不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
私、不知火フレア。トップバーチャルエルフストリーマーとして、ファンと最高に楽しい時間を過ごしていたら、画面が真っ白になって――気がついたら、見知らぬ街にいたの。
ここはラズベリル王国。人間がエルフを差別している世界。マジで?! 私が差別される側とか、配信のネタにもならないんですけど。でも、騒動に巻き込まれて、牢屋にぶち込まれちゃった。そんな時、助けてくれたのが、超変わり者の人間の商人、ルーカス。
ルーカスはエルフだとか一切気にしない。「商才があるなら、俺の相棒になれ」って、冗談でしょ。でも、彼のトンデモ発明品がなぜか売れ始めて、一緒に過ごす日々は、予想外に笑っちゃうくらい楽しくて。しかも、彼には婚約者がいるって知った時、胸がチクリと痛んだ……って、これ、もしかして恋?! ヤバい、超ヤバい! 私の心、めちゃくちゃだよ!
でも、この世界はそんなに甘くなかった。エルフを狩る奴隷商人たちが私を狙い始めたの。ルーカスは私をかばって大怪我を負って、彼の婚約者サラが血相を変えて病院に駆けつけてきた。みんなの想いが絡まって、私は全
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜 - え、マジ!? 異世界転移したら本当にエルフになっちゃったんだけど!
ドンッ——!
お尻から石畳に落ちた。すごく痛い。
「[surprised]いったぁ……なに、今の!?」
見上げると、ぼろぼろの石のアーチ。でも見覚えなんて全然ない。さっきまで配信してた、私の部屋はどこ?ディスプレイも、マイクも、チャット欄も、全部消えた。
夜の街だ。かび臭い空気と、どこか遠くの犬の遠吠え。視界の端で、ぼんやり揺れるランプの明かり。
目をこすってもう一度あたりを見回す。石造りの建物が、ぎゅうぎゅうと並んでた。
「[scared]え、マジでどこよここ……」
立ち上がろうとして、違和感に気づく。
耳が、重い。
それに足がやけに長く感じる。
そっと自分の耳を触った。
指先が触れたのは、いつものヘッドセットじゃなくて——長くて、とがったエルフの耳。
「[surprised]うそ!? ちょっと、えええ!?」
軽く跳ねてみる。ふわりと浮いて、前より高く跳べた。
髪をひと房つまんで、目の前に持ってくる。腰までの長いプラチナブロンド。右側だけ、ちょっと紫のインナーカラー。
これ、私の配信用アバターの見た目じゃん。
「[excited]マジで本物になってる! やばっ、やばすぎるってこれ!」
もう一回、耳を触る。指でつまんで、ちょっと引っ張る。
痛い。ちゃんと痛い。
そのまましゃがみこんで、自分のほっぺたをつねった。
痛い。やっぱり痛い。
「[laughing]夢じゃない、よね? 夢なら痛くないし……っていうか、これってまさか」
知ってる。この展開。
配信でも何度も話題にした。チャットでリスナーが騒いでたやつ。
「[excited]異世界転移ってやつじゃん! うっそ、マジでありなの!?」
思わず叫んで、その場でくるっと一回転した。
麻のチュニックのすそがふわりと広がる。茶色いキュロットは動きやすそう。胸のあたりには、自分で刺しゅうした炎のマーク——配信のロゴを真似たものがくっきり。
心臓がばくばくしてる。こわいけど、なんかすごくワクワクしてきた。
「[excited]落ち着け、私。まずは状況確認っしょ! 配信者たるもの、非常事態こそネタにするべし!」
一人でぶつぶつ言いながら、私はつま先で地面を蹴った。
感触はしっかりしてる。石畳は冷たくて、ところどころひび割れてて、苔がむしてる。
こんな狭い路地裏、生まれて初めて見た。
壁には薄汚れた木の看板。文字はちょっと読めないけど、とにかく古い。
空を見上げる。星がすごくきれい。東京じゃ絶対に見られない。
(ま、なんとかなるっしょ!)
