SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ
沖縄で熱い“S”の夜が始まる! 親友のレキとスケートに夢中なランガ。でも最近、幼なじみのキリコの視線が気になって仕方ない。
キリコは“S”に現れるクールで謎めいた女性スケーター。実は彼女、ずっとランガに片思い中。でも、いつもミヤやライバルのシャドウがランガの周りにいて、二人きりになれる瞬間すらない!
そんなある日、“S”のコミュニティでランガの秘密の写真が流出。犯人は一体誰? 疑心暗鬼に陥るランガ。真犯人を見つけるため、キリコはある潜入捜査を決意する。それは、イチャイチャスキンシップ大作戦! 「スケート、教えてくれない?」と頼み込み、ランガに思う存分くっつける特別合宿をスタートさせる!
ドキドキが止まらない二人。ところがそこへ、ランガにベタ惚れな恋敵・アダムが乱入! 「僕の坊やは渡さない」と、キリコにスケートバトルを挑んでくる。勝った方がランガとデート! 崖っぷちレースを制するのはどっち? そして、写真流出の犯人の動機は、笑っちゃうほど切なくて哀れだった!
友情、恋、そして陰謀が渦巻く、新感覚ラブコメSバトル開幕!
SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ - 深夜のSと消えた笑顔の写真
蒸し暑い夜だった。
生ぬるい風が、コンビニの駐車場にたむろする若者たちの髪を揺らす。エブリマート ウルマ中央店の看板の明かりだけが、やけに眩しく感じられた。
「[excited]ランガ!こっちこっち!」
赤みがかった茶髪を逆立てたレキが、大きく手を振っている。いつものバンダナを額に巻き、くりっとした明るい茶色の瞳が活気に満ちていた。スケートボードを抱えた手には、もう一本、布に包まれた板が握られている。
「[gentle]遅くなってごめん。ちょっとスケートパークで練習してて」
ランガがゆっくりと自転車を停める。青みがかった銀髪が、ふわりと夜風に流れた。透き通る水色の瞳が、コンビニの光を受けて星みたいに輝いている。ゆるめのパーカーにダメージジーンズ、そしてボロボロのスケートシューズ。左耳のシルバーピアスが、かすかに揺れた。沖縄ではまず見ない、長身でスリムなハーフのシルエットだ。
「[sarcastic]遅刻の理由がそれって、どんだけスケート馬鹿なわけ?」
猫の耳みたいに跳ねた黒髪を揺らして、小さな影がランガを見上げた。毛先が水色に染まっている。大きな猫目は深い緑色で、今はじとっとランガを睨んでいた。身長はたったの148センチ。中学生らしい華奢な体つきだが、その視線は年上のランガたちを完全に見下している。
「[laughing]ごめんって、ミヤ。でも、新しいボードの調子が良くてさ」
ランガは悪びれもせずに笑った。
「[cold]待ち時間、十五分。アイス三個分ね」
「え?なんで?」
「[angry]待たせた罰に決まってんでしょ!ったく、天然って罪だわ」
ミヤはそう言いながらも、口元がちょっとだけ緩んでいる。彼女の毒舌は、照れ隠しと仲間への信頼の裏返しだ。ランガたちが困っているといつも一番に助けに来る、そんな優しさが根っこにある。でも、素直にそれを出せないから、こんな言い方になる。
レキが、包んでいた布を勢いよく外した。
「[excited]ほら!見てくれ、ランガ!次のデッキだ!」
現れたスケートボードのデッキは、赤と黒の炎が絡み合うデザインだった。一つ一つの線が丁寧に削り出されていて、レキがどれだけ時間をかけたかが一目でわかる。
ランガの瞳が、ぱっと輝いた。
「[surprised]これ、レキが作ったのか?すごい!かっこよすぎる!」
「[excited]だろ?三晩かけて仕上げたんだぜ。ランガの滑りに合うように、反りをちょっと強めにしてさ。グリップテープも新しく張り替えて、トラックも調整して——」
レキが熱心に説明していると、コンビニの入り口から四人ほどの女子スケーターたちが出てきた。彼女たちも今夜の「S」に向かうのだろう。ランガの銀髪に気づいて、ひそひそと囁き合う。
