不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
私、不知火フレア。トップバーチャルエルフストリーマーとして、ファンと最高に楽しい時間を過ごしていたら、画面が真っ白になって――気がついたら、見知らぬ街にいたの。
ここはラズベリル王国。人間がエルフを差別している世界。マジで?! 私が差別される側とか、配信のネタにもならないんですけど。でも、騒動に巻き込まれて、牢屋にぶち込まれちゃった。そんな時、助けてくれたのが、超変わり者の人間の商人、ルーカス。
ルーカスはエルフだとか一切気にしない。「商才があるなら、俺の相棒になれ」って、冗談でしょ。でも、彼のトンデモ発明品がなぜか売れ始めて、一緒に過ごす日々は、予想外に笑っちゃうくらい楽しくて。しかも、彼には婚約者がいるって知った時、胸がチクリと痛んだ……って、これ、もしかして恋?! ヤバい、超ヤバい! 私の心、めちゃくちゃだよ!
でも、この世界はそんなに甘くなかった。エルフを狩る奴隷商人たちが私を狙い始めたの。ルーカスは私をかばって大怪我を負って、彼の婚約者サラが血相を変えて病院に駆けつけてきた。みんなの想いが絡まって、私は全
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜 - 笑顔の魔女がやってきた——絶望と脅迫の朝
クレヴィスタ救護院の白い廊下は、夜明け前の青い闇に沈んでいた。
壁にもたれて座り込んだ不知火フレアは、自分の両手をじっと見つめている。指の間にこびりついた血は、もう黒く固まって剥がれかけていた。ルーカスの血だ。私をかばって流れた血だ。
一晩中、この手を洗えなかった。
洗うのが怖かった。洗ってしまったら、自分のせいだっていう事実から目をそらそうとしてるみたいに思えたから。
「[whispers]……なんで」
声がかすれる。喉が張りついて、うまく息ができない。
頭の中で、同じ言葉がぐるぐる回ってる。
——私が異世界から来たエルフだから。
——私が珍しいから。
——私が、ここにいるから。
だからルーカスは狙われた。頭を殴られて、血まみれになって、今も意識が戻らない。全部、ぜんぶ、私のせいだ。
「[crying]……ちがう、私のせいじゃ……」
言いかけて、やめた。
違うわけがない。
私さえいなければ、ルーカスはいつも通りヘンな発明品を作って、サラさんと笑い合って、平和に暮らしてたはずなのに。
ぎゅっと拳を握る。爪が手のひらに食い込んで、じわりと新しい血がにじんだ。
痛い。でも、このくらいの痛みじゃ足りない。
ルーカスが感じてる痛みに比べたら、こんなの、なんにもならない。
——*——*——
治療室の扉が開いた。
サラ・ティルハーブが出てくる。蜂蜜色のゆるふわウェーブは乱れて、深い森みたいな緑色の瞳は充血している。一晩中、ルーカスのそばにいたんだ。婚約者なんだから当たり前だ。でも、それを見た瞬間、フレアの胸の奥がぎゅっと痛んだ。
「[gentle]フレア……まだいたの。少しは眠れた?」
サラの声は穏やかだった。でも、その穏やかさが逆に怖い。無理してるのが痛いほど伝わってくる。
「[scared]サラさんこそ……ルーカスは?」
フレアは立ち上がろうとして、足がしびれてよろけた。
サラがそっと手を貸してくれる。その手が冷たかった。
「[serious]出血は止まったわ。でも……」
言葉を切る。
「[serious]今夜が山場だって。今日中に意識が戻らないと——」
そこまで言って、サラは首を振った。
言わなくてもわかる。フレアのエルフの耳は、医師がバルドに耳打ちした声をちゃんと聞いていた。『意識が戻るかどうかは今夜次第』。
「[scared]……サラさん、私」
何か言わなきゃ。ごめんなさい。私のせいです。
でも、喉がつっかえて言葉が出てこない。
そんなフレアの様子を見て、サラは小さく笑った。
「[gentle]だいじょうぶよ、ルーカスはしぶといから」
「[scared]でも……」
