もしもナルトが九尾を選んでいたら
あの日、終末の谷で、ナルト(うずまきナルト)は違う選択をした。
地面に倒れ込み、サスケが大蛇丸のもとへ歩き去るのを見送る中、ナルトの頭の中に声が響いた。九尾の狐だ。ずっと重荷だったはずのその狐が、今や手を差し伸べてきた。「俺の力を使え。怒りをくれ。まだ奴を止められる。」
ナルトはその手を掴んだ。
しかしサスケは止まらなかった。九尾のチャクラが体を駆け巡っても、ナルトは勝てなかった。サスケは見下ろし、囁いた。「お前にはまだ俺に勝てない。」そして姿を消した。
ナルトは傷だらけで木ノ葉に連れ戻された。しかし何かが変わっていた。九尾の力を使った感覚が体に残っていた。感情が高ぶるたびに狐がざわめき、チャクラが震えた。自分の体が完全に自分のものではないように感じ、それが彼を恐れさせた。
綱手ははっきりと言った。「体を調べた。九尾との繋がりが変わっている。このまま放っておくと、自分を失うかもしれない。」
ナルトはどうすればいいかわからなかった。サスケを追いたかった。でも先に自分が壊れてしまうかもしれない。螺旋丸も足りない。仙人モードはまだ遠い夢だった。
そんな時、一人の少女が現れた。コ
もしもナルトが九尾を選んでいたら - 闇の中の密議——影縫いの刃、動き出す
封印が崩れかけている。処分する。
その言葉が、夜の地下に静かに落ちた。
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深夜。木ノ葉隠れの里、北東区画。
表向きは10年前に閉鎖されたボロい倉庫。でもその地下3階に、6つの人影がある。
壁は苔むして、空気はひんやりと湿っている。松明の炎だけが揺れていた。全員が黒い装束に、白い面。互いの顔は見えない。それがこの組織のルールだ。
中央に立つ一人の男が、小さな石を台座に置いた。
石が赤黒く光り始める。
次の瞬間、その光が空間に広がった。渦を巻くエネルギーの波。赤と黒が絡み合いながら、空気を震わせるような圧力を放っている。
誰かが息をのんだ。
「[scared]これが……本当に、人間の子供から出たものなのか」
声が震えていた。
中央の男——ムラクモ——は答えない。ただ、その光の渦をじっと見つめている。面の奥の目がどんな色をしているか、誰にも分からない。
これはコダチが終末の谷で記録したデータだ。感知石——チャクラの波動を記録できる特殊な石——に焼きつけられた、あの日の記録。
50km圏内を揺るがすほどの規模。
コダチ自身は壁際に立っている。黒髪に赤いメッシュが入った短髪。薄い灰色の目が、投影された光の渦をじっと見ている。身長は高く、体つきは引き締まっている。元中忍。感知タイプ。かつては木ノ葉の忍だった。
12年前に、家族を失った。
九尾の襲撃で、全部。
(だから俺はここにいる)
コダチは自分にそう言い聞かせた。何度も、何度もそうしてきた。迷いを押し込めるように。
ムラクモがゆっくりと口を開いた。
「[cold]終末の谷の戦いで、封印に綻びが生じた。このデータがその証明だ」
声は低く、静かだ。怒鳴らない。だからこそ、怖い。
「[cold]12年前の惨劇を知っているな。約800名が死んだ。里の3割が壊滅した。四代目火影でさえ、命と引き換えにしてやっと封じ込めた」
松明の炎が揺れる。
「[cold]その封印が、今崩れかけている。感情が揺れるだけで、あの力が漏れ出す。繰り返させるわけにはいかない」
短い沈黙。
「[serious]処分する」
その言葉が、地下室に落ちた。
メンバーの何人かが、面の下で表情を歪めた。恐怖と、憎悪と、それから——もっと複雑な何か。
コダチは何も言わなかった。
小窓から、月明かりが細く差し込んでいる。
外を見ると、里の外壁越しに火影岩が見えた。歴代火影の顔が刻まれた、あの岩。四代目の顔もそこにある。
(お前が封印した。命と引き換えに)
コダチは石を回収した。動作は正確で、無駄がない。感情は、全部内側に押し込んである。
ムラクモが背を向けた。会議は終わりだ。
