もしもナルトが九尾を選んでいたら
あの日、終末の谷で、ナルト(うずまきナルト)は違う選択をした。
地面に倒れ込み、サスケが大蛇丸のもとへ歩き去るのを見送る中、ナルトの頭の中に声が響いた。九尾の狐だ。ずっと重荷だったはずのその狐が、今や手を差し伸べてきた。「俺の力を使え。怒りをくれ。まだ奴を止められる。」
ナルトはその手を掴んだ。
しかしサスケは止まらなかった。九尾のチャクラが体を駆け巡っても、ナルトは勝てなかった。サスケは見下ろし、囁いた。「お前にはまだ俺に勝てない。」そして姿を消した。
ナルトは傷だらけで木ノ葉に連れ戻された。しかし何かが変わっていた。九尾の力を使った感覚が体に残っていた。感情が高ぶるたびに狐がざわめき、チャクラが震えた。自分の体が完全に自分のものではないように感じ、それが彼を恐れさせた。
綱手ははっきりと言った。「体を調べた。九尾との繋がりが変わっている。このまま放っておくと、自分を失うかもしれない。」
ナルトはどうすればいいかわからなかった。サスケを追いたかった。でも先に自分が壊れてしまうかもしれない。螺旋丸も足りない。仙人モードはまだ遠い夢だった。
そんな時、一人の少女が現れた。コ
もしもナルトが九尾を選んでいたら - 笑顔の仮面——信頼という名の罠
裏路地の襲撃から3日が経った。
あの夜、覆面の忍が「お前の居場所はもうすぐなくなる」と言い残して消えた。その言葉が、ナルトの頭の中でずっとぐるぐると回り続けている。
朝の木ノ葉隠れの里。空は晴れていて、火影岩に朝日が当たってオレンジ色に染まっている。普通の朝だ。でも全然普通じゃない。
ナルトはコハルと並んで火影邸の廊下を歩いた。
綱手への報告のためだ。
コハルは白髪のボブカットを揺らしながら、静かに歩いている。左右で色の違う目——金色と青色——が廊下の先を見ていた。右耳の小さな銀のイヤリングが、窓から差し込む光を受けて光った。
3日前と比べると、二人の歩く間隔が少し縮まっていた。意識したわけじゃない。ただ、そうなっていた。
綱手の執務室のドアを叩く。
「[serious]入れ」
部屋に入ると、綱手は机の前に座っていた。金色の長い髪を二つにまとめて、腕を組んでいる。眉間の皺が深い。
ナルトは3日前の夜を全部話した。覆面忍者が3人いたこと。コハルを狙っていたこと。「人柱力」と呼ばれたこと。そして、何者かが木ノ葉の内部に潜んでいるという確信。
綱手は黙って全部聞いた。聞き終えてから、重い口を開いた。
「[serious]…暗部に調査を命じていた。結果はさっき来た」
「どうだったんすか?」
「[serious]覆面忍者の正体は掴めなかった。チャクラの残滓を追ったが、途中で消えた。里の外へ逃げた痕跡もない」
つまり、里の中にいる。
「[serious]証拠がない。誰が動いているか、何人いるかも分からない。今の段階では動けない」
「[angry]動けないって——コハルを狙ってる奴らがいるのに?」
「[serious]感情で動けば、向こうの思うつぼだ」
綱手の目が、ナルトをまっすぐ見た。怒っているわけじゃない。でも真剣だった。ナルトは拳を握って、黙った。歯がゆい。全然足りない。でも綱手の言う通りだとも分かっていた。
コハルは隣で何も言わなかった。ただ、少しだけ唇を結んでいた。
報告を終えて、ナルトとコハルは廊下に出た。
外の廊下は朝の光で明るかった。里の音が遠くから聞こえる。荷車の音、子供の声、どこかで鶏が鳴いている。
「何か分かった?」
コハルが聞いた。
「[sad]まだ何も。手詰まりだ」
コハルは少しだけ考えるような顔をして、それから黙ってナルトの隣に並んで歩き始めた。何も言わない。ただ、そこにいる。
(こいつ、本当に変なんだよな)
ナルトはそう思いながら、一緒に廊下を歩いた。言葉じゃなくて、行動で「一緒にいる」って言ってくる。そのことが、今は少しだけありがたかった。
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火影邸の玄関を出たところで、声をかけられた。
