引きこもり配達員の推理録―小さな町の事件簿
雨宮愛子は大学院生でありながら、卓越した推理力を持つ一方で、重度の社交不安障害に悩まされ、自室に引きこもりがちで大学にもほとんど通えない。彼女の唯一のつながりは、匿名性を保てる『フレッシュライン』アプリを使った深夜のフードデリバリーの仕事だった。
そんなある日、配達先で客が謎の死を遂げる事件が起こる。警察も頭を抱える不可解な出来事に、愛子はいやいやながらも巻き込まれていく。明るく前向きな新人配達員・猫田美奈とチームを組むことを余儀なくされ、興味がないと拒みながらも、現場の矛盾を見抜き、不注意なミスを見逃さず、犯人へとつながる糸を紡ぎ出していく。
美奈の好意や警察からの協力要請、そして小さな町を巻き込む不気味な連鎖事件――すべてが、引きこもりの天才がこの町を守りたいと願っている証拠だった。引きこもりの天才と明るい配達員という異色のコンビが力を合わせ、町の謎を解き明かし始める。しかし、その犯罪の真の姿はまだ隠されており、誰も予想しなかった混沌の黒幕の存在をほのめかしていた。
――『引きこもり配達員の推理録―小さな町の事件簿』
引きこもり配達員の推理録―小さな町の事件簿 - 七件目の鍵は、ドア越しに
朽木隆之のデータに空白があった。
その事実は、藍子が推理ボードに新しいメモを貼り付けて眠りについた後も、どこか胸の奥でじわじわと燻り続けていた。一件の事件の痕跡。それ以上でも以下でもない——そう思おうとしていたのに、目を覚ますたびに「でも、なぜ空白なのか」という問いが先に浮かんでくる。
コーポ御影の206号室に、午前の光が薄く差し込んでいた。
カーテンの隙間から滑り込む斜めの日光が、推理ボードの上に張り付いたメモ用紙を白く照らしている。「朽木隆之→翠嶺市役所都市計画課→退職理由不明→フレッシュライン転職」。「空白データ→死亡推定日前後三日間」。赤いシールと、走り書きの矢印。
藍子はデスクチェアに座って、昨夜プリントアウトしたCSVデータを眺めていた。ボールペンのキャップを、指で三回叩く。三回叩いて、また止まる。
(データの元を入手しないと、先に進めない)
そう分かってはいる。でも朽木に再接触することへの抵抗感と、データが操作されている可能性への疑念が、思考の中でぐるぐると絡み合ったまま解けない。
インターホンが鳴った。
一回。
藍子は動かなかった。
二回、三回——そして四回目が鳴る前に、スマートフォンが振動した。フレッシュラインのアプリ内チャット。「ねこたみな☆」からのメッセージだった。
「藍子さん!!起きてる!?!?」
続いて。
「刑事さんから連絡来てるんだけど!!!!!!」
絵文字がない。ミナが絵文字を使わないのは珍しい。
藍子はメッセージを読んで、もう一度読んだ。
(刑事)
チャットをスクロールすると、ミナが転送してきた文面があった。フレッシュラインの配達員連絡網——本来は業務上の連絡に使われる経路——を経由して届いた、業務的な文体のメッセージ。
「配達員・雨宮藍子様へ。先日の配達に関する確認事項がございます。ご都合のよい日時にご連絡いただけますでしょうか。翠嶺警察署刑事課・瀬尾誠司」
藍子はその経路を三秒間、分析した。
(フレッシュラインの連絡網経由で、記録に残らない形で接触してきた。公式の呼び出しではなく、なおかつ私用の連絡先を使っていない。痕跡を最小化したい意図が読める——)
インターホンがまた鳴った。今度は連続で、せわしなく。
藍子はため息をついてから、立ち上がった。ドアを開ける。五センチだけ。
ドアの前にミナが立っていた。ミントグリーンのツインテールが肩のあたりで揺れている。黄金色の瞳が、大きく見開かれている。
