呪いより重い、君への気持ち
東京の春風高校、3年B組は決して普通のクラスではない。
五条サトルは圧倒的なイケメンで学年トップだが、その巨大な自尊心のせいで、女子を泣かせたり怒らせたりすることもしばしば。自分を嫌いな女子など存在しないと本気で信じていて、それがみんなを狂わせている。
虎杖イタドリは学校で誰よりも速く走り、戦い、力も強いが、成績は散々で、どんなトラブルも「なんとかなるさ!」と明るく受け流す。誰も彼に怒り続けられない。それがまた腹立たしい。
そんな中、転校生の釘崎ノブコが初日に教室に入り、五条を真っ直ぐ見つめて言う。「あんた、最低ね。」教室は騒然となり、混乱が始まる。
ノブコは五条を大声で、熱烈に、全力で嫌っている。しかしなぜかいつも五条のすぐ隣にいる。五条は授業中ずっと彼女から目が離せない。そしてイタドリは、彼女を笑顔にしたいのは自分だと徐々に気づく。
数週間、三人は壮絶にぶつかり合う。宿題の手伝いに隠れた嫉妬、間違った相手に告白が届く事件、そしてドッジボール大会がいつの間にか感情の戦場に。
そして文化祭の準備中、五条はついにノブコに「好きだ」と告げるが、いつもの自信満々な口調で「俺に好か
呪いより重い、君への気持ち - 最悪ね——でも、離さない
ハルカゼフェスタの朝は、去年と同じ晴れだった。
3年A組の教室前廊下。お化け屋敷の入り口に暗幕が張られて、手作りの看板が貼ってある。「入ったら後悔するよ」という文字が、イタドリの字で書かれていた。たぶん自分で考えた煽り文句だろう。
そのイタドリが今、入り口の前で両手を広げて客引きをしていた。金色のふわふわした頭に、白い布を被ってお化けのコスプレをしている。布の隙間から八重歯が見えていた。
「[excited]来て来て! 俺が一番こわい男だ! 絶対泣かせてやる!」
廊下の見物客が笑った。
「[sarcastic]お化けが自分でこわいって言うの、怖くなさすぎ」
「[laughing]えー! これは演出っしょ! ギャップで怖がらせる戦法!」
「どんな戦法だよ」と誰かが突っ込んで、また笑いが起きた。
音響と照明の担当は伏黒メグミだった。教室の隅にある小さな操作ボードの前に座って、本を膝に置いたまま、指だけでつまみを調整している。照明が揺れる。効果音が流れる。来場者が悲鳴を上げる。それを聞いても、伏黒は本のページをめくるだけだった。
五条サトルはそのどちらでもなく、出入り口の近くに立っていた。
来場者の顔を見ていた。一人一人、確認するように。ショートカットの女子。背の高い男子。祖父母連れの小学生。違う。違う。違う。
「[cold]五条」
声がした。振り返ると、伏黒がこちらを見ていた。本は閉じていた。
「[cold]仕事してください」
「[sarcastic]してる」
「[cold]入り口を見張るのが仕事ですか」
何も言い返せなかった。
イタドリが客を誘導しながら、横目でちらっと五条を見た。何も言わなかった。ただ、すぐに次の来場者に向き直った。
その無言の配慮が、妙に重かった。
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正午を過ぎた。
廊下のお化け屋敷は盛況で、列が途切れない。イタドリが体を張った客引きのせいで、来場者の半分は笑いながら入ってくる。伏黒の照明と効果音のせいで、出てくる時には全員顔が青い。
ノブコは、来なかった。
五条は昼休みの人が減った隙に、一人で屋上に上がった。
フェンスに手をかけて、校門の方向を見る。この場所だ。転校してきた日からずっと、一人でここに来ていた場所。あの頃は、孤独を誰かに見せたくなかっただけだった。今は、違う。誰かを待っている。
風が吹いた。秋の風だ。少し冷たくて、学校の祭りの匂いがした。焼きそばと綿菓子と、クラスメートたちの声が混ざった、ハルカゼフェスタの空気。
(このまま来なかったら)
頭の中で考えが動きかけた。止めようとした。でも止まらなかった。
ステージまで、あと二時間を切っていた。
「[serious]お前また一人でここにいるの。文化祭なのに」
振り返ると、イタドリが屋上の扉のところに立っていた。手に肉まんを一個持っている。エブリマートの130円のやつだ。もう冬季限定が始まったのか。
