もしもナルトが九尾を選んでいたら
あの日、終末の谷で、ナルト(うずまきナルト)は違う選択をした。
地面に倒れ込み、サスケが大蛇丸のもとへ歩き去るのを見送る中、ナルトの頭の中に声が響いた。九尾の狐だ。ずっと重荷だったはずのその狐が、今や手を差し伸べてきた。「俺の力を使え。怒りをくれ。まだ奴を止められる。」
ナルトはその手を掴んだ。
しかしサスケは止まらなかった。九尾のチャクラが体を駆け巡っても、ナルトは勝てなかった。サスケは見下ろし、囁いた。「お前にはまだ俺に勝てない。」そして姿を消した。
ナルトは傷だらけで木ノ葉に連れ戻された。しかし何かが変わっていた。九尾の力を使った感覚が体に残っていた。感情が高ぶるたびに狐がざわめき、チャクラが震えた。自分の体が完全に自分のものではないように感じ、それが彼を恐れさせた。
綱手ははっきりと言った。「体を調べた。九尾との繋がりが変わっている。このまま放っておくと、自分を失うかもしれない。」
ナルトはどうすればいいかわからなかった。サスケを追いたかった。でも先に自分が壊れてしまうかもしれない。螺旋丸も足りない。仙人モードはまだ遠い夢だった。
そんな時、一人の少女が現れた。コ
もしもナルトが九尾を選んでいたら - どん底の夜——壊れかけた封印と仮面を脱いだ男
コハルがいなくなってから、2日が経った。
その2日間、ナルトはほとんど眠っていなかった。
夜が明ければ走り出し、日が暮れても走り続けた。ツバキが持ってくる目撃情報を頼りに、里の北地区の路地裏、南の倉庫街、外壁に沿った廃屋の群れ——片っ端から走り回った。しかし、どこに行っても同じだった。人の気配すらない。ただ空っぽの空間だけが広がっていた。
今も走っていた。
里の東側の路地を、ナルトは全力で駆け抜けた。額当てに汗が滲む。目の下にクマができているのは自分でも分かっていた。一楽の味噌ラーメンを最後に食べたのはいつだったか、もう思い出せない。
曲がり角を勢いよく回ると、豆腐屋のおばさんとほぼ正面衝突になった。
「[sarcastic]またこの子だよ……今日で何度目だい」
「[serious]すんません、通ります!」
おばさんが呆れた顔で手を振る。ナルトはそのまま素通りした。
笑えない。笑えないのは、ナルトが本当に必死だからだ。
ツバキが渡してくる情報は毎回、ナルトが調べ終わった頃に次が来る。まるでナルトの行動が読まれているみたいに。でも疑う暇もない。コハルがどこかで怖がっているかもしれない。そう思えば、足は勝手に動いた。
次の情報が来た。「中央倉庫街の3番倉庫、人影あり」。
ナルトは方向を変えた。また走った。
——倉庫は空だった。
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昼過ぎ、里の中央商店街に差し掛かったとき、人だかりが目に入った。
掲示板の前に人が集まっている。ナルトは足を止めた。
紙が一枚、貼り出されていた。
字が大きい。遠くからでも読めた。
『木ノ葉の住民へ。うずまきナルトは終末の谷において九尾の力を暴走させ、半径50kmに及ぶチャクラ汚染を引き起こした。封印は崩壊寸前にある。次の暴走で、木ノ葉は12年前の二の舞になる——感知石記録データ添付』
ナルトは動けなかった。
(感知石……)
それが何を意味するか、分かっていた。感知石は嘘をつかない。終末の谷で九尾のチャクラが漏れたのは事実だ。だから「嘘だ」とは言い切れない。
周囲の声が聞こえてきた。
「やっぱり……ずっと心配だったんだよね」
「子供がいるから……ね」
「本当に12年前みたいになったら……」
子供を抱えた母親が掲示板から離れながら、早足で近くにいた人に何かを囁いた。その視線がナルトの方をかすめた。
ナルトは立ったまま、じっとその紙を見ていた。
こいつを貼ったのが誰か、なんとなく分かった気がした。でも今は、それより先に頭が動かなかった。
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夕方になった。
ナルトは久しぶりに一楽ラーメンの前まで来た。暖簾が揺れている。店の中から話し声がした。
中が見えた。
テウチのおやじが気まずそうな顔で、常連の中年の男と話していた。男の声が聞こえた。
「……あの子が来るなら今日は……」
それだけで十分だった。
ナルトは暖簾に伸ばしかけた手を止めた。
そのまま、背を向けた。
テウチが振り返った気配がしたが、ナルトはもう歩き出していた。止める間がなかったんだろう。止めてくれなかったとは思わない。ただ、足が止まらなかった。
人通りのない路地に入って、ナルトは壁に背をもたれた。顔を上げる。空が赤い。夕焼けだった。
2日間、必死で走って。それでも何も見つからなくて。里中が自分を遠ざけていて。
(……コハル)
名前を頭の中で呼んだだけで、喉の奥が締まった。
声がした。
「[serious]……お前、マジで大丈夫なのか」
路地の入り口に、シカマルが立っていた。
彼は奈良家の出身の忍で、かつて同じアカデミーに通っていた。いつも面倒くさそうな顔をしているが、今は違った。本当に心配している目だった。責めているわけじゃない。それが分かるから、かえって刺さった。
ナルトは笑おうとした。
口が歪んだ。うまく笑えなかった。
「[serious]……大丈夫だ」
シカマルはしばらく黙ってナルトを見ていた。何か言いたそうだった。でも何も言わなかった。ナルトも何も言えなかった。
二人は、そのまま別れた。
