呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
ある朝、目を覚ましたアンジュは、自分の声がやけに低くなっていることに気づく。鏡を覗き込むと、そこには親友カトリーナの顔が! 隣の部屋から悲鳴が響く。慌てて駆けつけると、アンジュの体になったカトリーナが、顔を真っ赤にしてパジャマと格闘していた。
異変は二人だけではなかった。謎の呪いが学園を襲い、ほぼ全員が異性の体に入れ替わってしまったのだ。頼れる委員長のリゼは、小柄で可愛らしい男の子の姿に。普段は無口なエルは、少女の体で無言のまま目を見開いてパニックに。学園は笑いと混乱の坩堝と化す。
原因を探るうち、アンジュとカトリーナは気づく。「これって、私たちのせい?」 前日、二人は古い鏡の前で冗談めかして「君みたいになれたら」と願いを口にしていた。それが学園中を巻き込む魔法の呪文を発動させてしまったらしい。
呪いが解けるまで、皆は入れ替わった体で生活しなければならない。カトリーナとして過ごすアンジュ、アンジュとして過ごすカトリーナ。慣れない体での体育の授業、ドキドキの着替え、そして密かな想い人との突然の接近遭遇。かくして、笑い
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園 - 鏡が映す本当の私——無口な天才と呪いの真実
雨だった。
窓を打つ水滴が、静かな部屋にやけに大きく響く。
アンジュは、カトリーナのいなくなった205号室で、膝を抱えていた。
長い銀の髪が、だらりと床に落ちている。カトリーナの体だ。手足は長く、肌は絹みたいにきれいで。いつもなら、こんな体になれたらって、そればかり考えていたのに。
今は、それがただただ重たいだけだった。
「……カト」
声に出してみる。
きれいな声だ。落ち着いていて、大人っぽい、カトリーナの声。
でも、この声で何を言っても、全部、自分の言葉じゃないみたいに感じてしまう。
机の上には、置き去りにされた写真が一枚。
先月の学園祭の準備中に撮った、二人のツーショット。小さなアンジュと、背の高いカトリーナが、肩を寄せ合って笑っている。
(……これ、カトが忘れていったんだ)
昨日の夜、あんなひどいことを言ったのに。
それでもカトリーナは、この写真を、持っていく気にもなれなかったんだろうか。
胸の真ん中が、冷たくなる。
(違う。謝りたいんじゃない。でも、何て言えばいいんだろう)
窓の外は、暗い雲が空を覆っている。
その時だった。
アンジュのカトリーナの指が、ふと、昨夜の光景を思い出させた。
旧校舎の地下。
涙がこぼれ落ちた瞬間、写し鏡の銀の蔦模様が、青白く光った。
「……そうだ」
立ち上がる。
何か、あそこにはまだ秘密がある。
このまま部屋で丸まっていても、何も始まらない。
アンジュは、カトリーナの長い足で、一歩を踏み出した。
***
旧校舎の廊下は、ひんやりと冷たかった。
朝早くで、誰もいない。カビと古い紙のにおいが混ざった、独特の空気が漂っている。
立ち入り禁止の張り紙をくぐり抜け、地下室への階段を降りる。カトリーナの体でなければ、もっと息が切れていたかもしれない。
封印室。
あの鏡は、今日もそこにあった。
縦に長い全身鏡。黒檀の枠に、銀の蔦が絡みつくように細工されている。昨日までは、ただ古いだけのアンティークだと思っていた。
「……また、来たのか」
声がした。
驚いて振り返る。
薄暗がりの、棚の影。
そこから、一人の少女が、ぬうっと現れた。
いや、少女じゃない。
腰まで届く艶やかな銀髪。左が深い紫、右が金色の不思議な瞳。美術部の制服に、スケッチブックを抱えている。
エル・ノクスだ。
「え、エルくん!? なんでここに!?」
