呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
ある朝、目を覚ましたアンジュは、自分の声がやけに低くなっていることに気づく。鏡を覗き込むと、そこには親友カトリーナの顔が! 隣の部屋から悲鳴が響く。慌てて駆けつけると、アンジュの体になったカトリーナが、顔を真っ赤にしてパジャマと格闘していた。
異変は二人だけではなかった。謎の呪いが学園を襲い、ほぼ全員が異性の体に入れ替わってしまったのだ。頼れる委員長のリゼは、小柄で可愛らしい男の子の姿に。普段は無口なエルは、少女の体で無言のまま目を見開いてパニックに。学園は笑いと混乱の坩堝と化す。
原因を探るうち、アンジュとカトリーナは気づく。「これって、私たちのせい?」 前日、二人は古い鏡の前で冗談めかして「君みたいになれたら」と願いを口にしていた。それが学園中を巻き込む魔法の呪文を発動させてしまったらしい。
呪いが解けるまで、皆は入れ替わった体で生活しなければならない。カトリーナとして過ごすアンジュ、アンジュとして過ごすカトリーナ。慣れない体での体育の授業、ドキドキの着替え、そして密かな想い人との突然の接近遭遇。かくして、笑い
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園 - 写し鏡の秘密とお互い体でドキドキ共同生活!
冷たい空気が、地下の封印室を満たしていた。
カビと古い木の匂いが混ざった重たい空気。壁に刻まれた判読できない古い文字が、薄暗い灯りの下でぼんやりと浮かび上がっている。
アンジュは、今の自分の手を見つめた。
長くて白い指。関節の一つ一つがきれいで、まるで美術品みたい。これが、カトリーナの手。昨日までは背伸びしても全然届かなかった棚の上に、今なら手が届く。
「すごいや……」
自分のものじゃない落ち着いた声が、ひんやりした地下室に吸い込まれていく。
「アンジュ、感心してる場合じゃないわ」
振り返ると、アンジュの小さな体に入ったカトリーナが、不安そうな顔で立っていた。茶色い大きな瞳が、困ったように揺れている。自分の顔なのに、そんな表情をするんだ、とアンジュはちょっと変な気持ちになった。
「あの紙、続きがあるはずよ」
「わかってる! よーし、探すよ!」
アンジュは、カトリーナの長い腕をまくった。見慣れない制服の袖が、ちょっとだけ邪魔。でも、今の方が腕が長い分、動きやすくも感じる。
二人は、封印室の中を隅から隅まで調べ始めた。
古い棚には、何年も誰も触っていないような本がぎっしり並んでる。ホコリが積もって、表紙の文字も読めない。アンジュが一冊手に取ると、パラパラと黄色い紙片が舞った。
「うわっ、くしゃみ出そう!」
「ちょっと、私の体でくしゃみしないでよ」
カトリーナが、アンジュの小さな手で口を押さえた。自分の声でそんなこと言われても、なんか変な感じ。アンジュは思わず笑ってしまった。
「だって、カトの体、鼻が高くてホコリが入りやすいんだもん」
「そんなことないわよ!」
言い合いながらも、二人の手は止まらない。床に散らばった紙片を集め、棚の隙間に挟まった本を取り出し、古い箱の中をかき回す。
その時。
部屋の隅にある、天井近くまで届く大きな本棚。その一番上の段に、アンジュの目が止まった。
「あれ」
一冊だけ、やけに古い日記帳みたいなのが、斜めに引っかかってる。背表紙はボロボロで、かろうじて「観察記録」と読める。
「取ってみる!」
アンジュは、カトリーナの長い脚で踏み台に飛び乗った。そして、長くなった腕を思い切り伸ばす。
