ヘタリア 世界めちゃくちゃ大騒動!? みんな逆になっちゃった!
イタリア=ヴェネチアーノが朝、悲鳴とともに目を覚ますと、自分が可愛い女の子になっていた! 慌ててドイツの家に駆け込むと、そこには裂けたドレスをかろうじてまとった、筋骨隆々の戦士のような女性になったドイツの姿が。
しかし、異変は彼らだけではなかった。日本は物静かな大和撫子の美女に、アメリカはハイテンションな金髪美女に、フランスは自分の新しい低い声に衝撃を受けるハンサムな青年に、そしてロシアは巨大で微笑みを浮かべる女性になっていた。この騒動の原因である呪いの本の責任者、イギリスは魔法の暴発で小さく怯えた子供の姿に。
刻一刻とタイムリミットが迫る。次の満月までに材料を集め、イギリスの家で対抗呪文を唱えなければ、この恥ずかしい姿のまま世界会議に出席する羽目になる。イタリアは女の子としてパスタを作ることを楽しみ始め、日本は剣術の代わりに優雅な仕草を練習し、大混乱が巻き起こる。
しかし、本当の問題は? それは「気持ち」だった。ドイツが女性になったイタリアに予想外の優しさで接し、日本に嫉妬の炎が燃え上がる。男性になったハンガリーは、オーストリアから複雑な視線を向けられる。誰もが元に戻りたいと願
ヘタリア 世界めちゃくちゃ大騒動!? みんな逆になっちゃった! - ナンパ男はドイツが撃退!フェリーの中の寄りかかり事件と、日本の胸のチクリ
ドイツの車が、真夜中のアウトバーンをひた走っていた。
ヘッドライトが闇を切り裂き、エンジン音だけが車内に響く。
「[sad]ひまだよ〜。ねえ、まだ着かないの?」
後部座席から、ふにゃりとした声が上がる。イタリアは藍色のワンピースの裾をいじりながら、琥珀色の大きな瞳をとろんとさせていた。左側のアホ毛も、なんだかしんなりしている。
「[serious]あと二時間はかかる。さっきも言っただろう」
ハンドルを握るドイツは、眉間に深いしわを刻んだ。金髪をオールバックにまとめ、鋭い青い目は前方の闇をにらんでいる。もはや窮屈を通り越して悲鳴を上げそうなワンピースの肩は、夜の闇でもわかるくらいパンパンに張っていた。
「[sad]二時間もぉ……。僕、もう眠くて死にそうだよ……」
「[serious]寝ていろ。着いたら起こしてやる」
「[whispers]でも、寝たらドイツと日本が二人きりでなんかずるい」
「[angry]ずるいとはなんだ、ずるいとは!」
助手席の日本が、小さく笑った。
艶やかな黒髪の三つ編みが、かすかに揺れる。
「[gentle]ふふ、イタリアさんは素直ですね。寂しいんですか?」
「えへへ。だって、みんなでしゃべってたいんだもん」
その無邪気な言葉に、車内の空気が少しだけ緩んだ。
張り詰めていたものが、ほんの少し和らぐ。
(この方は、本当に太陽のような存在だ)
日本は窓の外の闇に視線を泳がせながら、胸の奥でそう呟いた。驚くほど自然に、人と人との間にある壁を取り払ってしまう。
「[serious]しゃべるのは構わんが、あまり調子に乗るなよ。そろそろ休憩を入れる。ガソリンも減ってきた」
「[excited]やった! じゃあ、コンビニでなんか買おうよ。お腹すいちゃった」
「もうパスタのことは忘れろ」
やがて、高速道路のオレンジ色の照明が、前方に小さなサービスエリアを浮かび上がらせた。
深夜の駐車場はがらんとしている。
ドイツがエンジンを切ると、急にあたりの静けさが耳についた。虫の声すらしない。
三人は車を降りた。
空気はひんやりと冷たく、夏の夜とは思えないほどだ。
「[gentle]さあ、行きましょうか」
日本が着物の裾を軽く持ち上げながら、背筋をピンと伸ばして歩き出す。
イタリアはそんな日本を追い抜いて、小走りにコンビニの明かりへと向かった。
「[serious]走るな、イタリア。転ぶぞ」
「[excited]ドイツは心配しすぎなんだよ〜」
イタリアが振り返りざまに舌をペロリと出す。
くるんとした茶色の髪が、夜風にふわりと舞った。
その時だった。
「よお、ねえちゃん。一人?」
コンビニの影から、若い男が二人、ぬっと現れた。片方は長身で、もう片方はがっしりとした体格だ。どちらも安っぽい酒の匂いをさせている。
「[surprised]え? ねえちゃんって、僕のこと?」
イタリアは首をかしげた。状況がうまく飲み込めない。警戒心というものが、まるでない。その無防備な笑顔に、男たちの目つきがねっとりと変わった。
「そうそう、かわいいね。ちょっと俺らと遊ばない?」
「ここのコーヒー、まずいんだよね。うまい酒なら持ってるぜ」
男が一人、イタリアの手首をつかもうと腕を伸ばした。その瞬間だ。
ドゴッ。
