SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ
沖縄で熱い“S”の夜が始まる! 親友のレキとスケートに夢中なランガ。でも最近、幼なじみのキリコの視線が気になって仕方ない。
キリコは“S”に現れるクールで謎めいた女性スケーター。実は彼女、ずっとランガに片思い中。でも、いつもミヤやライバルのシャドウがランガの周りにいて、二人きりになれる瞬間すらない!
そんなある日、“S”のコミュニティでランガの秘密の写真が流出。犯人は一体誰? 疑心暗鬼に陥るランガ。真犯人を見つけるため、キリコはある潜入捜査を決意する。それは、イチャイチャスキンシップ大作戦! 「スケート、教えてくれない?」と頼み込み、ランガに思う存分くっつける特別合宿をスタートさせる!
ドキドキが止まらない二人。ところがそこへ、ランガにベタ惚れな恋敵・アダムが乱入! 「僕の坊やは渡さない」と、キリコにスケートバトルを挑んでくる。勝った方がランガとデート! 崖っぷちレースを制するのはどっち? そして、写真流出の犯人の動機は、笑っちゃうほど切なくて哀れだった!
友情、恋、そして陰謀が渦巻く、新感覚ラブコメSバトル開幕!
SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ - 崖っぷちの代打宣言!ランガ、キリコのために一人でビーフに乗り込む
土曜の朝。ランガは一睡もできずに夜を明かした。昨夜、キリコに放った「重かった」という言葉が、ずっと頭の中でぐるぐる回っている。カーテンの隙間から差し込む光がやけにまぶしくて、目がしょぼしょぼした。
「[whispers]ああ、クソッ……」
携帯を手に取る。キリコのアカウントを開いて、何度もメッセージの入力を試みた。でも、どう書いていいかわからなくて、指が止まる。結局、送れたのは「ごめん」の三文字だけだった。
既読がつかない。
不安が胸の中でぐるぐると渦巻く。ランガはスケートボードを手に取ると、いてもたってもいられずに家を飛び出した。
向かったのは、ウルマ市中央の商店街近くにあるキリコの家だ。1階が整体院になっている、あの「コンドウ整体」の前に立つ。深呼吸をして、サッシの引き戸をガラガラと開けた。
「[gentle]すみません!キリコいますか!?」
カウンターの奥から顔を出したのは、キリコの父親だった。白衣を着た、物静かな中年の男性だ。彼は困ったように眉を下げて、首を横に振った。
「[sad]……ああ、ランガくんか。キリコなら今日は朝早くに出かけたきりでね。携帯も家に置きっぱなしみたいで、連絡が取れないんだよ」
「[surprised]え……どこに行ったか、わからないんですか?」
「[gentle]わからないんだ。でも、今朝は特に元気がなかったな。何か心当たりはあるかい?」
心当たりしかない。ランガの胸が、今にも押しつぶされそうに痛む。
結局、何も手がかりはなく、ランガは整体院の外に出た。南国の日差しがじりじりと肌を焼く。街には観光客の笑い声が溢れているのに、ランガの周りだけ空気が重くのしかかっていた。
(俺は、どうすればいいんだ)
動けないまま、スマホの画面を覗く。指が無意識に「ヴォルテクス」を開いた。
すると、タイムラインにはいつのまにか一つのスレッドが立っていた。『【悲報】キリコ、今夜のビーフ棄権確定か?』——コメント数は、もう300を超えている。
『wwwやっぱりアダム様とやるの怖くなったんだろ』
『相手が悪すぎたな。これで坊やはアダム様のものになりました〜』
『ざまあwww』
文字のひとつひとつが、今はただ暴力みたいに突き刺さってくる。
(違う、キリコは怖くなんかない)
ランガはグッと唇を噛みしめた。
どこをどう歩いたのか、気がつくと、スケートショップ「デミグラス」の前にいた。赤い看板が、今日はやけに色あせて見える。ドアを開けようとして——手が滑った。
ガツン!
