テレフォンマン・ジュニア 〜公衆電話を探す男〜
無職、二十四歳、神楽坂電話。将来の夢は「モテること」。そんなダメ男の前に現れたのは、昭和の伝説的ヒーロー・テレフォンマンだった父の形見、一枚のグリーンのテレフォンカード。公衆電話にカードを入れ、技名を叫べば変身できる——ただし、令和の街に電話ボックスはほぼ絶滅済み。仕方なく街をさまよい、挙動不審者として通報され、パトカーに追われ、屋根を跳び回るハメに。それでも彼は叫ぶ。「テレフォン・パワー・チャージ!」。父の背中を追う、ちょっと情けない新米ヒーローの物語、開幕です。
テレフォンマン・ジュニア 〜公衆電話を探す男〜 - 最後の公衆電話 — 昭和の流儀と朱色の絆
夕焼けが、神楽坂の石畳を赤く染めていた。
廃墟の電話ボックスの前で、五人の影が立ち尽くしている。針生と監物は、いつの間にか姿を消していた。回線停止の影響か、スマホの画面はどれも真っ黒なままだ。
「……おい、これ、本当に繋がるのかよ」
電話は、父の残した電話線の図面を握りしめたまま、錆びついた電話ボックスを見上げた。ガラスには細かいひびが入り、夕日を受けて橙色に光っている。
「図面によれば、このボックスだけは独立回線で生きてるはずだ」
律が、落ち着いた声で言った。手には小型の端末。画面には、周辺の通信状況を示す波線が表示されている。
「でもよ、さっきまで全部ダメだったじゃねえか!」
元気が、腕を組んで吠えた。
「さっきまでは、ハードバンクが人為的に回線を塞いでいた。だが、このボックスの回線は、彼らの管理網から外れている。父の図面が正しければ、な」
律の言葉に、電話はごくりと唾を飲んだ。
「やってみるしかねえだろ」
電話は、図面をジャージのポケットに押し込み、ボックスへと歩き出した。
「待って」
ひかりの声が、電話の背中を止めた。
「何か……嫌な予感がするの。気をつけて」
ひかりは、朱色のカードを胸に抱きしめるようにして、電話を見つめていた。夕日を背にした彼女の髪が、まるで燃えているように赤く見える。
「大丈夫だって。俺は、テレフォンマンの息子だぜ」
電話は、精一杯の笑顔を作った。
「……うん」
ひかりが、小さく頷く。
電話は、錆びついた扉を開けた。蝶番が、ギィ、と耳障りな音を立てる。中は、かび臭い空気が澱んでいた。受話器を手に取る。ずっしりと重い。
「……頼むぞ」
左手首のリストバンドから、グリーンのテレフォンカードを引き抜く。角が擦り切れ、表面の印刷は色あせている。父の形見。
カードを、挿入口に差し込んだ。
「——テレフォン・チェンジ!」
叫んだ。
……何も起きない。
受話器からは、無機質な発信音。ツー、ツー、ツー。
「くそっ! なんでだ!?」
電話は、受話器をガチャガチャと叩いた。
「回線が、まだ塞がれてる」
律の声が、後ろから聞こえた。
「ハードバンクの妨害電波だ。このボックスの回線だけ、強力なジャミングを受けている」
律が、端末の画面を電話に向けた。画面いっぱいに、赤い警告表示が点滅している。
「どうすりゃいいんだよ!」
電話の声が、焦りに震えた。
「落ち着いて。回線の周波数を解析して、妨害をかいくぐる方法を——」
律が、端末を操作し始めた。
その時だった。
「——残念だが、その必要はない」
低く、重い声が、夕暮れの路地に響いた。
全員が、声のした方へ振り返る。
路地の入り口に、一人の男が立っていた。
背の高い、銀髪の男だった。黒いスーツを、まるで鎧のように着こなしている。年齢は五十代後半だろうか。顔には深い皺が刻まれ、その目は、夕日の中で異様なほど鋭く光っていた。
「誰だ、お前は」
電話は、受話器を置き、ボックスから出た。
「ハードバンク社長、天城院 総一郎だ」
男は、静かに名乗った。