「[gentle]あなたのせいじゃないわ。あのチンピラたちが悪いの。それだけ」
きっぱりと言い切った。
サラのこういうところが、フレアはすごいと思う。優しいけど、芯が鋼みたいに強い。自分がどれだけ不安でも、人のせいにしない。
「[sad]……ありがとう、ございます」
フレアはうつむいた。
ありがたいのに、苦しい。サラが優しければ優しいほど、自分が情けなくなる。
その時だった。
コツ、コツ、コツ。
廊下の向こうから、革靴の規則正しい足音が近づいてくる。
二人は同時に顔を上げた。
朝の光が差し込み始めた廊下を、一人の女性が歩いてくる。
黒い外套をまとった、背の高い女。
後ろでピシッと結い上げた深紅のストレートロング。冷たい光を放つ金色の瞳。左のこめかみから顎にかけて走る細い傷跡。そして、右手にはめてある銀の指抜きグローブ——鋭い爪が、朝日を受けてギラリと光った。
受付の担当者が慌てて駆け寄る。
「[serious]お客様、面会は予約が——」
女はちらりともそちらを見ない。
金貨を一枚、テーブルの上に滑らせた。それだけで、受付の男は黙り込む。
足音は止まらない。
フレアの目の前で、女が立ち止まった。
「[cold]——ほう」
品定めするような視線が、フレアの全身を上から下まで這い回る。
長い耳。プラチナブロンドの髪。アメジストの瞳。
全部を、じっくりと、値踏みするように。
フレアの背中に、ぞわっと悪寒が走った。
この視線を知ってる。
衛兵の蔑みの目でもない。客の好奇心でもない。これは——商品を見る目だ。
「[cold]本物の異世界エルフ。なるほど、これは……想像以上の逸品だ」
女が口を開いた。声は低く、滑らかで、それなのに体温が感じられない。
「[scared]……あんた、誰」
フレアは無意識に一歩後ずさっていた。
「[cold]これは失礼。私はイルゼ。イルゼ・ヴァナグル——お前たちが昨夜お会いした者たちの、雇い主だ」
昨夜のチンピラたち。
フレアの頭に、棍棒を振りかぶった傷顔の顔が浮かんだ。
「[angry]……あんたが!!」
叫んだ瞬間、イルゼはふわりと微笑んだ。
でも、金色の目はまったく笑っていない。氷のように冷たいまま、フレアを見下ろしている。
「[cold]落ち着け。私はお見舞いに来ただけだ」
「[angry]ふざけるな!ルーカスに何かしたら——」
「[cold]何かしたら?」
イルゼの声が、すっと温度を失った。
「[cold]お前たちの方から襲いかかってきたのだろう?私の部下は五人が重傷だ。治療費だけでもかなりの額になる。本来なら賠償を請求したいところだが——」
「[angry]そっちが先に仕掛けてきたんでしょ!エルフを引き渡せって——」
「[cold]ビジネスの提案だ。交渉の余地はあったはずだ」
イルゼは肩をすくめた。
「[cold]だが部下が少々……熱くなりすぎたようだな。これでも注意はしたのだが」
口調は優雅で、紳士的ですらあった。
でも、それが逆に怖い。
この女は、本気でエルフを「交渉材料」としか思ってないんだ。
フレアは拳を握りしめた。
「[cold]まあいい。本題に入ろう」
イルゼはフレアの横を通り過ぎ、ルーカスの個室の扉を開けた。
——*——*——
病室の中には、薬草の苦い匂いが漂っていた。
窓から差し込む朝日が、白いシーツを眩しく照らしている。その中央で、ルーカスが眠っている。頭には包帯が巻かれ、顔色は土気色だった。
イルゼはベッドの脇に立ち、意識のないルーカスを見下ろした。
「[cold]大変だったな、遊歴商人」
独り言のように呟く。
サラがフレアの腕をぎゅっと掴んだ。二人は部屋の隅で固まっている。
「[cold]さて」
イルゼがゆっくりと振り返った。
金色の目が、まっすぐにフレアだけを捉える。サラのことは見ていない。まるで、この部屋にフレア以外は存在しないかのように。
「[cold]単刀直入に言おう。不知火フレア——お前を買いたい」
「[scared]……は?」
「[cold]異世界から来た本物のエルフ。これほどの希少価値はない。ヴァナグル商会が責任を持って、最高額で買い取ろう」