「[excited]刑事さん!!刑事さんだよ!!すごくない!?」
「声が大きいです」
「でも刑事さんだよ!?ドラマみたいだよ!?」
「見ました」
「返信した方がいいよね!?ちょっとスマホ貸して——」
ミナが手を伸ばしてきた瞬間、藍子はミナの手首を無言でつかんだ。静かに、しかし確実に。ミナの動きが止まる。
「え」
藍子はスマートフォンを自分の側に引き、文面を打ち始めた。ミナはつかまれたまま、きょとんとした顔で藍子の手元を覗き込んでいる。
送信した内容は、こうだった。
「御影町交番前、本日十五時。私は交番の外でなければ応対できません。——雨宮藍子」
ミナがその画面を読んで、口をぽかんと開けた。
「[surprised]警察に……条件つけたの?」
「条件をつけないと、行けません」
短い一言だった。でもその一言に含まれているものの重さを、ミナは一瞬で感じ取ったらしかった。笑いかけた口角が、そのまま柔らかくなる。揶揄でも驚きでもない、ただ「そうか」というような表情だった。
ミナは何も言わなかった。ただ小さく頷いて、「一緒に行っていい?」とだけ聞いた。
藍子は少し考えてから、答えた。
「……いいです」
*
午後三時の御影町交番は、商店街の東端に静かに存在していた。かげろう通りのアーケードが途切れる手前、古びた自動販売機の隣に建つ小さな建物。ガラス張りの窓に「翠嶺警察・御影町交番」と書かれたプレートが貼ってある。
交番前の路地には、待ち構えるような姿勢で一人の男が立っていた。
四十前後。白髪が混じり始めた濃い茶色の短髪がきっちり整えられている。ネクタイを締めたスーツ姿で、腕を前に組んでいる。背が高く、体格がしっかりしている。目が黒く、鋭い——でもただ冷たいだけではなく、奥にどこか温かみのある光が宿っている、そういう種類の目だった。
私服だが、立ち姿に制服のようなものがある。「刑事」という職業を全身で体現しているような男だった。
「[serious]……来てくれましたか」
低く、落ち着いた声。瀬尾誠司——翠嶺警察署刑事課・巡査部長——は、藍子とミナを見て、一度だけ頷いた。
藍子は交番の引き戸に手をかけた。そして、五センチだけ引いた。
横から瀬尾が「中に入っていただけますか」と言った。
「[serious]ここで十分です」
瀬尾が一拍置いた。
「……椅子もありますが」
「外の方が、楽です」
「そう、ですか」
ミナが藍子の少し後ろで、そのやりとりを見ていた。小声で「これ、前例あるの……?」と呟いたが、どちらも返事をしなかった。
瀬尾が鞄から聴取用の書類を取り出した。A4サイズの紙に、印刷されたフォーム。そして——ためらいもなく、ドアの五センチの隙間に差し込んできた。
「署名をお願いできますか」
藍子は少し考えてから、ドアの隙間から右手だけを外に出した。ペンを受け取り、用紙を内側に引き込んで署名する。そしてまた隙間からペンと書類を返す。
通りかかった老夫婦が、その光景を見てぽかんと立ち止まった。交番の引き戸が五センチだけ開いていて、その隙間に手だけが出てきて書類に署名している。刑事がそれを真剣な顔で受け取っている。
老夫婦が首を傾けて立ち去った後、ミナがこっそり藍子の袖を引いた。
「[whispers]……名探偵みたいだよ」
藍子は答えなかった。引き戸の取っ手を握ったまま、正面を向いている。
聴取が始まった。
瀬尾は手帳を開いて、通報時の記録を読み上げ始めた。声のトーンが変わった——少し前の硬直した敬語から、情報を確認する静かな調子に。
「シルフィードマンション704号室への配達にて、玄関ドアが内側から施錠されていたが、サムターンの回転痕が通常使用とは異なる位置に残っていた。死後硬直が右側の上肢に偏っており、体位と矛盾する。食器が未使用のまま残され、電子レンジの庫内に食品の痕跡がない——」