「社長……!」
電話の背筋を、冷たいものが走った。
「初めまして、神楽坂電話くん。君の父上には、ずいぶんと世話になった」
天城院は、薄く笑った。その笑みは、全く目に届いていない。
「親父を……知ってるのか」
「ああ、よく知っている。幼馴染でね。それに——」
天城院は、一歩、前に踏み出した。革靴の音が、石畳に冷たく響く。
「——私が、最も憎んだ男だ」
憎んだ、という言葉が、夕暮れの空気に溶けて消えていった。
「憎んだ……?」
電話は、戸惑いの声を上げた。
「そうだ。四十年以上、ずっとだ。今も、この瞬間もな」
天城院の声は、静かだった。だが、その静けさが、逆に恐ろしい。
「お前の父は、私のすべてを奪った。私が愛した女性を、私が夢見た名声を、私が守りたかった時代を。すべて、あの男が持っていった」
天城院の目が、遠くを見るように細められた。
「私は、あの男に勝つために、この会社を大きくした。携帯電話を普及させ、公衆電話を駆逐し、テレフォンマンの存在を歴史から消し去った。すべては、あの男の遺産を、この世から完全に消すために」
「……狂ってる」
電話の口から、言葉が漏れた。
「狂っている? そうかもしれないな」
天城院は、自嘲するように笑った。
「私には、温かい家庭がある。愛する妻も、可愛い子供も、立派な家もある。何不自由ない生活だ。だが——それでも、だ。夜中に目が覚めると、あの男の顔を思い出す。あの男が、私の前で、彼女と笑い合っていたあの瞬間を。そして、気づくんだ。私は、まだ何も勝っていない、と」
天城院の声が、初めて感情で震えた。
「……お前、それ、本気で言ってるのかよ」
電話は、拳を握りしめた。
「本気だとも。だからこそ、今日、ここに来た。お前の持つそのカード。あの男の最後の遺物を、この手で砕くために」
天城院は、電話の左手首を、鋭い目で見据えた。
「させるかよ」
電話は、カードをかばうように、左手を背中に隠した。
「お前の父は、私の人生を狂わせた。その息子であるお前が、同じ道を歩もうとしている。それを見逃すわけにはいかない」
天城院が、右手を上げた。
その合図と同時に、路地のあちこちから、黒服の男たちが現れた。針生、監物、銭谷。三人の刺客が、五人の退路を塞ぐように立っている。
「お前ら……」
電話は、仲間たちを見た。
「どうやら、逃げ場はなさそうだな」
律が、冷静に状況を分析する。
「上等だ! まとめてぶっ飛ばしてやる!」
元気が、拳を突き合わせた。
「……困ったわね。私、まだ死にたくないんだけど」
しずくが、口元に手を当てて、わざとらしく首をかしげた。
「神楽坂くん」
ひかりが、電話の隣に立った。
「俺が、何とかする」
電話は、再び電話ボックスへと向かった。
「無駄だ。回線は、私の部下が完全に塞いでいる」
天城院の声が、背中に突き刺さる。
「やってみなきゃ、わからねえだろ!」
電話は、ボックスに飛び込んだ。カードを、挿入口に叩き込む。
「——テレフォン・チェンジ!」
叫んだ。
ツー、ツー、ツー。
「くそっ! 繋がれよ! 繋がってくれよ!」
電話は、受話器を握りしめ、祈るように叫んだ。
「無駄だと言っているだろう。この回線は、私の技術力の結晶であるジャミング装置によって、完全に封鎖されている。お前の父の時代の技術では、決して突破できない」
天城院の声は、勝ち誇ったように、静かだった。
「……そんなこと、ない」
ひかりの声が、静かに響いた。
「え?」
電話が振り返る。
ひかりは、朱色のテレフォンカードを、夕日に掲げていた。カードの表面が、夕日を受けて、燃えるように赤く輝いている。
「神楽坂くん。私のカード、使ってみて」
ひかりが、カードを差し出した。
「ひかりさんのカード……?」
