SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ
沖縄で熱い“S”の夜が始まる! 親友のレキとスケートに夢中なランガ。でも最近、幼なじみのキリコの視線が気になって仕方ない。
キリコは“S”に現れるクールで謎めいた女性スケーター。実は彼女、ずっとランガに片思い中。でも、いつもミヤやライバルのシャドウがランガの周りにいて、二人きりになれる瞬間すらない!
そんなある日、“S”のコミュニティでランガの秘密の写真が流出。犯人は一体誰? 疑心暗鬼に陥るランガ。真犯人を見つけるため、キリコはある潜入捜査を決意する。それは、イチャイチャスキンシップ大作戦! 「スケート、教えてくれない?」と頼み込み、ランガに思う存分くっつける特別合宿をスタートさせる!
ドキドキが止まらない二人。ところがそこへ、ランガにベタ惚れな恋敵・アダムが乱入! 「僕の坊やは渡さない」と、キリコにスケートバトルを挑んでくる。勝った方がランガとデート! 崖っぷちレースを制するのはどっち? そして、写真流出の犯人の動機は、笑っちゃうほど切なくて哀れだった!
友情、恋、そして陰謀が渦巻く、新感覚ラブコメSバトル開幕!
SK∞ エスケーエイト if ルート:もう一人の女王、キリコ - 土砂降りの逆転劇!ずぶ濡れの初キスと、笑っちゃう真犯人
深夜のピットは、湿った熱気と観客のざわめきで膨れ上がっていた。ヴォルテクスのライブ配信には視聴者数三千人の数字が躍り、スマホの画面越しにも、集まった二百人を超えるスケーターたちの興奮が伝わってくる。DJブースのモニターが、スタート地点であるゲート・ゼロの映像を映し出した。
青みがかった銀髪を夜風に揺らし、一人の長身の影が立っている。ランガだ。透き通る水色の瞳は、目の前に広がる漆黒の闇——全長百八十メートルのブラックパイプ——をじっと見据えていた。足元のスケートボードが、かすかにギシリと軋む。
「[gentle]怖くはないんです?」
隣に立つアダムが、仮面の奥の金色の瞳を細めた。長い銀髪を指で梳きながら、芝居がかった声で続ける。
「[gentle]君のボード、なんだか今にも泣き出しそうな音がしますけど」
「[serious]……これで、十分だ」
ランガは短く答えた。本当は知っている。これはレキが急ごしらえで修繕したボードで、ブラックパイプの途中までしか保たないかもしれないと。それでも、ここで引くわけにはいかない。キリコを傷つけた。レキを疑った。全部、自分が招いたことだ。あの土砂降りの夜から、時間は止まったままだった。
フェイドレスのスタッフが、カウントダウンの合図を上げる。
「ビーフ、開始!」
二人同時にゲート・ゼロを飛び出した。ウィールが廃墟のコンクリートを噛み、耳障りな高音を撒き散らす。トンネル入り口までの直線で、アダムが半身リードする。
「[excited]さあ、私の領域へようこそ、坊や!」
闇が口を開けた。ブラックパイプ——完全な暗闇だ。壁面にはかつてのスケーターたちが描いたグラフィティがびっしりとあるが、今は何も見えない。ランガは息を詰め、ただ風の音とボードの振動だけを頼りにカーブを切る。
ギシリ。
また軋んだ。デッキとトラックの接合部がガタつき始めている。振動が足裏にまで伝わってきて、少しずつ大きくなっていく。ランガは顎を引き、ただ前だけを見つめていた。
ピットでは、モニターに映るランガの姿に、観客がざわついていた。
「[scared]やばいよ……あのボード、もうやばいって!」
「無茶すぎる、壊れる前に降りろよ!」
ヴォルテクスのコメント欄も加速する。『ボード壊れてるじゃん』『アダム様との実力差以前の問題www』。
ピットの片隅で、レキは顔面蒼白だった。バンダナの下から覗く顔は汗でぐっしょり濡れている。
「[scared]俺の……俺のせいだ……」
震える声で呟くレキの隣で、ミヤが深い緑色の猫目を吊り上げた。
「[angry]あんたそれ、今言うことじゃないでしょ!黙って見てなよ!」
人差し指を立ててレキを黙らせる。ミヤの小さな拳は、ぎゅっと握りしめられていた。
ランガは暗闇の中、歯を食いしばった。ボードがミシミシと嫌な音を立て、ブラックパイプ出口の光が小さく見え始める。アダムはすでに出口付近で、綺麗なラインを描いて加速していた。
絶対王者は、完全にランガを引き離しにかかっている。
そして、クリフターン——通称デスコーナー——に差し掛かった瞬間だった。
ガガンッ!
