とんがり帽子のアトリエ ~みんなのやすみじかん~
とんがり帽子のアトリエ ~みんなのやすみじかん~の見習い魔女たちは、ついにめったにない休日を迎えた――そしてコーコは、その日を大切に過ごそうと決意する。
みんなを集めて楽しい計画を立てようとするが、結果はあまり盛り上がらない。アグは寝たいと言い、テテは新しいインクの研究をしたいと言い、リチェはおやつを食べたいと言う。コーコのやる気は少しだけしぼんでしまう。
それでもみんなで街へ出かけることに。最初は順調で、市場を見て回ったり、屋台でおやつを食べたりして楽しむ。しかし、リチェとアグが甘いもの派とハーブ屋派で意見が分かれて別行動に。仲裁しようとしたコーコはためらいすぎて、気づけばひとりぼっちになってしまう。
迷路のような路地をさまよっていると、コーコは迷子の子どもを見つける。助けようとするが、自分も同じくらい迷っていることに気づく。「誰かを助けに来たのに、今は二人とも迷子だ」と思いながら、路地をぐるぐる回る。
そこへオルオが地図を持ってどこからともなく現れ、屋根の上から二人を見つけて、あっという間に問題を解決してしまう。コーコは感謝するが、ほんの少しだけイラッともする。
夕方、ア
とんがり帽子のアトリエ ~みんなのやすみじかん~ - 最後の線と、温かい光——わたしたちのアトリエ
あの夜、四つの素材が棚に並んだ。
月光蛍石の青白い光。光苔の青い輝き。青石の鈍い反射。夜露水の透明な瓶。コーコはあの瞬間をまだ覚えていた。全員が黙って棚を見ていた時間を。
そして今日が、最終日だ。
アトリエの外壁は、朝の光を受けて白くぼんやりしている。あの謎の印は今も脈打っていた。昨日より速く、強く。コーコは調合筆を右手にしっかり握った。入門の日にキファ師匠からもらった、少し古い筆だ。穂先が手になじんでいる。
「[serious]配置はこれで行く。コーコが中心部。テテは左上の弧。アグは右下の定着補助。リチェは——」
「飲み物配り!」
「[serious]……補助だ」
オルオが設計図を広げる。銀髪が朝風にかすかに揺れて、灰色のオッドアイが図面をすーっと追う。左耳の細いイヤリングが光った。
その横で、アグがもぞもぞと大きな袋を広げ始めた。乾燥薬草の束が、ずらりと並んでいく。
「[serious]インク定着には山ムラサキ草とヤナギモドキの比率が大事だ。昨夜計算したが、やはり二対一が——」
「すごい! あたしの配合と相性よさそう!」
テテが調合皿を取り出しながら割り込んだ。水色のロングヘアがふわっと揺れて、指先にはもうインクがついている。
「[excited]昨夜また改良したの。月光蛍石と光苔、三対二に変えたら発光が安定して——ねえ、アグ、ちょっと聞いて——」
「[serious]だから俺の話を先に聞け」
「聞いてるよ! でも同時に話せるよね?」
「[serious]無理だ」
リチェはというと、大きな布袋をごそごそしていた。蜜パイ、干し果物、水筒、また蜜パイ。コーコの横に水筒をそっと置いて、にこにこしながらキャンディを口に転がす。右目の黄色と左目の緑が、朝日を受けて光った。
オルオがため息をついた。
「[serious]……全員、まず設計図を見てくれ。一人ずつ確認する」
それでも全員がばらばらに動いている。でもコーコは、それを見てくすっと笑った。
市場で五人が初めて集まった時とは違う。あの時は全員が空回りしていた。今は——方向は同じだ。ぜんぶ、同じ壁に向かっている。
コーコは調合筆を握り直した。
「[serious]中心部はあたしがやる。この筆、なぜか手に合うから」
アグが横目でちらっと見た。
「[serious]……その筆で描けるのか」
「できる、と思う」
アグは少し間を置いた。それから、黙ってうなずいた。
珍しい。コーコはまた小さく笑った。
*
作業が始まると、外壁が少しずつ変わっていった。
テテのインクは塗った瞬間にうっすら光る。月光蛍石と光苔を混ぜた青白い色で、外壁の石に吸い込まれていく様子がきれいだった。アグは薬草成分を少量ずつインクに混ぜながら、定着のタイミングを静かに見計らっている。オルオは設計図と外壁を交互に見て、細かい位置の修正を指示する。