「[gentle]うずまきナルト様、コハル様。お待ちしておりました」
振り返ると、一人の女性が立っていた。
深紫色の長髪をセンター分けで後ろに束ねている。背が高い——175cmはある。戦闘用と思われる黒い服装。そして何より目を引くのが、左頬に走る深い刀傷の痕だ。
でも口元は柔らかく微笑んでいた。
「[gentle]私はツバキ。元暗部に籍を置いていた忍です。綱手様のご命令で、お二人の護衛に就くことになりました」
隣に、もう一人いた。黒髪に赤いメッシュが入った短髪の男。薄い灰色の目が、感情を映さない窓みたいに静かだ。身長は高く、体はひきしまっている。左手の甲に、何かの刺青がある。
「[cold]コダチだ。補佐を担当する」
短い。名前と役割だけ言って、また黙った。
ナルトはすぐに眉を寄せた。
「[serious]綱手のばあちゃんの命令って本当か?今朝、報告に行ったばかりだぞ」
「[gentle]こちらをどうぞ」
ツバキは懐から紙を取り出して、丁寧に差し出した。
ナルトが受け取って見ると——火影の印が押された辞令だ。綱手の字に見える。「護衛任務」「うずまきナルト及び接触者」「緊急」という文字が並んでいた。
(綱手のばあちゃん、こんな命令、朝の会議で出せたのか?)
ちょっと不思議な気もしたが、証拠が目の前にある。
コハルがその紙を隣でじっと見ていた。左目の金色と右目の青色が、静かに書類の文字を追っている。
「[gentle]一つ、お見せしたいものがあります」
ツバキがナルトに向き直った。笑顔のまま、でも声のトーンが少し落ちた。
「[serious]九尾のチャクラが暴走しかけた時——封印の熱が高まった瞬間に、呼吸を変えることで閾値を上げられます。試してみますか?」
ナルトは警戒しながらも頷いた。
ツバキが教えてくれたのはシンプルな呼吸法だった。鼻から四秒吸って、七秒止めて、八秒で吐く。それを繰り返しながら、腹の封印を意識する。
やってみた。
びっくりした。
腹の奥の熱が——ほんの少しだけ、落ち着いた。九尾のチャクラが鳴りを潜める感じがした。完全じゃないけど、確実に効いた。
「[surprised]マジで効いた……!」
思わず声が出た。
コハルも少し表情を緩めた。「意外と実用的ですね」と言いたそうな、小さな驚きの顔だった。
その様子を見て、ツバキはゆっくりと頷いた。
「[gentle]いつでも使えるよう、体に馴染ませておくといいです」
一方、コダチがコハルに向いた。
「[cold]一つ頼みがある。お前の身元調査を進めたい。翡翠の勾玉の紋章の拓本を取らせてもらえるか。俺の感知能力と照合すれば、手がかりが掴めるかもしれない」
コハルがわずかに止まった。
(……この人たちを信頼していいのか)
迷っている。目の動きで分かった。
ナルトはコダチとツバキを交互に見て、それから辞令の紙を握り直した。綱手の命令。呼吸法は本物だった。効果があった。
「[serious]コハル、やってもらおうぜ。身元の手がかりが増えるのは良いことだろ」
コハルはナルトの顔を一秒見た。それから小さく頷いた。
「[gentle]……分かりました」
—— 読者には分かる。コダチが拓本を取るのは、コハルの情報をカゲヌイ衆に横流しするためだ。
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昼を過ぎた頃、カカシがナルトを呼びに来た。
銀色の髪、半分顔を覆うマスク、左目は常に閉じている。どこかのんびりした歩き方なのに、気配が全くない。さすが元暗部だ。
「[gentle]午後の訓練の時間だ、ナルト。第三演習場で螺旋丸の精度を上げよう」
「[excited]っしゃ!行くぞ!」
ナルトはコハルに振り返った。
「[serious]しばらく訓練に行ってくる。ツバキさんたちがいるから大丈夫だと思うけど、何かあったら——」
「[gentle]分かっています。行ってきてください」