ランガは、彼女たちの視線に気づくと——
にこっと笑って、手を振った。
「[laughing]あ、こんばんは!みんなもSに行くの?」
女子スケーターたちが、キャッと黄色い声を上げる。一人が勇気を出して手を振り返すと、ランガはさらに嬉しそうに笑った。
レキの顔から、笑顔が消えた。
(せっかく三晩も徹夜して作ったのに……)
ランガは、レキの複雑な表情にまったく気づかない。新デッキに何度も触れながら、でも視線は女子たちの去った方向に向いている。
「[excited]レキ、このボード、すごくいい感じ!あ、さっきの人たちもいいボード使ってたね。みんなスケート好きなんだなあ」
「[serious]……お前、それマジで言ってる?」
「え?うん」
レキは大きくため息をついた。ミヤがくすっと笑う。
「[sarcastic]レキ、諦めな。この天然モテ男には一生勝てないよ」
「[embarrassed]モテてないよ!ただ挨拶しただけだし」
「[sarcastic]その無自覚が一番タチ悪いんだっての」
三人は自転車に乗り、夜の街を走り出した。
目指すはキャンプ・ファルコン跡地。ウルマ市の北の丘陵にある、昔の米軍通信施設だ。今はもう使われていない廃墟で、週末の深夜になると、S——ウルマで一番危険で、一番熱狂的な非公式ダウンヒルスケートレース——が開催される。
「S」にはルールがある。一番大事なのは「リアバレ」——本名や学校をネットで晒しちゃダメってこと。それを破ると、この界隈から永久追放だ。あとは一対一の「ビーフ」って決闘があって、勝ったほうが賭けを取る。金、ボード、時には「デート権」なんてものまで。全部、匿名SNSアプリ「ヴォルテクス」で管理されて、フォロワー数がそのままスケーターの格になる。
ランガは、教えてもらったルールをぼんやりと思い返す。でも、細かいことはどうでもよかった。ただ、スケートがしたかった。
風を切って、闇を滑る。それだけで十分だった。
キャンプ・ファルコンの壊れたフェンスをくぐると、すでにたくさんのスケーターたちが集まっていた。スタート地点の「ゲート・ゼロ」——昔の管理棟の屋上だ。標高は85メートル。ここから坂を一気に下る。
ランガが新デッキを地面に置き、軽く滑り出す。
とん、と地面を蹴っただけで、ボードがするすると進む。ランガの体が、スノーボードで鍛えた独特のリズムで揺れる。まるで雪の斜面を滑るように、アスファルトの上を流れる。
周囲のスケーターたちの視線が、いつのまにかランガに集まっていた。
「……なんだあれ」「スノーボードの動きだ」
ランガはその注目を、まったく気にしない。というより、理解していない。
(みんな、スケートが好きなんだなあ)
にこにこしながら、くるりとターンを決める。女子スケーターからまた黄色い声が上がる。
「[excited]みんなスケート好きなんだね!」
レキに笑いかけるランガの瞳は、無邪気そのものだった。
「[cold]……お前なあ」
レキは頭をかきながら、それでもちょっとだけ笑った。この馬鹿みたいに純粋な親友が、憎い。でも——やっぱり、すごい。
レースが始まった。
十数人が一斉に飛び出す。車輪がアスファルトを噛む音が、夜の廃墟に響き渡る。すぐに最初の難関、「ブラックパイプ」に突入した。
廃棄された通信ケーブル用のトンネルで、全長180メートル。完全な暗闇の中を、時速50キロ以上で滑り抜ける。出口の小さな光だけが頼りだ。
ランガは、恐怖を感じなかった。
カナダの雪山で、ホワイトアウトの中を滑り降りた経験がある。視界がゼロでも、風の音と、足の裏に伝わる振動だけでラインを読める。
右、左、そしてまた右。
ボードが壁すれすれを抜ける。周りからスケーターたちが次々に脱落し、減速する中、ランガはまるで昼間みたいに正確にトンネルを抜けた。
次の難関、「デスコーナー」が迫る。崖っぷちの急カーブで、ガードレールも何もない。落ちたら八メートル下の石灰岩に叩きつけられる。過去、三人が骨折した。
