カルデアのキミが好きすぎる!
ある朝、東京の桜ノ宮高校に、普通ではない転校生がやってきた。
銀色の髪をなびかせ、教室に颯爽と現れた彼女は、笑顔で男子の半分を椅子からひっくり返すほどの魅力を放つ――メルリン(女性形)だ。彼女は明るく「みんな、よろしくね~!」と自己紹介した。
岸本ハルトは、特に取り柄もない普通の二年生。なぜか彼は彼女の隣の席に座ることになった。特別な才能も、劇的な過去もない彼に、メルリンは休み時間ごとに近づき、「ねえ、君ってちょっと面白いかも」とささやく。しかしハルトには、その意味がまったくわからなかった。
それだけでも十分な騒動だが、二日後には赤いコートを纏った鋭い目つきの少女――エミヤ(女性形)が現れ、メルリンと目を合わせて冷たく「また会ったな」と言い放つ。二人の間には一瞬で火花が散った。さらにエミヤはなぜかハルトの近所に引っ越してきて、毎朝「おはよう、保護対象」と挨拶してくるのだ。保護対象って何!?
その一週間後、金髪で真剣な瞳のアルトリア(女性形)が生徒会に加わり、「岸本ハルトを観察対象に登録した」と宣言する。いったいそれはどういう意味なのか!?
気づけば、三人の異色の少女たちがみな
カルデアのキミが好きすぎる! - 観察対象・保護対象・そして俺の答え——ノミヤ祭前日の大騒動
あの夜の「逃げたくない」という気持ちが、まだ胸の中にある。
ハルトは朝6時半に教室に着いた。
ノミヤ祭の前日だ。
教室の扉を開けた瞬間、空気の重さが肌でわかった。
アカネが窓際の席に座って、膝を抱えていた。昨日と同じ姿勢。口を閉ざして、窓の外だけを見ている。
ミズキの席は空だった。
ハルトはランドセル——じゃなかった、リュックを机に置いた。クラスメイトたちが少しずつ登校してくる。全員が、アカネの方をちらりと見て、ハルトの方をちらりと見て、誰も何も言わない。
昨日の空気が、まだ続いている。
(やるしかない)
ハルトは前日の夜に焼いてきたショートケーキを袋から取り出した。スポンジ二段。生クリームとイチゴ。試食用。自分で焼いたやつだ。
飾りつけの資材が教室の端に積んである。ハルトは一人で台を組み始めた。
椅子を二つ重ねて、その上に板を乗せようとした。
ガタン。
椅子が崩れて、板ごと派手に倒れた。
全員が振り返った。
誰も来なかった。
「[serious]……まあ、そうだよな」
ひとりごとで言って、また組み直し始めた。
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教室のドアが開いたのは、1時間目の始業10分前だった。
最初に入ってきたのは、知らない顔だった。
金髪。ロングストレート。きっちりと結われて、一本の毛も乱れていない。身長は172センチくらいで、制服の胸に生徒会副会長の腕章がついている。碧色の瞳が教室をすっと見渡した。冷たい視線。感情が読めない。手帳を持っていた。
クラスの空気が変わった。
女子が小声で「[whispers]生徒会……」 とつぶやいた。
少女は教室の中央まで進んできた。手帳を開きながら、ハルトを見た。
「[serious]岸本ハルト。2年3組文化祭実行委員ですね」
「[surprised]え、あ、はい」
「[serious]準備状況を確認しに来ました。生徒会副会長、セリナ・アオヤマです。本日の作業進捗を説明しなさい」
「本日の」と言われても、まだ始めたばかりだ。ハルトが「えっと、その——」と言いかけた瞬間。
セリナの視線が、机の上のショートケーキに止まった。
一秒だけ。
でも確かに止まった。
「[serious]……その、これ、試食用ですか?」
「[cold]関係ありません。説明を——」
「食べますか」
セリナが手帳を持つ手を止めた。
「[serious]……職務上の品質確認です」
断固とした顔でそう言いながら、フォークを受け取った。
一口。
スポンジが口の中で溶けた瞬間、セリナの耳が赤くなった。
耳だけじゃない。頬も、首筋まで。
「[serious]……基準値は満たしています」
声が微妙に上ずっていた。
クラスが静かになった。
その静寂が三秒続いた後、どっと笑いが起きた。
「[laughing]赤くなってる!!」
