呪いより重い、君への気持ち
東京の春風高校、3年B組は決して普通のクラスではない。
五条サトルは圧倒的なイケメンで学年トップだが、その巨大な自尊心のせいで、女子を泣かせたり怒らせたりすることもしばしば。自分を嫌いな女子など存在しないと本気で信じていて、それがみんなを狂わせている。
虎杖イタドリは学校で誰よりも速く走り、戦い、力も強いが、成績は散々で、どんなトラブルも「なんとかなるさ!」と明るく受け流す。誰も彼に怒り続けられない。それがまた腹立たしい。
そんな中、転校生の釘崎ノブコが初日に教室に入り、五条を真っ直ぐ見つめて言う。「あんた、最低ね。」教室は騒然となり、混乱が始まる。
ノブコは五条を大声で、熱烈に、全力で嫌っている。しかしなぜかいつも五条のすぐ隣にいる。五条は授業中ずっと彼女から目が離せない。そしてイタドリは、彼女を笑顔にしたいのは自分だと徐々に気づく。
数週間、三人は壮絶にぶつかり合う。宿題の手伝いに隠れた嫉妬、間違った相手に告白が届く事件、そしてドッジボール大会がいつの間にか感情の戦場に。
そして文化祭の準備中、五条はついにノブコに「好きだ」と告げるが、いつもの自信満々な口調で「俺に好か
呪いより重い、君への気持ち - まあ、なんとかなるっしょ——俺に好かれたんだから喜んでいいぞ事件
月曜日の朝。
五条サトルは教室に入るなり、ロッカーの上のサボテンに目が行った。先週の放課後、ノブコが言っていた言葉が頭に残っている。
——水をやらないと、枯れるわよ。
そのサボテンは今日も黙って立っていた。青々と、何も知らない顔で。
「[excited]おっはよーーーッ!」
扉が勢いよく開いて、金色の頭が飛び込んできた。虎杖イタドリ。180センチ、日焼け肌、笑うと八重歯が見える。体育の授業で一番目立つやつが、今日は大荷物を抱えて遅刻ギリギリで教室に現れた。
「[excited]大道具係、俺がやる! 段ボール運びとか力仕事、全部任せろっしょ!」
ハルカゼフェスタ——10月第2土日に開かれるハルカゼ学園の文化祭——の準備が、今日から本格的に始まる。3年A組はお化け屋敷を出す。今日から全員参加の準備期間だ。
クラスメートたちがざわっとした。体育祭で存在感がほぼゼロだったイタドリが、文化祭でいきなり大声で手を挙げている。
「[whispers]あいつ……誰だっけ」
「[whispers]虎杖くんでしょ。なんか急に元気じゃない?」
五条は窓際の席から、腕を組んでそれを眺めていた。
準備が始まると、イタドリはすぐに動いた。廊下に積んであった段ボールを両手に抱えて、教室に運び込む。二箱、三箱。重そうな様子は一切ない。
そのとき、ノブコが大きな段ボールを一人で持ち上げようとしていた。紫がかった赤のボブカット、鋭い赤い瞳。両腕に力を込めて、箱の端を掴んでいる。
イタドリが気づいた。三歩で駆け寄る。
「[gentle]俺がやるよ!」
ノブコが答える前に、イタドリはその段ボールを軽々と持ち上げた。ノブコの手が宙に残る。
一瞬、ノブコの顔に何かが走った。驚き、とも照れ、とも取れる何か。頬がほんの少し赤くなった。
「……別に、一人でできたんだけど」
「[laughing]そんなもんだって!重いほうが俺向きっしょ!」
そのとき——ガンッ。
鈍い音が教室に響いた。
イタドリが段ボールを持ち上げた勢いで、天井の蛍光灯のカバーに頭を直撃させていた。
クラス全員が一斉に振り向く。
イタドリは頭を押さえながら、まったく動じずに笑っていた。
「[laughing]なんとかなるっしょ!」
ノブコが呆れた顔をした。でもその口元が、かすかに緩んでいた。吹き出しそうなのを、必死にこらえている。
五条はそれを見ていた。
胸の奥が、ざわっとした。
(俺は……ノブコにあんな顔をさせたことが、一度もない)
損な計算をするつもりはなかった。でも事実として、あの顔——半ば呆れて、でも笑いそうになっている顔——は、俺には向いたことがなかった。
「[cold]……そんなもんだって、何がだ」
誰にも聞こえない声で、五条は言った。
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放課後。
準備が終わって、クラスメートたちが三々五々帰り始めた。五条は椅子に座ったまま、スマホをいじるふりをしていた。
イタドリが自分の机に向かって座り、国語のプリントを広げた。うんうん唸っている。
「……うーん」
ノブコがその横を通りかかった。一瞬プリントを覗いて、立ち止まった。
「[sarcastic]あんた、これ小学生レベルよ。信じられない」
「[surprised]え、そんなに?」
「[cold]『れんあい』って書いてあるひらがなに、全部『恋愛』って読み仮名振ってる。逆よ、逆」
ノブコは溜め息をついた。でも、座った。イタドリの隣の椅子を引いて、プリントを手に取る。
「[serious]いい。教えてあげる」
「[excited]ノブコちゃん、ありがとう!」
「[cold]ちゃん付けやめなさいって言ってるでしょ」
「[laughing]そんなもんだって、ちゃん付けくらい!」
「[cold]そんなもんじゃないのよ」