エルは無表情で、アンジュを見つめた。
彼も、入れ替わりで、スタイル抜群の女子の体になっている。でも、その顔には、他の誰よりも落ち着きがあった。
「最初から、いた。誰も、気づかなかっただけ」
短く、それだけ言うと、エルはアンジュの手から、持っていたスケッチブックを奪い取った。
そして、無言でペンを走らせ始める。
サッ、サッ、サッ。
ものすごい速さで、鏡の枠に刻まれた複雑な蔦模様を、精密に写し取っていく。
「すごい……」
アンジュは息をのんだ。
エルの手は、まるで生き物みたいに滑らかに動く。
「君、泣いてた」
エルが、手を止めずに言った。
「え?」
「昨夜。ここで。涙で、模様が光った」
淡々とした声。
感情が、全く読み取れない。
「エルくん、見てたの……?」
「観察してた。入れ替わりの初日から、毎晩、ここで」
ペンが止まった。
エルは、スケッチブックを、アンジュの方へと差し出す。
そこには、銀の蔦の一本一本が、まるで本物みたいに描き起こされていた。そして、模様の中に、隠れるようにして——古い文字が、浮かび上がっている。
「これは……なに?」
「古ルミエーラ語。呪文の、全文」
エルは、自分の長い銀髪を、邪魔そうに耳にかけた。その仕草は、彼が普段やらない、女の子の癖だ。
「書いてある。『互いに羨む心が、真に溶け合うとき、鏡は正しき姿を返す』」
「羨む心が、溶け合う……?」
「この入れ替わりは、罰じゃない。気づきを与えるための、試練だ」
エルの金色の瞳が、ちらりと動いた。
「僕も、内心は大パニックだった。この体になって。でも、必死に絵を描くことで、冷静さを保った。そして、気づいた」
アンジュは、ただ聞いていた。
「羨むだけじゃダメ。相手の痛みを知って、初めて、鏡は応える」
エルの、長くても10文字程度の短い言葉が、重く響く。
相手の痛み。
アンジュの頭の中で、カトリーナの泣き顔がよみがえった。
『私、アンジュの代わりに、テオくんと仲良くしようと思っただけで……』
震える声。
『アンジュがいたから、私は一人じゃなかった』
真っ暗な部屋で、あの子は、いつも一人で泣いていたんだろうか。
華奢で、完璧で、誰よりもきれいな親友。
私が、ただ憧れていた時から——。
「あたし……カトの、外見だけ見てた……」
涙が、勝手にあふれた。
「私、カトが、どれだけ孤独だったか……全然、気づけてなかった。カトは、あたしの明るさを羨んでくれてたのに」
その場に、へたり込む。
冷たい石の床が、膝にしみる。
エルは、ただ黙って、アンジュを見下ろしていた。
「……本当に変わるべきは、外見じゃない。心だ」
ぽつり、と言った。
「カトリーナさんに、君の本当の気持ちを、伝えるべきだと思う」
アンジュは、ぐいっと涙をぬぐった。
カトリーナの指で。
「……ありがと、エルくん!」
走り出す。
地下室の階段を、一気に駆け上がる。
***
雨が、強くなっていた。
大粒の水滴が、窓を叩く。
教室にも、図書室にも、カトリーナはいなかった。
「いない……どこにもいない……」
廊下を走りながら、息が切れる。カトリーナの体は、こんなに長く走れるのに、心臓だけが、ぎゅうっと痛む。
「どうしよう……カト……」
保健室の前で、人影が止まった。
小さな男子の体。
「アンジュ・カトリーナ!」
リゼだった。
彼女はその小さな拳をぎゅっと握りしめて、アンジュを見上げている。
「リゼ会長……! カトを知らない!? どこにいるか!」
「君たち、昨日、喧嘩したんだろう。カトリーナ・リーベルは今朝、『一人にしてほしい』と、女子寮の屋上の鍵を借りていった」
アンジュの顔から、さっと血の気が引く。
屋上。
こんな土砂降りの雨の中、一人で。
「私は……私も、誰にも頼られない悔しさで、泣きたくなった。でも、逃げちゃダメだと、思った」
