑んだ。
「[laughing]すごいよ日本! もしかして練習してきたの!?」
イタリアがパスタ皿を持ったまま玄関に駆けてくる。琥珀色の大きな瞳がキラキラと輝いていた。くるんとカールした茶色の髪が跳ね、左側のアホ毛がピンと立っている。
「[gentle]ええ、まあ……少しだけ。イタリアさんも、そのワンピース、とてもお似合いですよ」
「えへへ、そうかな? 実はこれ、朝に日本がくれたやつなんだよ」
イタリアが藍色のワンピースの裾をつまんで、くるりと一回転する。ふわりと広がるスカート。
「[serious]おい、玄関でダンスをするな。とにかく入れ、日本」
日本は小さくお辞儀をして、静かに家の中へ入った。その動作はあまりにも自然で、まるでずっと前からこの女性の体で生きてきたかのような滑らかさだった。
――いや、そんなはずはない。
ドイツは日本の背中を見つめながら思った。
(動揺を、押し殺しているだけだ)
彼女の着物の肩が、ほんのわずかに強張っている。指先が、袖の中で小さく握られている。誰にも気づかれないくらいの、かすかな緊張のしるし。
「[serious]紅茶を淹れる。そこのソファに座っていろ」
「[gentle]ありがとうございます。お構いなく」
日本はソファに腰を下ろした。両膝をきっちりと揃え、背筋を伸ばし、手は膝の上に重ねる。まさに大和撫子そのものの座り方だった。
イタリアはその向かいに座り、パスタをフォークに巻きつけながら目を丸くした。
「[surprised]でも本当にすごい適応力だよね。僕なんてさっきまでパスタ食べながらちょっと泣きそうになってたのに」
「[sad]ヴェ〜……」
日本はクスリと笑った。
「[gentle]イタリアさんは本来のお姿でも感情豊かですが、女性になられてますます素直になられたようですね。それはそれで、良いことだと思います」
「[surprised]え? そ、そうかな?」
イタリアが少し照れくさそうにパスタを口に運んだ。
ドイツはキッチンで紅茶を淹れながら、二人の会話に耳を澄ませていた。
(日本は、いつもこうだ。自分のことよりも、周りを立てる)
湯気の立つカップをトレイに載せ、居間に戻る。
「[serious]ほら、茶だ」
「[gentle]ありがとうございます、ドイツさん」
日本がカップを受け取る。その指先が、ほんの一瞬だけ震えていたことに、イタリアは気づかなかった。でもドイツは気づいていた。
――いや。
日本の視線が、何気なくイタリアとドイツの間を行き来する。
(ああ)
日本の胸の奥で、何かがチクリと痛んだ。
ドイツとイタリアは、もうすっかり打ち解けている。イタリアは当然のようにドイツの家にいて、ドイツも当然のようにイタリアの世話を焼いている。その距離感は、今朝のうちにできたものには見えなかった。
(ずっと、こうだったのでしょうね)
日本は小さく息を吐いた。
「さて、情報を整理するぞ」
ドイツがテーブルに地図を広げた。
その時だった。
ジリリリリリッ!
突然、壁際の古めかしい電話がけたたましく鳴り響いた。
「[surprised]うわあっ!」
イタリアが飛び上がり、パスタが一本口からぶら下がる。
「電話だ。誰だ、こんな時に」
ドイツが受話器を取る。
『[excited]ハロー! ドイツか!? 俺だぜ、アメリカだ! 大変なことになったんだが、俺はむしろワクワクしてるぜ!』
あまりの大音量に、ドイツが受話器を耳から離す。スピーカー越しに声が部屋中に響き渡った。
「[angry]うるさい! もっと静かに話せ!」
『[laughing]ハハハ! それがよ、俺、今朝起きたら金髪美女になってたんだぜ! 自由の女神みたいな超クールな見た目でよ! これは新しい冒険の始まりだ! ヒーローは姿が変わってもヒーローなんだ!』
イタリアが思わず吹き出した。
「[laughing]アメリカ、なんか楽しそうだね!」
『[excited]おお、イタリア! お前もか! ってことはヨーロッパ中で起きてるんだな、この現象! すげえぜ!』
「[serious]状況を聞く。お前以外に、アメリカ国内で異変はあるか」
『[excited]ん? いや、今のところ俺だけだな。でもカナダはなんか黙ってるぜ。多分あいつもなってると思うけど、声が小せえからよく聞こえねえんだ!』
日本の口元が、ほんのわずかにほころんだ。
(アメリカさんは、いつも通りですね)
自分だけがこの状況に戸惑っているわけではない——そう知って、胸の奥のざわつきが少しだけ和らいだ。
『[serious]とにかく、何かわかったら連絡しろよ! 俺は今からニューヨークをパトロールするぜ! 悪は姿が変わっても必ず現れるからな!』
ガチャン。
一方的に切られた。
「[angry]最後まで人の話を聞かない奴だ……」
ドイツがため息をついた。
だが、その直後——
プルルルル。
今度はテーブルの上に置いてあったタブレット端末が光り、ビデオ通話の着信を知らせた。画面に表示された名前は『フランス』。
「次から次へと……」
ドイツが渋々、通話ボタンを押す。
画面に映ったのは、ため息をつきながら髪をかき上げる美青年の姿だった。金髪がふわりと揺れ、青い瞳が憂いを帯びている。顔立ちは非の打ち所のない美しさだが、肩幅はしっかりしていて、どう見ても男性の体だった。
『[sad]ああ……ドイツ、見てよこの姿。美しさは性別を超えるって言うけど、この声だけは慣れないなあ。もっとセクシーな低音ボイスが出せたら最高なのに』
