SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ
沖縄で熱い“S”の夜が始まる! 親友のレキとスケートに夢中なランガ。でも最近、幼なじみのキリコの視線が気になって仕方ない。
キリコは“S”に現れるクールで謎めいた女性スケーター。実は彼女、ずっとランガに片思い中。でも、いつもミヤやライバルのシャドウがランガの周りにいて、二人きりになれる瞬間すらない!
そんなある日、“S”のコミュニティでランガの秘密の写真が流出。犯人は一体誰? 疑心暗鬼に陥るランガ。真犯人を見つけるため、キリコはある潜入捜査を決意する。それは、イチャイチャスキンシップ大作戦! 「スケート、教えてくれない?」と頼み込み、ランガに思う存分くっつける特別合宿をスタートさせる!
ドキドキが止まらない二人。ところがそこへ、ランガにベタ惚れな恋敵・アダムが乱入! 「僕の坊やは渡さない」と、キリコにスケートバトルを挑んでくる。勝った方がランガとデート! 崖っぷちレースを制するのはどっち? そして、写真流出の犯人の動機は、笑っちゃうほど切なくて哀れだった!
友情、恋、そして陰謀が渦巻く、新感覚ラブコメSバトル開幕!
SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ - 土砂降りの告白と、届かなかった言葉
金曜の放課後。ランガの頭の中には、昨夜ミヤから届いたヴォルテクスのメッセージがこびりついて離れなかった。『投稿に使われたアカウント、Sへの参加登録時のIPアドレスと一致する登録者が一人いる』——あの文字を思い出すたびに、胸の奥がぎゅっと冷たくなる。
潮の香りを含んだ湿った風が、ウルマの街を吹き抜けていた。遠くの空が、灰色の雲に覆われ始めている。ランガはスケートボードを抱え直し、デミグラス近くの小さな公園へと急いだ。ベンチで一人、猫の耳のように跳ねた黒髪のショートヘアを揺らしながら、ミヤがスマホを操作しているのが見える。
「ミヤ」
ランガが声をかけると、ミヤは顔を上げ、深い緑色の猫目でじろりと彼を睨みつけた。ベンチに座りながら、ミヤはいつものように軽く毒づく。
「[sarcastic]遅いよ、カナダからの国際郵便かと思った」
「[surprised]え、ごめん……てか、カナダからの郵便って、結構早いよ」
「[sarcastic]そういうツッコミ待ちじゃないから。……まあいいや、座りなよ」
ランガがベンチに腰を下ろすと、ミヤは自分のスマホを彼のほうにずいっと差し出した。画面には見慣れたヴォルテクスのログが、闇色の背景に細かく並んでいる。
「[serious]昨夜のメッセージの続きね。写真の投稿に使われたアカウント、接続元のIPアドレスを追跡して、Sの参加登録データと照合したんだ」
ミヤの指が、すいっと画面をなぞる。ウィールがコンクリートを噛むような、サラサラという乾いた音がデータの流れを可視化しているようだった。だが、小さな天才の次の言葉が、ランガの脳内の音を一瞬で奪い去る。
「[cold]一致した登録者は一人。そのIDは——レキの登録IDと同じだった」
どくん。
ランガは落としそうになったスマホを、慌てて両手で握りしめた。指先が、かすかに震えている。遠くで放課後のチャイムが鳴ったような気がしたが、耳の奥で鼓動がうるさすぎて、何も聞こえない。
(レキが……?)