「私のカードには、お祖母ちゃんの履歴が残ってる。その履歴の中に、あなたのお父さんの履歴と、重なる部分があるの。二つの履歴が重なれば、もしかしたら——」
ひかりの目は、真剣だった。
「——回線が、繋がるかもしれない」
電話は、ひかりの手から、朱色のカードを受け取った。カードは、驚くほど温かかった。
「でも、どうやって……」
「私のカードを、あなたのカードの上に重ねて。二枚同時に、挿入口へ」
電話は、言われた通りにした。グリーンのカードの上に、朱色のカードを重ねる。二枚のカードが、夕日の中で、緑と赤の光を放つ。
「——テレフォン・チェンジ!」
電話は、二枚のカードを、挿入口に差し込んだ。
瞬間。
ブツッ、という音とともに、受話器から、何かが溢れ出した。
「なっ……」
天城院の顔が、初めて歪んだ。
カードが、光り始めた。緑色の光と、朱色の光が、螺旋を描いて絡み合い、電話の体を包み込んでいく。
「回線が……繋がった……!」
律が、端末の画面を見て叫んだ。
「おおおおおっ!」
元気が、雄叫びを上げた。
「これは……すごい」
しずくが、目を丸くした。
光が、弾けた。
電話の体が、緑色のスーツに包まれる。胸には、父と同じ、電話のマーク。そして、その背中には、朱色の光が、翼のように広がっていた。
「……変身、完了」
変身した電話は、受話器を置き、ゆっくりと振り返った。
「馬鹿な……あのジャミングを、突破しただと……!?」
天城院の声が、動揺に震えている。
「お前の技術は、確かにすごいのかもしれねえ。でもな——」
電話は、拳を握りしめた。
「——俺たちには、お前には絶対に手に入れられないものがある。それは、親父と、その仲間たちが、四十年以上も前に、このカードに残してくれた、繋がりだ!」
電話の声が、夕暮れの空に響き渡った。
「針生! 監物! 銭谷! やれ!」
天城院が、叫んだ。
「了解しました、社長」
針生が、スマホを取り出した。だが、画面は真っ黒なままだ。
「くっ……端末が、使えない……!?」
針生の顔が、焦りに歪む。
「どうやら、変身の際に発生した強力な電磁波が、周囲の電子機器に干渉したようだ。これは、我々の端末も例外ではない」
監物が、苦々しげに言った。
「電子マネーも、使えない……! これでは、何もできない……!」
銭谷が、自分のスマホを叩きながら叫んだ。
「三人とも、携帯電話に頼りすぎなんだよ。お前たちの武器は、全部、電波と画面の中にある。でもな——」
電話は、拳を構えた。
「——俺の武器は、この体と、この拳だけだ! テレフォンパンチ!」
電話は、地面を蹴った。
夕日を背に、緑と朱の光を纏った男が、三人の刺客に向かって突っ込んでいく。
「ぐあっ!」
針生が、電話の拳を腹に受けて吹っ飛んだ。地面を転がり、石畳に背中を打ちつける。
「ば、馬鹿な……この私が……!」
針生が、起き上がろうとする。だが、体が動かない。
「お前の営業スマイルも、役に立たないだろ」
電話は、次に監物へと向かった。
「顔認証システムは、あなたの動きを捉えています。ですが——」
監物が、冷静に分析しようとする。だが、その目の前で、電話の姿が、緑と朱の光の残像を残しながら、左右に揺れた。
「——速すぎる……!?」
監物の顔が、驚愕に染まる。
「テレフォンキック!」
電話の蹴りが、監物の胸を直撃した。監物の体が、くの字に折れ曲がり、後方の壁に叩きつけられる。
「がはっ……!」
監物は、壁を背にして、ずるずると崩れ落ちた。
「最後は、お前だ」
電話は、銭谷の前に立った。
「わ、私の電子マネーが……! 私の数字が……! こんな、暴力で……!」
銭谷が、後ずさりしながら、震える声で言った。
「お前の数字は、確かにすごいのかもしれねえ。でもな、数字じゃ測れないものだってあるんだよ」
