不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
私、不知火フレア。トップバーチャルエルフストリーマーとして、ファンと最高に楽しい時間を過ごしていたら、画面が真っ白になって――気がついたら、見知らぬ街にいたの。
ここはラズベリル王国。人間がエルフを差別している世界。マジで?! 私が差別される側とか、配信のネタにもならないんですけど。でも、騒動に巻き込まれて、牢屋にぶち込まれちゃった。そんな時、助けてくれたのが、超変わり者の人間の商人、ルーカス。
ルーカスはエルフだとか一切気にしない。「商才があるなら、俺の相棒になれ」って、冗談でしょ。でも、彼のトンデモ発明品がなぜか売れ始めて、一緒に過ごす日々は、予想外に笑っちゃうくらい楽しくて。しかも、彼には婚約者がいるって知った時、胸がチクリと痛んだ……って、これ、もしかして恋?! ヤバい、超ヤバい! 私の心、めちゃくちゃだよ!
でも、この世界はそんなに甘くなかった。エルフを狩る奴隷商人たちが私を狙い始めたの。ルーカスは私をかばって大怪我を負って、彼の婚約者サラが血相を変えて病院に駆けつけてきた。みんなの想いが絡まって、私は全
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜 - 守ってくれなくていい、なんて言えなかった——深夜の宿襲撃と血まみれのルーカス
ポルタ広場での商売をたたんだのは、西の空が赤く染まり始める頃だった。
フレアは麻のチュニックの袖をまくりながら、折り畳み式物干し台を布でくるんでいく。最後の客——太ったパン屋の女将——は「また来るわね!」と機嫌よく去っていった。
「[laughing]今日も上々だな。お前のトーク、客の目が完全にハートマークだったぞ」
ルーカスが隣で荷物をまとめながら、くすりと笑った。くせっ毛のくすんだ金髪が、夕暮れの光でほんの少しオレンジ色に染まっている。
「[excited]でしょー!私のトーク力、異世界でも通用しちゃうんですよ!エルフ舐めんなって感じです!」
声はいつも通り明るかった。
でも——胸の奥に、ざらざらした砂みたいな違和感がある。
昨夜のことを、ずっと考えてる。
サラの真剣な目。『ヴァナグル商会』って名前。そして——廊下で見た、ルーカスとサラの親密な姿。
それから、もうひとつ。
「(……誰かに見られてる気がする)」
昨日の帰り道から、ずっとそうだ。
背中の真ん中あたりが、チリチリする。
振り返っても誰もいない。でも——気配だけが、まとわりついてくるみたいに消えない。
「[serious]フレア?どうかしたか」
「[surprised]え?あ、いや!なんでもないのよ!さあ帰りましょ!」
フレアは慌てて笑顔を作った。
(考えすぎだよね。なんとかなるっしょ)
自分に言い聞かせる。
でも——その「なんとかなるっしょ」が、今日はやけに空っぽに響いた。
——*——*——
ランテルナ亭に戻ると、宿の主人バルドがカウンターの奥から出てきた。
いつもは「おかえり!」と大きな声で迎えてくれる初老の男だ。元冒険者らしく、肩幅が広くて腕も太い。白髪交じりの無精髭が印象的で、普段は豪快に笑う人だ。
でも今夜は——その顔から笑みが消えていた。
「[serious]……二人とも、ちょっとこっちへ」
バルドは声をひそめ、手招きした。
ルーカスが眉をひそめる。
「[serious]なんだ、親父。改まって」
「[whispers]今日の昼頃からな、妙な連中がこの辺りをうろついてる」
バルドはカウンターの端に置かれた酒瓶を手に取り、グラスに注ぎながら言った。手がほんの少しだけ震えてる——ように見えた。
「[whispers]黒いマントを着た男が三人。宿の前を三度も往復しやがった。エルフを探してる連中の匂いがプンプンする」
フレアの胸が、ぎゅっと縮んだ。
(やっぱり——私だ)
昨日から感じてた視線。サラが言ってた戦奴商人の噂。
点と点が、バチバチとつながっていく。
「[serious]……そうか」
でもルーカスは、いつも通りの冷静な顔だった。
「[serious]今夜は鍵を二重にかけておけば問題ないだろ。明日、商工組合に相談してみる」
「[whispers]お前は相変わらず楽観的だな……」
「[laughing]違う。合理的なだけだ」
ルーカスは肩をすくめ、フレアの方を向いた。
「[gentle]フレア、普通に夕飯を食え。腹が減ってると、変なことばかり考えちまうぞ」
「[surprised]……え?あ、うん。わかった」
フレアはうなずいた。
でも——食堂のテーブルについても、スープの薬草をスプーンでつついたまま、手が動かない。
隣ではルーカスが、いつもの調子で新発明のスケッチを広げている。羊皮紙に炭で走り書きした、なんだかよくわからない図面だ。
「[excited]見ろ、フレア!これはな、液体を固体にする粉末だ。スープにかければ、パンみたいに固まって食えるんだぞ。画期的だろ?」
「[surprised]液体を……固体に?」
「[excited]そうだ!実演してやる」
ルーカスはポケットから小瓶を取り出し、中身の白い粉をスープにふりかけた。
瞬間——
ブクブクブクブク!!!