「[surprised]フランスも大変なんだね……」
『[excited]おや、イタリア! 君はなんて可愛いんだ! 小悪魔的な魅力があるねえ。女の子になってもイタリアらしさが溢れてるよ』
「[embarrassed]え、そうかな? えへへ」
「[angry]調子に乗るな、イタリア。フランス、お前も呪いの影響か」
『[serious]ああ、多分イギリスのやつだろうね。あいつの魔法工房から変な波動が出てたって噂だよ。でもねえ、これはこれで新しい美の探求のチャンスだと思ってるんだ。性別を超えた美しさってやつを追求してみせるよ』
「[serious]相変わらずだな、お前は」
『[laughing]当然さ。ああ、でも一つ問題があってね。女性用の下着の知識がなくて困ってるんだ。日本、今度コツを教えてくれない?』
日本の眉がピクリと動いた。
「[cold]……お断りします」
即答だった。
『[laughing]つれないねえ。まあいいさ。とにかく、イギリスのところへ行くんだろ? 僕は後から合流するよ。それまでに新しい美のスタイルを完成させておくから楽しみにしてて!』
ブツン。
通話が切れた。
「[angry]どいつもこいつも……」
ドイツがこめかみを揉む。
「[gentle]でも、みんな無事みたいでよかった」
イタリアがホッと息をついた。
「[serious]ああ。これで確認できた。呪いは広範囲に及んでいる。おそらくイギリスの魔導書——グリモワール・オブ・カランドリアの第7章が原因だ。あれは自動発動型の呪文で、発動者の意思に関係なく周囲に効果が及ぶ欠陥呪文だと聞いたことがある」
「[surprised]ドイツ、詳しいね」
「[serious]同盟国に何かあれば、情報は共有しておくべきだからな」
日本が静かにうなずいた。
「[gentle]では、イギリスさんの魔法工房へ向かうのが先決ですね。ロンドン郊外、コッツウォルズ地方でしたか」
「[serious]ああ。俺の車で行く。準備を——」
その時。
窓の外で、何かがキラリと光った。
パタパタという羽音。
「[surprised]また魔法便だ!」
白い紙の鳥が窓枠に止まり、封筒を落とした。先ほどと同じ、折り鶴によく似た折り方の白鳥だ。封蝋には『世界会議・至急』の文字。
ドイツが封を切る。
読み進めるうちに、その顔色がみるみる青ざめていった。
「[angry]スイスからだ。『本日正午の世界会議、パヴィリオン・デ・ナシオンへの欠席はコンコルディア条約第14条違反とみなす。やむを得ない事情がある場合は速やかに報告せよ』……だと」
「[scared]ええっ、どうしよう! 僕この姿で国際会議出るの恥ずかしいよぉ!」
イタリアがスカートの裾をぎゅっと握りしめる。琥珀色の瞳がみるみる潤んでいった。
「[scared]ヴェ〜……ドイツ、なんとかしてよ……」
イタリアの肩が、かすかに震えている。
ドイツは一瞬だけ迷った。
だが——。
無意識に、自分の上着を脱いでいた。
ふわり。
藍色のジャケットが、イタリアの肩にかけられる。
「[gentle]……震えるな。なんとかする。俺がついている」
「[surprised]……ドイツ?」
イタリアが顔を上げる。涙で濡れたまつげの向こうで、ドイツの青い目が優しく光っていた。
「[serious]いいから、少し落ち着け。まずはイギリスに事情を聞く。それからだ」
「[gentle]……うん。ありがとう、ドイツ」
イタリアが小さく微笑む。ドイツの上着は大きすぎて、肩からずり落ちそうだった。でも、それがかえって温かくて、包まれているような安心感があった。
日本は、その光景を見ていた。
(……ああ)
胸の奥が、静かに痛む。
(ドイツさんは、イタリアさんに優しいのですね)
彼女の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。長いまつげが伏せられる。
だがすぐに、何事もなかったかのように顔を上げた。
「[gentle]ドイツさん、イギリスさんのご自宅までは車でどのくらいですか」
静かな声だった。
「[serious]ロンドン郊外のコッツウォルズ地方だ。ここから直線距離で約九百二十キロ。車なら十時間は見ておく必要がある」
「[gentle]では、正午の会議には到底間に合いませんね。欠席の連絡を入れておきましょう。スイスさんには私からお伝えします」
「[surprised]日本、落ち着いてるね」
「[gentle]困っている時に慌てても仕方ありませんから。それに、タイムリミットは今夜の満月。それまでに呪いが解ければ、会議には明日のうちに事情説明ができます」
日本がスッと立ち上がり、窓辺に向かう。着物の裾が、ほんの少しだけ揺れた。
「[serious]俺は車の準備をする。イタリア、パスタは後でだ。行くぞ」
「[sad]え〜……でも、わかった。今はドイツに従うよ」
イタリアはドイツの上着をぎゅっと胸に抱きしめながら、ソファから立ち上がった。
三人が玄関へ向かう。
窓の外では、六月の風が樅の木々を揺らしていた。空はまだ青く澄んでいる。でも、夜になれば満月が昇り、この呪いの期限を告げるだろう。
日本は玄関先で、もう一度だけ振り返った。
その瞳が、ドイツの背中を見つめる。
(……ただの、気のせい)
彼女は小さく息を吐き、何事もなかったかのように車の後部座席へ乗り込んだ。
エンジン音が、静かな森に響き渡る。
一路、ロンドンを目指して——三人を乗せた車が走り出した。