「[surprised]いってぇ!?」
思い切りガラス扉に額をぶつけて、後ろにのけぞった。店の奥から、店主のオカがあきれ顔で出てくる。
「[sarcastic]お前なぁ、入るなら入れ。入らんのなら下がっとけ。ガラスが割れる」
「[sad]す、すみません……」
ランガがヘルメットを抱えてうつむいていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「[sarcastic]あのさぁ。まだここで突っ立ってるわけ?」
振り返ると、猫の耳みたいに跳ねた黒いショートヘア。毛先だけ青く染まった髪が、風に揺れている。ミヤが、深い緑色の猫目でランガをじろりと見上げていた。スケートバッグには、いつものネコのぬいぐるみキーホルダーがぶら下がっている。
「ミヤ……」
「[cold]ヴォルテクスで話題になってるよ。お前が昨夜キリコに言った言葉。『重かった』って、お前が言ったんだってね」
ランガは言葉を返せなかった。
ミヤは、人差し指を立てて、グイッとランガの胸を突く。
「[angry]お前が傷つけたんだろ。なのに探しもせずに突っ立ってるだけ?最低じゃん」
いつもの軽口とは違った。本当に怒っている、感情のこもった声だった。
「……そうだよな。俺、ほんとに最低だ」
ランガがうつむいたまま呟く。アスファルトの上に、自分の情けない影が張り付いていた。
その時だった。
「[crying]ランガ……!!」
通りから、レキが走ってきた。赤みがかった茶髪はぐしゃぐしゃに乱れて、いつもの元気なバンダナもずり落ちている。目は泣きはらしたみたいに真っ赤だった。
「[scared]俺、俺ずっと……ランガに、嘘ついてた……!」
レキはその場に立ち止まると、肩で息をしながら、震える声で続ける。
「写真は、俺が流したんじゃない。でも、スケートでどんどん先に行くお前が、羨ましくてたまらなかった。悔しかったんだ……。だから、距離を置いた。写真流出の時も……こんな気持ちの俺が、犯人じゃないなんて言えるわけなかった……!」
レキは、涙をぼろぼろとこぼしながら、深く頭を下げた。
「[crying]本当に、ごめん……!」
ランガは、レキの肩を両手でグッと掴んだ。
「[serious]そんなことで、俺たち終わったりしないよ」
「……ランガ」
「[gentle]だって、お前、俺の親友だろ。嫉妬してたっていいよ。それだけスケートが好きなんだろ?」
ぽかんと口を開けて、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔でレキが見上げる。
「[laughing]……お前さ、ほんと天然すぎて腹立つわっ」
レキはそう言って、泣き笑いの顔でランガの肩を小突いた。
ここで、ミヤが乾いた拍手をひとつ。
「[sarcastic]感動の再会は結構。で、キリコはどうするわけ?今夜のビーフ、このままじゃ不戦敗だよ」
はっとして、ランガは顔を上げた。胸の奥で、キリコのいろんな顔が点滅する。
——ハンガー7での密着特訓。手が触れ合うたびに、照れくさそうにしていた横顔。
——ブラックパイプでライトが消えて、壁に叩きつけられたあの夜。怪我をして、それでもランガを心配した彼女の目。
——そして、昨日の土砂降りの中で、「私の気持ちなんて、どうせ届かない」と泣き叫んだあの声。
(俺はずっと、キリコに助けられてたのか……)
ランガは、ぽつりと呟いた。
「[gentle]キリコってさ……ずっと、俺のそばにいてくれてたんだよな」
「[sarcastic]え、なに、今更気づいたの?」
「[serious]俺……キリコのことが、好きなのかもしれない」
真顔で言うランガ。その顔は、自分で何を言ったのか数秒遅れて理解したみたいに、急にボッと赤くなった。