読み上げながら、瀬尾は顔を上げた。藍子を見た。
「……あなたの通報内容は、異常なほど正確でした」
五センチの隙間の向こう、藍子の栗色の瞳が、瀬尾の左肩のあたりに向けられている。
「[serious]矛盾していたから、記録しただけです」
「矛盾、とは?」
「施錠のされ方と、硬直の位置と、食器の状態——三つが組み合わさると、単独の事故死として成立しない」
瀬尾が書類に何かを書き込んだ。手元を見ずに、藍子の方を見たまま。
「刑事課でも同じ見解に至るのに、一週間かかりました」
「慣れの問題だと思います」
ミナが「慣れって何に……」と小声で言いかけて、口をつぐんだ。
瀬尾の読み上げが続いた。藍子が指摘した点の一つ一つを確認するたびに、瀬尾の声のトーンがわずかずつ変化していく。情報を照合する刑事の声から——何か別のものを確かめようとしている人間の声に。
ミナがそれに気づいた。藍子の袖をそっと引いて、耳元に囁く。
「[whispers]刑事さん、本気の顔になってる」
藍子は動かなかった。引き戸の取っ手を、少し強く握った。
*
「——その矛盾は」
瀬尾が一度、言葉を止めた。
交番の外の路地を、左右に一度だけ確認した。商店街の端。この時間帯は人通りが少ない。老夫婦はすでにいない。自動販売機が静かに稼働している音だけが、低く響いていた。
「半年間で七件起きた不審死事案の、全てに共通しています」
沈黙が落ちた。
三秒間、藍子は完全に動かなかった。取っ手を握った手も、視線も、呼吸さえも——止まった、と表現するしかない状態になった。
ミナがそれを見て、瀬尾を見た。小声で「今すごい速さで考えてます、少し待ってください」と言った。瀬尾が「……わかりました」と姿勢を正して待った。
この奇妙な静止の構図——刑事が交番の前で直立して沈黙を待ち、交番の引き戸が五センチ開いた隙間の内側で女性が考え込み、その横でミントグリーンの髪の少女が刑事に小声で状況説明している——の、なんともコメディ的な外観とは裏腹に、その場に流れる空気は重かった。
七件。
その数字が、藍子の頭の中で別の数字と結びついていた。
朽木隆之のデータの空白。三日間。一件の事件。それが——七件の、連続した何かの一部だとしたら。
藍子の思考が、音を立てて組み替わっていく感覚があった。ピースが一枚、正確な場所に収まる瞬間の、あの感覚。でも今回は喜びではなく、規模の認識が先に来た。一件だと思っていたものが、七件の連鎖の輪の一つだった——その落下感。
「[serious]……七件全ての配達記録に、同じ空白期間がありますか」
瀬尾の目が細くなった。
「なぜそれを知っているんですか」
「朽木隆之が提供したデータに、空白がありました。死亡推定日前後の三日間です」
瀬尾の表情が、わずかに変わった。
眉の動きだった。ほんのわずか、内側に寄った——その一瞬の反応を、藍子は見逃さなかった。朽木の名前が出た瞬間の、意図せず漏れた何か。
(朽木に、何か知っている)
藍子は引き戸の取っ手から、手を離した。
引き戸を開けた。今度は十五センチ。五センチではなく、十五センチ。藍子の顔の半分が、外の光の中に出てきた。栗色の瞳が、瀬尾の目の近くを、はっきりと見た。
ミナがそれを見て、小さく「あ」と声を出した。後で「藍子さんが自分からドア開けた」と言うことになる、その「あ」だった。
「朽木という名前に反応しました」
瀬尾は答えなかった。でも否定もしなかった。
数秒の間があって、瀬尾が一度だけ目を伏せた。そして、顔を上げた。
「……少し、話させてください」
*
瀬尾が話し始めた内容は、簡潔で、それゆえに重かった。