まるで戦車が急発進したかのような重い足音が、地を這った。
「[cold]触るな」
次の瞬間には、ドイツがイタリアの前に立ちはだかっていた。百七十八センチの巨体。パンパンに張った筋肉。青い目が、氷点下の輝きで男たちを射抜く。
ワンピースの肩が、今にも裂けんばかりに盛り上がっていた。
「な、なんだ、てめえは……」
「デカい女だな……」
男たちが一歩後ずさる。
ドイツは、ゆっくりと腕を組んだ。
「[cold]もう一度だけ言う。俺の連れに触るな。骨の一本や二本、そのままの形で済まなくなるぞ」
女戦士——いや、女神の怒りだ。
声は低く、恐ろしいほど落ち着いている。その静けさが、かえって威圧的だった。
「く、くそっ……」
「行こうぜ、こいつ、ヤバいって……」
男たちは捨て台詞を吐くこともできず、逃げるように闇の中へ消えていった。
静寂が戻る。
「[excited]ドイツ、すごいよ! ありがとう! やっぱり君は僕の英雄だね!」
イタリアはぱあっと顔を輝かせ、ドイツに飛びつこうとした。まるでご主人様を見つけた子犬のように、全身で喜びを表現している。
「[angry]バカ野郎! なんで平気でついて行こうとするんだ! 危ないとわからんのか、お前は!」
怒鳴り声。
でも、その顔は真っ赤だ。オールバックの金髪の間から、耳の先が燃えるように赤くなっているのが、闇の中でもはっきりとわかる。
怒りで赤いのか、照れているのか。
「だってドイツが守ってくれると思ったんだもん……」
「[angry]そういう問題じゃない! もっと警戒心を持て!」
二人の少し後ろで、日本はそのやり取りを見つめていた。
コーヒーの缶を、両手でそっと包み込む。
(ドイツさんは、本当にイタリアさんのことを……)
胸の奥が、じわりと熱くなる。
いや。
これは熱さなんかじゃない。
もっと冷たくて、鋭い痛みだ。まるで、小さなガラスの破片が一つ、胸の中に落ちたかのような。
(なんでしょう、この気持ちは)
日本は、切れ長の黒い瞳を、そっと伏せた。
サービスエリアの明るいフードコーナー。
三人はカレーとコーヒーを囲んでいた。
「[excited]カレーもおいしいけど、やっぱりパスタが恋しいなあ。今度ドイツの家で作っていい?」
「[serious]呪いが解けてからにしろ」
「[gentle]ふふ、日本のカレーもなかなかのものですよ。今度お教えしましょうか」
「[excited]え、ほんと? やったあ!」
ささやかな安らぎの時間。
その空気を破ったのは、携帯電話の着信音だった。
ピロリロリン、という古めかしい音。イタリアのスマホが震える。
「わ、フランスからだ」
画面をタップすると、映し出されたのは一人の美青年だった。
長い金髪を優雅に束ね、白いシャツの胸元を大きく開けている。
『ボンジュール、みんな。どうだい、ボクの新しいスタイルは』
フランスはビデオ通話の向こうで、くるりと一回転してみせた。
背景は彼の自宅だろうか。おしゃれな調度品が見える。
「[surprised]うわー、フランスも男の人になっちゃったんだね! でも、なんかムカつくくらいカッコいいよ!」
『当たり前さ。美しさに性別は関係ない。むしろ、新しい自分を発見できて楽しいよ。君たちはどうだい? ドイツは相変わらずゴリラみたいだね』
「[angry]うるさい! お前はさっさとイギリスのもとへ向かえ! 呪いの元凶はあいつだ!」
『もちろんそのつもりさ。でも、見てよ、この僕を。鏡を見るたびに、自分にうっとりしちゃってね。出発が遅れてしまったよ』
フランスはわざとらしく、手鏡を取り出して自分の顔をうっとりと見つめた。
「[laughing]あはは! さすがフランスだよ!」
日本もまた、小さくほほ笑んでいた。
つらいときに、彼の軽さは救いだ。
『それにしても——』
フランスの目が、画面越しにキラリと光った。
『ドイツとイタリアは、もうずいぶん仲よさそうだね。まるで、最初からそうだったみたいじゃないか? 君たちを見ていると、恋の魔法って本当にあるんだなって思うよ』
「[angry]な、なにを言ってるんだ、お前は!」
ドイツがガタンと席を立つ。コーヒーカップが揺れて、中身がこぼれそうになった。
「[surprised]え? こいのまほう?」
イタリアは小首をかしげる。半分しか理解していない顔だ。
『じゃあね、二人とも。頑張って』
ぷつり。
通話が切れた。
沈黙が落ちる。
気まずい。
ドイツは真っ赤な顔で、コーヒーを一気に飲み干した。
日本は、ただ静かに、自分の胸の痛みと向き合う。
(恋の魔法、ですか……)
切れ長の瞳が、ゆっくりとドイツの横顔を捉えた。
彼の視線は、今、イタリアに注がれている。
(そういうことなのですね)
