猫の物語
短毛で琥珀色の瞳の黒猫が主人公の短編物語
猫の物語 - 第7話 ニックス
あるところに、それはそれは毛並みの美しい黒猫がいました。
名前はニックス。短く、ビロードのように滑らかな黒い毛に、まるで宝石のように輝く琥珀色の瞳が自慢です。
ニックスの毎日は、人間たちと同じように忙しいものでした。
なぜなら、彼女はただの猫ではなく、大航海時代を生きる「船乗り猫」だったからです。
彼女が乗っているのは、スペインの大型帆船サンタ・マリア号。
海は広く、ニックスにとっては格好の遊び場であり、そして何より大切なお仕事場でもありました。
『船乗り猫(シップス・キャット)ニックスの大航海』
ニックスの朝は、朝日がマストのてっぺんを照らすより少し早く始まります。
お仕事その1:寝起きパトロール
まずは、彼女の「寝床」である甲板の下のハンモックから這い出します。
彼女の小さな足音は、熟睡している船員たちの耳には届きません。
ニックスは、琥珀色の瞳をきらりと光らせ、暗い船倉へと降りていきます。
ここには、航海に欠かせない大量の小麦粉や乾燥肉が保管されています。
そして、それを狙う、最も恐ろしい敵……ネズミたちが潜んでいるのです。
ニックスは、音もなく暗闇の中を進みます。
「カサリ」
かすかな音がしました。ニックスはピタリと足を止め、耳をそばだてます。
ヒゲがピクピクと動き、琥珀色の瞳が標的を捉えました。
彼女は静かに身をかがめ……次の瞬間、弾丸のように飛び出しました!
「ニャアッ!」
ニックスの勝利です。
彼女は小さなネズミをくわえ、誇らしげに甲板へと戻りました。
これで今日の食料は守られました。
朝のパトロールを終えると、ニックスは甲板に上がり、人間たちの様子を伺います。
船員たちは、ロープを引いたり、帆を張ったりと忙しそうに働いています。
お仕事その2:癒やしの時間
ニックスは、一番怖そうに見えて実は優しい、操舵手のペドロの足元へ近づきました。
そして、体をこすりつけ、小さな声で「ニャア」と鳴きます。
ペドロは、ふっと表情を緩めました。
「おお、ニックス。今日も元気そうだな。お前のおかげで、昨晩もぐっすり眠れたよ」
ペドロは、ニックスの顎の下を撫でてくれました。ニックスはゴロゴロと喉を鳴らします。
ニックスの存在は、長い航海で疲れ切った船員たちの心を癒やす、かけがえのない宝物なのです。
太陽が一番高くなるお昼時。
ニックスには、船の中で一番お気に入りの場所があります。
それは、船首の、ちょうど女神像のすぐ下あたりです。
ここからは、地平線の彼方まで広がる真っ青な海と、大きな白い帆が風をはらんで進む様子が一望できます。
ニックスは、ここに座り、海風を体に受けながら、琥珀色の瞳で海を眺めるのが大好きでした。
まるで、自分もこの大きな船を操っているような、そんな気分になれるのです。
日が沈み、空がオレンジ色から深い青へと変わる頃。
ニックスは、ペドロがくれた魚の切り身を満足げに平らげました。
そして、再び甲板をパトロールし、ネズミたちの影がないことを確認します。
船員たちが寝静まり、マストの上でランタンが揺れる夜。
ニックスは、ペドロのハンモックの足元に丸まりました。
彼女は、目を閉じながら、琥珀色の瞳に映った、終わりのない海と、その先に待っている新しい陸地のことを思いました。
そして、いつか、自分の名前が、伝説の船乗り猫として、世界中に知れ渡る日を夢見るのです。
ニックスの、ほのぼのとした、けれど少しだけ誇り高き大航海の日々は、明日もまた、朝日とともに始まるのです。