とんがり帽子のアトリエ ~みんなのやすみじかん~
とんがり帽子のアトリエ ~みんなのやすみじかん~の見習い魔女たちは、ついにめったにない休日を迎えた――そしてコーコは、その日を大切に過ごそうと決意する。
みんなを集めて楽しい計画を立てようとするが、結果はあまり盛り上がらない。アグは寝たいと言い、テテは新しいインクの研究をしたいと言い、リチェはおやつを食べたいと言う。コーコのやる気は少しだけしぼんでしまう。
それでもみんなで街へ出かけることに。最初は順調で、市場を見て回ったり、屋台でおやつを食べたりして楽しむ。しかし、リチェとアグが甘いもの派とハーブ屋派で意見が分かれて別行動に。仲裁しようとしたコーコはためらいすぎて、気づけばひとりぼっちになってしまう。
迷路のような路地をさまよっていると、コーコは迷子の子どもを見つける。助けようとするが、自分も同じくらい迷っていることに気づく。「誰かを助けに来たのに、今は二人とも迷子だ」と思いながら、路地をぐるぐる回る。
そこへオルオが地図を持ってどこからともなく現れ、屋根の上から二人を見つけて、あっという間に問題を解決してしまう。コーコは感謝するが、ほんの少しだけイラッともする。
夕方、ア
とんがり帽子のアトリエ ~みんなのやすみじかん~ - 五人でヴェルデの森へ——バラバラだった私たちの、最高の連携
昨夜のことを、コーコはまだ少し引きずっていた。
オルオに話を聞いてもらって、テテが大発見を持ってきて、みんなを呼ぼうと自分から言えた。それは本当のことだ。でも朝の空気を吸うと、また少しだけ胸がざわざわした。
(ちゃんと、みんな来てくれるかな)
そう思いながらアトリエの玄関を出ると、三人がもう並んでいた。
アグは背が高くて、腕を組んで立っている。濃い緑のぼさぼさ頭と金色の目が、朝日を受けていた。薬草の匂いが、風に乗ってかすかに届く。テテは水色のロングヘアを揺らしながら、採取用の小瓶の蓋をぱちぱちと開け閉めしている。指先には例によってインクの跡があった。リチェは紅色のふわふわ頭で、大きな布袋を両手で抱えていた。口の端にキャンディをくわえて、右目の黄色と左目の緑がにこにこと光っている。布袋が、どう見てもパンパンだった。
そしてオルオが、少し後ろで地図を折りたたみながら立っていた。銀髪を後ろに束ねて、左耳の細いイヤリングが光っている。いつもの冷静な目がコーコを見て、ほんの少しだけ頷いた。
コーコは深呼吸して、四人の顔を一人ずつ見回した。
「[serious]……よろしくお願いします」
深くお辞儀した。昨日のように、誰かに言われたからじゃない。自分から頼みたくて、自分で頭を下げた。
一瞬、静かになった。
アグが無言でヴェルデの森の方向に歩き始めた。テテがぱっと顔を上げた。
「[excited]行こう行こう! 月光蛍石、絶対ある!」
リチェが布袋を抱え直した。
「[gentle]お腹が空いたら力が出ないからね。ちゃんと持ってきたよ」
オルオがその布袋を一瞬だけじっと見た。どう見ても通常の三倍はある。でも何も言わなかった。
五人は歩き始めた。
*
ヴェルデの森の入り口に着くと、空気が変わった。
石畳の道から土の道へ。木々が高くなって、葉の隙間から差し込む光がだんだん細くなる。コーコが照明魔法を一つ灯すと、柔らかい光の球が手のひらの上に浮かんだ——はずだったのに、光がじわじわと薄れていった。
「[surprised]あれ? 消えてないのに、暗い?」
テテが頷いた。
「[excited]この森の木、魔力を帯びてるから光を取り込んじゃうんだと思う。だから奥に行くほど暗くなるんだよ」
アグが続けた。
「普通の植物が育てない環境だ。毒草も多い」
「[serious]地図を見ながら進む。コーコ、先頭は——」
「[excited]あたしが行く!」
オルオが少し間を置いた。
「……まあ、仕方ない」
コーコは張り切って先頭に立った。調合筆を握って、照明魔法の残り光を頼りに進む。左、右、また左。落ち葉を踏む音。木の根を跨ぐ。どんどん進む。
十分後。
「あ」
