カルデアのキミが好きすぎる!
ある朝、東京の桜ノ宮高校に、普通ではない転校生がやってきた。
銀色の髪をなびかせ、教室に颯爽と現れた彼女は、笑顔で男子の半分を椅子からひっくり返すほどの魅力を放つ――メルリン(女性形)だ。彼女は明るく「みんな、よろしくね~!」と自己紹介した。
岸本ハルトは、特に取り柄もない普通の二年生。なぜか彼は彼女の隣の席に座ることになった。特別な才能も、劇的な過去もない彼に、メルリンは休み時間ごとに近づき、「ねえ、君ってちょっと面白いかも」とささやく。しかしハルトには、その意味がまったくわからなかった。
それだけでも十分な騒動だが、二日後には赤いコートを纏った鋭い目つきの少女――エミヤ(女性形)が現れ、メルリンと目を合わせて冷たく「また会ったな」と言い放つ。二人の間には一瞬で火花が散った。さらにエミヤはなぜかハルトの近所に引っ越してきて、毎朝「おはよう、保護対象」と挨拶してくるのだ。保護対象って何!?
その一週間後、金髪で真剣な瞳のアルトリア(女性形)が生徒会に加わり、「岸本ハルトを観察対象に登録した」と宣言する。いったいそれはどういう意味なのか!?
気づけば、三人の異色の少女たちがみな
カルデアのキミが好きすぎる! - ノミヤ祭、大作戦!——そして三つの告白
前日の家庭科室——三人が同じ方向を向いて頷き合ったあの瞬間が、まだ胸の中に温かく残っていた。
ノミヤ祭当日の朝8時。2年3組の教室は、開場前から騒がしかった。
ハルトは厨房代わりに使っている家庭科室にいた。エプロンをつけて、スポンジケーキを焼きながら生クリームを泡立てる。窓の外、校門前の桜の大木が朝日を受けていた。樹齢120年の木は、今日だけは文化祭を見守る古老みたいに見えた。
「[excited]開場5分前! 厨房、状況は!」
アカネが扉から顔を突っ込んできた。赤い短髪が跳ねている。メイド服の前掛けが少し曲がっていた。
「[serious]ショートケーキ3ホール仕上がった。あと2ホール焼いてる」
「[excited]よし! 絶対売り切れるから! 全部ハルトが作ったって言うから!」
「待って、なんで俺の名前を——」
アカネはもう走っていった。
ハルトがため息をついた瞬間、背後から声がした。
「[gentle]いいじゃないですか。宣伝係つきで」
ミズキが家庭科室の入口に寄りかかっていた。銀色の長い髪をハーフアップにまとめて、メイド服がよく似合っている。紫色の瞳が笑っていた。
「[sarcastic]ミズキも接客じゃないの」
「[gentle]様子を見に来ましたわ。——美味しそうですね」
ケーキを覗き込んで、それからハルトの顔を見た。本当に嬉しそうな顔をしていた。前日の家庭科室で見せた、笑顔を作らない表情ではなく——自然に緩んだ表情だった。
「[gentle]……きみが焼いたもの、美味しいんですよね。ちゃんと知ってます」
それだけ言って、教室に戻っていった。
ハルトは少しの間、泡立て器を持ったまま立っていた。
胸のあたりが、じわっとした。
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9時の開場と同時に、2年3組のメイド&執事カフェは来場者がなだれ込んだ。
ミズキが入口で笑顔を振りまいた。
「[gentle]いらっしゃいませ。本日のケーキは全て、この店の厨房担当が手作りしております」
一拍置いて、厨房の小窓をすっと指した。
ハルトが小窓から顔を出した瞬間、来場者の女子グループが「え、誰、かわいい」とざわめいた。
「[surprised]なんで俺を指すの!!」
ミズキがくすっと笑った。前日まで張り詰めていた空気が、うそみたいに軽かった。
一方のアカネは、ドリンクのトレーを両手で持ちながら教室を縦横無尽に歩き回っていた。
「[excited]ケーキ絶対頼んでください! 全部ハルトが焼いたやつです! うちのクラスで一番のやつです!」
来場者の一組が「あの子なんか面白い」と笑いながらケーキを注文していた。
渡辺がハルトに耳打ちした。
「[whispers]お前の宣伝部隊、めちゃくちゃ効いてるぞ」
「[serious]俺は頼んでない」
そのころ、教室の入口に生徒会副会長の腕章が現れた。
セリナが巡回のクリップボードを持って入ってきた。金髪が蛍光灯を受けて光っている。碧色の瞳が素早く教室を見渡して、秩序を確認した。問題なし——と判断した顔になった次の瞬間、視線がケーキのショーケースで止まった。
「[serious]……品質確認です」
腕章をつけたまま一切れを受け取って、口に運んだ。
耳が赤くなった。
「[cold]……基準値を大幅に上回っています」
