不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜
私、不知火フレア。トップバーチャルエルフストリーマーとして、ファンと最高に楽しい時間を過ごしていたら、画面が真っ白になって――気がついたら、見知らぬ街にいたの。
ここはラズベリル王国。人間がエルフを差別している世界。マジで?! 私が差別される側とか、配信のネタにもならないんですけど。でも、騒動に巻き込まれて、牢屋にぶち込まれちゃった。そんな時、助けてくれたのが、超変わり者の人間の商人、ルーカス。
ルーカスはエルフだとか一切気にしない。「商才があるなら、俺の相棒になれ」って、冗談でしょ。でも、彼のトンデモ発明品がなぜか売れ始めて、一緒に過ごす日々は、予想外に笑っちゃうくらい楽しくて。しかも、彼には婚約者がいるって知った時、胸がチクリと痛んだ……って、これ、もしかして恋?! ヤバい、超ヤバい! 私の心、めちゃくちゃだよ!
でも、この世界はそんなに甘くなかった。エルフを狩る奴隷商人たちが私を狙い始めたの。ルーカスは私をかばって大怪我を負って、彼の婚約者サラが血相を変えて病院に駆けつけてきた。みんなの想いが絡まって、私は全
不知火フレア ifルート 〜灰被りのあなたへ捧ぐ終わらない歌〜 - 婚約者さんって、なんでそんなに完璧なんですか……!
ポルタ広場の朝は、活気で溢れかえっていた。
常設の露店がひしめき合い、商人たちの威勢のいい呼び声が飛び交う。焼きたてパンの香ばしい匂いと、香辛料のツンとした刺激臭が混ざり合って、市場独特の空気を作り上げている。
馬車の車輪が石畳を軋ませ、買い物客のざわめきが渦を巻くように包み込む。
「[excited]さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 本日ご紹介するのは、ルーカス商会が自信を持ってお届けする大発明——『どこでも干せるよ! 折り畳み式ポータブル物干し台』!」
フレアのハイテンションな声が、広場の一角にこだました。
麻のチュニックに茶色いキュロット。胸には手縫いで刺繍した炎のマークが揺れている。腰まであるプラチナブロンドの髪は、今日は商売邪魔にならないように高い位置でポニーテールにまとめていた。右側だけチラリと覗く紫のインナーカラーが、動くたびにきらめく。
長く尖った耳が、ピクピクと小刻みに動く——これは配信者時代からの癖で、テンションが上がると勝手に動いてしまうのだ。
「[excited]雨の日でも室内で干せる! キャンプのお供にも! コンパクトに折り畳めて持ち運びラクラク! さあお姉さん、一家に一台いかがです!?」
フレアは小さな金属の棒をカチカチと伸ばしたり縮めたりしながら、通行人の主婦らしき女性にアピールしていた。アメジスト色の大きな瞳がキラキラと輝き、まるでこの商品が世界で一番素晴らしい物であるかのように見せる——これが配信者・不知火フレアのトーク力だった。
「[laughing]なかなかやるじゃないか」
隣で別の商品を並べていたルーカスが、くすりと笑った。
くせっ毛のくすんだ金髪は、いつも通り無造作に後ろで一つ結び。垂れ目がちの茶色い瞳が、商売の時特有の鋭さでキラリと光る。今日は濃紺の旅装束に、肩からは例のずっしりした革鞄をさげていた。
首の天秤ペンダントが、朝日を受けてチラチラと反射する。
「[laughing]でしょ!? 私のトーク力、異世界でも通用しちゃうんですよ!」
「[serious]調子に乗るなよ。まだ三日目だ。これからが本番だ」
「[excited]わかってますって! でもね、ルーカス——」
その時だった。
ルーカスの視線が、ふとフレアの背後に向けられた。
そして——彼の表情が、はっきりと変わった。
いつもの冷静な商人の顔じゃない。口元が自然と緩み、目尻がじんわりと下がる。普段は理屈っぽくてちょっと皮肉屋のこの男が、まるで少年みたいに無防備な笑顔を見せた。
「[gentle]サラ!」
ルーカスが手を振った。
フレアの胸の真ん中で、何かがザワついた。
(え……?)
