SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ
沖縄で熱い“S”の夜が始まる! 親友のレキとスケートに夢中なランガ。でも最近、幼なじみのキリコの視線が気になって仕方ない。
キリコは“S”に現れるクールで謎めいた女性スケーター。実は彼女、ずっとランガに片思い中。でも、いつもミヤやライバルのシャドウがランガの周りにいて、二人きりになれる瞬間すらない!
そんなある日、“S”のコミュニティでランガの秘密の写真が流出。犯人は一体誰? 疑心暗鬼に陥るランガ。真犯人を見つけるため、キリコはある潜入捜査を決意する。それは、イチャイチャスキンシップ大作戦! 「スケート、教えてくれない?」と頼み込み、ランガに思う存分くっつける特別合宿をスタートさせる!
ドキドキが止まらない二人。ところがそこへ、ランガにベタ惚れな恋敵・アダムが乱入! 「僕の坊やは渡さない」と、キリコにスケートバトルを挑んでくる。勝った方がランガとデート! 崖っぷちレースを制するのはどっち? そして、写真流出の犯人の動機は、笑っちゃうほど切なくて哀れだった!
友情、恋、そして陰謀が渦巻く、新感覚ラブコメSバトル開幕!
SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ - 囮捜査は危険な香り!クールな幼なじみの密着レッスン
スケートショップ「デミグラス」の埃っぽい空気が、土曜の午後の怠さをいつもより重く感じさせた。壁一面に並んだデッキやウィールを眺めていても、ランガの頭の中は前の晩の出来事でいっぱいだった。
ヴォルテクスの画面に映る、雪だるまの着ぐるみを着た幼い自分。あれからずっと、馬鹿にしたコメントが延々と流れてくる。フォロワーは増えたけど、それはみんなが笑ってるからだ。
(なんでみんな笑うんだろう。結構お気に入りの写真だったのに)
ランガは手にしたスケートボードのデッキテープを、指先で意味もなくカリカリと撫でた。隣にいるはずのレキは今日はまだ来ていない。昨日からなんだかよそよそしかったレキの顔が浮かんで、また胸のあたりがモヤモヤする。
その時だった。
からん、と入り口のドアベルが鳴る。顔を上げたランガの視界に、まっすぐな黒髪がふわりと揺れた。
腰まであるストレートの黒髪。切れ長の瞳が、このショップの雑多な店内には妙に不釣り合いな、涼やかな空気を纏っている。首からはいつものようにイヤホンをかけ、左のこめかみには小さな三日月形の傷跡が覗いていた。
「[gentle]やっぱりここにいたのね、ランガ」
幼なじみのキリコだった。彼女は入り口で少しだけ立ち止まると、じっとランガを見つめた。その視線の強さに、ランガは思わずちょっとだけ背筋を伸ばす。
「[surprised]キリコ!どうしたんだ、こんなとこで」
「[serious]ヴォルテクスを見たわ。あの写真」
キリコはまっすぐにランガの隣まで歩いてきて、彼が座る作業台に片手を置いた。彼女の黒い瞳が、心配そうに揺れている。ランガは苦笑いして、後ろ頭をかいた。
「[gentle]ああ……見られちったか。なんかすげえ笑われてるんだよな。あの着ぐるみ、お気に入りだったんだけど」
「[serious]……笑い事じゃないわ。あれは、あなたをわざと陥れようとした誰かの仕業よ」
キリコの声が、ちょっとだけ強くなる。彼女の頬が、ほんのり赤くなっているのは、怒りからか、それとも別の何かからか。ランガにはよくわからなかった。
「[surprised]え、だってみんな面白がってるだけだろ?別に誰かを困らせようって話じゃ……」
「[cold]違う。これは明確な悪意よ」
キリコはそこで一旦言葉を切り、それからまるで決心したようにランガを真っ直ぐに見上げた。162センチの彼女が、178センチのランガを覗き込む格好になる。彼女はこの時のために、頭の中で何度も何度も練習した言葉を、ゆっくりと口にした。
「[serious]私が、写真を流出させた犯人を捕まえる。あなたは、何も心配しなくていいわ」
ランガは、きょとんとした顔でキリコを見下ろした。