「[angry]だ、誰があんたなんかに!!」
「[cold]そう言うと思った」
イルゼは微笑んだ。
「[cold]だから、こちらからも提案しよう。三日後、メルヴィータの商会へいらっしゃい。自ら足をお運びいただければ、それ以上のことは何もいたしません」
「[angry]行くわけないでしょ!!」
フレアが叫ぶ。
イルゼは、その瞬間——初めてサラに視線を向けた。
「[cold]ほう。では——」
笑顔のまま。
目は氷のままで。
「[cold]こちらの婚約者の方の、身の安全も……保証いたしかねますね」
「——ッ!!」
フレアは言葉を失った。
サラが、フレアの腕をぎゅっと握り返す。その手が震えているのが伝わってきた。
「[angry]……ふざ、けるな……!!」
声が震える。
「[angry]サラさんは関係ない!!狙うなら私だけにしろ!!」
「[cold]もちろんだとも。だが、お前次第だ。素直に来てくれれば、誰も傷つかない」
「[angry]失せろ!!!今すぐここから出ていけ!!!!」
フレアは叫んだ。涙がこぼれる。視界が歪む。
イルゼは眉ひとつ動かさなかった。
「[cold]ご検討を。期限は三日だ」
それだけ言うと、くるりと背を向ける。
革靴の足音が、規則正しく遠ざかっていく。廊下の向こうに消えるまで、ほんの数十秒なのに、永遠に感じられた。
——*——*——
沈黙が訪れた。
ルーカスの荒い呼吸音だけが、部屋に残る。
ヒュウ、ヒュウ、と、苦しそうな寝息。
フレアは——その場に崩れ落ちた。
「[crying]……う、うぁ……っ」
膝が床に当たる。
冷たい石の感触。
でも、そんなことどうでもよかった。
「[crying]っ……ぅ……あぁぁ……!!」
声にならない声が、喉の奥から溢れ出す。
ポジティブで笑い飛ばすことも、配信ネタにして逃げることも、何もできない。
ただ怖い。
ただ悔しい。
ただ——自分が憎い。
涙が止まらない。鼻水も出て、顔がぐちゃぐちゃになる。そんなのみっともないのに、止められなかった。
「[crying]わ、私が……私が、いなければ……っ」
震える声で呟く。
「[crying]私がいなくなれば、全部終わる……サラも、ルーカスも、安全になる……っ」
その時。
視界の端で、サラが動いた。
しゃがみこんで、フレアと目線を合わせる。
深い森みたいな緑色の瞳が、まっすぐにフレアを見つめていた。
「[serious]フレア。それ、本気で言ってるの?」
声は静かだった。
優しいけど、でも——有無を言わせない強さがあった。
「[crying]だ、だって……私のせいで……!!」
「[serious]違う」
サラはきっぱりと言い切った。
「[serious]あなたが消えても、イルゼの目的は変わらない。違うエルフを狙う。違う誰かを傷つける。逃げたって追ってくる。それが商会というものよ」
淡々とした事実の羅列だった。
慰めでも、励ましでもない。
でも——その言葉が、じわじわとフレアの心に染み込んでいく。
「[crying]……じゃあ、どうすれば……」
「[serious]わからない。でも——少なくとも、一人じゃない」
サラがフレアの手を取った。
血で汚れた手を、両手で包み込む。
「[gentle]私もいる。ルーカスも、目が覚めたら絶対に力になる。だから——消えるなんて言わないで」
フレアは唇を噛みしめた。
血の味がする。
でも——少しだけ、ほんの少しだけ、胸のつかえが取れた気がした。
希望が湧いたわけじゃない。解決策が見えたわけでもない。
ただ——一人でなくなった。
それだけで、こんなにも違うんだ。
「[crying]……サラ、さん……っ」
その時だった。
コンコン、と遠慮がちなノックの音。
「[whispers]あ、あの……泣き声が大きくて、他の患者さんが……」
看護師が申し訳なさそうに顔をのぞかせていた。
フレアは涙でぐちゃぐちゃの顔を上げ、
「[crying]すんません……」
素直に謝った。
サラが思わず吹き出す。
「[laughing]……ふふっ」
「[surprised]え、サラさん笑った!?今の笑うとこ!?」