電話は、銭谷の胸ぐらを掴んだ。
「ひっ……!」
銭谷の顔が、恐怖で引きつる。
「テレフォン——」
電話は、拳を振り上げた。
「——ダイヤル回転蹴り!」
電話の体が、空中で回転し、その勢いのまま、銭谷の体を蹴り飛ばした。銭谷は、悲鳴を上げながら、針生の上に折り重なるように倒れ込んだ。
「……強すぎる」
天城院は、呆然と立ち尽くしていた。
「これが、テレフォンマンの力……。あの男の、力……!」
天城院の目に、初めて、恐怖の色が浮かんだ。
「天城院。お前の計画は、ここで終わりだ」
電話は、天城院の前に立った。
「終わりだと……? まだだ。私は、まだ終わってなどいない。私は、あの男に勝つために、四十年以上を費やしてきたんだ。それが、こんな形で終わってたまるか……!」
天城院は、声を張り上げた。
「お前のその執念は、確かにすごいよ。でもな、お前が本当に憎んでいたのは、親父じゃない。親父に勝てなかった、自分自身だろ」
電話の言葉に、天城院の動きが止まった。
「……何だと」
天城院の声が、低くなる。
「お前は、親父に嫉妬してた。親父が持ってるものを、何もかも奪いたいと思ってた。でも、本当は、親父のようになりたかっただけなんじゃねえのかよ」
電話は、真っ直ぐに天城院の目を見た。
「……黙れ。黙れ! 私が、あの男のようになりたいだと!? 笑わせるな! 私は、あの男を超えるために、このすべてを築き上げたんだ!」
天城院が、激昂した。
「だったら、なんでお前は、温かい家庭があるのに、まだ親父を憎んでるんだよ。なんで、夜中に目が覚めて、親父の顔を思い出すんだよ。それは、お前が、今でも親父に憧れてるからだろ」
電話の言葉が、天城院の胸に、深く突き刺さった。
天城院は、言葉を失った。
夕日が、沈んでいく。
路地に、長い影が落ちた。
「……私は」
天城院は、うつむいた。
「……私は、ただ、あの男に、認められたかっただけなのかもしれない」
天城院の声は、か細く、消え入りそうだった。
「……そうかもな。でも、もう遅い。お前の計画は、終わりだ」
電話は、天城院に背を向けた。
「待て」
天城院が、電話を呼び止めた。
「お前の父は、私に何も言わなかった。私の嫉妬も、私の憎しみも、すべて受け流して、ただ、あの女と笑っていた。それが、私には、何よりも屈辱だった」
天城院は、顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいた。
「お前も、同じだ。お前も、私のことを、ただの哀れな老人としか見ていない。それが、私には、死ぬほど悔しい」
天城院は、そう言って、ゆっくりと、その場に膝をついた。
「……社長!」
針生が、叫んだ。
「もう、いい。撤退する」
天城院は、力なく言った。
「しかし……!」
「撤退だと言っている!」
天城院の声が、路地に響いた。
三人の刺客は、負傷した体を引きずりながら、天城院の元へと集まった。
「神楽坂電話。今日のところは、引き上げてやる。だが、これは終わりではない。私は、まだ、諦めていない」
天城院は、電話を睨みつけた。
「俺もだ。お前がまた来るなら、何度でも、ぶっ飛ばしてやるよ」
電話は、天城院の視線を受け止めた。
天城院は、何も言わず、背を向けて去っていった。三人の刺客が、その後を追う。
路地に、夕闇が迫っていた。
「……終わった、のか?」
元気が、きょとんとした顔で言った。
「ああ、終わったよ」
電話は、変身を解いた。緑と朱の光が、静かに消えていく。
「……お疲れ様、神楽坂くん」
ひかりが、電話に近づいた。
「ひかりさんのおかげだよ。あのカードがなかったら、変身できなかった」
電話は、朱色のカードを、ひかりに返した。
「いいえ、あなたが、最後まで諦めなかったからよ」