リチェは——黙々と動いていた。
手が止まりかけた瞬間に、水筒が来る。喉が乾いたと思う前に、リチェがそこにいる。テテが配合に集中しすぎて固まった時、リチェが蜜パイをそっと横に置く。アグが薬草の計算で眉をよせた時、干し果物が一粒そっと出てくる。
誰も気づいていない。でも誰もがリチェに何度も救われていた。
コーコは中心部を担当していた。
設計図の一番ややこしい場所だ。細い曲線が何本も重なって、一本でもずれると全体のバランスが崩れる。
筆を動かす。慎重に、ゆっくりと。
にじんだ。
「どうしよう……」
オルオが静かにやってきて、設計図を横に広げた。
「[serious]ここから始め直す。この曲線は、もう少し角度を緩くしていい」
テテが覗き込んだ。
「[gentle]ここのインク、もう少し薄める? 粘度が高いと線が太くなるよ」
アグが新しいインクの小瓶を無言でコーコの前に置いた。
誰も責めなかった。誰も焦らせなかった。
コーコはもう一度、筆を構えた。今度は少しだけ、手が落ち着いていた。
*
日が傾き始めた頃、声がした。
「……どうせ素人の魔法陣で、消えるわけないんだけどな」
アトリエの前に、一人の男が立っていた。腕を組んで、壁にもたれかかるみたいな姿勢。コーコたちより少し年上で、目つきが鋭い。ガレン——市場で鉱石粉を買い占めていた、あの人だ。
コーコは手を止めかけた。でも横でテテが振り返りもせずに答えた。
「[serious]完成してから言って」
ガレンが鼻を鳴らす。それでも五人が作業を続けていると、ガレンの視線がテテの調合皿に止まった。
じっと見ている。
ゆっくりと近づいてきた。調合皿を上から覗き込んで、眉がかすかに上がった。
「[surprised]……月光蛍石に、光苔?」
テテが顔を上げた。銀色の目が輝く。
「[excited]そう! 混ぜると古代の印と同じ周波数の魔力が出るの。自分で考えたんだよ」
ガレンがしばらく黙った。
全員が手を止めて、ガレンを見ていた。
ガレンは顔をそむけた。ポケットに手を入れる。それから、小さな小瓶を取り出して——コーコの前に、無言で置いた。
中に細かい粉が入っている。白みがかった、淡い銀色の粉。
「[surprised]……これ」
ガレンが早口で言った。
「アトリエが消えたら評議会の調合資料も一緒になくなる。俺の研究に使ってる文献も保管されてるから。べつにお前たちのためじゃない。自分の研究のためだ」
古代鉱石粉だった。
アグが鼻を鳴らした。テテが「ありがとう」と素直に言った。オルオが小さく、静かに頷いた。
リチェが蜜パイを一枚取り出して、にこにこしながらガレンに差し出した。
「[gentle]どうぞ」
ガレンが戸惑った顔をした。受け取るのに、ちょっと時間がかかった。
「[whispers]……どうも」
アグが「ふん」と言った。テテが笑いをこらえながらインクの調合を再開した。コーコは手の中の小瓶を見つめた。
(照れてる)
思ったら、なんだかおかしくて、すこしだけ笑ってしまった。
*
テテが古代鉱石粉を調合皿に少しずつ加えていく。インクの色が変わった。青白かった光が、もう少し深く、落ち着いた色になった。
「[excited]定着力、ぜんぜん違う。これなら持続する」
テテから小瓶を受け取る。
コーコは深呼吸した。
中心部の最後の線。一番ながくて、一番細い曲線。ここがずれたら全部やり直しだ。
筆を構えた瞬間、頭の中に昔の記憶が浮かんだ。
パッソ通りの路地。入り組んだ古い石の道で、出口がわからなくなった。泣きながら壁にへたり込んでいた小さいころのあたし。暗くなって、怖くて、一人だった。
あの時助けてくれたのは、ミルト市場の串焼き屋のカルダおじさんだった。「どこから来た?」って聞いて、一緒に歩いてくれて、アトリエの前まで送り届けてくれた。
あの温かさが、ずっと心のどこかにある。
今は——みんながいる。
にじんだ時にオルオが設計図を示してくれた。テテがインクを薄めてくれた。アグが無言で新しい瓶を置いてくれた。リチェが誰も気づかないうちに水を配ってくれた。まとめることが苦手で、計画を立てるのも下手で、方向音痴なあたしを、誰もここから外に出さなかった。
コーコは筆を動かし始めた。