(こいつ、やけに気合入ってんな。そんなに怒ってくれてるのか)
「[sad]でも、どうやって?犯人が誰かもわかんねえのに」
キリコは少しだけ目を伏せてから、意を決して再び顔を上げた。彼女の心臓はすでにドキドキと大きな音を立て始めている。
「[gentle]囮捜査をするの。犯人があなたに強い関心を持っているなら、あなたの身の回りに変化があれば、きっと動揺して何か行動を起こすはずよ」
「[excited]オトリソウサ!なんだそれ、すげえ頭いいな!」
ランガが純粋な尊敬の眼差しを向けてくるので、キリコはギクリと肩を揺らした。彼女の口の中が、にわかに乾いていく。
「[whispers]そ、それで……具体的には、あなたに恋人ができたように見せかけるの。そうすれば、あなたに執着している犯人が焦って、絶対に証拠を残す」
「[surprised]彼女のフリか!でも、そんなこと引き受けてくれるやついるかな」
「[gentle]……ここにいるでしょ」
キリコが、自分の胸にそっと手を当てる。彼女の耳が、目に見えて赤く染まっていく。
(私が、やるのよ。これは全部、囮捜査で、決して下心があってのことじゃないんだから)
彼女の心の中は、こんな言い訳でぐるぐるだった。ランガはしばらくキリコの顔を穴があくほど見つめてから、嬉しそうに笑った。
「[laughing]そっか!お前もSやってるもんな、話が早い!それに昔から頭いいし、犯人捕まえられんならすげえ助かるよ!」
ランガの無邪気な笑顔に、キリコの心臓はぎゅうっとなる。この作戦の本当の狙いは、「愛のボディタッチ」だ。でも、そんなことは、この天然モテ男には100年経ってもバレそうになかった。
「[serious]作戦の第一段階として、まずはあなたのスケートのコーチを私がするわ。恋人のフリをするには、自然に一緒にいる理由が必要だから。二人で練習すれば、傍目にはそう見えるでしょ?」
キリコは、努めて冷静な声でそう説明した。『S』のスケート技術は必須だから、というのは、もっともらしい理屈だ。彼女の頭の中ではすでに、二人きりになれる廃墟の練習場所がいくつもリストアップされている。
「[excited]お前がコーチか!そりゃ頼もしいな。どこでやるんだ?」
「[gentle]キャンプ・ファルコン跡地の、廃格納庫。ハンガー7と呼ばれてる場所よ。人がほとんど来ないし、平らな床が練習に最適なの」
キリコは待ってましたとばかりに、事前に調べ上げた情報をスラスラと口にした。ランガは感心して、何度も頷いている。
こうして、二人だけの秘密の特訓が始まることになった。
---
キャンプ・ファルコン跡地の廃格納庫「ハンガー7」は、かつて軍用機が整備されていた巨大な空間だった。今は瓦礫が転がり、天井の鉄骨がむき出しになっている。はるか高いところにある壊れた窓から、午後の日差しが細い光の帯を作って差し込んでいた。
「[surprised]ここ、すげえ!天井めっちゃ高い!」
ランガが大声をあげると、声ががらんどうの空間に反響した。キリコは彼の後ろで、自分のボードを地面に置き、ポニーテールに結った髪を軽く払う。
(よし……これで二人きり。絶対に、油断しちゃダメ)
「[gentle]まずは、重心の移動から始めるわ。基本だけど、平地でのバランスが悪いと、あの変則コースは戦えない」
そう言うと、キリコはランガのボードに乗る彼のすぐ後ろに立った。彼の肩幅より少し広い位置に自分の足を置く。彼女の胸の高鳴りが、ランガに聞こえてしまいそうで怖かった。
「[whispers]……私が後ろから支えるから。体重を後ろ足に乗せる感覚を、ゆっくり掴んで」
彼女は勇気を奮って、ランガの腰にそっと手を回した。パーカー越しに伝わる彼の体温が、自分の手のひらに痛いくらい焼きつく。
(あああ、腰、引き締まってる……)
キリコが内心で必死に悶えていると、ランガが素っ頓狂な声を上げた。
「[surprised]キリコ、お前すげーあったけぇな!風邪ひいてんじゃねえのか?顔もなんか赤いし」
キリコは心の中で、ずっこけた。
(体温の高さを完全に病気だと思ってる!この純粋バカ!)
