もしもナルトが九尾を選んでいたら
あの日、終末の谷で、ナルト(うずまきナルト)は違う選択をした。
地面に倒れ込み、サスケが大蛇丸のもとへ歩き去るのを見送る中、ナルトの頭の中に声が響いた。九尾の狐だ。ずっと重荷だったはずのその狐が、今や手を差し伸べてきた。「俺の力を使え。怒りをくれ。まだ奴を止められる。」
ナルトはその手を掴んだ。
しかしサスケは止まらなかった。九尾のチャクラが体を駆け巡っても、ナルトは勝てなかった。サスケは見下ろし、囁いた。「お前にはまだ俺に勝てない。」そして姿を消した。
ナルトは傷だらけで木ノ葉に連れ戻された。しかし何かが変わっていた。九尾の力を使った感覚が体に残っていた。感情が高ぶるたびに狐がざわめき、チャクラが震えた。自分の体が完全に自分のものではないように感じ、それが彼を恐れさせた。
綱手ははっきりと言った。「体を調べた。九尾との繋がりが変わっている。このまま放っておくと、自分を失うかもしれない。」
ナルトはどうすればいいかわからなかった。サスケを追いたかった。でも先に自分が壊れてしまうかもしれない。螺旋丸も足りない。仙人モードはまだ遠い夢だった。
そんな時、一人の少女が現れた。コ
もしもナルトが九尾を選んでいたら - 翡翠の紋章と赤いチャクラ——嵐の前の一日
コハルが隣の部屋に来てから、もう5日が経っていた。
その間、ナルトは毎朝6時に目が覚めた。腹の奥の熱がアラームより先に起こしてくる。九尾のチャクラが、封印の綻びからじわりと漏れ出す感覚。感情を動かさない限り暴走しないが、ゼロにもならない。体の中に常に火種がある状態だ。
コハルは毎朝、ナルトより早く起きていた。
なんで分かるかというと、廊下を歩く足音がするから。それも変にきれいな音で、歩き方が普通じゃない。かかとから着地しない、つま先で静かに歩く感じ。記憶はないのに、体の使い方はどこか鍛えられた人間のそれだ。
(あいつ、何者なんだろ)
ナルトはそれをずっと気にしていた。
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木ノ葉隠れの里の中央に、「封蔵館(ほうぞうかん)」という建物がある。里の図書館のことで、表向きは一般住民も使えるが、地下2階には忍用の機密文書が眠っている。ナルトが行くのは1階と2階の一般書架だ。
朝のうちに行こうと声をかけると、コハルはすぐに「行きましょう」と言った。
右耳の小さな銀のイヤリングが、朝の光を受けて光る。白髪のボブカットが風に揺れる。左右で色の違う目——金色と青色——がまっすぐ前を向いている。
一週間前に泥だらけで演習場に倒れていた子とは思えない。
「[gentle]翡翠色の勾玉の紋様ですが、以前から気になっていたことがあります」
歩きながら、コハルが言った。
「[serious]なんだ?」
「[gentle]木ノ葉の紋章や、火影岩に刻まれた紋様と、どこかが似ていて、どこかが違う。似ているけど古い、という感じです。そう思いませんか?」
「[surprised]古い? どのくらい?」
「分かりません。だから調べに来たんですけれど」
その声が少しだけ、ほんの少しだけ、暗かった。
記憶がない。手がかりは一つだけ、翡翠色の勾玉。それ以外は何もない。
ナルトは前を向いたまま、歩調を少し速めた。
「[excited]絶対見つけてやるから安心しろよ。俺、こういうのは諦めないタイプだぜ」
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封蔵館の中は静かだった。
日中でも薄暗い。高い棚が何列も並んで、古い紙と木の匂いが漂っている。受付には白髪の年配の女性司書が座っていて、二人が入ってきた瞬間に眼鏡の奥の目がピクリと動いた。
ナルトは「文様図録と建国前後の石碑記録がどこか教えてほしいんですけど」と声をかけると、司書は「3列目の棚の上段、それと7列目の西側の棚」と答えてから「静かにするように」と付け加えた。
「[serious]分かりました」
コハルはすでに3列目の棚の前に立って、背表紙を読んでいた。
几帳面だった。一冊取り出して、目次を確認して、該当ページを開いて、勾玉と見比べて、閉じる。その動作がリズム一定で崩れない。ページをめくる音が、静かな館内に小さく響く。
ナルトも隣に並んで文献を引っ張り出した。
が、3冊目を棚から出そうとしたら、2冊がドサッと床に落ちた。