ランガのボードが大きく軋み、トラックの金具が悲鳴を上げた。バランスを崩しかけ、崖際で片膝をつく。観客から悲鳴が上がった。ヴォルテクスの映像が、崖の下——暗い石灰岩の斜面と、その下の闇——を映し出す。
「[scared]ああっ!」
レキが叫んだ、その時。
ザアアアッ!
観客の人波を割って、一台のスケートボードが猛スピードでコースに割り込んできた。腰まである黒髪を高い位置でポニーテールに結び、切れ長の瞳がライトに鋭く光る。キリコだ。
「[serious]私も出ます!」
彼女は仲裁役のフェイドレススタッフに叫び、そのままデスコーナーへと滑り込む。
「[cold]元々、私へのビーフでしょ。二対一でも受けますか?」
アダムが、わずかに速度を緩めた。仮面の奥の金色の目が、面白そうに見開かれる。
「[gentle]……実にエクセレント。いいでしょう、お嬢さん」
その瞬間、ランガとキリコの目が合った。言葉は何もない。キリコの黒い瞳は、まだ少し濡れているように見えた。ランガの胸の奥が、ぎゅっと痛む。でも、それ以上に——。
(ハンガー7で、何度もやった)
廃格納庫での密着特訓。キリコの手が肩に触れた時の感覚。『そこじゃなくて肩だ、肩を入れろ』という彼女の声。腰の角度、体重移動のタイミング——身体が覚えている。
二人は無言で、即興の連携ラインを組み立てた。キリコが外側から壁を押さえ、アダムの視界を遮る。その一瞬の隙に、ランガが内側に回り込んで絶対王者のドラフティング——背後にぴったり張り付いて空気抵抗を奪う走法——を封じ込める。
「なにっ……!?」
初めてアダムの完璧なラインが乱れた。コンマ数秒のロス。デスコーナーの出口で、アダムはバランスを立て直すために大回りを強いられる。ヴォルテクスの視聴者数が四千を超えた。
「[excited]え、なにこれ!?」
「[surprised]ランガとキリコが、アダムを抜いたぞ!!」
崩れたリズムを逃さない。ランガとキリコは並走で、ゴールエリアのピットへと飛び込んだ。ヴォルテクスの速度計測が、キリコ・ランガペアの勝利をコース脇のモニターに表示する。
『WINNER: KIRIKO & LANGA』
観客が爆発した。歓声とどよめきがピットを揺らす。
ランガはゴール直後、軋みに耐えきれずに転倒しかけた。それでもどうにか着地し、膝をつく。肩で荒い息を繰り返すランガに、キリコが駆け寄った。
「[whispers]ランガ……!」
ずぶ濡れのポニーテールから、汗と、今降り出したばかりの雨の滴が垂れる。キリコの手が、ランガの背中にそっと伸びた。
ランガは立ち上がった。そして、キリコの肩を掴む。指が彼女の濡れたジャケットを掴み、皺を作った。
「キリコ……、俺にはキリコが必要なんだ!」
その声は、二百人の観客と、四千人のヴォルテクス視聴者に完全に聞こえる大音量だった。
「スケートも、こういうときも、全部! お前がいなきゃ、ダメなんだ!」
ピットが、しんと静まり返った。
DJの手が止まり、モニターの前で見守っていた全員が固唾を呑む。雨音だけが、ザアザアと響いていた。
「[sarcastic]……今更かよ」
ミヤの小さな呟きが、静寂を破った。それに続くように、レキが涙と笑いが混ざった声を張り上げる。
「[laughing]何話かかってんだよ、本当に!お前、空気読みすぎだろ!」
どっと笑いが起きた。同時に、どよめきと拍手。ヴォルテクスのコメント欄が『wwwやったwww』『遅すぎる告白に笑うwww』『でも尊い』で溢れ返る。
キリコは雨に濡れた顔で、ぽろっと泣いた。大粒の涙が、彼女の頬を伝い落ちる。肩が一度、小さく震えた。
「……やっと、気づいたの」
掠れた声で呟いた。左のこめかみの小さな三日月形の傷跡——子どもの頃ランガと遊んでできた傷——に、雨が一滴落ちて、弾けた。
ランガは、そっとキリコの頬に手を添えた。親指が涙の筋を拭う。そして、ずぶ濡れのまま、二人は初めて唇を重ねる。
雨の冷たさと、相手の温もりだけが、そこにあった。
観客の歓声が、もう一つの嵐のように二人を包み込んだ。
その輪の外で、アダムは仮面をつけたまま、余裕の笑みを浮かべて立っていた。
「[gentle]なかなか面白かったよ、坊や」