影縫衆——カゲヌイ衆——が動き始めた夜だった。
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朝になった。
木ノ葉病院の病室に、日差しが差し込んでくる。
ナルトは目を開けた。
天井が白い。消毒の匂いがする。体が重い。というか、痛い。全身に包帯が巻かれていて、右腕には添え木が当ててある。骨折してたらしい。動かすと鈍い痛みが走った。
「[serious]……っ」
天井を見上げながら、ナルトは思い出す。
終末の谷。
サスケとの戦い。あの滝。初代火影とウチハ・マダラの石像が向かい合う場所で、二人で全力をぶつけ合った。
ナルトはあのとき、九尾の力を解き放った。腹の封印から溢れてくる、赤黒いチャクラ。ずっと恐れていた力。でも使わなきゃ、サスケに届かなかった。
結果は——負けた。
サスケの背中が遠ざかった。止められなかった。
布団の中で、ナルトはゆっくり右手を持ち上げた。
指先が、かすかに赤く光っている。
ドクン。
腹の奥が熱い。封印のあたり。痛みじゃなくて——なんか、疼く感じ。サスケのことを思い出しただけで、この熱が強くなった。悔しさが湧いてきた瞬間に、指先の赤みが強くなる。
(これが……九尾のチャクラ)
ナルトは手を見つめた。
人柱力。尾獣を体に封印された者。里の最終兵器。里の大人たちからは怖いものとして見られてきた。ずっとそれは知ってた。12年間、ずっと。
でも今は違う怖さがある。
自分の体なのに、自分の体じゃないみたいだ。感情が揺れるたびに九尾が動く。自分がコントロールしてるんじゃなくて、体が勝手に反応してる。
それが、すごく怖かった。
窓から空が見える。青い。木ノ葉の朝だ。
ナルトは目を閉じた。
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コンコン、とドアがノックされた。
「[gentle]……起きてる?」
桜色の髪が病室に入ってきた。サクラだ。
白い医療補助の上着を着ている。最近、医療忍術の修行を始めたって聞いた。額当てをちゃんとつけて、手には小さなメモ帳を持っている。
サクラはナルトの顔を見て、少し眉をひそめた。それからすぐ、包帯の巻き具合を確認し始める。
「[serious]顔色は少しマシになったね。右腕の骨折は順調に回復してる」
「[excited]さっすがサクラちゃん、詳しいじゃん」
「[sarcastic]当たり前。毎日先生に怒られながら覚えてんだから」
淡々とした口調だ。でもその目は、ちゃんとナルトの状態を確認してる。
ナルトはサクラの顔を見た。
胸が、ちくっとした。
サスケのことが浮かんでくる。サクラはサスケが好きだった。ナルトもサスケを絶対に連れ帰るって約束した。でも——
「サクラちゃん、オレ……」
ドクン。
腹の奥が一気に熱くなった。
右手に、赤いチャクラが滲み出してくる。謝りたい、悔しい、情けない——感情が一気に高ぶった瞬間に、封印が反応した。
ナルトは慌てて右手を布団の中に引っ込めた。
「[surprised]何?」
サクラが首をかしげる。
「[laughing]なんでもない! 包帯多すぎてトイレどうすんだよって思って」
「[sarcastic]……自業自得でしょ」
サクラの口の端が、少しだけ緩んだ。
ナルトはそれを見て、少しだけ息が楽になった。
笑わせることができた。それだけで、ちょっと救われた気がする。本当にちょっとだけど。
サクラはメモに何か書いて、「[serious]じゃあ、また明日来るから」と言って出ていった。
ドアが閉まる。
病室がまた静かになった。
ナルトは布団の中に隠した右手を、そっと引き出した。もう赤みは消えている。でも腹の熱は、まだかすかに残っていた。
(感情が動くだけで、これが出てくる)
終末の谷の前は、こんなじゃなかった。あの戦いで九尾のチャクラを大量に引き出してから、何かが変わった。体の中の何かが、ゆるんでしまったみたいに。
ナルトは天井を見た。
消毒の匂いが、まだ漂っている。