いつもの口ぐせを心の中でつぶやいて、私は一歩、夜の街へと踏み出した。
——*——*——
ランタンが風に揺れる。石畳に影が踊る。
角を曲がると、大通りに出た。
「[surprised]お、おお……」
声がもれた。
道幅が急に広くなる。向こう側には木組みの家がひしめき合い、二階の出窓から女の人が洗濯物を取り込んでる。
夜なのに、けっこう人が歩いてる。
手押し車を引くおじさん、酒瓶を抱えたおばさん、棒つきのランタンをさげて見回りする兵隊さんみたいな人たち。
でも——みんな、こっちを見る。すれ違うたびに、ちらっと視線が刺さる。
「[excited]こんばんはーっ! ちょっと道に迷っちゃって!」
笑顔で手を振ってみた。配信の時みたいに。
でも返事はない。代わりに、急に視線をそらされる。女の人は子供を引き寄せて、足早に路地へ消えていった。
「……あれ?」
違和感が、じわじわと首の後ろをはいずる。
もう一度、自分の耳を触る。
ここにいる人たちはみんな、耳が丸い。尖ってない。
(そうか。私、本物のエルフになってるんだ)
それが変な意味を持つ世界なのかもしれない——そう思った瞬間だった。
「[cold]そこのエルフ、止まれ」
びくっと肩が跳ねた。
振り返ると、二人の衛兵が立ってる。灰色の制服に、腰に剣。一人は背が高くて無表情。もう一人はちょっと猫背で、でも目つきが怖い。
「[scared]は、はい?」
「[angry]エルフが夜間に単独で外出するとは、隷属管理法違反だ。身分証を見せろ」
背の高い方の衛兵が、きっぱりと言い放った。
「[surprised]えっ、隷属……なんですかそれ。いや、身分証って言われても、私たった今ここに来たばっかで」
「[cold]持っていないな」
猫背の衛兵が、にやりと笑った気がした。
「[scared]ちょっと待って! ほんとに道に迷っただけで、悪気は全然なくてですね! ていうか、私さっきまで配信してて——」
言い終わる前に、肩をぐいっとつかまれた。
「痛っ——」
腕が後ろにひねりあげられる。石畳の上が急に目の前に迫って、どんっと膝をついた。
骨まで響く衝撃。ひざがじんじん痛む。
「[crying]やめて! 痛いんですけど!」
「[cold]うるさいぞ、エルフが」
声が冷たすぎて、背筋が凍った。
顔を地面に押しつけられる。冷たい石の感触がほっぺたに食い込む。土とカビの匂いが鼻をついて、涙がにじんできた。
ポジティブでいなきゃって思った。
なんとかなるって、笑わなきゃって。
でも声が出ない。
息が浅くなる。こわい。痛い。
配信の時は、みんなが優しかった。「フレアちゃん可愛い」「今日も面白かったよ」——いつも画面の向こうの光みたいな言葉に守られてた。
ここにはそれがない。
誰も笑ってくれない。
(……私、なにやってんだろ)
ぐっと奥歯をかみしめた。金属みたいな味が口に広がる。
「[crying]……誰か、助けて……」
声が勝手にもれた。涙声だった。聞こえるか聞こえないかの、しぼりだすような声。
そのとき。
カツ、カツ——遠くから、落ち着いた靴音が近づいてきた。
「[serious]おい、何事だ」
男の人の声。低くて、でも冷たくない声。
涙でぼやけた視界の端に、足音の主が映った。
くせっ毛のくすんだ金髪を、無造作に後ろで一つに結んでる。垂れ目がちの優しい茶色い瞳。でも今はちょっと険しい。
背が高い。ひょろっとした長身に、動きやすそうな旅装束。肩からずっしりした革の鞄をさげていて、それが商人だってすぐにわかった。
「[angry]これは規則だ、遊歴商人。保証人のいないエルフの違反は即、強制労働所行きだ」
「[serious]待て待て。話を聞く前に縛り上げるなんて、衛兵ってのはそういう仕事だったか?」
あごに手を当てて、ルーカスは首をかしげた。茶色い瞳がちらりと私を見る。
目が合った。
(この人、エルフを見ても嫌な顔しないんだ)
妙なことに気づいた。衛兵たちは私をまるで虫けらみたいに見てたけど、この人は違う。
ただ単に「うーん、困ったな」っていう顔をしてるだけだ。
「[sarcastic]身分証も無しにうろつくエルフだぞ。何か企んでるに決まってる」
「[serious]ただの迷子かもしれないだろ。ここは王都クレヴィスタの中層区だ。地方から出てきたばかりなら迷うやつもいる」
心臓がどくんと跳ねた。
(この世界はラズベリル王国で、ここはクレヴィスタって街なんだ)
男の人の言葉で、ようやく自分がどこにいるのかが一つわかった。
でも同時に——保証人っていう言葉が、頭の中でぐるぐる回り出す。
「[cold]とにかく規則だ。こいつは身分証を持ってない。連行する」
「[serious]……たしかに規則は規則か」
男の人がため息をついたのが聞こえた。
(ああ、見放される——)
現実をたたきつけられて、指先が冷たくなった。
でも。
「[serious]だが、保証人という制度もある。なんなら今、俺がこいつの保証人になろう」
「[surprised]……なに?」
「[laughing]あんた、正気か? 見ず知らずのエルフを保証するのか?」
「[serious]ああ。面白そうな話の匂いがする。それにほら——何かビジネスになるかもしれないしな」
軽い口調だった。でも背筋はまっすぐで、腰に手を当てて、ぜんぜん引く気がないのがわかる。
ぽかんとして、地面に組み伏せられたままその人の顔を見上げた。
ルーカスは軽くこっちに手を振った。
まるで「ちょっと待ってろ」って言うみたいに。
(この世界では、エルフは保証人ってやつがいないと生きていけないんだ)
胸の真ん中がぐっと縮まる。
こんな世界に来たのか、私。
でも——見ず知らずの変なエルフのために、衛兵とやり合おうとしてる人間がいる。
(な、なんなんだこの人。変わり者なのか、お人よしなのか……)
新たな怖さと、でも小さな光が、一緒に胸に落ちてきた。
ルーカスが衛兵に何やら紙を見せる。衛兵はぶつぶつ文句を言いながら、ようやく私を離した。
肩がじんじん痺れてる。涙でぐしょぐしょの顔をあげると、ルーカスが手を差し出してた。
「[gentle]大丈夫か、嬢ちゃん」
優しい目だった。でも商談前の商人みたいに、きらりと光る好奇心も混じってる。
私は震える手で、その手を握り返した。
——これが、ぜんぶの始まりだった。
あとでわかったことだけど、この世界は思ってたよりずっと、甘くなかった。Noveliaとは?
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