呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
ある朝、目を覚ましたアンジュは、自分の声がやけに低くなっていることに気づく。鏡を覗き込むと、そこには親友カトリーナの顔が! 隣の部屋から悲鳴が響く。慌てて駆けつけると、アンジュの体になったカトリーナが、顔を真っ赤にしてパジャマと格闘していた。
異変は二人だけではなかった。謎の呪いが学園を襲い、ほぼ全員が異性の体に入れ替わってしまったのだ。頼れる委員長のリゼは、小柄で可愛らしい男の子の姿に。普段は無口なエルは、少女の体で無言のまま目を見開いてパニックに。学園は笑いと混乱の坩堝と化す。
原因を探るうち、アンジュとカトリーナは気づく。「これって、私たちのせい?」 前日、二人は古い鏡の前で冗談めかして「君みたいになれたら」と願いを口にしていた。それが学園中を巻き込む魔法の呪文を発動させてしまったらしい。
呪いが解けるまで、皆は入れ替わった体で生活しなければならない。カトリーナとして過ごすアンジュ、アンジュとして過ごすカトリーナ。慣れない体での体育の授業、ドキドキの着替え、そして密かな想い人との突然の接近遭遇。かくして、笑い
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園 - 小さな体の委員長と、奪えない恋心
朝の光が、職員室前の廊下に長く伸びる影をいくつも落としていた。
壁に貼られた「生徒会緊急招集」の張り紙が、開け放たれた窓からの風にパタパタとはためいている。
「全員、静粛に! この状況を整理するため、至急、各クラスの委員は状況報告を——」
声が、響かなかった。
リゼ・ヴィクトリアは、かつては172センチの長身から凛と響く声で体育館中の生徒を黙らせた生徒会長だ。切れ長の灰色の瞳は誰もが背筋を伸ばすほどの迫力があり、右眉の端にある小さな傷跡すら威厳の一部だった。
しかし、今は違う。
小さな男子の体は、声変わり前の少年のように甲高い。必死に背伸びをしても、周りの男子たちの肩にも届かない153センチの視界。
「なあ、あれリゼ会長だよな?」
「マジで小せえ! 前はあんなに怖かったのに、今じゃ全然だな」
廊下に集まった生徒たちの間から、くすくすという笑い声が波のように広がっていく。
リゼは唇を噛みしめた。
(私は……私だ。姿が変わっても、やるべきことは変わらない)
灰色の瞳はまだ鋭さを失っていない。だが、その輝きを見せる顔が小さすぎるのだ。
「ねえねえ、リゼちゃん!」
後ろから誰かが抱きつくように肩に手を置いた。振り返ると、入れ替わりで大人びた体になった女子生徒が、まるで弟を見るような目でリゼを見下ろしている。
「その姿、めっちゃ可愛いんだけど! ちょっと頭撫でさせて!」
「なっ——何を——やめなさい!」
リゼが鋭く言い返す。しかし、その声は少年の声。相手は怖がるどころか、ますます顔をほころばせるだけだった。
「ふざけるな! 私はふざ——」
大きな手が、リゼの青みがかった黒髪をわしゃわしゃと撫でた。
リゼ・ヴィクトリアの体が固まる。
今まで、誰も彼女の頭を撫でようなどとはしなかった。リゼに触れる時は、肩を叩くか、背中を押すか。——いつだって、対等か、それ以上として扱われてきた。
しかし今は、完全に「子ども扱い」だ。
口の中が苦い。視界の端が熱を持つ。絶対に、涙だけは見せられない——。
「あっ! ちょっと、何してるの!」
明るい声が、廊下に響いた。
アンジュだった。カトリーナの銀色の長い髪が、廊下を早足で歩くたびにふわりと揺れる。紫がかった大きな瞳が、怒ったように女子生徒をにらんでいた。
「リゼ会長が困ってるじゃない! 離れてよ!」
「ちぇっ、カトリーナが来た。行こ行こ」
女子生徒たちは不満げな顔で去っていった。
リゼは小さな手で乱れた髪を整えながら、アンジュを——いや、今はカトリーナの姿をしたアンジュを見上げた。