親友の笑顔が、頭の中で何度も点滅する。ニカッと笑う無邪気な顔、スケートボードを削る真剣な顔、そして昨日、自分を見るなり逃げ出した、あの怯えた背中。
「[scared]そんな……だって、レキは……違う、ほんとにレキなのか?」
「[sarcastic]僕は事実を言っただけ。判断するのはお前の仕事でしょ」
突き放すような口調で言いながら、ミヤはランガから視線を外さなかった。その緑色の猫目は、「逃げるなよ」と無言で彼を突き刺している。ランガは呼吸の仕方を忘れたかのように、口を開けたまま固まっていた。
——その時だった。
グゥゥゥゥ。
間抜けな破裂音が、緊張に凝り固まった空気をぶち壊した。ミヤの腹の虫だ。
「…………」
ミヤの頬が、ほんのりと赤らむ。彼はすぐに顔を背けて、あらぬ方向を睨みつけた。
「[angry]な、なんか文句あるわけ!?中学生は三時のおやつが必要なんだよ、どうせバカにしてんだろ!」
その必死の言い訳に、ランガの緊張も一瞬だけ解けた。でも、笑いは出てこない。彼はうつむき、地面のアスファルトの割れ目をじっと見つめた。
「[sad]……今日、レキに会いに行く。俺、ちゃんと話すよ」
ポツリ、と呟かれたその言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。ミヤはそれに答えず、立ち上がる。
「[gentle]ま、泣き言は聞かないからね。……アイスでも食って頭冷やせ、バカ」
そう言い残して、ミヤは公園を出て行った。残されたランガの手の中で、スマホの時刻表示が、じわじわと夜へ近づいていく。
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夜。
その数時間後、雨が降り出した。最初はポツリポツリと、次第にザアザアと、まるで誰かがバケツをひっくり返したかのような土砂降りになる。ウルマの夜の街は、暗い海に沈んだように静まり返っていた。
デミグラス裏の路地。閉店間際の蛍光灯が、細く雨の糸を照らしている。ランガはずぶ濡れで、ただそこに突っ立っていた。水色の瞳の奥で、不安と怒りが濁流のように渦巻いている。
ギイ、と裏口の扉が開いた。
赤みがかった茶髪を逆立てたシルエットが、ゴミ袋を手にしたまま固まる。雨の向こうに立つ親友の姿を見つけたレキの顔が、引き攣るように歪んだ。
「[surprised]ラ、ランガ……!? なんで、こんなとこで——」
「[sad]レキ」
ランガは一歩、前に出た。雨音で掻き消されそうな、震える声だった。
「お前が……写真を流したのか?」
直球だった。ごまかしようのない、一直線の問いかけ。レキの腕から、ゴミ袋がドサリと落ちる。雨が、二つの影を容赦なく叩きつけた。
「[scared]ち、違う……俺は——」
レキは言いかけて、唇を噛みしめたまま、ぎゅっと目を逸らした。肯定も、否定も、しない。ただ、痛みをこらえるように、拳を握りしめてうつむくだけだった。
(なんで否定しねえんだよ……)
ランガの胸の中で、何かが急速に冷えていく感覚がした。
「[angry]なんでだよ!!違うなら違うって言えよ!!俺たち、親友だったじゃねえか!!」
ランガの絶叫が、路地に響き渡る。雨のカーテンが二人を隔てて、まるでレキを守る壁のように見えた。レキの本名や学校名を晒されかねない「リアバレ」の恐怖。才能への嫉妬と、親友への後ろめたさ。でも——今のレキは、何も言えずにいる。言いたくても言えない真実が、彼の喉を内側から締め上げているのだ。
「[sad]俺は……くそっ……ちげえんだ、ランガ……」
レキはそれだけを絞り出して、きつく目を閉じた。嘘がつけない正直者だからこそ、苦し紛れの言い訳すらできない。彼は自分が犯人ではないと知っている。しかし、それに近い何かを抱えている自分がこの場で否定する資格などないと、心のどこかで思っていた。
ダダダダダッ!