「[laughing]ごめんなさい、でも——あんなに泣いてたのに急にすんませんって……」
サラが肩を震わせて笑っている。
つられて、フレアも笑った。
涙がまだ流れてるのに、口元がゆるむ。
「[laughing]だって、しょうがないじゃないですか!マナーは大事ですよ!」
「[laughing]そうね、大事ね……」
二人でしばらく、声をひそめて笑い合った。
涙と笑いが混ざって、わけがわからなかった。
だけど——それでよかった。
——*——*——
夕方、フレアはルーカスの個室の椅子に座っていた。
サラは一旦薬草店に戻っている。店を長く空けられないからだ。
「また明日、必ず来るから」と言い残して、サラは出ていった。
部屋にはフレアと、眠り続けるルーカスだけ。
「[whispers]……ルーカス」
呼びかけても、返事はない。
包帯に巻かれた顔は青白くて、唇も乾いている。
昨夜、血まみれの中でフレアに手を伸ばして——『おまえが……無事で……』って言った時のことが、頭から離れない。
あの時、確かに気づいたんだ。
自分がルーカスのことを好きだって。
好きじゃなきゃ、あんなに胸が張り裂けそうになるはずがない。
「[whispers]……好きとか、そういうの……今、考えるタイミングじゃないし」
自分に言い聞かせるように呟く。
でも、無理だった。
考えちゃいけないと思えば思うほど、ルーカスの顔が浮かぶ。
「[sad]バカみたい……」
窓の外が、だんだん暗くなっていく。
夕暮れが近づいて、空がオレンジ色に染まり始めていた。
ふと——フレアは顔を上げた。
「[serious]……ねえ、ルーカス」
眠る彼に話しかける。返事がないのはわかってる。でも、声に出さずにいられなかった。
「[serious]イルゼって、なんで自分で来たんだろ」
沈黙。
「[serious]ボスが直接、病院まで来て、直接脅す?普通それって部下に任せるんじゃないの?」
考えれば考えるほど、違和感が膨らむ。
ヴァナグル商会は大組織だってサラが言ってた。構成員が百八十人もいるんだ。
そんな大ボスが、たかがエルフ一人を勧誘するのに、わざわざ自分で出向いてくる?
しかも、病院だ。人目もある。リスクが高すぎる。
「[serious]……変だ」
その時——コンコン、とノックの音。
「[gentle]フレア、入るわね」
サラが戻ってきた。手に夕食のパンとスープを持っている。
「[surprised]あ、サラさん。ありがとうございます」
「[gentle]食べられる?無理しなくていいけど」
「[serious]……あの、サラさん」
フレアはスープを受け取りながら、さっき浮かんだ疑問を口にした。
「[serious]イルゼって、なんで自分で来たんだと思います?」
「[surprised]……え?」
サラの動きが止まった。
「[serious]だっておかしいじゃないですか。大組織のボスが、わざわざ自分で脅しに来るなんて。普通、部下にやらせるでしょ」
「[serious]……言われてみれば」
サラが眉をひそめる。
二人の間に、短い沈黙が落ちた。
「[serious]なにか、特別な理由があるのかしら」
「[serious]わかりません。でも——なんか引っかかるんですよね」
窓の外で、夕日が沈んでいく。
部屋の中が、だんだん暗くなっていった。
答えはまだ出ない。
それでも——その小さな違和感が、絶望のどん底にぽっかり空いた、わずかな隙間だった。
「[whispers]……三日か」
フレアはルーカスの手を見つめながら、呟いた。
タイムリミット。
サラを守りながらイルゼに立ち向かう方法。
何もない。
でも——諦めるのは、まだ早い。
「[serious]……なんとかなるっしょ。まだ、なんとかしてみせる」
震える声で、それでもフレアは言い切った。
眠り続けるルーカスの指先が——ほんの少しだけ、動いたような気がした。Noveliaとは?
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