「[laughing]赤い! また赤い!!」
「[serious]職務上の確認ですが何か」
クラスメイトたちが笑いをこらえながら、お互いの顔を見合わせていた。
あの三人が普通に同じ教室で動いている——西野が小声でハルトに言った。「[whispers]なんか、すごいな。昨日まで修羅場だったのに」
ハルトは小窓から三人の様子を見ていた。
アカネが元気よく走り回っていて、ミズキが来場者を笑顔で引き止めていて、セリナが耳を赤くしながらクリップボードに何かを書いている。
こんな日が来るとは思わなかった、と素直に思った。
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午後1時。
来場ピークが来た。
「[scared]ハルト、ケーキあと3ホールしかない!!」
アカネが厨房に飛び込んできた。顔が真剣だった。
「[serious]マジか。材料は——」
「[excited]リスト書いて! 私が買いに行く!」
ハルトがメモ帳に走り書きした。薄力粉、バター、卵、生クリーム、砂糖——。アカネがそれをひったくって、エプロンのまま走って出ていった。
「速っ……」
同時に、教室の外から声が聞こえた。
「[gentle]まあ、せっかくですから、お待ちの間に花占いでもいかがですか」
列を作り始めていた来場者たちが足を止めた。ミズキが掌を広げると、薄い花びらが舞い上がった——一般の来場者には、どこからともなく飛んできた桜の花びらに見える。実際には、ヴェイルサイドの層をかすかに使った花幻術だ。でも今日の文化祭の中では、ただの素敵なマジックにしか見えなかった。
来場者から「かわいい!」「なにこれ!?」という声が上がる。列が崩れて、その場に留まり始めた。
「時間が稼げた」とハルトは思った。
そこにセリナが戻ってきた。両手にスーパーの袋を持っていた。
「[serious]隣の2年5組と1年2組から食材を一時融通してもらいました。後日、生徒会副会長名義で正式に補填します」
「[surprised]え、もう?」
「[serious]交渉に要した時間は8分です。もたもたしている場合ではなかったので」
ハルトは思わず笑った。この人、やると決めたら早い。
材料が揃った。ショートケーキを焼く時間はない。ハルトは冷蔵庫を開けて頭を動かした。
パウンドケーキ。バターと砂糖と卵を混ぜて、粉を足して焼く。シンプルだが、ちゃんと美味しいやつが作れる。それと、余ったフルーツでカップデザート。生クリームと合わせて、その場で組み立てる。
30分後。
小さなカップに盛られたフルーツデザートと、厚切りのパウンドケーキが並んだ。
「[excited]間に合った!!」
そこへ、大荷物を抱えたアカネが赤い顔で走って戻ってきた。肩で息をしている。
「[excited]材料買ってきた! 全速力で走ってきた!」
「[serious]完売しましたので不要です」
「[angry]ええ!?!? 全力で走ったのに!!」
「[serious]急ぎすぎたあなたの判断ミスですわ」
「[angry]誰かが早く対処してたからでしょ!!」
ミズキが戻ってきて、二人のやりとりを見て口元に手を当てた。肩が小刻みに揺れている。
「[gentle]……お疲れ様でしたね、アカネさん」
「[angry]笑ってるでしょ!!」
ハルトが二人の間に立って、苦笑いした。
「[gentle]アカネ、ありがとう。走ってくれたの、助かった。材料、次のクラスの分で使わせてもらうよ」
アカネがはっとした顔をした。それからため息をついて、荷物を下ろした。
「[gentle]……しょうがないな」
セリナが小さく咳払いした。耳がまだ少し赤かった。
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文化祭終了のアナウンスが流れた後、全体の人気投票結果の発表があった。
校内放送で、アナウンスが読み上げられた。
「——一位、2年3組、メイド&執事カフェ」
教室が爆発した。
「やったあああ!!」という声が何重にも重なった。田島が椅子の上に立った。西野がハルトの肩を両手で揺さぶった。
「[excited]お前の女軍団、最強すぎるだろ!!」
「[serious]違う違う違う」
ハルトは赤くなりながら否定した。でも視線は、教室の三人のところに向かっていた。
アカネが両手でガッツポーズをしていた。目が赤い。泣くのを堪えているのに、ガッツポーズは全力だった。
ミズキはいつもの笑顔だった。でも目元が、ほんの少しだけ潤んでいた。