「[sarcastic]お前もいるだろ」
「[laughing]俺は五条がいるから来たんだよ!」
言いながら、イタドリは少し顔を赤くして横を向いた。
五条は何も言わなかった。
イタドリが隣に来て、一緒にフェンスの向こうを見た。二人で並んで、ミナミハルカゼ駅の方向を眺めた。何も言わなかった。それでよかった。
それから、二人でお化け屋敷に戻った。
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午後の準備時間。
五条がステージ袖に向かおうとした時だった。
廊下の向こうから、イタドリが小走りで来た。
「[excited]来た! ノブコちゃん来た! 入り口にいる!」
足が、一瞬固まった。
(来た)
胸の中で何かがドンと鳴った。嬉しいのか、怖いのか、わからなかった。たぶん両方だった。
「[serious]……わかった」
五条は歩き出した。ステージの方へ。足は震えていなかった。手が、少し震えていた。
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体育館のステージに、スポットライトが当たっていた。
約800人の観客が座っている。がやがやと声が重なって、会場全体がひとつの生き物みたいに揺れている。3年生枠のステージ。毎年、このハルカゼフェスタのトリだ。ハルカゼジンクス——文化祭のステージで告白して成功したカップルは卒業後も別れない、という学園の都市伝説——を知っている在校生は、ステージを見る目が少し違う。
マイクを握った。
手が震えているのがわかった。
いつもの顔を作ろうとした。自信満々で、格好よくて、誰も傷つけないような顔。「俺」というキャラクターを演じれば、うまくいく。そのはずだった。
——ちゃんと言え。飾らないで。格好つけないで。
伏黒の声が、頭の中で流れた。
五条は、笑顔をやめた。
マイクに口を近づける。
「[serious]……釘崎ノブコ」
会場が少し静かになった。
「[serious]俺はお前に謝らないといけない」
声が、少し震えていた。誰かが「おっ」と言った。
「[serious]転校してきた日に、最悪って言われた。あの時、正直ショックだった。生まれて初めて言われたから」
観客席が静まっていく。
「[serious]でも——嬉しかった。本気で怒ってくれた人間が、初めてだったから」
静寂。
「[serious]俺はずっと、大事なことから逃げてた。格好つけて、遠回りして、傷つく前に先に喋って。それで全部壊した」
五条は客席を見た。800人の顔が、こちらを向いていた。
「[serious]……好きだ」
一言だけ。飾りも付け足しも、何もなかった。
体育館が、静まり返った。
二秒。三秒。四秒。
客席の後方で——動く人影があった。
紫がかった赤のボブカット。鋭い赤色の瞳。斜めに切り揃えた前髪。
釘崎ノブコが、両手で口を押さえていた。
目から、涙がこぼれていた。
それから——叫んだ。
「[angry]あんたって、本当に……本当に最悪ね!!」
ステージへ、まっすぐ走り出した。
観客が道を開けた。左右に分かれて、ノブコの走る道を作った。体育館の後ろから前へ、800人の中を一直線に。
ステージに上がった。
泣きながら、五条の制服の胸元を両手で掴んだ。
「[crying]最悪……最悪よ……でも……」
言葉が続かなかった。
五条は静かにノブコの肩に手を置いた。
その瞬間——体育館が、爆発した。
歓声と拍手と口笛が重なって、天井まで届くような音になった。誰かが立ち上がった。釣られてまた誰かが立ち上がった。
ステージの袖では、鬼塚タケシ先生が腕を組んで天井を見上げていた。
「[serious]……まあ。反省文の成果だな」
隣で朝比奈ユキコ先生がハンカチで目を押さえながら震えた。
「[crying]先生! それだけですか!!」
「[serious]それだけだ」
朝比奈先生が再び泣き崩れた。
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客席で、イタドリが立っていた。