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サクラが帰ってしばらくしてから、病室のドアが開いた。
今度は——でかい。
金色の長い髪を二つにまとめて、白衣の上から忍装束を着た女性。体格がいい。背が高くて、存在感がある。普段ならもっとガバッとドアを開けてくるんだけど、今日は珍しく静かに入ってきた。
五代目火影・綱手だ。
(やべえ顔してる)
ナルトは思った。豪快で明るくて酒好きな綱手サマが、こんな顔をしてるのはめったにない。
「[serious]体の具合はどうだ」
「[excited]まあ、生きてますよ」
「そうか」
綱手はベッドの横に立って、ナルトの腹のあたりに手を当てた。手のひらが淡い緑色に光る。医療チャクラだ。それをゆっくりとナルトの体に流し込んで、何かを確認している。
ナルトはじっとしていた。
(何を調べてるんだろ)
綱手の表情が、少しだけ硬くなる。眉間に、細い皺が寄った。
しばらくして、手を離した。
「[serious]ナルト。はっきり言う」
「[serious]封印に綻びが出てる」
ナルトは黙った。
「[serious]終末の谷で九尾のチャクラを大量に引き出した。そのせいで、四代目が施した封印——八卦封印式が、一部傷んでいる」
八卦封印式。四代目火影が、自分の命と引き換えに施した封印。ナルトはその名前だけは知っていた。
「[serious]このまま放置すれば、半年から1年で臨界点に達する可能性がある」
「臨界点……?」
「[serious]九尾のチャクラが制御できなくなる。最悪の場合……お前が自分を失う」
ナルトは声が出なかった。
頭の中が、真っ白になる感じがした。
自分を失う。
それってつまり——怪物になるってことか? 四代目が封印した、あの化け物に? 12年前に里を壊して、800人を殺した、あの九尾に?
「[serious]修復方法は、今のところ分かっていない。探している」
「[serious]それと、感情が高ぶると封印が反応する閾値も、以前より大幅に下がってる。お前も気づいてるはずだ」
「……うん」
さっきサクラの顔を見た瞬間のことを思い出す。悔しいとか情けないとか、そういう感情が動いただけで、すぐに赤いチャクラが漏れ出してきた。
気づいてた。ずっと。でも認めたくなかった。
サスケを追いたい。音の国に行って、オロチマルのところから連れ帰りたい。それだけを考えてた。
でも今は——自分が怪物になるかもしれない。
二つの気持ちがナルトの中でぶつかって、どっちも言葉にならない。
「[gentle]まず体を治すことを考えろ」
珍しく、声が柔らかかった。
でもその顔は、安心させるような顔じゃない。難しい顔のまま、綱手はナルトを見ている。
ナルトは窓の外を見た。
木ノ葉の街並みが広がっている。火影岩。商店街。第三演習場の方向。一楽ラーメンの屋根も、遠くに見える。全部いつも通りだ。何も変わってない。
(なんか遠い)
そう感じた。自分がそこにいるはずの場所なのに、どこかガラス越しに見てるみたいな感覚。
里の外壁の向こうに、朝の光が広がっている。
綱手が立ち上がった。
「[serious]何かあれば呼べ。すぐ来る」
「……はい」
ドアが静かに閉まった。
ナルトは一人になった。
右手を見る。布団の上に出した右手。今は赤いチャクラは出ていない。でも腹の奥の熱は、ずっとそこにある。消えない。
(九尾)
ナルトは心の中でそう呼んだ。
終末の谷で力を貸してきた、あの声。諦めるのか、ガキ——そう言ってきた奴。ずっと邪魔者扱いしてきたくせに、あのとき手を差し伸べてきた奴。
今は静かだ。何も言ってこない。
でも、そこにいる。
ナルトはため息をついた。窓の向こうで、鳥の声がした。
里はいつも通りに動いている。任務があって、訓練があって、一楽の親父が今日もラーメンを作ってる。アカデミーではイルカ先生が生徒に何か教えてる。
全部、当たり前の景色。
でもナルトの体の中では、封印がじわじわと綻んでいる。そしてどこかで——ナルト自身はまだ知らないけれど——影縫衆が静かに動き出していた。