SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ
沖縄で熱い“S”の夜が始まる! 親友のレキとスケートに夢中なランガ。でも最近、幼なじみのキリコの視線が気になって仕方ない。
キリコは“S”に現れるクールで謎めいた女性スケーター。実は彼女、ずっとランガに片思い中。でも、いつもミヤやライバルのシャドウがランガの周りにいて、二人きりになれる瞬間すらない!
そんなある日、“S”のコミュニティでランガの秘密の写真が流出。犯人は一体誰? 疑心暗鬼に陥るランガ。真犯人を見つけるため、キリコはある潜入捜査を決意する。それは、イチャイチャスキンシップ大作戦! 「スケート、教えてくれない?」と頼み込み、ランガに思う存分くっつける特別合宿をスタートさせる!
ドキドキが止まらない二人。ところがそこへ、ランガにベタ惚れな恋敵・アダムが乱入! 「僕の坊やは渡さない」と、キリコにスケートバトルを挑んでくる。勝った方がランガとデート! 崖っぷちレースを制するのはどっち? そして、写真流出の犯人の動機は、笑っちゃうほど切なくて哀れだった!
友情、恋、そして陰謀が渦巻く、新感覚ラブコメSバトル開幕!
SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ - 坊やを賭けろ!狂気の王者、ビーフ宣言
ムーンビーチの夕日は、まだ瞼の裏に焼きついていた。
あの後、キリコは家に帰る道すがら、ずっとランガの言葉を繰り返し思い出していた。
(『ありがとな、キリコ』……か)
彼女は自分の部屋の壁に貼ったランガの写真を、布団の中からじっと見つめる。こっそり撮った、スケートに夢中になっている彼の横顔。水色の瞳が、コースの先だけを見据えている。
「[gentle]……誰にも渡さないんだから」
ポツリと呟いて、彼女は枕に顔を埋めた。
日曜の夜。蒸し暑さは相変わらずで、キャンプ・ファルコン跡地の廃格納庫「ハンガー7」には、むっとするような埃っぽい空気が溜まっていた。天井の壊れた窓から、月明かりが細い帯になって、コンクリートの床に落ちている。
キリコは今日も、高い位置でポニーテールに結った髪を揺らしながら、ランガのすぐ後ろに立っていた。正確には、ぴったりと背中にくっつく距離に、だ。
「[gentle]重心の移動、まだちょっとだけブレがあるわ。もっとこう、お腹の奥に力をためる感じで」
彼女はそう言いながら、ランガの腰にそっと手を回した。パーカー越しに伝わる彼の体温が、手のひらにじんわりと広がる。
(今日こそ、今日こそ気づいて……!)
キリコの心臓は、自分でもバカみたいだと思うくらい大きな音を立てていた。顔が熱い。耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。
「[surprised]お前、またなんか熱くね?やっぱ風邪ひいてんじゃねえの?」
ランガが、肩越しに振り返って言った。
真顔だった。完全に、純粋に、幼なじみの体調を心配している顔だ。キリコは心の中で、ずっこける。
「[angry]ち、違うから!これは、その、やる気で体温が上がってるだけで!」
「[gentle]そうか?無理すんなよ。昔からお前はすぐくっついてきて、寂しがり屋だったもんな」
ランガはへらへらと笑いながら、また前を向いた。キリコはもう、反論する気力もなくして、彼の背中にそっと額を押し付ける。
(なんでなの……なんでわかんないのよ……)
キリコが小さくため息をついた、まさにその時だった。
ギィィィ……
ハンガー7の巨大な鉄扉が、突然、悲鳴のような音を立てて開き始めた。
キリコの体が、ビクンと強張る。彼女は即座にランガの腕を掴み、自分の後ろにかばうように一歩前に出た。切れ長の黒い瞳が、鋭く闇の奥を睨む。前回の謎の人影が、脳裏をよぎる。
(まさか、あの時の……!)