「[laughing]えっ、あの副会長が!?」
セリナが手帳で顔の下半分を隠した。碧色の瞳が険しくなっている。
窓際で膝を抱えていたアカネが、初めてそちらを向いた。金色の瞳がセリナを凝視している。
その時、廊下を走る足音がした。
「[laughing]間に合った!」
銀色の髪が乱れたまま、ミズキが扉から飛び込んできた。遅刻ぎりぎりの顔で、肩で息をしている。でも目に入ったのはハルトじゃなかった。
ミズキの視線がセリナに向かって、状況を把握した。
すっと笑みを深めた。
「[gentle]まあ。面白い人が来たんですわ」
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セリナが赤みを振り払うように手帳をぱんと閉じた。
「[serious]改めて。岸本ハルト、あなたを——」
「[serious]えっと、説明します。えっと——」
「[serious]生徒会の非公開管理名簿、セレクトリスト——霊的に重要な人物を監視するための登録制度です——に、あなたを観察対象として正式に登録しました」
ハルトの頭が真っ白になった。
「[surprised]……え?」
「[serious]今後、不審な行動があれば報告します。以上」
「[angry]観察対象ってなんですかそれ!?!!」
叫んだ瞬間、アカネが椅子を蹴るように立ち上がった。
「[angry]ちょっと待ってよ!!」
セリナとハルトの両方が振り向いた。
アカネが前に出てきた。金色の瞳がセリナをまっすぐ見ている。
「[angry]保護対象は私の管轄なんだけど!?」
「[serious]保護対象?」
セリナが手帳を開いた。
「[serious]そのような非公式な分類は生徒会規則に存在しません」
「[angry]規則より現場の判断が優先するの!」
「[cold]現場の判断が規則に優先した例は、この高校の70年の歴史で一度もありません」
「[angry]じゃあ歴史を塗り替える!」
後ろでミズキが口元に手を当てた。肩が微妙に揺れている。
「[gentle]あらあら。管轄争いですわね。楽しそう」
「[sarcastic]笑ってないで止めてよ!!」
「[serious]私はモノじゃないんですけど!!!」
三人が全員、ハルトをスルーした。
アカネとセリナが向かい合って一歩も引かず、ミズキが壁にもたれて観戦している。クラスメイトが「え、何これ」「修羅場?」「副会長やばい」と小声でざわついている。
ハルトが三度「俺はモノじゃないんですけど」と言ったが、やはり誰も聞いていなかった。
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その時だった。
セリナが手帳を、ぱしんと閉じた。
音が教室に響いた。
「[serious]全員、準備に戻りなさい」
声のトーンが変わった。副会長の顔だ。さっきの赤みも、アカネとの言い合いも、全部消えた。
「[serious]ノミヤ祭は明日です。本日中にこの混乱を収拾できなければ、2年3組の出し物は中止を生徒会に上申します」
教室が静まり返った。
本気だ、とハルトは思った。この人、絶対に本気で言ってる。
クラスメイトたちが一斉に動き始めた。椅子が引かれる音。「資材どこ」「メニュー表どっち」「接客練習まだ」という声が飛び交い始める。
アカネが自分の席に戻りながら、小さく口を動かした。
「[cold]……うるさいけど。言ってることは正しい」
ミズキが壁から背中を離して、小さく笑った。
「[gentle]ふふ。面白い人が増えましたわ」
ハルトはその二人を見た。
二人が、同じ方向を向いていた。
セリナの言葉に、二人とも頷いている。初めてだった。アカネとミズキが同じ方向を向いている瞬間を、ハルトは今日初めて見た。
胸の奥で、昨夜の「逃げたくない」という気持ちが形になり始めた。
今日中に動こう。
そう思った。
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放課後になった。
クラスの片付けが終わって、みんなが帰り始めた頃、ハルトはアカネを呼んだ。
「[serious]ちょっといい? 家庭科室」