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夜になった。
アパートに戻ると、廊下の窓ガラスが割れていた。昼間に石を投げ込まれた跡だ。踏まないように避けながら自分の部屋に入る。鍵をかけた。
部屋は荒らされたままだった。コハルが拉致されたあの夜から、片付ける気にもなれなかった。
テーブルの上に、コハルのコップがある。
アパートに来てすぐ、コハルが使い始めたコップだ。白くて小さい。もう2日間、誰も触っていない。
ナルトはそれを見たまま、床にずるずると座り込んだ。
体がずっしり重かった。目を開けているのがきつい。2日間、まともに眠れていない。食べてもいない。頭の中がぼんやりする。
意識がふっと遠くなった——
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薄暗い水の中。
ナルトは気づいたら、長い廊下に立っていた。
足元が水に浸かっている。天井が高い。正面に、巨大な鉄格子がある。
格子の向こうで、真っ赤な目が細まった。
九尾だ。
封印の中の精神世界——ここには何度か来たことがある。でも今夜の九尾は違った。静かだった。怒鳴りつけるでも暴れるでもなく、ただじっとナルトを見下ろしていた。
「[cold]……見ろ、ガキ。里の連中はお前を捨てた」
ナルトは黙っていた。
「[cold]コハルとやらも、今頃どこかでお前のせいにして泣いてるかもな」
その言葉が、どこか遠くから刺さった。否定できなかった。
「[cold]俺の力を全部解放しろ。そうすればあの女も取り戻せる。里の奴らなど踏み潰してやる」
声が静かだった。怒鳴り声じゃないから、余計に頭の中に入ってきた。
「[cold]お前が怪物だというなら——怪物らしく振る舞えばいい」
甘い誘惑だ。ナルトにはそれが分かった。分かっていながら、心が揺れた。
コハルを取り戻したい。それは本当のことだ。里の連中なんて関係ない。この力を全部使えば——
そのとき。
ふっと、声が聞こえた気がした。
『怖がらなくていいと思う。あなた自身は、怖くない』
コハルの声だ。初めて会った夜に、そう言ってくれた。誰もナルトにそんなことを言ってくれたことがなかった。あの声だけが、今夜唯一の錨のように引き止めていた。
でも今夜は、それだけじゃ足りなかった。
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現実に戻ってきた。
右腕が燃えていた。
赤黒いチャクラが、腕を包んでいる。爪が伸びていた。ナルトは自分の手を見た。指先が変わっていた。鋭い。
床に落ちていた窓ガラスの破片に、自分の顔が映った。
瞳の色が赤くなっている。
——2尾分のチャクラが漏れている。封印が軋む音がする。体が熱い。自分の声が遠い。
「[whispers]……コハル……」
言葉にならない。
ドアが開いた。
廊下からの光が差し込む。
コダチだった。
黒髪に赤いメッシュの短髪。薄い灰色の目が、ナルトをまっすぐ見下ろしている。いつもの影の薄い補佐の顔じゃない。冷たく、静かで、明確な目だった。
「[cold]やはり、お前は危険だ」
ナルトは固まった。
「[cold]カゲヌイ衆の判断は正しかった。人柱力は排除すべきだ」
カゲヌイ衆——その名前が頭の中で響いた。
里の内部に潜む秘密結社の名前。3日前の覆面忍者が「人柱力よ、お前の居場所はもうすぐなくなる」と言い残して消えた。あれは、この組織の人間だったのか。
赤いチャクラを滲ませたまま、ナルトは目の前の男を見た。
コダチ。
綱手が出した辞令を持ってきた護衛の補佐。呼吸法を教えてくれたツバキと一緒に来た。信頼できると、思っていた。
頭の中で、EP4のシーンが巻き戻っていく——ツバキが丁寧に頭を下げる笑顔。コハルの身元調査を申し出てくれたコダチの淡々とした声。護衛として隣にいた2人の顔。
ナルトは震える声を絞り出した。
「[scared]……ツバキさんも、か」
コダチは答えなかった。
ただ、目が答えた。
肯定していた。
コハルが拉致されたあの夜——ツバキが手引きした。コダチの無言の目が、それを全部認めていた。
ナルトの中で何かが砕ける音がした。
怒りだった。悲しみだった。裏切られたという衝撃だった。全部が同時に押し寄せてきて、体の中の九尾のチャクラが脈打った。暴走しそうになった。
でも爆発できなかった。
爆発したら、自分が壊れる。この体が、この封印が、もう限界だということは自分が一番よく知っていた。
膝が折れた。
床に崩れ落ちた。
拳を床に叩きつけた。ガン、と鈍い音がした。もう一度叩いた。それでも何も変わらない。コハルはいない。里は拒絶している。信じた護衛は全員敵だった。
ナルトは顔を上げた。
「[crying]……もう……誰を信じればいいんだよ……!」
怒鳴り声じゃなかった。
子供が泣きながら問いかけるような叫びだった。
コダチは無言でナルトを見下ろしていた。
薄い灰色の目が、かすかに揺れた。
憎悪なのか。哀れみなのか。それとも別の何かなのか。ナルトには今夜、それを見る余裕がなかった。コダチの左手の甲に入ったカゲヌイの刺青が、部屋の薄暗い光を受けてぼんやり見えた。
赤いチャクラが不安定に脈打ち続けている。
ナルトは床に倒れ込んだまま、動けなかった。
コハルのコップが、テーブルの上にある。誰も触っていない。
封印が軋む。体が熱い。
これがナルトの、最も暗い夜だった。
どこかで夜が明けるとすれば——今はまだ、その気配すらなかった。