だが、現れたのは、彼女の想像をはるかに超えた存在だった。
月明かりの中に、ぬるりと人影が浮かび上がる。長身。185センチはあるだろう。長い銀髪をオールバックにし、うなじで一つに結んでいる。顔には、白く無機質な仮面。指にはめた無数の銀のリングが、月明かりを反射してギラリと光った。
Sの絶対王者、アダム。フォロワー9800人を誇る、界隈の生ける伝説だ。
彼が一歩、足を踏み入れるだけで、格納庫の空気が一変した。まるで、目に見えない重圧がのしかかってくるようだ。仮面の奥の金色の瞳が、ギョロリと動き、獲物を値踏みするように二人を捉える。
キリコは、背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。
「あ……」
だが、その異常なプレッシャーを完全に無視して、ランガが間の抜けた声を上げた。
「[excited]あ、ここ使いたかった?ごめん、あと三十分くらいで終わるから、もうちょっと待ってもらえますか?」
ランガは、夜の公園でブランコの順番を待つような気軽さで、アダムに手を合わせて頼んだ。ハンガー7に、奇妙な沈黙が落ちる。
アダムの動きが、ピタリと止まった。仮面の下の金色の瞳が、驚いたようにランガを見開く。
キリコは頭を抱えたくなった。
(こ、こいつ……空気読めなさすぎでしょ……!)
アダムは一拍置いてから、ククク、と低く笑った。その笑い声は、嬉しそうで、同時にどこか背筋が寒くなるような響きがあった。
「[gentle]……美しい。君が、噂の『雪男』くんだね」
アダムは、まるで舞台役者のような大げさな仕草で両手を広げ、ランガにゆっくりと近づいた。キリコはとっさに二人の間に割って入る。
「[cold]それ以上、近づかないで」
彼女の声は、低く、凍りつくようだった。しかしアダムは、彼女の存在などまるで眼中にないかのように、ランガの顎にそっと手を添えた。
「[excited]ああ……ヴォルテクスの映像で見るより、ずっとエクセレントだ。私の可愛い坊やを、こんな暗くて寂しい場所で独り占めとは、君はひどい子だね」
アダムの金色の視線が、キリコに向けられる。仮面越しでもわかる、明確な敵意と、狂気じみた独占欲。キリコの全身の毛穴が、ゾワリと開くのを感じた。
「[scared]さ、触らないで!離れてください!」
キリコがランガの腕を引っ張り、アダムから引き離す。
一方、問題のランガはというと、キョトンとした顔で二人を見比べていた。
「[surprised]知り合い?キリコ。てか、すげー仮面。本格的だな。どこで買ったの?」
純粋に、好奇心キラキラの目でアダムに質問をぶつけるランガ。アダムの動きが、また一瞬、止まった。キリコも、口をポカンと開ける。
(この、天然バカ……!)
キリコは心の中で叫んだ。アダムは仮面の下で、低く、面白そうに笑った。
「[laughing]……ククッ、いいね、君は本当に面白い」
そう言うと、アダムは懐からスマートフォンを取り出した。慣れた手つきで画面をタップし、ヴォルテクスのライブ配信機能を起動する。カメラが自分に向けられ、瞬時に何百人ものフォロワーが配信に雪崩れ込んでくるのがわかった。
「[serious]さて、前座はここまでだ」
彼の声のトーンが、急に冷たく、硬質なものに変わる。遊びは終わりだと、告げるように。
「S界隈の諸君、そして、そこのクールなお嬢さん。私から、公式なビーフを宣言する」
キリコの顔から、さっと血の気が引いた。ランガは、首をかしげてスマホの画面を覗き込む。
「私と、君。勝者が得るものは——坊やとの、デート権だ」
アダムの言葉が、廃格納庫に響き渡った。
ヴォルテクスのコメント欄が、堰を切ったように爆発する。
『えwwwデート権てwww』
『アダムさんまた何かやってるwww』
『おいおいおい、あの新人の取り合いかよ!』
『ビーフだビーフだー!』
瞬く間に、何千ものコメントが画面を埋め尽くしていく。S界隈は、たった今、アダムが投下した爆弾で大騒ぎになっていた。
キリコは、拳をぎゅっと握りしめた。怒りで、手が震える。ランガが、物扱いされたことへの、純粋な怒りが胸の奥から燃え上がった。
「[serious]……いいわ。そのビーフ、私が受ける」
彼女は、アダムのスマホのカメラを真っ直ぐに見据えた。その黒い瞳に、もう迷いはない。
「私が勝つ。あなたに、ランガは渡さない」
彼女の宣言に、コメント欄がさらに沸騰する。
『うおおおお!受けたあああ!』
『キリコさんカッケー!』
『恋のバトルじゃーん!!!』
アダムは満足そうに、仮面の下で口元を歪めた。
「[gentle]よろしい。決まりだ」
その時、それまでずっと画面を覗き込んでいたランガが、困ったように口を開いた。
「[surprised]え、ちょっと待って。俺って、ビーフの賭け条件になれんの?なんかルール的にどうなの、それ?」
純粋な、本当に純粋な疑問だった。アダムとキリコは、同時にランガの顔を見る。
(そこ!?)