アカネが警戒した顔をした。金色の瞳が細くなる。
「[serious]……なんで」
「[serious]話したいことがあって」
家庭科室は薄暗かった。西向きの窓から夕方の光が入っている。
アカネが扉のそばで立ち止まった。入ってきたけど、距離を取っている。
ハルトは真正面から向き合った。
「[serious]アカネは正直すぎるから、気持ちが全部顔に出る」
アカネが眉を寄せた。
「[serious]ミズキに怒鳴った時も。俺のそばにいたい気持ちも。全部見えてた」
「[serious]……それって、馬鹿にしてる?」
「[serious]違う。強さだと思う」
アカネの口が閉じた。
「[serious]嘘をつけない人って、かっこいいと俺は思うから」
しばらく間があった。
家庭科室の時計が、コチ、コチ、と音を立てていた。
アカネの目が、うっすら揺れた。泣きそうなのを堪えている顔だ。唇をきゅっと噛んで、それを見せまいとしている。
「[serious]明日の文化祭、一緒にやりたい。それだけ」
アカネが天井を一瞬見上げた。それから視線を下ろして、苦笑いした。
「[gentle]……ずるいな。本当に」
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アカネを先に帰して、今度はミズキを呼んだ。
ミズキが家庭科室に入ってきた。銀色の髪が夕日を受けて、少しオレンジ色に見える。にこっと笑って、「なんですの?」という顔をした。
「[serious]笑わなくていいよ」
ミズキの笑顔が止まった。
一秒だけ。でも確かに止まった。
ハルトは続けた。
「[serious]昨日、追いかけてあげってって言った時、声が震えてた。俺にはちゃんと聞こえてた」
ミズキが窓の外に視線を移した。夕方のミナトザカ区が見える。ビルの窓が橙色に反射している。
しばらく何も言わなかった。
時計がコチ、コチ、と音を立てた。
「[gentle]……きみって、本当に鈍いくせに」
声が、いつもと少し違った。飄々とした調子じゃない。かすかに掠れている。
「[gentle]変なところだけ鋭いよね」
「[serious]隠さなくていいから」
ミズキが、初めて笑顔を作らずにハルトを正面から見た。
紫色の瞳が、少しだけ揺れていた。
ハルトは何も言わなかった。ただ、そのまま向き合っていた。
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「ちょっと来てほしい人がいる」と言って、ハルトはアカネをもう一度呼んだ。
家庭科室に、アカネとミズキが向かい合わせに立った。
気まずい沈黙が流れた。二人は目を逸らして、窓と壁をそれぞれ見ている。
ハルトは二人の前に立って、頭を下げた。
「[serious]俺は、二人ともいなくなったら嫌だ」
顔を上げて、続けた。
「[serious]明日の文化祭、三人で——いや、セリナさんも入れて四人で、最高のカフェにしよう」
アカネが少し驚いた顔をした。
「[surprised]セリナさんも? さっき初めて会った人じゃん」
「[serious]でも、助けてくれたじゃん。今日の準備」
ミズキが小さく息を吐いた。
最初にアカネが口を開いた。
「[gentle]……ハルトがそう言うなら、しょうがないね」
ミズキが少し考える顔をして、それから口元を緩めた。
「[gentle]きみに頼まれたら断れないよ。面白そうだし」
二人が顔を見合わせた。
ぎこちない。でも確かな、小さな頷き。
ハルトがホッと息を吐いた。窓の外を見ると、空がオレンジ色に染まっていた。ミソギ川が遠くで光っている。
「[gentle]で、明日の段取りは?」
すっかり飄々とした調子に戻っている。
「[surprised]早っ」
「[laughing]えっ、もう!?」
三人が家庭科室のテーブルを囲んだ。ミズキが手帳を取り出して、アカネがメニューのメモを持ってきた。ハルトが明日の段取りを話し始める。
窓の外の空がオレンジからゆっくりと暗くなっていく中、三人の声が家庭科室に響いていた。
準備は、まだ間に合うかもしれない。
でもセリナへの報告は、まだ誰もしていなかった。