振り返る。
人混みの中から、ふわふわした蜂蜜色の髪を揺らしながら、一人の女性が歩いてきた。
肩甲骨まで伸ばしたゆるふわウェーブ。左耳の上には小さな三つ編みがあしらわれている。深い森を思わせる緑色の瞳は、今日はいつもよりちょっと嬉しそうに細められていた。
手には、薬草の入った大きなかごを抱えている。
白いブラウスに、動きやすそうな緑のロングスカート。左の薬指には銀の指輪——薬草の形を模したペンダントが揺れている。歩くたびに、かすかに甘いハーブの香りが漂ってきた。
美人だ。
そして、なにより——ルーカスを見る時の目が、特別だった。
「[gentle]お疲れさま、二人とも」
サラがふわりと微笑みながら近づいてくる。
その声を聞いた瞬間、フレアは理解した。
(ああ、この人が——ルーカスの婚約者)
頭ではわかっていた。昨日、名前だけは聞いていた。でも、実際に目の当たりにするのと、想像の中にいるのとでは全然違う。
フレアは笑顔を作った。
「[excited]サラさん! 初めまして、不知火フレアです! いつもルーカスがお世話になってます!」
ペコリと頭を下げる。
——が。
その拍子に、手に持っていた折り畳み物干し棒が、勢いよくバネ仕掛けで伸びた。
バチンッ!!
ものすごい音がして、棒がフレアの手からすっぽ抜ける。くるくると回転しながら、通りかかった商人の頭を直撃した。
「[angry]いってぇ! なんだこれ!?」
「[scared]す、すみません! ごめんなさいごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
フレアは真っ青になって駆け寄り、商人にペコペコと頭を下げる。周囲からクスクスと笑い声が漏れ、何人かの買い物客が足を止めた。
(やばいやばいやばい! サラさんに挨拶した瞬間にこれとか、私どんだけドジっ子キャラなの!?)
「[surprised]大丈夫か、フレア」
心配そうな顔で、ルーカスが覗き込んでくる。
「[excited]も、問題なし! 全然動揺してないっすよ! これはあれです、パフォーマンス! 商品の実演というか!」
声が裏返っていた。
(ああもう最悪。ルーカスに見られるとますます緊張する!)
フレアが慌てふためく中——
サラは、くすくすと笑いながら、そっとしゃがみ込んで物干し棒を拾い上げた。
「[gentle]これ、ルーカスの新作ね。相変わらず面白いもの作るんだから」
そして立ち上がり、フレアに向かって自然な笑顔で頭を下げた。
「[gentle]初めまして、フレア。サラ・ティルハーブです。ルーカスがいつもお世話になってます」
——エルフの耳を見ても、顔色ひとつ変えなかった。
それどころか、フレアの方をまっすぐに見て、なんの偏見もない目で微笑んでいる。
「[surprised]え……いやいや、お世話になってるのはむしろ私の方で……」
面食らって、フレアは思わず正直に返した。
するとサラは、翡翠のような瞳をほんの少し細めて、静かな——それでいて芯のある声で言った。
「[serious]エルフさんに対して、失礼な態度を取る人を見ると——私、本当に腹が立つんです」
サラの声は柔らかかった。でも、そこには絶対に曲げない鋼の芯が通っている。
「[serious]だからフレア。あなたがエルフだってことは、私にとってはなんの問題でもないの。それより——ルーカスと一緒に、こんな面白い商品を売ってるなんて、とっても素敵だと思う」
フレアの胸の真ん中が、じわりと熱くなった。
(この人——本気で、私のこと対等に見てくれてる)
今までずっと、街を歩くたびに突き刺さってきた視線。
衛兵に地面に押しつけられた夜のこと。
「エルフ」というだけで、まるで何か悪いものでも見るように顔をそむける人間ばかりだった。
でもサラは違う。
初対面のエルフに、ここまでまっすぐに向き合ってくれる人間がいるなんて——。
目が、ちょっと潤んだ。
(やばい、泣きそう。でもここで泣くのはキャラじゃない。もっと明るく、もっと——)
「[laughing]えっと、なんか急にカッコよすぎませんか!? サラさん、ちょっと待って下さい、私いま感動してるんですけど、これを配信でどう料理すればいいか——あ、配信できないんだった!」
フレアはコミカルに頭をかきむしりながら、大げさに天を仰いだ。
サラが、くすりと笑う。
「[whispers]……配信?」
「[excited]こっちの話! 気にしないで!」
——*——*——
昼前のひととき。
商売が一段落ついた三人は、市場の隅にある小さな休憩所に腰を下ろしていた。
木陰に置かれた石のベンチ。ルーカスが露店から持ってきた簡易テーブルに、サラが薬草茶の入った水筒を置く。
「[gentle]はい、フレア。よかったら飲んでみて。私の店でブレンドしたハーブティーなの。疲れが取れる配合にしてあるのよ」
サラが差し出した木のカップ。
湯気と一緒に、カモミールに似た甘い香りと、ほんの少しミントのような清涼感が立ち上った。
「[surprised]わ、いい匂い! いただきます!」
一口含む。
瞬間——口の中に広がる優しい甘みと、スッと鼻に抜ける爽やかさ。
「[excited]……美味しい! なにこれ、めちゃくちゃ美味しいんですけど!? 私、こんなに美味しいお茶飲んだの生まれて初めてかも!」
「[laughing]大げさだな」
「[angry]大げさじゃないし! 本当のことだし!」
「[gentle]ふふ。気に入ってくれて嬉しいわ。フレアは元気で明るくて——見てるとこっちまで楽しくなっちゃう」
サラはそう言いながら、ルーカスにカップを手渡した。その時——。
サラの指が、ルーカスの手に一瞬触れる。
二人はごく自然に目を合わせて、微笑みを交わした。
親しい者同士だけが持つ、言葉のいらないコミュニケーション。
その瞬間を目撃したフレアの胸に、チクリとした痛みが走った。
(……え? いま、なに?)