手が、日記に届いた。
「取れた! やった! カトの体、すごいよ! 今までのあたしだったら絶対届かなかった!」
日記を抱えて飛び降りると、古い紙の匂いがふわりと広がった。
カトリーナが駆け寄ってくる。アンジュの小さな体で、ちょっとよろけながら。
「開けてみましょ」
二人は頭を寄せ合って、日記を開いた。
中には、きれいな筆記体でびっしりと文字が書かれている。書いたのは、昔、この学園にいた先生みたい。ところどころインクがにじんでて、読めない場所もある。でも、大事なところはちゃんと残ってた。
「……写し鏡の呪いは、発動より七日間で自然に解ける」
カトリーナが、震える声で読み上げる。
「七日間! 昨日の紙と同じだ!」
「さらに、入れ替わった者が敷地の外に出ようとすると、激しい頭痛と吐き気に襲われる結界が張られる……だそうです」
カトリーナの声が、少しだけほっとしたように和らいだ。
「やっぱり七日間だけなんだ! よかったぁ!」
アンジュは、思わずカトリーナの細い肩を抱きしめた。今の自分の方が大きいから、カトリーナ(アンジュの体)がすっぽり腕の中に収まる。
「よかった……ほんとに」
カトリーナの声が、アンジュの胸のあたりでくぐもった。小さくなった手が、アンジュ(カトリーナの体)の制服をぎゅっと握ってる。
「一週間だけで、ちゃんと元に戻れるんだ」
「ええ」
顔を見合わせて、二人で笑った。
カトリーナのきれいな口元が、にこっと動くのをアンジュは感じる。自分の顔なのに、カトリーナが笑ってるみたいで不思議。
「でも、ってことは、七日間はこのまんまってことか」
「……そういうことです」
新たな現実に、二人は同時にため息をついた。
その時、学園中に校内放送が鳴り響いた。
『全生徒に通達します。今回の不可解な現象について、学園長より指示があります。入れ替わりが発生している期間中、男子寮と女子寮の立ち入り制限を一時的に緩和します。元の体の持ち主同士が同じ部屋で生活することを許可します。期間は本日より七日間。繰り返します——』
「寮のルールが変わった!」
「これで、私たち、これまで通り一緒にいられるのね」
カトリーナが、ほっと胸をなでおろす。アンジュの小さい手で、アンジュの胸を。その様子がなんだか変で、アンジュはまた笑ってしまった。
「なんか変! カトが私の体で、私がカトの体で、同じ部屋で寝泊まりするんでしょ?」
「……言わないでよ、余計意識しちゃうじゃない」
カトリーナの顔(アンジュの顔)が、ぼっと赤くなった。
アンジュは、急にドキドキしてきた。
(そうか。これから一週間、お風呂も着替えも、全部カトの体のままで——)
考えるだけで、顔から火が出そう。
「あ、あの、アンジュ」
「な、なに?」
「着替えとか、どうしましょう……」
「どうしよう!」
二人の叫び声が、冷たい地下室に響いた。
***
女子寮205号室。
カーテンの外はもう暗くなり始めてて、部屋の中はオレンジ色の間接照明だけがついてる。いつもよりずっと狭く感じるのは、気のせいかな。
「じゃあ、背中合わせで着替えるよ! 絶対に振り返らないこと!」
「わ、わかってるわよ」
二人は、文字通り背中合わせで立った。
制服のブラウスを脱ぐ。カサカサと布が擦れる音が、やけに大きく聞こえる。
アンジュは、自分の手がボタンを外すのを見てた。長い指、白い手首。それが全部、カトリーナのもの。ボタンを外すたびに、見えてくる鎖骨のライン。
(きれいだなあ)
思わず見とれて、我に返る。
(って、何考えてるの私!)