近づいてきて、ランガの肩をぽんと叩く。濡れた銀髪が、月光に青白く光った。
「[whispers]でも、本番はこれからだよ。楽しみにしてて」
キリコを一瞥した後、その金色の瞳にはまだ何かが宿っていた。アダムは群衆に溶けるように去っていく。
ランガはその言葉の意味を理解しようとして、わからなくて、少しだけ黙り込んだ。でも、キリコがそっとランガの手を握ってきた。濡れた互いの指が、絡まる。
「[whispers]もう、誰にも渡さない」
ランガの頬が、かあっと赤くなる。
「[surprised]……俺も、だよ」
その様子を、すぐ後ろで見ていたレキが、でかい声で叫んだ。
「[laughing]お前ら、今更すぎて逆に感動するわ!!」
周囲の観客が、またどっと笑いに包まれる。
――
翌日。雲一つない快晴のグラインドベース——ウルマ市立のスケートパークだ。ランガたちが集まっていると、派手な仮装のスケーターがガニ股で近づいてきた。シャドウだ。
「[excited]実は……写真、俺が流しました!」
大声での告白に、ランガたちが全員固まる。ミヤの猫目が、じとーっと細められた。
「[angry]はあ!? お前、それでよく今までのこのこ……!」
「[excited]理由を聞いてくれっす! ランガ君のフォロワーが増えれば、Sがもっと盛り上がると思って!」
「[excited]ランガ君は沖縄のスケートシーンの希望の光! 俺、一番のファンなんすよ! だから、もっと有名にしたかったっていうか……!」
熱弁を振るうシャドウに、キリコが無言で半目になった。レキは叫ぶ。
「[angry]お前、それで済むと思ってんの!? 俺、どんだけ悩んだと思ってんだよ!」
「[sarcastic]あのさぁ……その動機で人の黒歴史写真を晒すなよ、バカじゃないの?」
ミヤが額に手を当てて、深いため息をつく。
全員が、力が抜けて床に崩れ落ちた。
ランガだけが、真っ直ぐにシャドウを見ていた。
「……シャドウ、ありがとな」
「えっ」
「[gentle]俺のためにやったんだろ。ファンって言ってくれたのも、嬉しいよ。でも、次はやめてくれ。今度やったら、マジでビーフな」
ランガが本気の顔で言うと、シャドウはぱあっと顔を輝かせて、元気よく頷いた。
「[excited]わ、わかったッス! ごめんなさいっス!」
ミヤがぼそりと呟く。
「[sarcastic]……これで終わりって、マジか」
全員が、苦笑いでうなずいた。まあ、これでいいか——そんな空気が、青空の下に流れていた。
――
数日後、夕暮れのムーンビーチ・パーク。海からの風が、潮の香りを運んでくる。ランガとキリコは遊歩道を並んで歩いていた。
ランガは手に持った紅芋アイスを、スプーンですくって口に運ぶ。
「[gentle]キリコ、アイス半分やるよ」
そう言って、キリコにスプーンを差し出す。キリコは少し照れながら手を伸ばした——が、その手前で、ランガは無意識のうちにアイスを全部自分の口に放り込んだ。
もぐもぐ。
「…………」
キリコは半目でランガを睨みつける。ランガは、キリコの視線に気づいて、首をかしげた。
「[surprised]え、なんで怒ってるの?」
「[cold]……別に」
キリコのこめかみが、ぴくりと動いた。
日常が戻ってきた。
あのビーフの夜から、何も変わっていないようで、でも確実に変わった日常。
ランガのスマホが、ヴォルテクスの通知を震わせた。見知らぬIDからのメッセージだ。
『坊やへ。Sの本当の楽しさを見せてあげるよ。楽しみにしてて。—A』
ランガは画面をキリコに見せた。
「[serious]またビーフかな」
キリコは一瞬だけ、真剣な目でその文字を見つめた。そして、すぐに顔を上げる。
「[serious]今度は、一人で行かせない」
ランガは、少し笑った。
「[gentle]わかった」
水平線の向こうで、太陽がゆっくりと沈み始めている。
これからも、何かが起きるだろう。嵐は、まだ終わっていないのかもしれない。
ランガはキリコの手を取った。彼女の指が、応えるように握り返す。
ランガのもう片方の手の中で、空になったブルーシールのカップが、かさりと小さな音を立てた。