七件の不審死。最初の一件が半年前。全て単身世帯、全員がフレッシュラインの利用者。翠嶺警察署内では、署長の堂島芳正——57歳、市長との関係を重視する人物——が全件を「単独の病死」として処理するよう命じていた。捜査継続のための令状申請は、内部で握りつぶされた。
「[serious]私は署内で、この件を単独で追っています。ただ、正式な捜査権限がない。証拠として使える資料もない」
ミナが小さく「それって……」と呟いた。瀬尾が続けた。
「あなたが七件目の発見者として外部の記録に残ったことが、今が唯一の機会だと判断した理由です。本来このような形での協力要請は、許されません」
一拍置いた。
「ただ——あなたが見たものは、本物だった」
真面目を通り越して頑固にさえ見える口調が、この場面では切実さとして機能していた。融通の利かない人間が、それでも動こうとしているときの、あの切実さ。
藍子はしばらく、引き戸の縁を指でなぞった。木目の古い塗装が、ざらついている。
「[serious]協力する意味は何ですか」
「あなたの推理を、証拠に変える窓口を私が担います。警察内部のルートと、外部の観察眼——それを繋げることができれば、握りつぶされない形になる可能性があります」
藍子が考えている間、ミナが動いた。
藍子の袖の端を、そっとつかんだ。引っ張るのではなく、ただ触れる程度に。黄金色の瞳が、藍子の横顔を見ていた。
「[gentle]藍子さん、一緒にやろうよ」
小さな声だった。でも確かに聞こえた。
藍子は袖をつかまれた右腕を、一度だけ見下ろした。ミナの指が、上着の端を握っている。それから視線を正面に戻した。
「七件全ての配達記録を、警察の記録から見せてください。それが条件です」
瀬尾の表情が動いた。
「……それは、警察内部のデータを外部に提供することになります」
「知っています」
「職務規程上——」
「知っています」
瀬尾が口をつぐんだ。藍子も何も言わなかった。
ミナだけが、二人の間に流れる沈黙を、横から感じていた。どちらも「はい」と言っていない。でも「いいえ」とも言っていない。何か——不完全な合意の気配のようなものが、交番の前の午後の空気の中に、静かに満ちていた。
自動販売機が、低い音でウィンと鳴った。
「[serious]……考えます」
「私も、すぐには決めません」
「それで、構いません」
瀬尾が手帳を閉じた。一礼して、路地の奥へ歩いていった。背筋が真っ直ぐで、足音が静かだった。曲がり角で一度も振り返らずに、消えた。
ミナがその背中を見送ってから、藍子を見た。
「……七件って」
藍子は引き戸を閉めた。カチャ、と小さな音がした。
「そういうことです」
*
コーポ御影に戻った藍子は、コートを椅子に掛けずにそのままの格好で推理ボードの前に立った。
中央に貼ってあった「シルフィードマンション704号室」のシールを、そっと剥がした。
新しいメモ用紙に、数字を書いた。
一、二、三、四、五、六、七。
七つの数字を縦に並べて、ボードに貼った。七件目の横に、704号室と書き添えた。
そこで、手が止まった。
一件だと思っていたものが、七件の連鎖の一部だった。この規模の前に、藍子は初めて——自分が今、何と向かい合っているのかの輪郭を、肌感覚として知った。数字として知ったのではなく、体で知った、という感覚だった。
椅子に座った。推理ボードを見た。壁を見た。
表情は動かなかった。でも右手がメモ帳を強く持ちすぎていて、気づいたらページが一枚、端の方で折れていた。
(朽木のデータへのアクセス。瀬尾への協力の可否。七件分の配達記録。全部が未達成のまま、繋がっている)
全ての糸が途中で切れている。手元にあるのは断片だけだ。
スマートフォンが振動した。