ノブコの走る背中を、ずっと見ていた。
その顔に——一瞬だけ。本当に一瞬だけ、何かが浮かんだ。眉が寄って、唇が結ばれた。緑色の大きな瞳が、細くなった。
でもそれは、一秒も続かなかった。
次の瞬間、イタドリは客席の誰よりも先に立ち上がって、体育館中に響く声で叫んだ。
「[excited]やったじゃねえか、五条!!!」
周りの観客が笑った。笑い声が拍手と混ざって大きくなった。
ステージ袖で伏黒が本を閉じた。小さく、口の端が上がった。
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ステージを降りた二人が、人混みを抜けた廊下の角に出た。
まだ歓声が体育館から聞こえてくる。
「[serious]お前、来てくれたんだな」
ノブコは目を逸らした。まだ涙の跡が残っている。
「[cold]……おばあちゃんが、行ってこいって。あんたの叫び声が近所迷惑だったって」
五条が吹き出した。
「[laughing]……それか」
「[crying]笑わないでよ」
ノブコも、顔をぐしゃぐしゃにしたまま笑った。泣き笑いだった。前髪がぐちゃっとなって、鋭い赤い瞳が潤んでいた。
そこを、朝比奈先生が足早に通り過ぎた。ハンカチを目に押し当てたまま、前を向いたまま。
「[crying]ふ、普通に感動してるだけだからね! 誰も聞いてないから!」
ひとりごちて消えていった。
五条とノブコが顔を見合わせた。
二人同時に、また笑った。
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夕方。
片付けが終わった後、五条は3年A組の教室に戻った。
誰もいない。夕日が窓から差し込んで、黒板とロッカーを金色に染めている。
後ろのロッカーに目をやった。
上にいるサボテン。転校してきた日からずっとそこにいる、あのサボテン。
土が、湿っていた。
さっき水をやったみたいに。今日、誰かが。
五条は伏黒の席に目をやった。机の隅に、小さく折りたたんだメモがあった。広げると、短い文字が並んでいた。
「水やっといた。枯れるところだった。」
それだけだった。
五条はそのメモを見つめた。
ノブコが転校してきた日に言った言葉が、頭の中に流れた。——水をやらないと、枯れるわよ。屋上で伏黒が言った言葉も流れた。——ちゃんと言え。飾らないで。
サボテンは五条自身のことだった。ずっとそうだった。
伏黒は、それを知っていた。だから屋上に来て、あの一言を言った。だからサボテンに水をやり続けた。何も言わずに、ただそれだけをやり続けた。
五条は目を閉じた。一秒だけ。
それから、屋上に向かった。
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夕暮れの屋上に、四人がいた。
カスミガオカの街が夕日で金色に染まっていた。ミナミハルカゼ駅のホームが見える。住宅街の屋根が続く。その向こうに、釘崎家のある通りがある。
イタドリがフェンスに寄りかかって、空を見上げていた。
「[laughing]お前ら付き合うの? まあ、なんとかなるっしょ!」
伏黒が本を開いた。
「[cold]うるさい」
五条はノブコの隣に立っていた。フェンスを二人で掴んで、街を眺めていた。
しばらくして、五条はぎこちなく手を動かした。フェンスから離して、ノブコの方へ。
ノブコがそれを見た。
顔が赤くなった。一秒迷って——その手を、軽く叩いた。
ぱちん、と小さな音がした。
でも、離さなかった。
指が、絡んだ。
五条は前を向いたまま、何も言わなかった。ノブコも前を向いたまま、何も言わなかった。
秋の風が吹いた。校舎の壁に取り付けられた校訓のプレートを通り過ぎて——「風よりも先へ」——四人の背中を吹き抜けていった。
イタドリが空を見上げたまま、小声で自分に言い聞かせた。
「[whispers]……まあ、なんとかなるっしょ」
誰にも聞こえなかった。それでよかった。
街に夕日が沈んでいく。金色がだんだんと橙色になって、それから赤くなった。四人は黙ったまま、それを眺めた。
教室では、サボテンが夕日の中に立っている。小さなメモが机の上に残っている。誰かが水をやったから、今日もそこにいる。