自分の中で、何かがストンと腑に落ちた。
同時に、突き放されたような寂しさが、心の底に広がる。
フェリーの低いエンジン音が、波の音と混ざり合う。
ドーバー海峡を渡る深夜の船。
客席の照明は落とされ、あたりは薄暗い。
三人は、空いている最後尾の座席に身を寄せ合っていた。窓の外には、漆黒の海がどこまでも広がっている。
「[sad]うう、ねむいよぉ……」
イタリアの声は、もう限界に近かった。車中で騒いだ反動で、睡魔が容赦なく押し寄せる。
ゆらり。
船が揺れるたびに、イタリアの頭が、こっくり、こっくりと揺れた。
「[serious]だから寝ろと言っただろう。イギリスに着くまで、まだ時間はある」
ドイツが隣でそう言うのを、イタリアは半分夢の中で聞いていた。
「ふぁい……」
返事になっていない。
そして、次の瞬間。
とすん。
イタリアの頭が、ドイツの肩にもたれかかった。
ふわり。
パスタと、ほんのり甘い匂い。
「——っ、おい、イタリア」
ドイツの体が、石になった。
起こすべきか。
いや、寝ている者を起こすのはかわいそうだ。
しかし、これはあまりにも、近すぎる。
イタリアの柔らかな茶色の髪が、ドイツの腕に触れている。
静かな寝息。
ドイツは、息をするのも忘れて、前だけを見つめた。
顔が、ゆでダコのように赤くなるのを、自分でも感じる。
(こ、こういう時は、どうすればいいんだ)
規則にもマニュアルにも、そんなことは書いていない。
日本は、斜め前の席から、そのすべてを見ていた。
(ああ……)
もう、言い訳はできなかった。
胸の痛みは、もう苦しかった。
フランスの言葉が、何度も何度も頭の中でこだまする。
(恋、なのですね)
自分は、ドイツに、特別な想いを抱いている。
それは、仲間としての親しみでも、友人としての信頼でもない。
もっと、自分勝手で、もっと、狭い感情。
(嫉妬、です)
日本は、そっと窓の外に目を向けた。
真っ暗な海が、静かに揺れている。
(あの時、私をかばってくれたのは、ドイツさんらしい優しさだった。でも……彼が見ているのは、いつもイタリアさんなのですね)
それは、わかっていたはずのことだった。
でも、こうして目の前で見せつけられると、心の奥がぎゅっと掴まれるように痛む。
(これが、私の初恋だというのでしょうか。なんて、報われない恋なのでしょう)
彼女は、静かに目を閉じた。
長いまつげが、ほんの少し震えている。
どれくらい時間が経っただろうか。
船が汽笛を鳴らし、イギリスの港に到着した。
「[gentle]イタリアさん、着きましたよ」
「んあ……? もう朝なの?」
イタリアはまだ夢うつつだ。
ドイツの肩から頭を離し、ふにゃりと伸びをする。
「[serious]さあ、車に戻るぞ。時間がない」
ドイツは、何事もなかったかのように立ち上がる。
でも、耳の先は、まだほんの少しだけ色づいていた。
三人が車に戻ると、フロントガラスに、バサリと何かが張り付いた。
「なにこれ、鳥?」
「[serious]いや、魔法便だ。スイスからだな」
ドイツが窓を開けて手紙を取る。
封を切った瞬間、中からスイスの無機質な声が響き渡った。
『最終通告。世界会議の開催時刻は本日正午。コンコルディア条約第14条に基づき、無断欠席は認められない。現在時刻、会議まで残り四時間』
「[scared]四時間!? イギリスの家まであとどれくらい!?」
「[serious]コッツウォルズまでは、ここから車で二時間だ。呪いを解く時間を考えれば、会議にはとても間に合わん」
ドイツがハンドルを強く握りしめる。
「[gentle]まずはイギリスさんに会うのが先決です。欠席の連絡は、私がスイスさんに入れておきます」
「[scared]で、でも、共同譴責って、みんなにめっちゃ怒られるやつだよね……。僕、怒られるのイヤだよぉ……」
「[serious]この姿で会議に出れば、それこそ世界の笑いものになる。最善は、呪いを解いてから事情を説明することだ。行くぞ」
ドイツの車が、早朝のイギリスの道を走り出す。
霧がかった田園風景。
イギリスの魔法工房までは、あと少し。
呪いの元凶が、いったいどんな顔で待っているのか。
プレッシャーと不安が、車内に重くのしかかる。
「[whispers]ねえ、ドイツ」
「なんだ」
「[gentle]さっきは、ありがとう。守ってくれて」
「……当然のことをしたまでだ。気にするな」
ドイツは前を向いたまま、それだけ言った。
日本は、窓の外に流れるイギリスの田舎町を眺めながら、心の痛みをそっと抱きしめた。
(この気持ちは、まだ、誰にも言えません)
(でも、せめて……みんなが元に戻るまでは、そばにいたい)
そう、静かに願いながら。