キリコは心の中で、またずっこけた。アダムも一瞬だけ動きを止め、それから堪えきれないというように、低く笑い声を漏らした。
「[laughing]ククク……クハハハハ!」
彼の笑い声が、がらんどうの格納庫に不気味に反響する。
ビーフの宣言を終えたアダムは、配信を切ると、背を向けてゆっくりと闇の中へ歩き出した。しかし、鉄扉の前で、彼は一度だけ立ち止まった。
仮面越しに、金色の瞳がランガだけを振り返る。
「[whispers]楽しみにしているよ、坊や。次に会う時は、君は私だけのものだ」
その言葉は、甘く、そして恐ろしいほど冷たい囁きだった。視線に宿る、狂おしいまでの執着の光。キリコはそれを見逃さなかった。彼女の全身を、戦慄が駆け抜ける。
(あの目……本気だ)
鉄扉が、再びギィィと音を立てて閉まった。
アダムの姿が消え、重苦しい沈黙が訪れる。遅れて、ランガがポツリと言った。
「[gentle]すげえスケーターだったな。でも、なんか距離近くてちょっと怖かったよ」
キリコは、大きく息を吐いた。そして、くるりとランガに向き直る。
「[serious]ランガ」
彼女は、珍しく感情をあらわにして、彼の両肩を掴んだ。
「あの人に、絶対に近づいちゃダメ。何を言われても、一人で会おうとしないで」
「[surprised]なんで?すごいスケーターだったじゃん」
「[angry]だから危ないの!」
キリコの大声に、ランガは目を丸くした。キリコはすぐに少し言い過ぎたと思い、掴んだ肩から手を離す。そして、自分の胸の前で両手をぎゅっと握りしめながら、伏し目がちに、しかしハッキリとした声で続けた。
「[gentle]……だから、私が絶対に勝つ。あなたを、誰にも渡さない。絶対に、誰にも」
彼女は顔を上げ、まっすぐにランガを見つめた。その黒い瞳は、真剣そのものだった。ランガは、彼女のその目の強さに、心臓のあたりがドキリと鳴るのを感じた。
(なんだ……よくわかんねえけど、キリコ、すげえ本気だ)
彼は、その言葉の本当の意味を理解できていない。でも、彼女の中に燃える、まっすぐな炎の熱さだけは、確かに感じ取っていた。
「[gentle]……わかった。お前がそこまで言うなら、気をつけるよ」
ランガがそう言うと、キリコは小さく、ほっとしたように息をついた。
「[gentle]次の特訓は、もっと厳しくいくわ。アダムに勝つためには、今のままじゃダメ」
彼女の「愛のボディタッチ作戦」は、恋のバトルへと加速する。
キリコの片思いは、誰にも渡さないという強い決意に変わった。絶対王者アダムという巨大な壁を前に、彼女の静かな闘志は、今、確かに火を点けられたのだ。
ハンガー7の天井から差す月明かりだけが、二人のスケーターを、これから始まる激しい嵐の前のように、静かに照らしていた。