俺ガイル、やり直し。〜八幡、なぜか学園の王子様になる〜
ある朝、目覚めると比企谷八幡は学園一の人気者になっていた。皆が彼を「ヒキタニ」と呼び、女子たちはべったりと離れない。隣の席の雪ノ下雪乃は涼しい顔で「お昼、一緒にどう?」と誘い、由比ヶ浜結衣は毎朝トーストをくわえて登校してくる。一色いろはは小悪魔的な笑みで「先輩、一緒に生徒会やりましょうよ」とささやく。
ひとりになりたいだけの八幡は、必死に逃げ回る。だが逃げれば逃げるほどモテるという、拒否が好感度を上げてしまう謎のシステム。文化祭では女装コンテストで優勝し、体育祭ではなぜかクラスの女子全員と二人三脚をする羽目に。唯一、平塚先生だけは「ぼっちは甘えだ!青春しろ!」と普通に接してくるが、それすらもどこかズレていて、八幡だけが気づいている。
最大の危機は「バレンタイン・デスマッチ」。雪ノ下と由比ヶ浜が互いに手作りチョコを賭けたお菓子対決を挑み、八幡はどちらかのチョコを選ばなければならない。一方を選べば、もう一方とは永遠に決別。選べない八幡は第三の道「友チョコ」という伝説の選択肢を編み出すが、それがさらなる誤解を生み、文化祭のステージで公開告白イベントが発生。全校生徒の前で、二人の少女から「
俺ガイル、やり直し。〜八幡、なぜか学園の王子様になる〜 - 恋の乱入者と逃げ場なしの屋上修羅場
ガチャン。
屋上の扉が、勢いよく開いた。
「[angry]雪乃ちゃん、ずるいよ!!」
飛び込んできたのは、栗色のふわふわショートボブの少女。大きな茶色の瞳が、怒りと悲しみでいっぱいになっている。
由比ヶ浜結衣だった。
彼女は肩で息をしながら、雪乃と八幡を交互に見た。
「[angry]手紙で屋上に呼び出すなんて、あたしには内緒でそんなことするなんて!ずっと気になって追いかけてきたんだから!」
雪乃の顔が青ざめた。
「[surprised]由比ヶ浜さん……なぜここに?」
「なぜって、気になるからに決まってるじゃん!」
結衣はずんずんと近づいてくる。いつもの元気な笑顔はどこにもない。本気で怒っている顔だった。
雪乃は震える声でつぶやいた。
「[whispers]ありえない……この場所は、システムが完全に遮断するはず。私以外の誰も、この屋上に近づけないはずなのに」
「[sarcastic]どうやら、お前の計画にバグがあったみたいだな」
八幡は苦笑いした。
(そういうことか)
結衣は、雪乃が創った逆モテ・システムの予想を超えた——システム自体が生み出した、最強の恋敵。雪乃がどんなに願っても排除できない、もう一人のヒロイン。
「[angry]あたしだって、ヒキタニ君のこと、本気で好きなんだから!雪乃ちゃんだけずるい!」
結衣は八幡のもう片方の腕にぎゅっと抱きついた。
「おい、ちょっと待て」
「待たない!」
「[cold]由比ヶ浜さん、離れて。これは私と彼の問題」
「離れない!これはあたしの問題でもあるもん!」
八幡は両側から二人の女子に腕を取られて、完全に身動きが取れなくなった。
「めんどくせえ……」
その言葉を、潮風がかき消した。
「[angry]雪乃ちゃんは、いつもそうだよ!ヒキタニ君と二人きりになろうとして、あたしを仲間外れにする!」
結衣の声が、屋上に響く。
雪乃はクールな顔に戻ろうとしていたが、その眉がピクリと動いた。
「[cold]仲間外れ?あなたは最初から、この計画には含まれていないのよ。だってあなたは——」
雪乃は一歩、結衣に近づいた。
「——私の願いが作った世界に、勝手に入り込んだバグよ」
冷たい言葉だった。
でも、結衣は引かなかった。
「[angry]バグでもいい!バグでも、あたしの気持ちは本物なんだから!」
結衣の声は泣きそうなのに、はっきりとしていた。
「おい、ちょっと待て。二人とも落ち着け」
八幡がようやく口を挟む。
「[cold]あなたは黙ってて」
「[angry]そうよ、ヒキタニ君は黙りなさい!」
息の合った連携で、八幡の言葉は封殺された。
「は……!?」
(なんで俺が怒られてるんだ)
八幡は心の中でツッコんだ。修羅場の当事者なのに、完全に審判席に追いやられている。これが逆モテの地獄かと、静かに悟った。
「[angry]私抜きで、二人で話を進める気だったでしょ!雪乃ちゃんはいつもそう!完璧な顔して、ずるいよ!」
結衣の大きな瞳が、涙でいっぱいになる。
「[serious]私は完璧じゃない。でも、あなたよりもずっと前から、彼のことを知っていた。元の世界でも、この世界でも」