スープが突然泡立ち始め、灰色のドロドロした謎液体になった。
「[surprised]なんだこれ」
「[sarcastic]……どっちが液体か、わかんなくなってますけど」
フレアは力なくツッコミを入れた。
「[serious]……失敗だな」
ルーカスが真顔でスケッチに「失敗」と書き込む。
その様子に、フレアは少しだけ笑った。
(こんな時でも、この人はいつも通りだ)
でも——
笑った直後、胸の奥の冷たい感覚は、やっぱり消えなかった。
——*——*——
深夜。
フレアは目を開けた。
天井の木の梁が、月明かりでぼんやりと浮かんでいる。
寝返りを打つ。
布団の擦れる音が、やけに大きく聞こえた。
(……喉、かわいた)
ベッドから抜け出し、床に足をつける。
ひんやりした石畳の感触が、裸足の裏に伝わった。
廊下へ出る。
ランテルナ亭の廊下は細くて、壁のランプがひとつだけ、オレンジ色の光を落としている。少しだけ油の焦げる匂いがした。
フレアは水場へ向かおうとして——
ギィ。
足を止めた。
宿の裏口のあたりから、かすかな軋み音が聞こえた。
(……風?)
違う。
今度は——複数の足音。
かすかな、でも確かな靴音が、石畳を踏む。
フレアの全身の毛が逆立った。
逃げなきゃ——
でも、足が動かない。
あの時衛兵に地面に押さえつけられた時の記憶が、どくどくとよみがえる。
あの時も、声が出なかった。
あの時も、体が動かなかった。
「[whispers]いたぞ」
闇から声がした。
——現れた。
黒ずくめのマントを着た男たち。
一人、二人、三人——五人。
廊下をじりじりと詰めてくる。
先頭の男が、フレアの目の前で立ち止まった。フードの奥から、ぎらついた目が覗いている。口元に刻まれた古い傷跡が、ランプの明かりでひときわ濃く見えた。
「[whispers]……エルフ一匹引き渡せ。そうすりゃ、宿には手を出さない」
フレアは壁に背中を押しつけた。
冷たい石の感触。
(声を——出さなきゃ)
でも、喉が凍りついたみたいに、何も出てこない。
唇が震えるだけだ。
「[whispers]おとなしくしてくれりゃ、痛い目には遭わせない。俺たちも商売だからな」
男が手を伸ばす。
ごつごつした、節くれだった指が、フレアの腕を掴もうとした——
その瞬間。
バァン!!!
寝室の扉が蹴り破られた。
「[angry]さわるなあ!!!」
ルーカスが飛び出してきた。
寝ぼけ眼で、髪はぐしゃぐしゃだ。寝巻きのシャツがはだけている。
でも——その手には、例の折り畳み式携帯棒が握られていた。売れ残りの珍商品だ。
「[angry]てめえら、夜中に人んちの廊下で何してやがる!!!」
ルーカスは最初の一人に思い切り棒を振り下ろした。
ガッ!!!
チンピラの膝に命中。男は「ぐあっ!」と叫んで、その場に崩れ落ちた。
ルーカスは間髪入れず、棒を横に薙ぐ。
——が、その瞬間。
カチッ!
バネの音がして、棒が二段階に伸びた。
「[surprised]なんだこの長さは!?」
想定外の長さになった棒に、ルーカス自身が目を丸くしている。
「[scared]なんか伸びたぞ!?」
チンピラたちも一瞬ひるんだ。
その隙に、ルーカスはもう一人の腕をひねり上げ、なんとか制圧する。
「[angry]フレア!逃げ——」
言い終わる前に。
残り三人が動いた。
一人がルーカスの腹に拳をめり込ませる。
ドッ、と鈍い音。
ルーカスの体がくの字に折れた。
それでも——
ルーカスは倒れなかった。
フレアをかばうように、両腕を広げて立ちふさがる。
「[angry]……こいつには、指一本触れさせねえ……」
血を吐きながら、ルーカスは笑った。
——泣きそうな顔で。
「[cold]うるせえ」
リーダーの男が、棍棒を振り上げた。
フレアの目に、すべてがスローモーションみたいに映った。
ルーカスの背中。
振り下ろされる棍棒。
——そして。
ガッ!!!
