ヘタリア 世界めちゃくちゃ大騒動!? みんな逆になっちゃった!
イタリア=ヴェネチアーノが朝、悲鳴とともに目を覚ますと、自分が可愛い女の子になっていた! 慌ててドイツの家に駆け込むと、そこには裂けたドレスをかろうじてまとった、筋骨隆々の戦士のような女性になったドイツの姿が。
しかし、異変は彼らだけではなかった。日本は物静かな大和撫子の美女に、アメリカはハイテンションな金髪美女に、フランスは自分の新しい低い声に衝撃を受けるハンサムな青年に、そしてロシアは巨大で微笑みを浮かべる女性になっていた。この騒動の原因である呪いの本の責任者、イギリスは魔法の暴発で小さく怯えた子供の姿に。
刻一刻とタイムリミットが迫る。次の満月までに材料を集め、イギリスの家で対抗呪文を唱えなければ、この恥ずかしい姿のまま世界会議に出席する羽目になる。イタリアは女の子としてパスタを作ることを楽しみ始め、日本は剣術の代わりに優雅な仕草を練習し、大混乱が巻き起こる。
しかし、本当の問題は? それは「気持ち」だった。ドイツが女性になったイタリアに予想外の優しさで接し、日本に嫉妬の炎が燃え上がる。男性になったハンガリーは、オーストリアから複雑な視線を向けられる。誰もが元に戻りたいと願
ヘタリア 世界めちゃくちゃ大騒動!? みんな逆になっちゃった! - ヴェネツィアの涙と、胸に刺さった一本のトゲ——タイムリミットまであと数時間!
運河の水面が、夕暮れを映して揺れていた。
サン・マルコ広場から東へ二百メートル。石造りの橋のたもとに、三人の人影がある。
「[sad]ひまだよぉ……」
イタリアがベンチの上で膝を抱えた。くるんと巻いた茶色の髪が、湿った風にふわりと揺れる。左側のアホ毛も、なんだか元気がない。
「[angry]うるせえ。さっきからそればっかだな」
隣に座ったロマーノが、眉をひそめた。濃い茶色の髪をぐしゃぐしゃとかきながら、運河の水面から目をそらす。
「[gentle]でも、あと一時間半は待たないと、干潮になりませんからね」
日本が静かに言った。艶やかな黒髪の三つ編みが、かすかに揺れる。着物の袖を軽く押さえて、彼女は運河の縁に立っていた。背筋がピンと伸びている。
干潮まで、まだ時間がある。
人魚の涙石は、サン・マルコ運河の底に沈んでいる。百年に一度の大潮の干潮時——今夜の午前三時——にならなければ、採取は不可能だ。
イギリスの魔法工房を出てから、すでに数時間が経っていた。
ヴェネツィアの街は、観光客もまばらだった。ゴンドラが一艘、静かに水路を滑っていく。
「[whispers]ここに来ると、昔の友達のことを思い出すんだよね」
ぽつりと、イタリアが言った。
「[surprised]は?」
ロマーノが怪訝な顔をする。
「[sad]神聖ローマっていうんだ。ずっと昔、一緒に遊んでた子でね。僕、あの子のこと、すごく好きだったんだ。でも、気づいたら、いなくなってて」
イタリアの声は、いつもの間延びした甘い口調じゃなかった。
琥珀色の大きな目が、遠くの水面を見つめている。
「[sad]きっと、僕が弱かったからだよね。守ってあげられなかったから」
「[angry]おい、やめろ。そんな昔の話」
ロマーノが立ち上がった。でも、イタリアの肩を叩く手は、なぜか空中で止まる。
「[crying]僕ね、今度は絶対に、大事な人を失いたくないんだ。ドイツも、日本も、ロマーノも。みんな」
イタリアの頬を、涙が伝った。
一粒、二粒。
笑おうとした。でも、笑えなかった。
口元が震えて、唇をかみしめる。
「[angry]泣くな、馬鹿! なんでお前が泣くんだよ!」
ロマーノが怒鳴った。でも、声が震えている。彼はイタリアの顔を見られずに、そっぽを向いた。
日本は、黙ってハンカチを差し出した。
「[gentle]イタリアさん」
「……ありがとう」
イタリアがハンカチを受け取る。涙をぬぐう手が、少し震えていた。
(ドイツさんがここにいたら、もっと上手に声をかけられたのでしょうね)
日本は思った。
瞬間、胸の奥で何かがチクリと刺さる。
(なぜ、今、ドイツさんの名前が)
日本は目を伏せた。
記憶が、次々と浮かんでくる。
フェリーの中で、眠るイタリアがドイツの肩に寄りかかった瞬間。
寒さに震えるイタリアに、ドイツが自分の上着をかけた場面。
サービスエリアで、ナンパ男をドイツが追い払った時の、あの頼もしさ。
(私は、嫉妬しているのですね)
心の中で、そっとつぶやいた。