「……カトリーナ、ではないんだな。アンジュ・カトリーナだな」
「えっ、なんでわかったの?」
「その話し方でな。カトリーナはあんな大きな声で怒鳴ったりはしない」
リゼは小さくため息をついた。その息は、今の体ではずいぶんと頼りなく聞こえる。
「会長、大変そうだったね。今まであんな風にされたこと、なかったんじゃない?」
リゼは答えず、廊下の窓の外を見た。中庭の藤棚が、風に揺れている。
「……混乱を収めるには、旧校舎を封鎖するしかない」
アンジュの胸が、小さく跳ねた。
「旧校舎って——なんで?」
「入れ替わりの原因は、旧校舎にあると確信している。具体的な証拠はまだないが、あの日、お前たちが旧校舎から出てきた直後に異変が起きた。何か——あったんじゃないのか?」
リゼの灰色の瞳が、まっすぐにアンジュを見上げた。
アンジュは言葉に詰まった。
(言えない。私とカトが原因だって、知ってるのに——)
「……もし、誰かがわざとやったのなら。絶対に許さない」
リゼの声は静かだった。だが、その一言一言が、アンジュの胸に重く突き刺さる。
「……そう、だよね」
アンジュはうつむいた。カトリーナの銀色の髪が、顔にかかる。
リゼはそんなアンジュの様子を、何かを感じ取ったかのようにじっと見つめたが、すぐに背を向けた。
「とにかく、これより校内放送で旧校舎の立ち入りを禁止する。協力してくれ」
アンジュはぼんやりと、リゼの小さな背中を見送った。
***
三限目の休み時間。
廊下は次の授業へ向かう生徒たちでごった返していた。
アンジュの体に入ったカトリーナは、次の教室へ急ぎながら、隣のクラスの扉が開くのをちらりと見た。
——そのタイミングで、蜂蜜色の巻き毛が揺れた。
「あっ」
「おっと、ごめ——あ、アンジュさん」
ぶつかりそうになって、テオ・グランツはカトリーナの肩をそっと支えた。空色の瞳が、優しく細められる。首元の小さな銀のクロスネックレスが、廊下の光を反射してキラリと光った。
「大丈夫? 急いでたみたいだけど」
カトリーナは一歩下がろうとして、自分がアンジュの小柄な体であることを思い出した。
「あ……ありがとう、テオくん。急いでて」
アンジュの口調を真似ようと思うのに、どうしても敬語が出てしまう。
「そういえば昨日のバレーボール、すごく頑張ってたね。あのレシーブ、惜しかったな」
テオの声は温かく、カトリーナの胸にスッと染み込んでいく。
「見てたの?」
「うん。体育の授業、隣のコートだったから。アンジュさんって、小柄なのにすごい運動神経いいよね」
カトリーナは「私、アンジュじゃないんです」と言いそうになって、口をつぐんだ。
(この人は今、私がアンジュだと思っている)
「でも、無理しないでよ。鼻血、出たんだろ? 保健室、大変だった?」
テオがほんの少し首をかしげる。その仕草が、サッカー部のエースとしての凛々しさと、普通の優しい少年の顔を同時に見せていた。
「詳しいのね……」
「噂で聞いたんだ。アンジュさん、最近、雰囲気が柔らかくなったって。前よりも話しやすくなったっていうか」
テオの空色の目が、アンジュの茶色い大きな瞳をまっすぐに見つめる。
カトリーナの心臓が、アンジュの小さな胸の中でドキリと跳ねた。
(違う。テオくんが話しやすいと思っているのは、アンジュじゃない。今この体で話している、私だ——)
アンジュがテオに片思いをしていることを、カトリーナは知っている。親友として、代わりに仲良くしなければと思うのに——。
テオの優しい笑顔が、あまりに近くて、あまりにまっすぐで。
「あ、あの、テオくん——」
何を言おうとしたのか、自分でもわからない。
ただ、この優しさに、もっと触れていたいと——そんな風に思ってしまった。
「あ」
廊下の向こう。人混みの隙間から、銀色の長い髪が見えた。
——カトリーナの体をしたアンジュが、立ち尽くしている。
大きな紫色の瞳が、カトリーナとテオをじっと見つめていた。