リゼの声が震える。
小さな体で、必死に背伸びをして、アンジュの目を見ていた。
「私も同じ。でも、もう逃げない!」
アンジュは、リゼの手をぎゅっと握った。
そして、女子寮へと走り出す。
***
屋上へ続く階段。
重い鉄扉の向こうから、雨音だけが聞こえる。
アンジュは、カトリーナの細い腕で、力任せにドアを押した。
ギイイイイイイイ。
耳をつんざく音。
土砂降りの雨が、一気にアンジュの全身を打った。
視界が、にじむ。
屋上の端。
フェンスに背中を預けて、小さな体が、膝を抱えている。
「……カト」
カトリーナが、顔を上げた。
ずぶ濡れ。
アンジュの小さな体で、唇を青くして、震えている。
大きな茶色の瞳が、アンジュを見た瞬間、強く閉じられた。
「もう、来ないで……!」
鋭い声。
でも、明らかに震えている。
アンジュは、走った。
土砂降りの雨の中を。
スカートが重い。髪が張りつく。それでも、足を止めなかった。
「来ないでって、言ったでしょ……! アンジュは、いつもそう! 人の話を、聞かないんだから……!」
カトリーナが叫ぶ。
顔を両手で覆って、泣きじゃくる。
アンジュは、その小さな体を、カトリーナの体で、力いっぱい抱きしめた。
「ごめん! ごめんね、カト!!」
自分の声が、カトリーナの落ち着いたトーンなのが、今は不思議だった。
でも、言葉は、ちゃんと自分の言葉だった。
「あたし……カトの外見だけ、羨ましがって……カトが、どれだけ一人で戦ってたか、全然、わかってなかった!」
腕の中で、カトリーナが息をのむのがわかった。
「カトは、カトのままで……あたしの、一番の親友なんだ! 外見なんか、関係ない! あたしが本当に欲しかったのは……カトみたいになることじゃなくて! カトと、ずっと一緒にいることだったんだよ!!」
涙が、止まらなかった。
カトリーナの体で、アンジュの心で。
全部、ぐちゃぐちゃのままの、本音。
「……アンジュ」
腕の中で、カトリーナが、子供みたいに泣き出した。
「私も……私も、アンジュが羨ましかった……! 誰とでもすぐ仲良くなれて、いつも明るくて……アンジュがいたから、私は一人じゃなかった……! アンジュの体になって、もっと、アンジュのことが好きになった……!」
小さな腕が、アンジュの——カトリーナの——背中に、ぎゅっと回される。
雨の中。
二人は、泣きながら、ただ抱きしめ合った。
——その瞬間。
世界が、光った。
「……え?」
顔を上げる。
旧校舎の地下から、まばゆい光の柱が、空へと立ち上っている。
雨雲を突き破り、光が、あたり一帯を包み込む。
雨が、一瞬で止んだ。
アンジュとカトリーナの体が、淡く発光し始める。
「なに、これ……」
二人の手が、透けて見える。
でも、怖くはなかった。
温かい光だった。
光は、数秒間、学園全体を照らし続けて——そして、すうっと消えた。
静寂。
雲の切れ間から、一筋の光が差し込む。
体は、まだ戻っていない。
でも、さっきまでとは、何かが違う。
「……戻って、ないんだ」
「ええ。でも……鏡が、応えたんだと思う」
カトリーナが、涙で濡れた顔で、笑った。
アンジュの小さな顔で。
「これで……明日の七日目で、きっと全部、終わるんだわ」
その言葉に、アンジュは強くうなずいた。
「うん! なんとかなるって!」
いつもの口癖。
カトリーナの落ち着いた声で、それは、やっぱりちょっと変だったけど——。
「もう、アンジュったら……」
カトリーナが、泣き笑いで、アンジュの肩をポンと叩いた。
重い雲が、風に流されていく。
明日で、すべてが決まる。
あと一日。
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