司書の眼鏡が、すごいスピードでこちらを向いた。
「[cold]本の扱い方が分かりますか?」
「[scared]すみません拾います!」
コハルが隣で小さくため息をついた。呆れているというより、苦笑いに近い気配だった。
「[gentle]ここは、一冊ずつ取り出すほうがいいですよ」
「分かってるっての」
結局、二人で手分けして1時間半ほど探した。建国期の石碑文様図録、初代火影時代の遺跡調査報告書、火の国北部の古代遺跡一覧、各地の民間伝承に登場する紋様集——ありったけ引っ張り出した。
何も引っかからなかった。
類似する図形はいくつかあった。でも「これだ」というものが一つもない。勾玉の紋様は、木ノ葉建国期の図案とも、それより前の遺跡のものとも、微妙にずれている。
コハルが最後の一冊を閉じて、机に置いた。
表情は変わっていない。でも、目の奥に何か暗いものがある。
「[gentle]この紋様は、木ノ葉の建国より前の時代のものに近いかもしれません」
「[surprised]そんなに古いのかよ」
「ただの推測です。でも、里の歴史に刻まれていない何かに繋がっている気がします」
声が静かだった。その静けさが、かえって重かった。
(こいつ、怖くないのかな)
ナルトはコハルの横顔を見た。自分の過去がどこにあるか分からない。手がかりは一つしかない。それでも今日はちゃんとここに来て、一冊一冊丁寧に調べた。諦めた顔じゃない。
ナルトは声をかけようとして——その前に腹が鳴った。
グゥゥ。
コハルがゆっくりこちらを向いた。
「……お腹が空いているのですか」
「[laughing]うるさいな、別に! そういうときもあるだろ!」
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一楽ラーメンの赤いのれんが、昼の風に揺れていた。
「[excited]よし来た! ここが木ノ葉で一番うまいラーメン屋だぜ!」
「[gentle]……ラーメン、ですか」
「知らないのか? 麺を汁に入れて食う料理だ」
「食べ物だということは分かります」
のれんをくぐると、テウチが振り返った。60代、がっしりとした体格、白い前掛け。ナルトを見てすぐ顔をほころばせた。
「[excited]お、ナルト! 退院してから初めてじゃないか。珍しい連れを連れてるな」
「[excited]コハルっていう。いろいろあって世話してるんだ」
「いろいろ、ですか」
「そうだぜ。じゃあ味噌二つ!」
カウンターに二人並んで座った。8席のこじんまりした店内。午後の早い時間で、他に客はいない。
コハルが箸を手に取って、少しの間眺めた。
「[whispers]……これ、どうやって使うんですか」
「[surprised]え、箸使えないの?」
「使い方は分かります。でも……なんとなく、確認したくて」
少し間があった。
(記憶がないって、そういうことか)
使い方は知っている。体が覚えている。でも「自分が以前箸を使っていた記憶」がない。だから確認したくなる。
ナルトは自分の箸を持ち直した。
「[gentle]こうやって持って、こっちで麺をつかんで、すするんだ。熱いから気をつけろよ」
「見ていれば分かります」
「教えてやってんだから素直に聞け!」
テウチが丼を二つカウンターに置いた。立ち上る湯気。味噌の香り。
コハルが箸を構えて、麺を一口すくった。口に運ぶ。
静かになった。
ナルトが横目で見ると——コハルの口の端が、ほんの少しだけ上がっていた。小さな、本当に小さな笑顔。
「[gentle]……おいしい」
声が柔らかかった。
ナルトは味噌スープを一気に飲み込んだ。
(なんだ、今の)
胸の奥が、じわりと温かくなった。封印の熱じゃない。もっと違う、やわらかい感じの何かだ。それが何なのか上手く言葉にできなくて、ナルトは麺を口に押し込んだ。
テウチがカウンターを拭きながら、こちらを見て——何も言わずに、にやりとした。
ナルトは顔が少し熱くなった気がして、なんとなく前を向いた。
コハルがスープを一口飲んでから、静かにテウチに言った。
「[gentle]また来てもいいですか」
「[excited]もちろんだ。いつでも来い」
(こいつ、木ノ葉に馴染もうとしてる)
ナルトはコハルの横顔を見た。ただスープを飲んでいるだけだ。でもその一言が、ナルトの中で何かを変えた。守りたい、という感情が、ぼんやりしたものからはっきりした形になった瞬間だった。