頭をぶんぶん振った。
「きゃっ!」
後ろで小さな悲鳴。
「どうしたの!?」
振り返りそうになって、必死で止まる。
「ボタンが……アンジュの指、短すぎてボタンが外せない……」
思わず吹き出した。
「あははっ! ちょっとカト、私の指をバカにしてるでしょ!」
「笑い事じゃないわ! もう……」
なんとか着替え終わったのか、カサカサいう音が止んだ。
「もういいわよ」
カトリーナの声で振り返ると、アンジュの小さな体にパジャマを着たカトリーナが、涙目で立っていた。ボタンを留めるのに苦労したらしく、ほんのちょっとだけボタンがずれてる。
「カト、ボタン一個ずれてるよ」
「えっ」
恥ずかしそうに自分の胸元を見る。
その瞬間、アンジュは好奇心を抑えきれなくなった。
「……すごいなあ」
自分の体を見下ろす。細い腰、長い脚、そして——
「見ないで!」
ボスン!
枕がアンジュの顔面に飛んできた。
「ぎゃっ!」
「ぜ、絶対に私の体をじろじろ見ないで!」
真っ赤になって怒るアンジュの顔(カトリーナの魂入り)。こんなに感情的に怒るカトリーナ、初めて見た。
「ご、ごめんって! でも、カトの体、本当にスタイルいいんだもん!」
「それを言ったら、アンジュの体だって小さくて華奢で、すごく可愛いんだから!」
カトリーナも言い返して、ハッと口を押さえた。
二人で真っ赤になって、うつむく。
沈黙が、気まずかった。
「お風呂、どうする?」
「大浴場は……絶対に無理」
カトリーナはアンジュの小さな体を抱きしめるようにして震えた。
「アンジュの体で女子風呂になんて、絶対に入れない……」
「だよね。じゃあ、誰もいない時間を狙って、交代でシャワー浴びよう」
「そうしましょう」
二人は固く握手を交わした。今の自分たちの手が、逆になっているのを感じながら。
***
翌日。
「なんか、もうクタクタ」
アンジュは、カトリーナの重たい体を引きずるように廊下を歩いていた。
(カトの体って、自分よりずっと重いんだなあ)
そりゃそうか。身長も高いし、スタイルもいいから、その分だけ重さもある。
その時。
すれ違う男子生徒が、こちらをチラッと見た。
「なあ、あれってカトリーナさんだよな」
「やっぱ美人だよな。脚、長っ」
声をひそめてるつもりなんだろうけど、全部聞こえる。
アンジュは思わず足を止めた。
(美人? 脚が長い?)
そっか、今のあたしはカトリーナなんだ。
階段を降りる。いつもなら何も気にしないのに、今日はスカートの裾が気になって仕方ない。ちょっと風が吹くだけで、太ももが見えそうになる。
「階段降りるだけで絵になるよな」
「こっち見てくれないかな」
背中に、何人もの視線が刺さる。
(なにこれ)
アンジュは、しらないうちにうつむきそうになる自分に気づいた。腕を組んで、なんとなく体を小さくしてしまう。
今までは、こんな風に男子たちから見られることなんて、なかった。だってアンジュは小さくて目立たない、ただの元気な女の子だったから。
でも、今は。
「美人はつらいなあ」
「あれだけ見られてたら、大変だよね」
女子生徒たちの声も聞こえる。
カトリーナは、いつもこんな風に見られてたんだ。
きれいなだけで、羨ましがられるだけで、いつもジロジロ見られて。
アンジュは初めて、親友が背負ってたものの重さを知った。
***
部屋に戻ると、カトリーナがベッドに座って本を読んでいた。
「カト」
「どうしたの、アンジュ?」
カトリーナが顔を上げる。アンジュの小さな体で、ちょっと首をかしげた。
「カトは、いつもああやって見られてたんだね。廊下歩いてるだけで、ジロジロ見られて、知らない人に噂されて」
カトリーナの目が、少しだけ曇った。
「……ええ。まあ。慣れたわ」
「慣れちゃダメだよ! あんなの、すごくイヤな気持ちになる!」
今まで気づかなかった。
カトリーナがよく、休み時間になると静かに本を読んでた理由。あまり教室の真ん中で騒がず、壁際にいた理由。
「ごめんね、カト。あたし、今まで気づかなくて」