コハルが静かに言った。いつもの穏やかな顔だった。
ツバキが「私たちはアパート周辺で待機します」と頭を下げた。コダチは無言で頷いた。
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里の南東、外壁内側の第三演習場。3本の丸太杭が目印の、緑の深い修行場だ。
ナルトは螺旋丸の練習をしていた。チャクラを掌に集めて、高速回転させる。形を作る。安定させる。
カカシが隣で見ていた。
「[serious]右手の回転が甘い。チャクラを外側じゃなく内側に押し込む意識で」
「[serious]こう……か?」
「少しマシになった」
「少ししか?」
「[sarcastic]「少し」は大事な一歩だよ」
森の中に、二人の声と螺旋丸の音が響いた。
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その頃。
ナルトのアパートは静かだった。
コハルは部屋で古い文献の写しを見ていた。翡翠の勾玉のことを、まだ考えていた。窓の外から里の音が聞こえる。
最初に気づいたのは、音だった。
廊下の足音が——多い。
コハルは顔を上げた。
次の瞬間、扉が爆発した。
ドォン!! 蝶番が飛んで、扉が部屋に倒れ込んでくる。黒装束の忍が4人、音もなく室内に入ってきた。5人目が廊下に立って退路を塞ぐ。
コハルは一瞬で立ち上がって隣室へ走った。
「逃がすな」
廊下の先で忍術が炸裂した。バン!! 土の壁が突然廊下を塞ぐ。逃げ道がない。
「——!」
コハルは素早く周囲を見回した。武器はない。チャクラの扱いも分からない。体一つだ。
目の前にあった——赤い塗料の缶。工事用の、鮮やかな赤。
コハルは考えた。考えながら、足で缶を蹴り倒した。カン! と音がして、赤い塗料が床に広がる。足跡がつく。これが痕跡になる。
それが最後の抵抗だった。
2人がかりで腕を掴まれて、コハルは引きずり出された。
廊下の外では、コダチが通行人を誘導していた。「工事作業中です」「別の道を使ってください」——淡々とした声で、人払いをしていた。
アパートの向かいの路地。ツバキが壁に背中をつけて、腕を組んで立っていた。
穏やかな笑顔は、もうない。
代わりにあるのは、冷たい集中。計算し尽くされた待機。
(計画通りだ)
ツバキは静かにそう確認した。内心には何もなかった。感情じゃない。これは任務だ。九尾の人柱力の傍にいる「異質な存在」を取り除く。それだけだ。
コハルが連れ出されるのを、ツバキは路地の影から見届けた。
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夕暮れ。
訓練を終えたナルトがアパートの前の通りに戻ってきた。
隣の部屋のおばさんが、ちょうど玄関から出てくるところだった。買い物袋を提げて、「あら、お帰り」と言いながら通り過ぎた。
「[excited]ただいまっす」
いつも通りの返事をして、ナルトは階段を上った。
廊下に出た。
赤い足跡が——床についていた。
ナルトは足を止めた。
靴の裏に塗料をつけた足跡が、廊下を走るように続いている。コハルの部屋の方から伸びている。
駆け寄って、扉に手をかけた。
蝶番が飛んでいて、扉が斜めに傾いていた。
室内は荒らされていた。
椅子が倒れている。コハルが読んでいた文献の写しが床に散らばっている。コハルの荷物が部屋の隅に投げ捨てられたように散乱していた。
そして壁に——赤い塗料で大きく書かれた文字。
「怪物に味方する者も同罪だ」
文字がにじんでいた。まだ乾いていない。
コハルがいない。
ナルトの頭が真っ白になった。
(守ると言ったのに)
じわじわと、腹の奥から熱が上がってきた。九尾のチャクラだ。封印の綻びを押し広げながら、赤黒い力が皮膚の内側から滲み出す。怒り。悔しさ。恐怖。全部がまとまって、一つの熱になって全身を焼く。
手の甲が赤くなった。爪が、少し伸びかけた。
「ナルト!」
カカシが廊下に飛び込んできた。室内を一秒で見回す。次の瞬間、ナルトの両肩を真後ろから掴んだ。