(ドイツさんが、イタリアさんに向ける優しさを。何度も何度も、見てきた。なのに、なぜ今になって)
日本は顔を上げた。着物の襟をそっと直す。
表情は変わらない。でも、黒い瞳の奥が、かすかに揺れていた。
「[gentle]イタリアさんが泣くと、私まで悲しくなってしまいます」
そう言って、静かにほほえむ。
(この気持ちは、まだ誰にも言わない。彼がイタリアさんを見ている限り、私の入る隙間はないのだから)
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一方、アルプス。
エーデルモント山の登山道。標高二千メートルを超えたあたりだ。
雪がまだ残る斜面を、三人の影が登っていく。
「[serious]急げ。満月まであと三時間だ」
先頭を歩くドイツが振り返った。金髪のオールバックは汗で少し乱れている。パンパンに張ったワンピースの肩が、登山のたびにミシミシと音を立てていた。
「[laughing]ドイツ、ちょっと休憩しない? 標高が上がるとお肌に悪いんだよ」
美青年のフランスが、プラチナブロンドをかき上げながら言った。
「[serious]そんな暇はないと言っている」
「[sarcastic]でもさあ、君、心ここにあらずじゃない? ずっとヴェネツィアの方向を見てるよ」
フランスが、にやりと笑う。
「[angry]見ていない!」
ドイツのこめかみに青筋が立った。
「[sarcastic]イタリアのこと、心配なんじゃないの? あの子、よく泣くでしょ。誰かそばにいてあげないと」
「[angry]日本とロマーノがいる。問題ない」
「[sarcastic]でも、君がそばにいたいんだよね? なんでだと思う?」
ドイツの足が止まった。
(なぜ、イタリアが気になる?)
自問する。
(守らなければならないからだ。アイツはどうしようもないくらいに自衛能力が低い。誰かがそばにいなければ)
「[serious]当然の責任だ。同じチームだからな」
「[sarcastic]ああ、そういうことにしておこうか。でもさ、ドイツって怒り方もちゃんとイタリアに向けてるよね。嫌いな人には、そんな風に怒らないでしょ」
フランスが追い打ちをかける。
「[angry]余計なことを言うな!」
ドイツが怒鳴った。
その時だ。
ガサッ。
フランスの足元の雪が崩れた。
「うわっ」
美青年がバランスを崩す。
「[cold]気をつけろ」
ドイツがフランスの腕をつかんで引き上げた。
「[laughing]美しく転ぶことも、芸術のうちさ。ありがとう、ドイツ」
フランスは動じずに笑う。そして、後ろを歩くオーストリアに話しかけた。
「[serious]しかし、ドイツは頑固だね。君もそう思わないかい、オーストリア?」
オーストリアは無言でため息をついた。
「[sarcastic]あのさあ、登山中の無駄話は体力を消耗するだけだって、何度言ったらわかるんだ」
オーストリアの口調を真似して、フランスが言う。
「[cold]もういい。さっさと登るぞ。月光花の開花に間に合わなければ、二十八日間このままだ」
ドイツが再び足を速めた。
(イタリアが、泣いていなければいいが)
心の奥で、そう思ってしまう自分がいる。
(なぜ、こんなに気になるんだ。アイツはただのチームメイトだ。それ以上でも以下でもない)
でも、フランスの問いが頭から離れない。
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ヴェネツィア。
「[excited]来た! 干潮の時刻だ!」
イタリアが叫んだ。
運河の水位が、みるみる下がっていく。サン・マルコ運河の底が、暗い水面の下から姿を現し始めた。深さ三メートル。潮位が最低になるこの瞬間しか、涙石は採取できない。
「[serious]ロマーノさん、お願いします」
日本が真剣な表情で言った。
潜水担当はロマーノだ。
「[whispers]…………」
ロマーノは、運河の縁に立ったまま動かない。
「[surprised]ロマーノ? どうしたの?」
イタリアが首をかしげる。
ロマーノの顔が、真っ青だった。
「[whispers]俺、無理だ」
「[surprised]え?」
「[scared]水が……深い。無理だ。入れない」
ロマーノの声が震えている。
「[scared]ロマーノ!? まさか、水が怖いの!?」
「[angry]うるさい! 言うな!」
ロマーノが怒鳴った。でも、足は一歩も前に進まない。