その時、水しぶきを蹴散らす軽快な足音がした。二人が振り返ると、腰まである長い黒髪を雨に濡らしたまま、キリコが切羽詰まった表情で走り込んでくる。傘も持たずに飛び出してきたのか、白いブラウスが肌に張り付いている。彼女は二人の間にするりと割って入った。
「[angry]やめて、こんな雨の中で喧嘩なんてしないで!お願い、落ち着いて話そう!」
キリコの黒い瞳が、懇願するようにランガを見上げる。左のこめかみにある小さな三日月形の傷跡——子どもの頃、ランガと遊んでいてできた傷——が、雨のしずくで濡れている。その顔を見た瞬間、ランガの中で何かがブチリと切れた。
(まただ。またキリコは、間に入ってくる)
自分でも驚くほど冷たく、疲れ果てた声が口から出た。
「[cold]……キリコは、いつもこうだよな」
キリコの体が、ピクリと固まった。
「お前はずっと……近くにいてくれたけど。正直、すごく重かった」
言った瞬間、ランガは気づいた。自分の口が、取り返しのつかないことを言ったと。キリコの切れ長の瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。雨が、彼女の頬を伝い落ちる。それが雨なのか、涙なのか、もう区別がつかない。
「もう……キリコには頼らない」
「…………っ」
キリコは声も出なかった。彼女のすべて——長年の片思い、あの「愛のボディタッチ作戦」のドキドキ、ハンガー7での特訓の日々、アダムから必ず守ると誓った決意。その全部が、目の前で音を立てて崩れ落ちていく。
「[crying]……重い、って」
キリコの唇から、震えた吐息が漏れた。それでも彼女は、口元をギュッと歪め、ランガをただ見る。視界が、じわりと歪む。彼女は一歩、後ずさった。
「[crying]私の気持ちなんて……どうせ、届かないんだ!」
彼女の声が、雨音を切り裂いて路地に響いた。大粒の涙が、彼女の目から溢れ出る。次の瞬間、キリコは背を向けて闇の中へ駆け出した。雨足がますます強くなる。
「[scared]キリコ、待って——!」
ランガが反射的に追いかけようとする。だが、レキが一歩前に立ちはだかった。無言で、しかし有無を言わさぬ強さで、彼の行く手を遮る。
「どけよ、レキ……!」
ランガはレキの肩を掴もうとした。だが、その瞬間、レキの目の奥にある深い自責の念に気づき、手が止まった。レキは俯いたまま、ちがうんだ、と唇だけで呟いていた。
二人の動きが止まった一瞬の間に、キリコの背中は土砂降りの闇に完全に飲まれて、もう見えなくなっていた。
ランガは雨の中で立ち尽くした。心臓を、誰かに思い切り握られているみたいに息が苦しい。
(俺、何を言ったんだ……)
今さら、止められない言葉の重みが、どんと胸にのしかかってきた。キリコの泣き顔が、瞼の裏に張り付いて離れない。
「[whispers]……クソ」
レキはそう一言だけ吐き捨てると、何も言わずに店へと戻っていった。残されたのは、一人のランガだけだ。
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それから数時間後。一度家に帰り、着替えたランガの足は、無意識のうちにキャンプ・ファルコン跡地へ向かっていた。雨はまだ、優しくはないが少しだけ弱まっている。
ピットでは、明日のアダム対キリコのビーフに向けて、数人だがざわつく気配が漏れ始めていた。しかし、当のランガはゲート・ゼロ手前の暗がりで、ただ立ち止まっている。
キリコに、謝りたい。
レキに、ちゃんと話を聞きたい。
でも、今はそれが何もできない。何もかもをぐちゃぐちゃにしたのは、自分だ。
「[gentle]……一人で来たの?かわいいね、坊や」
背後の闇から、甘く、そしてぞっとするほど低い声がした。振り返ると、あの仮面。銀の長髪がオールバックで濡れた夜気に揺らめき、金色の瞳がギラリとランガを値踏みする。アダムだ。
「[gentle]キリコが棄権なら、ビーフは不成立になる。そうなれば、君を賭けた決闘もここで終わりだ」
アダムの声は、まるで哀れむようでいて、口元だけは笑っているように見える。
「[serious]……俺が出る。キリコの代わりに」
「[surprised]おや?」
「[serious]これはルール違反だよ。賭け条件の勝者は、アイツと決めたはずだ」
「[cold]なら、俺とビーフしろ。別の賭けで」
その言葉の直後——。
ガコン。
間近の自販機が、妙に間抜けな音を立てて缶を落とした。夜の廃墟に、思いがけない日常の音が反響し、二人の張り詰めた沈黙を一瞬だけ、情けなくも崩してしまう。
しかし、アダムの仮面の奥の瞳だけは、決して笑っていなかった。
「[gentle]……面白い。いいだろう、坊や」
アダムはゆっくりと、芝居がかった仕草でランガに背を向ける。
「[whispers]条件を考えておくよ。君を完全に、私だけのものにするためのね」
その声だけが、湿った夜の闇に染み込んで消えた。
ランガは一人、ゲート・ゼロの前に取り残される。キリコに謝りたいという痛み。レキへの疑念と、それ以上の信じたいというせめぎ合い。そして明日、絶対王者アダムとビーフをするという現実。
三つの熱が胸の奥でぐちゃぐちゃに溶け合い、彼はただ、廃墟を見つめていた。雨上がりの雲の隙間から、一筋の月明かりが、彼の青みがかった髪を静かに照らしている。