大きな赤い実が、いくつもぶら下がっていた。見覚えがありすぎる木だった。
「[laughing]また来た!」
「この木……さっきも見たよね」
リチェはキャンディをころころと口の中で転がしながら、まったく責める様子もなく言った。コーコは耳まで赤くなった。
「ま、まじか……どうしよう!」
オルオが無言で地図を広げた。広い背中で地図を確認して、「こっち」と短く言って歩き始める。アグがその後ろについて、テテがスキップ気味についていく。リチェが布袋をよいしょと持ち直しながら、コーコの肩をぽんと叩いた。
「[gentle]大丈夫だよ。みんないるから」
コーコは小さく頷いて、最後尾についた。
(今回は、一人じゃない)
*
森の中程まで来たところで、アグが突然止まった。
「止まれ」
低い声だった。全員が足を止める。
足元を見ると、黄みがかった葉の草が地面を覆っていた。きれいな黄緑色で、一見ただの草に見える。
「[serious]ドクカスミ草だ。踏むと蒸気を出す。目と喉をやられる」
「[surprised]……踏んでた。あたし、もうちょっとで踏んでた」
「[serious]だから言ったろう。薬草の知識は役に立つ」
アグは淡々と、安全な迂回路を指さした。細い道だけど、ドクカスミ草を完全に避けられるルートだ。五人が一列になってアグの後ろをついて歩く。
リチェが後ろからぽつりと言った。
「[gentle]アグって、実はすごく頼りになるんだね」
「[serious]実はじゃない」
即座に返ってきた。テテが吹き出した。
「[laughing]素直!」
「素直で何が悪い」
全員がくすくすと笑いながら、毒草の横を抜けた。
*
開けた岩場に出たところで、オルオが地図から顔を上げた。
「[serious]一度止まる。最奥部まであと少しだ」
全員がへたり込んだ。コーコも岩に腰を下ろして、大きく息をついた。足が重い。森の空気は湿っていて、思ったより体力を使う。
リチェがもぞもぞと布袋を開け始めた。中から出てきたのは——蜜パイ、干し果物、水筒、干し果物、また蜜パイ、木の実の袋、さらに蜜パイ。
アグが見ていた。
「[serious]……なぜそんなに荷物がある」
「[gentle]遠出にはおやつが必要でしょ。基本だよ」
当たり前の顔だった。アグが何か言おうとして、やめた。
リチェが蜜パイを全員に配る。コーコが一口食べると、甘い蜜がじんわりと広がった。
「[gentle]……甘い。ありがとう」
声が少し震えた。疲れていたし、嬉しかったし、なんか色々重なった。リチェがコーコの肩をぽんと叩いた。
「[gentle]コーコってちゃんとお礼言えるよね。えらい」
何気ない言葉だった。でも今のコーコには、ちゃんと届いた。小さいけど、あたたかい言葉。
オルオが水筒を受け取りながら、リチェに向かって短く言った。
「助かる」
リチェがぱっと顔を輝かせた。
「[excited]でしょ!」
オルオが誰かに素直に感謝を言うのを、コーコは初めて聞いた気がした。
*
最奥部まであと少し、というところで草むらが揺れた。
低い唸り声。一つ、二つ、三つ。
前方の木々の隙間から現れたのは、狼の形をした魔獣だった——体全体に植物のつるが絡みついていて、それが筋肉みたいに盛り上がっている。体の大きさはオオウロコより二回り以上ある。ツタオオカミだ。それが三頭、横並びに立っていた。
「[scared]でかい……!」
オルオが素早く周囲を見回した。
「[serious]右に岩の裂け目がある。退路はそこだ」
コーコは調合筆を握った。
(三頭に囲まれたら動けない。引きつけないと)
「[serious]あたしが引きつける!」
「[serious]コーコ——」
「大丈夫!」
一歩前に出て、調合筆を大きく振った。照明魔法を連続で放つ。一発、二発、三発——光の球がぱぱっと爆ぜて、まばゆい閃光が広がる。ツタオオカミ三頭の目が、一斉にコーコに向いた。
「[excited]今!」
テテが地面に飛びついて、調合筆を走らせた。特殊インクで素早く円陣を描く——一頭が飛びかかろうとした瞬間、足元に光の膜が広がって動きが止まった。一時的な結界だ。