タイムリミットまで、残り三時間を切っている。次の干潮は、二十八日後——満月の光は今夜だけだ。
絶望的な状況。
「[surprised]ど、どうしよう……。代わりに誰かが潜らないと。でも、僕、あんまり泳げないし……」
イタリアがパニックに陥る。
「[angry]俺の弱点、誰にも言うな! 特にフランスには絶対言うな! あいつに知られたら百年はからかわれる!」
ロマーノが真っ赤な顔で叫んだ。
その時だ。
「[gentle]私が潜ります」
静かな声が響いた。
日本だった。
「[surprised]え……日本?」
イタリアが振り返る。
日本は、着物の帯に手をかけた。
しゅるり、と帯が解かれる。
「[gentle]ヴェネツィアチームは三人です。一人が動けないなら、残りの二人がやるだけです」
穏やかな口調だった。でも、その黒い瞳には、強い決意が宿っている。
(これは、私の戦いだ)
心の中で、日本は思った。
(ドイツさんがいない今、私が動かなければ。感情に押しつぶされている場合じゃない)
「[scared]日本、大丈夫? 冷たいよ、水」
「[gentle]慣れていますから」
日本はほほえんだ。着物を脱ぎ、襦袢姿になる。長い黒髪の三つ編みを、ぎゅっと結び直した。
(もし、ドイツさんがこの場面を見たら、どんな顔をするだろう)
一瞬、そんな考えがよぎる。
(いけない。今は集中しなければ)
日本は運河の縁に立った。
深呼吸を、一つ。
そして、暗い水面に向かって、静かに飛び込んだ。
ザブン。
水しぶきが上がり、波紋が広がる。
「[scared]日本……!」
イタリアが、ぎゅっと手を握りしめて見つめる。
「[angry]俺は見張り係だ! 誰か来たら追い払ってやる!」
ロマーノが、誰も頼んでいない役割を宣言して、そわそわとあたりを見回した。
「[angry]ロマーノ、応援しなよ!」
「[angry]うるさい! 黙れ!」
水面は、静かだった。
時間が、ゆっくりと流れる。
一秒。二秒。三秒——。
「[scared]日本、遅くない……?」
イタリアの声が震える。
十秒。十五秒。
(お願い、無事で)
イタリアが祈るように手を組んだ。
——バシャッ!
日本が浮上した。
「[surprised]日本!」
「[gentle]取れました」
日本の手の中に、小さな石があった。
青白く光る、涙の形をした石——人魚の涙石だ。
「[excited]やった! やったよ、日本!」
イタリアが飛び跳ねた。
日本が岸に上がる。冷たい水から上がった彼女は、少し震えていた。
「[excited]日本、大丈夫!? 風邪ひいちゃうよ!」
イタリアが慌てて自分のマフラーを外し、日本の肩に巻いた。
「[gentle]ありがとうございます、イタリアさん」
日本はほほえんだ。
でも、心の奥で、小さな声がささやく。
(ドイツさんだったら、もっと上手に暖めてくれたのかしら)
すぐに、その考えを打ち消した。
(いけない。こんなことを考えてはいけない)
「[excited]よし、これで材料は一つ確保! あとはアルプスの月光花と、イギリスの妖精の泉の水だね!」
イタリアが元気を取り戻した。
残り時間は、約二時間半。
ヴェネツィアチームは、イギリスの魔法工房に向けて急いで出発する。
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アルプス、標高二千七百八十メートル。
「[serious]着いたぞ。月光花の群生地だ」
ドイツが足を止めた。
北面の岩棚に、銀白色のつぼみが三十株ほど群生している。月光花——満月の光を浴びなければ開花しない、幻の高山植物。
ドイツは夜空を見上げた。
満月が、山の稜線から顔を出し始めている。
「[serious]開花まで、あと少しだ」
「[sarcastic]ドイツ、ちゃんと革手袋はめた? 素手で触ると凍傷になるよ」
「[serious]分かっている」
「[laughing]そういえばさ、帰ったらちゃんとイタリアに話しかけてあげてね」
「[angry]何の話だ」
「[sarcastic]君が答えを出したこと。『なぜイタリアのことが気になるのか』の答え」
ドイツは答えなかった。
ただ、足を一歩、前に進めた。
月光花のつぼみが、満月の光を浴びて、ゆっくりと開き始める。
花びらが一枚、また一枚と開くたびに、銀白色の光が強くなっていく。
タイムリミットは、刻一刻と迫っていた。