心臓が、ひとつ大きく脈打つ。
(これ、なんだろう。すごく——変な感じ)
嬉しかったのに、急に胸の真ん中がぎゅっと縮まるような感覚。サラはすごくいい人で、お茶も美味しくて、楽しい時間のはずなのに——。
なぜか、ルーカスとサラが並んで座っている姿が、やけに目に痛かった。
「[serious]フレア、どうした? 顔が少し曇ってるぞ」
「[surprised]え!? な、なんでもない! ちょっとお茶が熱かっただけ!」
慌てて笑顔を作る。
(私、いま何考えてた?)
(ルーカスとサラは婚約者同士なんだから、ああやって仲良くするのは当たり前じゃん!)
(なのに、なんで私がこんな——)
フレアは、頭の中をぐるぐる回る感情に戸惑いながらも、笑顔を貼りつけたままお茶をすすった。
——*——*——
昼過ぎ。
三人はポルタ広場の露店を一旦たたみ、サラの実家である薬草店「ティルハーブ」へと向かった。
中層区の路地裏にある小さな店だ。
木の扉を開けると、むせ返るような薬草の香りが鼻をつく。壁一面に並ぶ棚には、ガラス瓶に入った乾燥ハーブや、木箱に詰められた軟膏の壺がずらり。
天井からは、束ねたラベンダーやローズマリーが逆さまに吊るされていて、風が通るたびに微かに揺れる。
店の奥には小さなカウンターがあり、その隣の作業台には乳鉢やすりこぎが置かれていた。
「[gentle]じゃあ二人とも、ちょっと休憩してて。いま新しいお茶を準備するから」
サラが奥の棚から新しい茶葉を取り出している間、フレアは店内を興味津々で見て回っていた。
「[excited]うわぁ、いろんな薬草がある! これ、なんて名前のハーブですか?」
「[gentle]ああ、それはルーネリカよ。ヴェルネの森で採れる薬草で、切り傷や打ち身に効く軟膏の材料なの」
棚を整理しながら、サラが優しく答える。
「[excited]へー! サラさんって、こういう薬草を自分で採りに行ったりもするんですか?」
「[gentle]ええ。定期的にヴェルネの森まで採取に行くのよ。ただ、最近は——」
その時、サラの手が一瞬止まった。
彼女の表情から笑顔が消え、真剣なものに変わる。
「[serious]最近、ちょっと物騒でね。森への道で、ヴァナグル商会の連中を見かけることが増えたって、常連のお客さんから聞いたの」
「[surprised]ヴァナ……なんですかそれ?」
フレアが首をかしげる。
サラは話しづらそうに少し間を置いてから、静かな声で続けた。
「[serious]戦奴商人よ、フレア。表向きは鉱石の仲介商だけど——裏ではエルフを捕まえて、『特殊労働資材』なんて名前で売り買いしてる、悪質な組織なの」
「[scared]……え、それって」
「[serious]王国も、完全には取り締まれていないの。貴族の中には、ヴァナグル商会とつながってる人もいるって話よ」
ルーカスが無言で腕を組んだ。
普段は飄々としている彼の顔が、驚くほど真剣になっている。眉がわずかに寄せられ、口元がぎゅっと引き結ばれている。
「[serious]最近はクレヴィスタにも、情報収集のために人が入り込んでるらしいの。エルフで、特に——若くて、魔力が強そうな子は、『高値がつく』って狙われる」
サラの翡翠の瞳が、まっすぐにフレアを見つめた。
「[serious]フレア。あなたのことは、ちょっと前から市場で噂になってる。『変わったエルフがいる』『人間相手に堂々と商売してる』って——。そういう噂は、ああいう連中の耳にも入りやすい」
フレアは最初、それを軽く受け流そうとした。