怒っていた。でも、席は立たなかった。プリントを指で叩きながら、丁寧に説明を始めていた。
イタドリがノブコの説明を聞きながら、ぽんと手を叩く。
「[excited]あ、わかった!ノブコちゃん、教えるの上手いな!」
ノブコが——笑った。
ちゃん付けへの文句を言いながら、でも嫌そうな顔をしていなかった。転校してきてから、五条がノブコの笑顔を見たのは折り紙の夕方だけだった。今日が二回目だ。
五条は立ち上がっていた。
二人の机に近づいて、腕を組む。
「[sarcastic]俺は学年3位だぞ。教えてやろうか」
ノブコが顔を上げた。その赤い瞳が、一秒で答えを出した。
「[cold]いらない。あんたに教わったら、上から目線の説教がセットで来るから」
また視線をプリントに戻す。
五条のプライドが、音を立てた。
「[serious]……説教なんかしない」
「[cold]してる。今もしてる雰囲気が出てる」
イタドリが二人を交互に見て、困ったように笑った。
「[laughing]まあまあ、なんとかなるっしょ!」
五条は返す言葉が見つからないまま、自分の席に戻った。
後ろの席の男子がぼそっと言った。
「[whispers]……学年3位が、国語のイタドリより要らないって言われたのか」
五条はそいつのプリントを無言で取り上げて、ゴミ箱に投げた。
「[cold]うるさい」
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水曜日の放課後。
教室に残っているのは数人だった。お化け屋敷の飾りを作っている連中と、伏黒メグミが窓際で本を読んでいる。青みがかった黒髪が夕日の中で静かに揺れている。伏黒はいつもそこにいる。いて、見ている。
ノブコとイタドリが、折り紙で作った飾りを並べていた。
「[sarcastic]……何これ」
「[laughing]鶴!」
「[sarcastic]鶴ね。なんで菱形なのよ」
「[laughing]味があるっしょ!」
ノブコが菱形の鶴を手に取って、まじまじと見た。
「[laughing]こんなに歪んだ鶴、初めて見たわ」
イタドリがその鶴を持って、客席に向けて「らっしゃいらっしゃい」とやり始めた。
ノブコが笑った。今度は声を出して。肩が揺れて、首を振りながら。
「[laughing]お化け屋敷の案内役にさせるつもり? これが出てきたら逃げるわ」
「[laughing]逆に怖いっしょ! なんとかなるって!」
五条は教室の後ろから、それを見ていた。
胸の奥が、痛かった。
嫉妬だ。嫉妬だってことはわかってる。認めたくないが、これは嫉妬だ。ノブコが笑っている。声を出して、肩を揺らして、全然楽しくなさそうじゃない顔で。俺じゃないやつの前で。
——次の瞬間、気づいたら立っていた。
二人の前まで歩いていた。足が止まらなかった。
ノブコが顔を上げる。イタドリも振り向く。教室に残っていた数人の視線が、自然と集まる。
五条はノブコを見た。
「俺、お前のことが好きだ」
自分で驚いた。口から出ていた。計算もなく、タイミングも選ばず、ただそのまま出ていた。
教室の空気が、固まった。
ノブコが動きを止めた。菱形の鶴を持ったまま。イタドリが口を半開きにした。窓際で、伏黒が本を持ったまま視線だけを上げた。
沈黙。
五条の心臓が、ものすごい速さで動いていた。耳が熱い。何か言わなきゃ。何か言わないとこの空気が——
「……まあ、俺に好かれたんだから。喜んでいいぞ」
言った瞬間に、わかった。
やっちまった。
ノブコの目に、みるみる涙が溜まっていく。怒りと悲しみが一気に顔に出て、その赤い瞳がぐわっと揺れた。
「あんた……」
声が震えていた。
「[angry]最低。最悪を超えて最低よ。人の気持ちを何だと思ってるの!」
鞄を掴んで立ち上がる。椅子が後ろに倒れる音がした。ドタン、と。
ノブコは教室を飛び出した。
誰も声をかけられなかった。
「[scared]ノブコちゃん!」
イタドリが我に返って追いかけようとした。でも廊下に飛び出した時には、もう階段を降りる足音が遠ざかっていた。昇降口の扉が閉まる音が、かすかに聞こえた。間に合わなかった。
イタドリが廊下から戻ってくる。その顔に、見たことのない色がある。笑っていない。いつも笑っているイタドリが、今は怒りと困惑の中間みたいな顔をしていた。
「[angry]……サトル」
呼んだだけで、何も言わなかった。
五条は教室の真ん中に、一人で立っていた。
残っているクラスメートたちは全員が黙っていた。誰も何も言わなかった。声をかけてくれる人間も、笑う人間もいなかった。水を打ったような静けさ。
俺は何をしたんだ。
告白した。それはわかる。好きだと言った。それもわかる。
でも最後の一言が——「俺に好かれたんだから喜んでいいぞ」が——全部を壊した。
窓際で、伏黒メグミがそっと本を閉じた。
パタン、と小さな音がした。
静かな教室に、その音だけが残った。伏黒は何も言わなかった。ただ本を閉じて、五条を見ていた。落ち着いたグレーの瞳が、全部見ていた。
五条は誰の顔も見られなかった。
ロッカーの上のサボテンが、変わらずそこに立っていた。