セリナは腕を組んで「[serious]当然の結果ですわ」 と言っていた。耳が真っ赤だった。
ハルトは三人の顔を順番に見た。
昨日まで、アカネとミズキは口をきかなかった。セリナとは昨日初めてちゃんと話した。それが今日、同じ場所で同じ方向を向いて、全力で動いていた。
「逃げたくない」と思ったあの夜の気持ちが、今日ちゃんと形になったのだとわかった。胸の奥が、静かに温かかった。
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後夜祭。
校庭にキャンプファイヤーが焚かれていた。炎が夜空に揺れて、生徒たちの顔を橙色に染めていた。カップルで火を見ると結ばれる——そんな噂は、サクラノミヤ高校の後夜祭の定番だった。
ハルトは一人で校舎裏の庇の下にいた。人が多い場所から少し離れて、夜風に当たっていた。ファイヤーの音と歓声が、遠く聞こえてくる。
足音がした。
アカネだった。
メイド服から着替えて、いつもの赤いカーディガン。耳まで赤くなっているのは、ファイヤーの炎のせいじゃないとわかった。金色の瞳がハルトをまっすぐに見ていた。
しばらく、二人で黙っていた。
それからアカネが口を開いた。
「[serious]私、ハルトのことが好き」
声が震えていなかった。ちゃんと、まっすぐな声だった。
「[serious]ちゃんと言いたかったから言う。それだけ」
ハルトが言葉を探した。
そのとき、角から足音がした。
ミズキだった。銀色の髪が夜風でなびく。来てしまった——という顔ではなく、来るとわかっていた、という顔をしていた。
「[gentle]先に言われちゃった」
アカネを一瞥して、それからハルトを見た。紫色の瞳が揺れていた。笑顔だったが、目が本気だった。
「[gentle]……私もだよ、ハルトくん。ただ面白いだけじゃないって、とっくに気づいてた」
さらに、もう一つの足音。
セリナが腕を組んで立っていた。ハルトの方を向いていたが、視線は少し横に逃げていた。
「[serious]……観察対象として客観的に分析した結果、あなたに特別な感情を抱いていると結論づけました」
一拍置いて、顔を背けながら続けた。
「[serious]つまり——好きです」
沈黙。
ハルトの頭が、一瞬、真っ白になった。
炎の音だけが聞こえた。三人が三人とも、ハルトを見ていた。アカネは真剣な顔で。ミズキは潤んだ目で笑顔のまま。セリナは顔を背けながらも、耳だけこちらに向けていた。
ハルトはゆっくり息を吸った。
正直に言うしかないと思った。
「[serious]三人のことが大事だっていう気持ちは、本当だよ」
三人が静かに聞いていた。
「[serious]でも、今すぐ誰か一人を選ぶ答えは——出せない。ごめん。でも、逃げたくない。ちゃんと向き合いたい」
アカネが拳を握った。
「[gentle]しょうがない」
少し間を置いて、続けた。
「[serious]でも諦めないから。それだけは言っとく」
ミズキが小さく笑った。前日の家庭科室で初めて見た、笑顔を作らない笑いだった。
「[gentle]そういうところが面白いんだよ」
セリナが咳払いした。腕を組んだまま、視線だけハルトに戻した。
「[serious]猶予を与えます。期限は——未定ですわ」
四人で、キャンプファイヤーの方を向いた。
炎が夜空に揺れていた。ミナトザカ区の夜風が、ほんのり温かかった。ミソギ川の方向から、かすかに水音が聞こえた気がした。
俺の日常は変わった、とハルトは思った。
でも悪くない。全然悪くない。
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翌週の月曜日。
教室のざわめきが、いつもと違う色を持っていた。
「ねえ聞いた? また転校生が来るんだって」
「今度の子、ものすごく怖い人らしいよ」
クラスメイトの声が、ハルトの耳に届いた。
ハルトはなんとなく、ミズキを見た。
ミズキはいつも通り窓際の席に座っていた。いつも通り、笑顔で。
——でもその笑顔が、一瞬、完全に消えた。
笑うことを忘れたような顔。何かを本気で、鋭く、警戒している顔。ハルトが今まで見たことのない顔だった。一秒も経たないうちに笑顔に戻ったが、あれは確かにそこにあった。
アカネが椅子から音を立てて立ち上がった。廊下の方向に目を向けている。
セリナはすでに手帳を開いていた。セレクトリスト——霊的に重要な人物を監視するための非公開管理名簿——のページを確認している。
三人が同時に、シリアスな顔をしていた。
ハルトは、これは笑えない話だと悟った。
ノミヤ祭が終わって、告白があって、温かい夜があった。
でも今、三人の顔に笑いは一切なかった。