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昼食のあと、里の南東にある第三演習場へ向かった。
3本の丸太杭が目印の広場。面積は広くて、木立に囲まれている。カカシがいつも少し遅れて来るので、先に到着して待つことになる。
コハルは演習場の端にある丸太に腰を下ろした。白髪のボブが風に揺れる。金と青のオッドアイが、静かに木立を眺めている。何かを考えているのか、何も考えていないのか、読み取れない。
カカシが現れたのは、それから10分後だった。
上忍の装束に、口元を隠すマスク。左目を覆う額当て。例の「本を読みながら歩く」姿で来て、演習場に入ってから本を閉じた。
「[sarcastic]やあ。二人とも、ちゃんと待ってたね」
「[angry]遅すぎだろ!」
「[sarcastic]猫を助けてたんだよ、木から。でまあ——本題だけど」
カカシはナルトを見た。その目が、いつものひょうひょうとした感じじゃなくて、少しだけ真剣だった。
「[serious]九尾の力は武器にもなる。だがお前が恐れている限り、それは暴走の引き金にしかならない」
直球だった。ナルトは返す言葉が出なかった。
「[serious]今日やることは一つ。感情を安定させた状態で、自分の体のチャクラの流れを感じること。引き出すんじゃなく、感じるだけでいい」
ナルトは頷いて、目を閉じた。
集中する。腹の奥の熱。封印のあたり。そこに意識を向けると——すぐに焦りが出てきた。また暴走したらどうしよう、という不安が頭の中を走った。その瞬間に封印が反応して、熱が強くなる。
「[cold]焦った」
「分かってるよ!」
「[cold]怒っても同じだ。もう一回」
30分、そればかりやった。目を閉じる、集中する、不安が出る、封印が熱くなる、開ける。その繰り返しだ。うまくいかない。自分のチャクラなのに、自分のものじゃないみたいに動かない。
「[cold]焦るから暴走する。怒りで引き出すんじゃなく、落ち着いた状態で引き出せ。それが唯一の方法だ」
ナルトは額に汗が滲むのを感じながら、もう一度目を閉じた。
今度は、違うことを考えた。
図書館で隣に並んでいたコハルのこと。手がかりが見つからなくて、でも諦めなかったコハルのこと。一楽で小さく「おいしい」と言ったときの顔。守りたいと思った、あの感覚。
腹の熱が、静かになった。
焦りじゃなくて、柔らかい何かが広がる感じ。その状態のまま、ゆっくりとチャクラを感じようとした。
指先が、じわりと光った。
赤い光だ。でも今回は暴走じゃない。ゆっくりと、じわじわと、自分の意志の通りに広がっていく。
両手を合わせて、掌にチャクラを集める。螺旋丸の回転を始める。
いつもより、ずっと安定していた。回転の中心がぶれない。チャクラが均一に広がる。螺旋丸が完成して、指先まで自分の感覚がある。
「[serious]……ほう」
カカシが短く言った。
「[gentle]すごいですね」
丸太の上から、コハルが静かに言った。声が穏やかだった。
ナルトは螺旋丸を解いて、手を見た。少し震えている。疲労じゃなくて——たぶん、興奮だ。
(できた。自分の意志で、引き出せた)
小さい。本当に小さい一歩だ。でも確かに一歩だった。恐怖じゃなくて、守りたいという気持ちを原動力にして、力を引き出した。その感覚が、掌の中にまだ残っていた。
「[excited]やったぜ!!」
「[serious]調子に乗るな。ひとつ成功しただけだ」
「[excited]それでもやったのは確かだろ!」
カカシが肩をすくめた。でも目の端が、少しだけ緩んでいた。
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帰り道は里の北東区を通った。
倉庫が並ぶ古い通りで、昼でも人通りが少ない。石畳は割れていて、壁に苔が生えた建物が続く。日陰が多くて、空気が少し冷たい。
ナルトが「今日は調子よかったな」と独り言みたいに言った瞬間——
右の路地から影が飛び出してきた。
左から、後ろから。同時に三方から、黒い人影が現れた。
全員が黒装束で、顔を覆面で隠している。額当てがない。里の所属を示すものが何もない。
中央の一人が、静かに言った。
「[cold]その女を渡せ。大人しくしていれば傷つけない」
一瞬で状況が変わった。