頭蓋骨に硬いものが当たる、嫌な音。
ルーカスはそのまま、石畳の床に崩れ落ちた。
頭から鮮血が流れ、灰色の床に黒く広がっていく。
髪を結んでいた紐がほどけ、くすんだ金髪が血に染まっていく。
「……にげ、ろ」
かすれた声が、最後にそれだけ言って。
ルーカスの腕から、力が抜けた。
「——いやああああああああああっ!!!!」
フレアの叫び声が、宿じゅうに響き渡った。
膝から崩れ落ちる。
石畳に膝を打った痛みも、なにも感じない。
ただ——倒れたルーカスに、必死で手を伸ばす。
「[crying]ルーカス!!ルーカス、やだ、やめて、目を開けてよ!!」
ルーカスの肩を揺さぶる。
でも——瞼は閉じられたままだ。
顔色がどんどん白くなっていく。
血が、止まらない。
フレアの手が、ルーカスの血で真っ赤に染まった。
(私さえ——私さえここにいなければ)
頭の中で、その言葉だけがぐるぐる回る。
ポジティブな仮面は、粉々に砕け散った。
こんなの、なんとかなるっしょ、で笑い飛ばせない。
だって——だって、ルーカスが死ぬかもしれないんだ。
私のせいで。
「——っ!てめえら、何してやがる!!!」
二階から怒鳴り声。
バルドが非常鐘を手に駆け下りてきた。
ガランガランガラン!!!
鐘の音がけたたましく鳴り響き、宿じゅうにこだまする。
遠くから衛兵の笛の音が聞こえ始めた。
「[angry]ちっ、衛兵だ。ずらかるぞ!」
チンピラたちは荷物を蹴散らしながら、裏口から逃げていった。
——*——*——
フレアは動けなかった。
ルーカスの側に膝をついたまま、震える手で彼の手を握りしめている。
ルーカスの指が——かすかに動いた。
「[whispers]……フレア……」
「[crying]ルーカス!私、ここよ!ここにいる!!」
「[whispers]……おまえが……無事で……」
それだけ言うと、ルーカスの手から力が抜けた。
だらりと落ちる。
「[crying]え……ちょっと、ルーカス?ねえ、ルーカスってば!!」
揺さぶっても、もう反応がない。
「[crying]やだ……やだよ……お願い、目を開けて……ルーカス、ルーカスぅ……」
涙が止めどなく溢れて、血で汚れたルーカスの頬に落ちる。
——昨日の夜、この胸に生まれた感情。
『好き』って気持ち。
それはまだ、小さなつぼみみたいに、ふわふわしてたのに。
今は——潰れそうな重さになって、フレアにのしかかってくる。
大好きな人が、血まみれで倒れてる。
私をかばって。
私のせいで。
笑ってごまかせない。
ポジティブで乗り越えられない。
こんな感情、生まれて初めてだった。
——*——*——
衛兵と一緒に、クレヴィスタ救護院の医師が駆けつけたのは、それからすぐだった。
担架が運び込まれ、ルーカスは慎重に乗せられる。
「[serious]頭部への強打だ。出血が多い。意識が戻るかどうかは——今夜次第だな」
医師はバルドにそう耳打ちした。
声を低くして。
でも——フレアのエルフの耳は、全部聞いていた。
(今夜次第——)
(助からないかもしれない)
ぞっとする冷たさが、背骨を駆け上がる。
「[serious]救護院まで運ぶ。ついてこい」
担架が動き出す。
フレアは無言で、その隣を走った。
夜の石畳を、裸足のまま走る。
夜間外出禁止のエルフが、衛兵の目の前を走る——そんな矛盾すら、今のフレアにはどうでもよかった。
息が切れる。
足の裏が石で切れて、血が滲む。
でも——立ち止まれない。
頭の中で、ひとつの因果関係が繰り返される。
(私が異世界エルフだから)
(私がルーカスのビジネスパートナーになったから)
(私が——ここにいるから)
だから、彼らが来た。
だから、ルーカスは——。
——*——*——
救護院に着いた。
ルーカスは治療室に運ばれ、扉が閉められた。
フレアは白い廊下の壁にもたれて、ずるずると座り込む。
血のついた両手を、じっと見つめた。
ルーカスの血だ。
私をかばって流れた血。
「[crying]……サラさんに……連絡しないと……」
でも——サラにどう言えばいい?
あなたの婚約者が、私をかばって重体です。
(私が……いなければ)
フレアは唇を噛みしめた。
血の味がした。
異世界転移四日目の夜。
不知火フレアは初めて——「自分のせいで誰かが死ぬかもしれない」という現実に、正面からぶつかっていた。
そして——初めて、姿を消すことを真剣に考え始めていた。
私がいなくなれば、ルーカスはもう狙われない。
サラも、バルドも、誰も危険に巻き込まずに済む。
(……そうだよね)
(それが、正しいよね)
震える手をぎゅっと握りしめる。
涙が、血にまみれた手のひらにポタポタと落ちて、赤い染みをじわじわと広げていった。
救護院の白い廊下に、夜の静けさがのしかかる。
治療室の扉の向こうからは、何の音も聞こえてこなかった。Noveliaとは?
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