アグが懐に手を入れた。薬草を二束取り出して、手際よく束ねる。火打ち石で点火して、残り二頭の前に放り投げた。
ボン、と鈍い音がして、灰色の煙が広がった。ツタオオカミたちが鼻を押さえるように顔を振る。足が止まった。
「[serious]今だ、退路へ!」
全員が岩の裂け目に向かって走る。コーコが最後尾で走りながら振り返ると——リチェが立ち止まっていた。布袋を探っている。
「[scared]リチェ!?」
「ええい!」
リチェが蜜パイを一枚、思い切り二頭の鼻先に投げつけた。パイが地面に落ちて、蜜の強い甘い匂いが一気に広がる。
ツタオオカミたちが——止まった。鼻をひくひくさせて、パイを嗅ぎ始める。
五人は岩の裂け目を抜けた。
全員で石の影に滑り込んで、荒い息をついた。しばらく誰も動けなかった。
コーコが振り返って、リチェを見た。
「[surprised]リチェ、今の何!?」
リチェが肩をすくめた。
「[gentle]あたし、ほかに武器ないし……」
全員が声を立てて笑った。
アグが壁にもたれて、珍しく笑っていた。テテがお腹を押さえてひーひー言っている。オルオが静かに口の端を上げていた。コーコは岩に手をついて、笑いすぎて涙が出そうだった。
蜜パイが、ツタオオカミを止めた。
*
岩の裂け目の先は、夜のような暗さだった。
照明魔法が吸い込まれて、手のひらの光だけが頼り。全員が足を揃えて、静かに進む。
テテが先を指さした。
「[whispers]ここ」
岩肌の窪みに、小さな光があった。
青白い。じんわりと、周りの闇に溶け込むように光っている。近づくと、岩の隙間から石がいくつか埋まっているのが見えた——月光蛍石だ。夜みたいに暗い場所でだけ、この色で光る。
「[excited]夜にだけ光るから、普通の採取者には気づかれないんだよ」
テテが小瓶を取り出して、丁寧に採取し始めた。全員が息をひそめて見ていた。
コーコは青白い光を見つめながら、静かに思った。
(一人では、絶対にここに来られなかった。でも——あたしが「呼ぼう」って言ったから、みんながここにいる)
まとめる力じゃない。計画を立てる力でもない。ただ、信じて頼ること。それがあたしにできることだ。
採取が終わると、テテがそっと小瓶を掲げた。青白い光が、暗い岩場をやわらかく照らした。
コーコはテテに言った。
「[gentle]見つけてくれて、ありがとう」
テテがコーコを見た。
「[gentle]コーコが諦めなかったからだよ」
短いやり取りだった。でもそれで十分だった。
*
アトリエに戻ると、外壁の印がまた脈打っていた。残り二日のリズムで、速く、強く。
工房の中の保管棚に、月光蛍石の小瓶を並べる。光苔の青い光、青石の鈍い輝き、夜露水の透明な瓶——そこに、青白く光る月光蛍石が加わった。
四つ、全部揃った。
誰も最初に声を出さなかった。全員がしばらく棚を見ていた。
リチェが先に言った。
「[gentle]やった……本当に、やったね」
「[excited]やったあ!!」
テテが飛び跳ねた。アグが「ふん」と言いながら、肩の力をゆっくり抜いた。
オルオが静かに地図を広げた。これまで集めた古代文献の写しと、自分の描画魔法の知識を組み合わせて作った——アトリエの外壁のサイズに合わせた魔法陣の配置図だった。上書き魔法陣の設計図が、そこに完成していた。
コーコが聞いた。
「[serious]明日の夜、月が昇る前に描き切れる?」
オルオが設計図を見ながら答えた。
「[serious]全員で手分けすれば、間に合う」
それから少し間を置いて、オルオがコーコを正面から見た。珍しいことだった。
「[serious]お前が最初に動かなければ——この設計図は意味がなかった」
コーコは何か言おうとした。言葉が出てこなかった。代わりに、小さく頷いた。
外壁の印の脈動が、また一度強くなった。残り一日。
コーコは設計図を見た。魔法陣の中心部——一番難しくて、一番大事な箇所。その夜、コーコは静かに決めた。
そこは、あたしが描く。