「[serious]落ち着け!今暴走したら、お前自身が壊れる!」
「[angry]でも——コハルが——!」
「[serious]分かってる!分かってるから、今は抑えろ!!」
カカシが力ずくで押さえつけた。肩を掴む手が、ナルトの体の中の暴走に抵抗するように強く押す。
ナルトは歯を食いしばった。両手の甲に自分の爪を立てた。痛みで頭を引き戻す。呼吸。ツバキに教わった呼吸。鼻から吸って、止めて、ゆっくり吐く。
——封印の熱が、少しだけ引いた。
チャクラが皮膚の下に引っ込む。爪が戻る。赤さが薄れる。
ナルトの膝が震えた。
涙が一筋、頬を流れた。
「[sad]……守れなかった」
誰にでもなく、ただそう言った。声が低かった。
カカシは肩から手を離さなかった。何も言わなかった。ただ、そこにいた。
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廊下の外から、急いで走ってくる足音がした。
ツバキだった。
息が少し乱れていた。心配そうな顔をして、扉が壊れた部屋を見た。
「[sad]少し目を離した隙に……申し訳ありません」
頭を深く下げた。
カカシがツバキを見た。表情は変わらない。片目で、静かに。
(……呼吸が、制御されすぎている。本当に走ってきた人間より、整いすぎてる)
何かが引っかかった。でも確証はない。今はまだ何も言えない。
ツバキが顔を上げて、ナルトを見た。
「[serious]私が暗部のつてを使ってコハルさんを捜します。必ず手がかりを見つけます」
ナルトはその顔を見た。
心配そうな目。真剣な声。午前中に教えてくれた呼吸法が頭をよぎった。あれは本物だった。役に立った。この人は信頼できる——そう思っていた。
「[serious]……頼む」
短く答えた。
カカシは何も言わなかった。
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夜になった。
カカシが外の確認に出てから、ナルトは一人になった。
雑巾を持って、壁の前に立った。「怪物に味方する者も同罪だ」という赤い文字の前に。
拭き始めた。
一往復。二往復。赤い塗料が雑巾に移って、手が赤くなった。文字が薄れていく。でも完全には消えない。
部屋が静かだった。
いつもなら、隣の部屋でコハルが起きている気配がある。本をめくる音。たまに聞こえる、静かな足音。5日間で、ナルトはそれに慣れていた。
今は何もない。
(コハル)
雑巾が止まった。
「[whispers]……必ず助ける」
誰にも聞こえないくらい小さく、でもはっきりと言った。
壁の赤い染みを見つめたまま、そう言った。
—— この孤独は、今まで感じたことのある孤独と違った。里に居場所がなかった孤独とも、一人で演習場にいた孤独とも違う。誰かがそこにいたのに、いなくなった、という孤独だ。
その違いを、ナルトはまだうまく言葉にできなかった。
---
同じ夜。カゲヌイ衆のアジト「ネノクニ」——里の北東区、旧暗部訓練施設の地下3階にある、表向きは閉鎖された倉庫の地下。
コダチが膝をついて報告していた。
「[cold]コハルの身柄を確保。アジトの監視室に移送済み。拓本のデータも取得した。状況把握完了」
「[cold]翡翠の紋章の構造は——通常の封印術の紋様とは異なる。解析が必要だ」
闇の中に、沈黙があった。
「[cold]ツバキは護衛として、人柱力の傍に残留。引き続き監視と、必要なら制御の役割を担う」
コダチの左手の甲の刺青が、松明の光を受けてぼんやり光った。
一瞬だけ、コダチの灰色の目が揺れた。
今夜運ばれてきたコハルを、監視室の廊下から一瞬見た。あの目——金色と青色。怖がっていたけど、泣いていなかった。ただ、静かに何かを見ていた。
(……関係ない)
コダチはそれを切り捨てた。任務は任務だ。12年前、自分の家族を奪ったあの怪物が暴走しないために、今できることをする。それだけだ。
でも、その夜。コダチが眠れなかったのは確かだった。