ミヤは、わざとらしく大きなため息をついて、額に手を当てる。
「[sarcastic]……今更かよ。まったく、何話かかってんだ」
レキも、涙を拭いながら、苦笑いだ。
「[laughing]お前が気づくの、遅すぎなんだよな〜。ほんと、バカだよランガは」
ランガは、気恥ずかしさを隠すみたいに、ヘルメットをグイッと被り直した。耳の先がまだ真っ赤だ。
そして、ゆっくりと、でも迷いのない声で言った。
「[serious]だから、俺が行く。キリコの代わりに、アダムとビーフをする」
ミヤの目が、キラリと光った。
---
深夜。キャンプ・ファルコン跡地の「ピット」は、モニターの白い灯りと、ざわめく声で溢れていた。今夜のビーフを一目見ようと集まった観客は200人を超えている。ヴォルテクスのライブ配信には、視聴者数3000人の数字が表示されていた。
コメントが画面を流れる。
『これ棄権じゃね』
『もう始まる時間だぞ』
『やっぱ女じゃ無理だったんだよwww』
その時、スタート地点の「ゲート・ゼロ」に、すっと人影が現れた。観客のざわめきが、波が引くように静まり返る。
青みがかった銀色の長い髪が、夜風にふわりと揺れる。透き通る水色の瞳が、ピットの灯りをまっすぐに見据えていた。小脇には、一つのスケートボードを抱えている。
——ランガだ。
「[surprised]おい、あれランガじゃないか!?」
「なんで坊やが一人で!?」
どよめきの中、ゲート・ゼロの奥から、ゆっくりとした足音が聞こえた。
長い銀髪をオールバックにし、指にはいくつもの銀のリング。仮面の奥の金色の瞳が、ギラギラとランガだけを捉えている。狂気の絶対王者。アダムだ。
「[gentle]おや、坊や。キリコちゃんはどうしたんです? まさか、私とのデートが恥ずかしくなって逃げ出したとか?」
低く、喉を鳴らすような笑い声。
ランガは一歩も引かずに言い放った。
「[serious]キリコの代わりに、俺が出る」
アダムの仮面が、かすかに動いた。
「賭けは、俺のSランキングと、ヴォルテクスのアカウントの全削除だ。俺が負けたら、もうSには一切顔を出さない」
観客のどよめきが、一瞬で爆発的な歓声に変わる。誰もが凍りつくような条件だ。
アダムは数秒だけ黙り込んだ。仮面の奥の金色の目が、ゆっくりと細められる。
「[gentle]面白い。実にエクセレントだよ、坊や」
アダムは両手を広げて、芝居がかった声を張り上げた。
「[excited]その条件、のった!! フォロワー9800人の前で公言しよう——今夜、この場で坊やを完全に私だけのものにする!」
その瞬間、ヴォルテクスの配信が数秒間フリーズした。あまりのアクセスにサーバーが悲鳴を上げている。コメント欄が爆発的に埋まっていく。
『wwwwwwww』
『え、展開が読めないwww』
『ランガ君メンタル鋼すぎるだろwww』
ビーフが、正式に成立した。
ピットの片隅で、レキが不安そうにそっとミヤに囁く。
「[whispers]ミヤ……ごめん、実はさ、ランガが持ってるあのボード、昨夜の今朝に俺が急ごしらえで修繕したやつなんだ。ブラックパイプの途中までしか……たぶん持たない」
「[scared]はあ!? なんでそれを早く言わないんだよバカ!」
「[sad]だって、本当に時間がなかったんだ……!」
「[angry]もういい、黙って。今は絶対にランガに言うな! 集中が切れたらあいつ、本当に命を落とすよ!」
そんなことも知らず、ランガは静かにゲート・ゼロに立っていた。
夜の風が、彼の銀色の髪を優しく撫でる。目の前には、伝説の「ブラックパイプ」——全長180メートルの完全な暗闇。そして、その先には絶対王者アダムがいる。
足元のボードが、小さく軋んだ。
ゴクリ、と誰かの唾を飲み込む音が、静寂の中で妙に大きく響いた。