チャット通知。「ねこたみな☆」から。
「帰り、かげろう通りのおかめで唐揚げ弁当買ってきたんだけど。一個持ってく?」
藍子は三分間、返信しなかった。
メモ帳の折れたページを、指で軽く伸ばした。折れた跡は残ったが、端は戻った。
もう一件、通知が来た。
「いや別にいいんだけど、なんか一人で食べんの寂しくて」
藍子はその文面を、二度読んだ。
「食事処おかめ」——かげろう通りにある大衆食堂だ。店主の三船トシ子が名物の唐揚げ定食を出している、あの店の。七百二十円の唐揚げ弁当。ミナが買ってきた、という情報が一秒で揃った。
それよりも長く、藍子の思考は別のところに留まっていた。
一人で食べんの寂しくて。
その一文が、推理ボードの前の静かさの中で、妙にリアルな重さを持った。
藍子はスマートフォンの画面に文字を打った。
「来ていいです」
送信して、通知を閉じようとした。閉じなかった。
(ドアを開ける側から、許可を出した)
その事実に気づいて、藍子は少しだけ遅れて画面を伏せた。
*
十分後、ミナが来た。
コーポ御影の廊下を歩いてくる足音が聞こえた瞬間、藍子は椅子から立って、鍵を開けた——ノックが来る前に。ドアを開けると、ミナが「あ、開いた」と少し驚いた顔をしていた。
ミナはコンビニ袋を持っていた。いや、よく見ると「食事処おかめ」の紙袋だった。唐揚げ弁当と書かれた手書きのシールが貼ってある。大盛りが二つ。
「[gentle]二個買ってきた。一緒に食べよ」
藍子は「入ってください」と言って、部屋に戻った。推理ボードの前の床に、何も言わずに座った。ミナが隣に来て、同じように床に座った。紙袋から弁当を取り出して、藍子に一つ渡した。
二人で蓋を開けた。唐揚げが五個、きっちり並んでいる。特製タレが別のカップに入っている。ほんのりと醤油と生姜の匂いがした。
ミナが推理ボードを眺めた。七つの数字が縦に並んでいる。
「[sad]……そんなに、あったんだね」
静かな声だった。笑っていなかった。
藍子は答えなかった。箸を動かした。唐揚げを一個取って、口に入れた。
温かかった。さくっとした衣の感触と、肉汁。三船さんの唐揚げは、深夜に食べても旨い。藍子はそれを確認するような速度で咀嚼した。
ミナも食べていた。二人しばらく、何も言わなかった。
ボードの七つの数字と、手書きの矢印が、部屋の薄明かりの中でこちらを見ていた。七件目の横に「704号室」。その下にまだ空白がある。六件分の名前も、場所も、顔も——藍子はまだ知らない。
「藍子さん」
ミナが、弁当の蓋を膝に置きながら言った。
「刑事さんのこと、信じる?」
藍子は唐揚げを口に入れたまま、少し考えた。
「[serious]……信じるかどうかは、データを見てから判断します」
「そっか」
「でも」
藍子は一拍置いた。
「[serious]朽木のデータに反応したことは、本物でした。隠していなかった」
ミナが静かに頷いた。それ以上は聞かなかった。
二人の間に、また沈黙が来た。でも今度は重くなかった。ただ静かだった。唐揚げを食べる音と、自動販売機の遠い稼働音と、かげろう通りのどこかから届く夜の気配。
藍子の視線はボードの七つの数字に向いていた。でも思考の端に、さっきの感触がまだ残っていた。袖の端を、ミナがつかんだ感触。推理の言語では処理しきれない、物理的な細部として。
ミナが弁当の最後の唐揚げを口に入れて「旨い」と呟いた。藍子も最後の一個を食べた。同じように旨かった。
ボードの端、新しいメモが一枚、画鋲で留まっている。
「次に必要なもの——瀬尾の警察内部データ、もしくは朽木の元サーバーへの別経路」
七つの数字の右側には、まだ何も書かれていない。六件分の空白が、静かに待っている。