ゆっくりと。でも止まらずに。
途中で一度、手がかすかに揺れた。その瞬間、オルオが無言で設計図を軽く持ち上げた——今どこを描いているか、示してくれた。コーコは小さく頷いて、続けた。
弧が伸びていく。石の表面に、青白い線が刻まれていく。
最後の点。
筆を、止めた。
魔法陣全体が、ふっと光り始めた。
「[whispers]……できた」
誰も動かなかった。全員が外壁を見上げていた。
*
月が昇った。
外壁の古代の印が、急に強く脈打ち始めた。びりびりとした震えが空気を伝わってくる。印の光が波打って、白く、眩しく広がっていく。
コーコたちは思わず後ずさった。
五人が描いた魔法陣も、負けずに光を放ち始めた。青白い光と、古代の印の白い光が、外壁の上でぶつかり合う。バチッ、と空気が弾ける音がした。光が何度も重なって、何度も押し合って——
アトリエ全体が、白く包まれた。
コーコは目を閉じた。
数秒後。
光が、すっと引いた。
静かになった。
目を開ける。外壁に古代の印はなかった。跡形もなく消えていた。代わりに——五人が描いた魔法陣だけが、あたたかいオレンジ色の光を放っていた。石の表面に、やわらかく、おだやかに。
コーコの足から力が抜けた。へなへなと、地面に座り込んだ。
「[whispers]終わった……?」
「[excited]終わったー!! おやつの時間!!」
リチェが両手を上げて叫んだ。
全員が声を上げて笑った。アグが壁に背をもたせかけて、珍しく肩の力を完全に抜いた。テテがお腹を押さえてけたけた笑い転げる。オルオが静かに口の端を上げた——あれは、オルオが笑っている顔だ。
アグが外壁をじっと見て、ぼそっと言った。
「[serious]……よくできてる」
テテが飛び跳ねた。
「[excited]やったー!! インク完璧だったでしょ!!」
オルオがコーコの頭をぽんと軽く叩いた。
「[gentle]よくやった」
それだけだった。でも、それだけで十分だった。
コーコの目から涙がこぼれた。声は出なかった。ただぽろぽろとこぼれる。悔しい涙でも怖い涙でもない。うれしくて、うれしくて、どうしようもなかった。
ガレンが少し離れたところで、一人で壁を見ていた。腕を組んだまま、黙って。その表情は相変わらず無愛想だったけど、目は外壁の光をまっすぐ追っていた。
リチェが蜜パイをもう一枚取り出して、ガレンに差し出した。
ガレンは今度は少し早く受け取った。
「[whispers]……うまいな、これ」
「[gentle]でしょ!」
外壁のオレンジ色の光が、夜の石畳を柔らかく照らしていた。
*
翌朝。
アトリエの扉が開いた。旅行鞄を持った人影が入ってきて——外壁を見た瞬間、足が止まった。
キファ師匠だった。
中年の女性で、髪に白いものが混じっている。口数は少ないけれど、その目はいつも何かを見抜いていた。今は大きく見開かれている。外壁のオレンジ色の光と、消えた古代の印の跡を、黙って見ていた。
五人が食堂に集まって、全部話した。印を見つけたこと。素材を集めたこと。上書き魔法陣を描いたこと。ガレンが鉱石粉を持ってきてくれたこと。昨夜の光のこと。
キファは腕を組んで、しばらく黙った後、静かに笑った。
「[gentle]よくやった」
コーコたちが、ほっと息をついた。
その直後、キファが続けた。
「[serious]一つだけ、聞いておいてほしいことがある」
食堂が静かになった。
「調合評議会の会合があった。そこで報告が一件あった——メッザルーナの外の都市でも、同じ形の謎の魔法印が見つかっているそうだ。いくつかの街で。誰が刻んでいるのか、何のためなのか、まだ誰もわからない」
誰も何も言わなかった。
アグが腕を組んだ。テテの銀色の目が、じっとキファを見た。リチェが口のキャンディを止めて固まった。オルオが窓の外に目をやった——遠い何かを見るように。それからゆっくりと、コーコを見た。
コーコは仲間の顔を一人ずつ見回した。
アトリエを守った。みんなで一緒にやり遂げた。それは本当のことだ。でも——外の世界で、まだ何かが起きている。
胸の中に、ふわっとした何かが広がった。不安と、それと同じくらいの、別の何か。
コーコは調合筆を、そっと握った。