ナルトはコハルの前に出た。
「[angry]渡すわけないだろ!!」
三人が同時に動いた。
ナルトは瞬時に印を結んだ。
「影分身の術!」
三体の分身が現れる。一体は右から来た忍に、一体は左の忍に向かう。本体はコハルの前に立ったまま、正面の一人と向き合った。
黒装束の忍が体術で来た。速い。訓練を積んでいる動きだ。ナルトは腕でさばいて一歩引いた。腹の奥の封印が少し熱くなる。訓練直後で体は動くが、チャクラの消耗が早い。
路地の中で乱戦になった。
分身が右の忍を地面に押さえ込む。左では別の分身が組み合いになっている。正面の一人がナルトの懐に入ろうとするのを、ナルトは体を回して壁に叩きつけた。石壁にぶつかった音が路地に反響する。
「[angry]逃げろっつってんだろコハル!!」
返事がなかった。
振り返ると、コハルはそこにいた。逃げていない。ただ立っている。金と青の目がまっすぐにナルトの背中を見ている。
「[cold]逃げ場所が分かりません」
「それだけじゃないだろ!!」
「[cold]……逃げたくないです」
静かな声だった。
ナルトは舌打ちして、追加の分身を二体出した。路地が分身で埋まる。数で押す。一体が覆面忍者を羽交い締めにして、もう一体が地面に叩き落とした。
三人の動きが止まった。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、中央の忍がクナイから煙玉を取り出した。白い煙が一気に広がる。
煙の中に、声が落ちた。
「[cold]人柱力よ——お前の居場所は、もうすぐなくなる」
ナルトが追おうとした。足が一歩出た。
止まった。
コハルが心配だった。煙が晴れると、三人の姿はなかった。
「コハル!」
「[gentle]……ここにいます」
コハルは無事だった。かすり傷もない。ただ、ナルトの服の裾を少しだけ掴んでいた。さっきからずっとそうしていたのかもしれない。
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二人は路地にそのまま立っていた。
煙が散って、また静かになった。遠くから里の生活音が聞こえる。子供の声。荷車の音。何も変わっていない里の日常。
「人柱力よ」という言葉が、ナルトの頭の中を繰り返した。
里の大人世代には、ナルトが九尾の人柱力であることは公然の秘密だ。知っている人間は多い。でも今夜の三人は違った。覆面で素性を隠した忍が、組織的に動いてコハルを狙って来た。そしてナルトの正体を知っていた。
偶然の強盗じゃない。
ナルトは拳を握った。
(木ノ葉の中に、コハルを追っている奴らがいる)
それがはっきりと分かった。ぼんやりした不安じゃなく、具体的な確信として。
コハルがナルトの手の甲を見て、黙って袖を持ち上げた。白い布の端でナルトの手についた血を拭こうとする。
「[serious]大丈夫だ、かすり傷だ」
「[gentle]それでも」
引かなかった。
ナルトは黙って、拭かせた。
布が手の甲を拭く。優しい動作だった。コハルの手が少し冷たかった。怖かったんだろう、と思った。でも逃げなかった。
「[gentle]……あなたが来てくれると思っていました」
小さな声だった。
「[serious]当たり前だ」
「[gentle]そう思いませんか? 当たり前ではない、かもしれません。逃げることもできたのに」
「俺は逃げない。お前が関係してることなら、絶対に」
コハルが手を止めた。
少し、黙った。
「[gentle]……ありがとうございます」
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同じ時刻。
里の北東区、旧暗部訓練施設の地下3階——カゲヌイ衆のアジト「ネノクニ」。
松明の灯りの中で、コダチが膝をついていた。
黒髪に赤いメッシュの短髪。薄い灰色の目が、床を向いている。今夜の作戦の報告をする役目がある。
「[cold]接触者・標的ともに無事。下級構成員3名は撤退しました」
沈黙。
コダチは続けた。
「[cold]人柱力は訓練後でも、影分身を3体以上同時展開できました。想定より動ける」
「……それから」
少し間があった。
「[cold]九尾のチャクラの制御精度が、以前より上がっています。今日の訓練で何かを掴んだと思われます」
闇の中で、ムラクモへの報告が更新された。
次の一手が、静かに動き始めた。