誰もがブレーキをかける。でも——
ランガは、むしろ加速した。
(あの岩、あそこから行ける)
崖際のギリギリ、普通なら絶対に踏み込まない小さな突起を、右足で踏み切る。ボードが一瞬浮き、重力に引っ張られて崖の内側に吸い込まれるように着地する。
歓声と悲鳴が同時に上がった。
「[excited]今の見たか!?」「あの外人、やべえ!」
レキは少し後ろから、ランガの背中をじっと見つめていた。
(やっぱ、すげぇよ……)
胸の中に、悔しさと誇りがぐるぐると混ざる。
(お前はどんどん遠くに行く。俺は——それに追いつけるのかな)
ランガがゴールエリア「ピット」に飛び込む。200人近い観客が詰めかけた旧駐車場に、割れんばかりの歓声が響いた。簡易DJブースから、勝者を祝う音楽が流れ出す。
すぐにランガのスマホが震えた。「ヴォルテクス」のランキングが更新され、ランガの名前が一位に躍り出ている。フォロワー数が一気に跳ね上がる。
「[excited]やった!ランガ、一位だ!」
遅れてゴールしたレキが、スマホの画面を指差す。ミヤもすぐに追いついてきて、三人で顔を見合わせた。
「[laughing]すごいね!でも、みんなのおかげだよ」
「[sarcastic]またそれ。調子いいこと言ってんじゃないわよ」
ミヤが毒づきながらも笑顔になる。レキが軽くランガの肩を叩いた。
その時だった。
ミヤの表情が、突然、凍りついた。
「[scared]……ちょっと待って」
彼女が自分のスマホを差し出す。ヴォルテクスのタイムラインが開かれていた。
そこには——
小さな男の子が写った写真があった。ずんぐりとした雪だるまの着ぐるみを着て、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑っている銀髪の子供。
「Sの新星の正体?」
そんなキャプションがつけられて、もう何千回もリポストされていた。コメント欄は嘲笑と好奇であふれている。
「[scared]これ……お前だろ、ランガ」
ランガの顔から、血の気が引いた。
「[whispers]なんで……これ、カナダにあったアルバムの……」
「[serious]誰かが写真を撮って、拡散したってことだ」
ミヤは冷静に分析を始めた。
「[cold]この画角、お前に近い位置から撮られてる。少なくとも、お前の周りにいる奴が犯人だよ。内通者ってやつ」
「[angry]そんなわけない!みんな仲間だろ!」
珍しく、ランガが声を荒げる。でも、レキは——
黙っていた。
さっきまで一緒に笑っていたレキが、突然口数が少なくなり、ランガと目を合わせようとしない。落ち着きなく、自分のボードのグリップテープを指でカリカリと擦っている。
「……レキ?」
ランガが声をかけても、レキは俯いたままだ。
(なんで?なんか、様子がおかしい)
ランガの中で、初めて小さな違和感が芽生えた。この胸のざわつきはなんだろう。レキが自分から目を逸らすなんて、今まで一度もなかったのに。
でも——
ランガの頭は、すぐに違う方向に動いた。
「[gentle]レキ、もしかして腹でも痛いのか?大丈夫?」
ミヤが、ずっこけた。
「[angry]ちっがーう!!なんでそうなるのよ、あんたほんと空気読めないわね!!」
「[surprised]え、でもレキ、顔色悪いし……」
「[angry]それはそうだけど、理由がちがうでしょーが!!」
ミヤの怒鳴り声が、夜の廃墟にこだまする。
でも、レキはそれでも一言も喋らなかった。ただ、じっと地面を見つめて、唇を噛みしめている。
ランガは、わけがわからず首を傾げた。
(なんか、みんな変だ。でも、よくわかんないや)
遠くの方で、次のレースのスタートを告げるカウントダウンが聞こえる。蒸し暑い沖縄の夜風が、三人の間をすり抜けていった。
誰かが笑い、誰かが叫び、誰かが黙り込む。
Sの夜は、まだ終わらない。
疑心暗鬼の影が、静かにランガの心の片隅に落ちた。でも、それが何を意味するのか、彼にはまだわからなかった。