「[laughing]うわ、なにそれ怖い話ですね〜。でもまあ、なんとかなるっしょ! 私、逃げ足だけは速いんで——」
「[serious]フレア。笑ってる場合じゃないんです。あなたのことが心配で、私はわざわざ今日、市場まで様子を見に来たの」
サラの声は柔らかかった。
でも、その目は冗談を全く許していない。
本気で心配している——いや、もしかすると、少し怖がっているのかもしれない。
フレアは笑顔を引っ込めた。
(サラさんが、こんな顔をするくらい——本当に危ないんだ)
「[serious]……すみません、軽く考えすぎてました」
「[serious]覚えておけ、フレア。ヴァナグル商会の連中は、普通の商人とはケタが違う。戦争の残党だ。手段を選ばない」
ルーカスの声は低く、重みがあった。
その茶色い瞳からは、いつもの「面白そうな商売の匂い」への興味が消え、代わりに底知れぬ警戒心が覗いている。
(ルーカスが、こんなに真剣な顔をするなんて——)
フレアは初めて感じた。
自分が異世界に来てからずっと「なんとかなるっしょ!」で乗り切ってきた。でも——この世界には、そのポジティブさだけじゃどうにもならない、本当の危険があるんだ。
胸の奥に、冷たい小さな塊が生まれた。
(もし私が狙われたら——ルーカスやサラさんまで巻き込むかもしれない)
その想像は、予想以上に胸を締めつけた。
——*——*——
夜。
ランテルナ亭。
フレアは部屋に戻るため、二階へ続く廊下を歩いていた。
宿の主人バルドが、一階の食堂で誰かと話している声が遠くに聞こえる。ランプの灯りが揺れて、古い木の壁に長い影を落としていた。
今日は色々ありすぎた。
サラの包容力に心を開きかけたこと。
戦奴商人の話に背筋が冷たくなったこと。
そして——ルーカスとサラが並ぶ姿を見た時の、あの胸の痛み。
(なんだったんだろう、あれ。嫉妬? いやいや、私がルーカスにそんな気持ちあるわけ——)
その時。
廊下の先にある、食堂の扉の隙間から——ルーカスとサラの笑い声が漏れてきた。
「[laughing]またこんな変なの作って……サラ、これ本当に売れると思ってるのか?」
「[laughing]あら、私は結構面白いと思うわよ。ただ、名前はもっとマシにしたほうがいいわね」
「[serious]名前のセンスには自信があるんだがな」
「[laughing]ふふ、その自信がもうおかしいのよ」
フレアの足が、勝手に止まった。
(見ちゃダメだ)
頭ではわかってる。
でも——体が動かない。
そっと、扉の隙間から覗いてしまった。
食堂のテーブルに、二人は向かい合って座っていた。
サラの前には今日の新作スケッチが広げられていて、ルーカスが身振り手振りで説明している。
サラはそれを、時折笑いながら、でも真剣に聞いている。
——ルーカスが、サラに向ける目。
それは、フレアに向ける「ビジネスパートナーとしての目」とは、明らかに違った。
もっと柔らかくて、もっと深くて、もっと——長い年月が積み重なった温かさ。
六年だ。
二人は、六年前から一緒にいる。
ヘルダ村で幼馴染として育ち、ルーカスが商売を始める時もサラが支えた。
サラの実家が傾きかけた時は、ルーカスが金を工面した。
フレアが来るずっと前から——この二人には、誰にも割り込めない絆があった。
「[whispers]……あ」
声がもれた。
胸のど真ん中が、チクリと痛む。
それだけじゃない。今度はぎゅうっと、まるで誰かに心臓を握り潰されているような——息が詰まるような、苦しい感覚。
(いやいやいや待って待って待って)
フレアは廊下の壁にもたれかかろうとして——バランスを崩した。
「うわっ!」
(やばい!)