ひかりは、カードを受け取り、嬉しそうに笑った。
「それにしても、すごいデータが取れたわ。二枚のカードが共鳴した時の、履歴の変化……。これは、後でじっくり分析しないと」
ひかりの目が、カードの履歴を追い始める。
「……え、あの、ひかりさん? 今、俺、すごくかっこよかったと思うんだけど」
電話は、少し照れながら言った。
「そう? まあ、悪くなかったんじゃないかしら。でも、それより、この履歴のパターン、見て。ここ、明らかに通常の変身とは違う波形が——」
ひかりは、電話には見向きもせず、カードに夢中になっている。
「……はあ」
電話は、肩を落とした。
「先輩! すげえっすよ! あの蹴り、マジでかっこよかったっす!」
元気が、電話の背中をバンバン叩いた。
「いててて! お前、加減しろよ!」
電話は、元気の手を振り払った。
「あの電磁波、興味深いな。変身時に発生するエネルギーが、周囲の電子機器に干渉する現象……。これは、今後の戦術に応用できるかもしれない」
律は、端末を操作しながら、ぶつぶつと呟いている。
「……あの、律くん? 俺、今、結構いい感じに決めたと思うんだけど」
電話は、律に話しかけた。
「ああ、そうだな。よくやった。だが、次の戦闘では、この電磁波の発生タイミングを、もっと正確に制御する必要がある。そうすれば、より効率的に敵の端末を無力化できる」
律は、電話の顔も見ずに答えた。
「……ですよねー」
電話は、乾いた笑いを漏らした。
「ふふっ、でも、本当に良かったわよ。あなたが変身できなかったら、私、どうやって逃げようか真剣に考えてたもの」
しずくが、電話の耳元で、甘い声で囁いた。
「お前、絶対俺を囮にするつもりだっただろ!」
電話は、しずくから距離を取った。
「あら、バレてた?」
しずくが、小悪魔のような笑みを浮かべた。
「……はあ。まあ、いいか。これが、俺たちの日常だよな」
電話は、仲間たちを見渡した。
ひかりは、カードの履歴に夢中。
律は、データ分析に余念がない。
元気は、一人で勝手に喜んでいる。
しずくは、損得勘定で動いている。
誰も、電話のヒーローとしての活躍を、真剣に称えてはいない。
「……モテるどころか、誰も見てねえじゃねえか」
電話は、苦笑いした。
だが、不思議と、悪い気分ではなかった。
夕闇が、神楽坂の街を包んでいく。
石畳の上に、五人の影が、長く伸びていた。
「……親父」
電話は、空を見上げた。
一番星が、一つ、瞬いていた。
「俺、今日、初めて、お前と同じ色で、街に立ってる自分を、悪くないって思えたよ」
電話は、小さく、ガッツポーズをした。
その手に握られた、グリーンのテレフォンカード。
夕闇の中で、そのカードの残度数表示が、ほんの少しだけ、減っていることに、電話は気づいていた。
変身できる回数が、確実に少なくなっている。
その事実を、知っているのは、電話だけだった。
「……まだ、終われないな」
電話は、カードを、そっとジャージのポケットにしまった。
「先輩! 腹減りました! なんか食いに行きましょう!」
元気が、電話の腕を引っ張った。
「お前、さっきまで死闘だったんだぞ。もう少し余韻に浸らせろよ」
電話は、呆れたように言った。
「余韻より、飯っすよ! 飯!」
元気は、満面の笑みだった。
「……わかったよ。でも、金ないから、奢ってくれよ」
電話は、元気に肩を組まれたまま、歩き出した。
「えー! 先輩、またっすか!?」
元気の声が、夕暮れの路地に響いた。
その後ろを、ひかり、律、しずくが、それぞれの興味のままに、ゆっくりと続いていく。
変人ばかりの、五人のヒーロー。
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