「……アンジュ」
カトリーナが立ち上がって、アンジュの手を握った。小さくなった手が、今のアンジュの大きな手を包み込もうとして、ちょっとだけはみ出る。
「私も、今日初めてわかったの。アンジュの体が、こんなに小さくて大変だってこと」
「え?」
「棚の上の物が取れない。人混みだと周りに押しつぶされそうで怖い。それでもアンジュは、いつも明るくて、前向きで——」
カトリーナは、目に涙をためながら笑った。
「アンジュは、私が思ってたよりずっと強いのね」
「カト……」
アンジュはしゃがみ込んで、カトリーナの小さな体をぎゅっと抱きしめた。
「あたしはカトがいてくれたから、明るくいられたんだよ。カトがいたから、なんとかなるって思えたんだ」
「本当?」
「本当だよ」
二人はしばらく、そのままでいた。
***
消灯時間。
真っ暗な部屋の中で、二人はそれぞれの布団に入って、天井を見つめていた。
「ねえ、カト」
「なあに?」
「カトはさ、あたしの体で過ごしてみて、一番びっくりしたことってある?」
隣の布団から、少しの沈黙。
「……お腹がすぐ空くこと、かしら」
「あははっ! なにそれ!」
「だって、すぐにお腹ぐうぐう鳴るんですもの。恥ずかしい」
「私、そんなにお腹空いてたんだ」
二人で声をひそめて笑い合う。
「でもね、アンジュ」
「ん?」
「アンジュの体になって、よかったって思ってるの」
「え、なんで?」
「アンジュの気持ちが、ちょっとだけわかったから。今まで見えなかったものが、見えた気がするの」
カトリーナの小さな手が、布団から伸びてきて、アンジュの手を探した。
アンジュも手を伸ばす。
指と指が、暗闇の中で触れ合った。
「あたしもだよ。カトの体になって、カトのことをもっと大事にしたいって思った」
「ありがとう、アンジュ」
「ありがとう、カト」
指を絡ませて、ぎゅっと握る。
「この七日間、絶対に乗り切ろうね」
「ええ」
二人の声が、暗闇に溶けていった。
***
翌日。体育の授業。
体育館に、バレーボールの甲高い音が響いてた。
「よっしゃあ! また決めた!」
アンジュは、カトリーナの長い脚で跳んで、軽々とスパイクを打った。
バシン!
ボールが相手コートに突き刺さる。
「カトリーナさん、すごい! 今日、めっちゃ調子よくない?」
「いつも大人しいのに、どうしたの?」
周りがざわつく。いつものカトリーナなら、体育は控えめで、あまり前に出ない。でも、中身がアンジュだから、つい張り切ってしまう。
「えへへ、なんか今日は動けるんだよね!」
「アンジュ、すごすぎ……」
隣のコートでは、アンジュの体に入ったカトリーナが、ボールに翻弄されていた。
小さな手で必死にレシーブしようとするけど、なかなか上手くいかない。
「ご、ごめんなさい!」
ボールが変な方向に飛んでいく。
「アンジュ、今日は絶不調だな!」
「いつもはもっと動けてたのに、どうした?」
男子たちに笑われて、カトリーナは真っ赤になってうつむいた。
アンジュは思わず駆け寄った。
「カト、大丈夫?」
「アンジュの体、思うように動かなくて……普段のアンジュは、こんな小さい体でよくあんなに動けたのね」
「まあね! でも慣れだよ、慣れ! 少し練習すればすぐできるようになるって!」
アンジュは、自分の昔の口癖を思い出した。
「なんとかなるって!」
「……もう、アンジュったら」
カトリーナも小さく笑った。
体育館の明るい光の中で、二人の笑い声がこだました。
でも——。
アンジュは気づいていた。
体育館の隅で、こちらをじっと見つめる視線があることに。
サッカー部のエース、テオ・グランツ。
アンジュがいつも片思いしてる彼が、カトリーナの体になったアンジュを、真剣な目で見つめていた。
(え、なんでテオがこっちを——)
アンジュの胸の奥が、少しだけチクリと痛んだ。
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