「[angry]ち、違うから!これは、その、やる気で体温が上がってるだけで!」
「[gentle]そうか?無理すんなよ。昔からお前はすぐくっついてきて、寂しがり屋だもんな。体調悪いならなおさらだぞ」
ランガが首だけで後ろを振り返り、無邪気な水色の瞳でキリコを見る。幼少期の思い出を無造作に暴露されて、キリコは耳まで真っ赤になった。
「[embarrassed]さ、寂しがり屋じゃないからっ!!」
彼女はほとんど悲鳴のように否定したが、ランガは「はいはい」という感じで小さく笑うだけだった。キリコの過剰なスキンシップは、完全に空回りしている。彼女はそれを痛感し、しばらくの間、手を離すこともできずにランガの背中に額を押し付けて小さく唸った。
(私の気持ちなんて、全然届いてないんだ……)
---
しばらくして、キリコが密着フォームの指導をしている時だった。がらんとした格納庫に、かすかな物音が響いた。
かしゃっ。
それは、遠くの瓦礫が崩れたような、誰かの足音のような、とにかく自然のものではない音だった。キリコの体が一瞬で強張り、ランガの腕をぎゅっと掴む。彼女の目つきが、クールなSスケーターのそれに変わった。
「[whispers]……誰かいる」
彼女の囁きに、ランガも足を止める。巨大な格納庫の影の中、あちこちにある鉄骨や廃材の隙間が、急に不気味なものに見えてきた。誰かが、こちらを覗いている。濡れた草むらを踏むような、小さな気配が確かにあった。
(来た……まさか、写真の真犯人?)
キリコは緊張で手が震えるのを感じながら、ランガを自分の背中に隠そうと一歩前に出る。
しかし、次の瞬間。
「[excited]おーい!誰かいるのか!腹減ってんならカップ麺あるぜ!遠慮すんなって!」
ランガが、両手をメガホン代わりにして、能天気な大声で呼びかけた。その声は廃格納庫にワンワンと響き渡り、緊張感を完膚なきまでに叩き壊す。
「[scared]ちょ、ちょっとランガ!!何してるのよ!!」
慌てたキリコが、とっさにランガの口を両手で塞いだ。勢い余って彼に覆いかぶさる形になり、彼女の心臓は爆発しそうなほど跳ね上がる。二人の顔が、数センチの距離にまで近づいた。ランガの水色の瞳が、驚いたようにキリコを見ている。
(ち、近い近い近い!!)
キリコが体を固くしていると、遠くの物陰から、バタバタと走り去る足音が聞こえた。監視者は、どうやらランガの大声に驚いて逃げてしまったらしい。
キリコはランガからゆっくりと体を離し、がっくりと肩を落とした。
「[sad]……チャンスを、逃した」
「[surprised]え、犯人が逃げちまったってことか?くそー、呼んだのによ」
ランガが悔しがる。二人とも声に出しているが、悲しんでいるポイントは全くの別物だった。キリコの「チャンス」とは恋愛的な意味での大接近の好機であり、ランガのそれは事件解決の手がかりだった。
(はあ……私、やっぱりランガには敵わない)
キリコは天井を見上げて、大きなため息をついた。でも、その口元がちょっとだけ緩んだのは、彼のいつも通りの様子に安心したからだ。
---
ムーンビーチ・パークの遊歩道を、湿り気を含んだ夕風が吹き抜けていく。遠くで波の音が、ざあ、ざあ、と繰り返していた。二人は海の見えるベンチに腰掛け、さっきの騒動の疲れを癒やしていた。
キリコは自分の膝の上で、固く手を握りしめている。さっきまで廃墟の中にいたから、潮の香りがやけに新鮮に感じられた。
「[gentle]次は、絶対に取り逃がさない。まだ、コーチを続けてくれる?」
彼女は緊張しながら、ランガの横顔を見つめた。彼が「もういいよ」と言ったらどうしよう、と不安で押しつぶされそうだった。
ランガは、しばらく遠くの水平線を眺めていたが、やがてゆっくりとキリコの方を向いた。彼の水色の瞳が、沈みかけた夕日に照らされて、きらきらと揺らめいている。
「[gentle]もちろんだよ。お前がそこまで必死になるなんて、写真の件、ほんとに怒ってくれてんだな。ありがとな、キリコ」
ランガの感謝の言葉は、あまりにも純粋だった。彼はキリコが囮捜査にこだわる本当の理由に、やっぱりまったく気づいていない。でも、彼の温かい眼差しに嘘はなかった。
「[sad]……うん。どういたしまして」
キリコはそう小さく呟くと、ランガに見えないように、夕日に向かって小さくため息をついた。
(私の気持ちなんて、やっぱり全然届いていないんだ)
彼の無自覚なモテ体質と、底抜けの天然ぶりに、彼女の片思いはさらにこじれて加速していく。それでも、ランガが隣で笑っている。
キリコはその笑顔をチラリと盗み見てから、自分の膝の上で、小さくガッツポーズを作った。
(まあいいや。これがランガだもんな。私の戦いは、まだ始まったばかりだわ)
夕日が、ムーンビーチの海を黄金色に染め上げていた。不穏な監視者の影がすぐ近くまで迫っている緊迫感と、二人の絶望的に噛み合わないすれ違い。それが、奇妙なほどに心地よい夕暮れの一時を作り出していた。