「[angry]元の世界ってなに?そんなの、あたしには関係ない!今のあたしの気持ちが大事なんだから!」
その時だった。
ギギギ……
屋上の扉が、ゆっくりと、ほんの数センチだけ開いた。
隙間から、亜麻色のセミロングの髪がチラリと見える。
「[whispers]先輩を探して屋上まで来たら、修羅場でした♡」
扉の影から、一色いろはが顔を出した。子猫のような大きなアーモンド形の瞳が、キラキラと輝いている。
「[excited]これ、私的に超アリです!投稿したら伝説になりますよぉ♡」
彼女の手には、スマホがしっかりと握られていた。
「お前、今どこを撮って——」
八幡が言い終わる前に、雪乃が動いた。
一瞬の眼光。
まるで氷の刃のような視線が、いろはを貫いた。
「[cold]消しなさい」
ただ一言。でも、その声には有無を言わせない迫力があった。
「[scared]は、はい……」
いろはは素直にスマホをポケットに戻した。でもその顔は、まだニヤニヤしている。
「[gentle]でも先輩、ほんと大変ですねぇ。三人で取り合いだなんて、人気者はつらいですよぉ」
「お前は空気を読め」
「読んだ上で楽しんでるんですよぉ」
小悪魔スマイルが、屋上の緊張を一瞬だけ緩めた。
でも——。
「[sad]ねえ、雪乃ちゃん」
結衣が、静かに口を開いた。
さっきまでの怒りの声じゃない。どこか震えた、不安そうな声だった。
「この世界が、誰かの願いで作られたなら」
結衣は雪乃の目を、じっと見つめた。
「じゃあ、その世界で、あたしの気持ちは……本物じゃないの?」
涙を必死にこらえながらの、問いかけだった。
雪乃の顔が、はじめて揺らいだ。
「[surprised]それは……」
言葉に詰まる。
(そうよ、あなたは私の意図しない副産物)
そう言おうとして、でも言えなかった。結衣の目が、本気すぎたからだ。バグと切り捨てるには、その瞳はあまりにも真っすぐで、あまりにも——傷つきやすそうだった。
沈黙。
屋上を、潮風だけが通り抜けていく。
その時だった。
「[serious]本物かどうかなんて、誰が決めるんだ」
八幡の声が、ぽつりと落ちた。
全員の視線が、八幡に集まる。
「俺が思うに、そんなのは——感じた奴自身が決めることだ」
八幡は空を見上げた。南向きの空はオレンジ色から、だんだんと紫色に変わり始めている。
「この世界が偽物だろうが本物だろうが、今ここでお前がそう感じたなら、それはお前にとって本物だろ」
八幡の言葉は、自分自身への問いかけでもあった。
(俺は今まで、ずっと逃げてきた)
誰かと関わることから、感情に向き合うことから。でも——。
「[serious]少なくとも、誰かに本物かどうかを決めてもらう必要はねえだろ」
静かな、でもはっきりとした声だった。
雪乃が八幡を見つめる。
結衣も。
いろはも。
四人の時間が、一瞬だけ静止した。
——ドガァン!!
その静寂を、屋上の扉がぶち破られた。
「[angry]お前たち!!!」
扉を蹴破って現れたのは、平塚静先生だった。背中まである黒髪のストレートが、怒りで逆立っているように見える。白衣のようなスーツに、手には常に持ち歩いている「青春しろ」と書かれたクリアファイル。
「[angry]屋上での無断集会は、先週からボッチ禁止令の違反項目に追加した!全員、生活指導室に来なさい!!」
「ええっ!?」
「ちょっと待ってください、私はただ巻き込まれただけで——」
「[cold]言い訳は聞かん!」
平塚先生のゲンコツが、いろはの頭に落ちる。
ゴツン。
「いったあい!」
「[angry]ほら、お前たちもとっとと行くぞ!」
そう言うと、平塚先生は八幡だけをじっと見つめた。
その目が、いつもの鬼の形相から、ふっと柔らかくなる。
「[gentle]ヒキタニ君……いや、比企谷」
八幡の背筋に、冷たいものが走った。
(今、こいつ——俺の本名を)
「お前は少し、面白い顔をしていたな」
平塚先生は、意味深に笑った。その笑顔が、やけに寂しそうに見えたのは、夕日のせいだろうか。
「[serious]さあ、行くぞ。お前たちには、たっぷりと青春の説教をしてやる」
「めんどくせえ……」
八幡は小さくため息をついた。
雪乃は無言で、結衣は泣きそうな顔のまま、いろはは頭をさすりながら。
四人は平塚先生に連行されるように、屋上を後にした。
雪乃の計画は完全に止まり、結衣と八幡の関係は宙ぶらりんのまま、次の舞台——生活指導室という名の密室へと強制移送されることになった。
夕日が沈みかけた屋上に、海からの風だけが、まだ吹き続けている。