とっさに壁に手をつき、なんとか踏みとどまる。
ギリギリで転倒は免れたが、代わりに靴が床を擦って「ギュッ」と小さな音を立てた。
「[whispers]……誰かいるのか?」
食堂の中からルーカスの声。
フレアは心臓が口から飛び出しそうになりながら、精一杯の笑顔を作った——誰も見ていないけど。
「[excited]ち、違うんです! 私じゃないです! あ、いや私だけど、覗きとかじゃなくてですね、たまたま通りかかっただけで——」
しどろもどろ。
何を言ってるのか自分でもわからない。
「[surprised]フレア? どうした、そんなところで」
扉が開き、ルーカスが顔を出した。
「[excited]なんでもない! 本当になんでもないんです! おやすみなさい!」
フレアはそれだけ言うと、ダッシュで自室に逃げ込んだ。
バタン!
扉を閉めて、鍵をかける。
そして——その場にしゃがみ込んだ。
両手で顔を覆う。
耳が真っ赤になっているのが、自分でもわかった。
「[whispers]……うわぁぁぁ、私、いまめちゃくちゃ動揺してる」
心臓がうるさい。
さっきのルーカスの顔が、サラに向けるあの優しい目が——頭から離れない。
(私、なんでこんなにショック受けてるの?)
(二人は婚約者同士なんだから、あんなの当たり前でしょ?)
(なのに——なんで私、こんなに苦しいの?)
頭の中で、冷静な自分と動揺する自分が言い争っている。
そして——たどり着いた、一つの答え。
「[whispers]これって……もしや、恋ってやつ……?」
呟いた声は、自分でも驚くほど情けなかった。
いや、違う。
違うと言いたい。
だって私が好きになる相手って、いままでずっと「二次元」か「配信アバター」だったじゃないか!
異世界転移して、たった三日で、本物の人間に恋するとか——そんなのありえない!
でも。
でも、もし違うなら——なんで私はこんなに胸が痛いんだろう。
ルーカスのことを考えると、嬉しくなる。
ルーカスがサラと笑い合ってるのを見ると、苦しくなる。
(ああ、もう。これ、完全にそれじゃん)
フレアは両手で顔を覆ったまま、小さく笑った。
「[sad]……私、ルーカスのこと、好きなんだ」
——*——*——
どれくらい経っただろう。
フレアはベッドに倒れ込んで、天井を見つめていた。
古びた木の梁に、ランプの灯りが揺れて映る。
(サラさんは、本当にいい人だ)
エルフの私を偏見なく受け入れて、家族みたいに接してくれた。
それに——芯が強くて、誰かを守ろうとする優しさがある。
「あの人がルーカスの婚約者で、本当によかった」
本心だった。
サラはルーカスにふさわしい。
二人の絆は本物だ。
私が割り込める隙なんて、どこにもない。
「[laughing]……うわ、私めちゃくちゃ贅沢なこと悩んでるな。異世界転移してエルフになって差別受けてる状況で、恋バナとか。配信ネタにもできないし」
自分で自分にツッコミを入れて、苦笑い。
でも——。
その直後。
昼間のサラの言葉が、頭の中でリフレインした。
——『ヴァナグル商会』
——『エルフを狙ってる』
——『若くて魔力が強そうな子は、高値がつく』
「[whispers]……もし私が狙われたら」
ベッドから起き上がり、窓辺に立つ。
カーテンを少し開けて、外を見下ろした。
夜のクレヴィスタ——下層区スラーヴェン街のあたりは、もう灯りがほとんど消えている。
エルフは夜間外出禁止。
私はルーカスが保証人だから自由に歩けるけど——もしあの「ヴァナグル商会」って連中が本当に危険なら。
(私だけじゃない。ルーカスも、サラさんも——巻き込むかもしれない)
想像したら、背中に冷たい汗がにじんだ。
いつもの「なんとかなるっしょ!」で笑い飛ばしたい。
でも——今日のサラの真剣な目が、それを許してくれなかった。
「[whispers]……なんとかなるっしょ、でも……」
でも、もしかしたら——今回は、笑って済ませられないかもしれない。
窓の外で、風がビュウと吹いた。
ランプの火が揺れて、壁に映るフレアの影が、一瞬ぐにゃりと歪む。
異世界転移三日目。
今夜、不知火フレアは初めて——この世界の闇を、自分の肌で感じていた。Noveliaとは?
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