「アン——」
呼びかけようとした瞬間、アンジュはくるりと背を向けた。銀色の髪がひらりと舞い、すぐに人混みの中に消えていった。
「知り合い?」
「……え、ええ。ルームメイトなの」
カトリーナの声が少し震えた。親友が去った廊下の先を、ただ見つめることしかできなかった。
***
放課後。
中庭の藤棚が、揺れていた。
秋の始まりを告げる涼しい風が、緑の葉をそよがせている。噴水の水音が、遠くで小さく聞こえていた。
アンジュは、藤棚の陰から動けなかった。
ベンチに座る二人が、視界に入っている。
蜂蜜色の髪——テオ・グランツ。
茶色の髪——アンジュの体に入ったカトリーナ。
「最近、ホントに変わったよね。アンジュさんって、こんなに落ち着いてたっけ?」
「そうかしら……?」
「うん。前はなんていうか、元気すぎて手がつけられない感じだったけど」
テオが、少し照れたように笑った。
「今は、もっと話しやすい。なんていうか——きれいになった」
空色の瞳が、まっすぐにカトリーナを見つめている。
(私の体なのに)
アンジュはカトリーナの細い指を、ぎゅっと握りしめた。
(テオくんが褒めてるのは、私じゃない)
テオが「きれい」と言ったのは、その話し方であり、その振る舞いであり——中身であるカトリーナのことだ。
「もう、やめてよテオくん。照れちゃう」
カトリーナの声が、アンジュの甲高い声で笑う。その笑顔は、アンジュが鏡で見たこともない、少し大人びた、落ち着いた笑顔だった。
(カトが悪いんじゃない。わかってる)
(カトは私の代わりに、ちゃんと仲良くしようとしてくれてるだけだ)
(それなのに——)
胸の奥が、熱かった。
親友への嫉妬。自分が伝えられない思い。その両方が混ざって、まるで熱い泥のような塊が喉までせり上がってくる。
(カトに八つ当たりしたい。やめてって言いたい。テオくんと話さないでって——)
唇を噛む。カトリーナのきれいな唇が、痛むほどに。
喉の奥から、叫び出したい衝動が込み上げてきて——
——アンジュは、音を立てずにその場を離れた。
***
夜。
生徒会室の明かりが、まだついていた。
リゼは一人、小さな体を机の上に乗り出すようにして、書類の山と格闘していた。
いつもなら手のひらサイズだったファイルが、今は両手で抱えなければ持てない。ペン先を動かすたびに、大きな制服の袖が邪魔になって机の上の書類をなぎ倒す。
「……くそっ」
思わず、小さな拳を机に叩きつける。
音は、驚くほど頼りなかった。
(これが——私が知らなかったことか)
リゼは窓の外を見た。中庭の藤棚が月明かりに照らされている。つい先ほどまで、あのベンチに見覚えのある二人組がいた。アンジュの姿をした少女と、テオ・グランツ。
入れ替わりは、誰もが何かを失い、何かを学んでいる。
リゼは重いため息をついて、もう一度ペンを握った。
「……整理整頓が基本だ。順序立てて、一つずつ片付ければいい」
自分の口癖をつぶやいて、リゼは作業を再開した。
その背中は、小さくても——確かに、生徒会長のものだった。
***
女子寮「ズュートブルーメ」205号室。
アンジュはベッドに突っ伏していた。
顔を枕に埋めると、カトリーナの髪のいい匂いがする。それが今は、かえって辛かった。
ドアが開く音。
「アンジュ、ただいま。遅くなってごめんね」
カトリーナの声——アンジュの声——が、優しく響いた。
アンジュは顔を上げなかった。
「……テオくんと、楽しそうだったね」
自分の口から出た言葉が、思ったよりずっと冷たくて、アンジュ自身が驚いた。
「え……あ、あの、見てたの?」
カトリーナの声が揺れる。
アンジュはゆっくりと起き上がった。カトリーナの紫色の大きな瞳が、じっとアンジュの小さな体を見つめている。
「よかったね。私の体で、テオくんと仲良くなれて」
口が、止まらなかった。
「アンジュ、違うの。私はただ、あなたの代わりに——」
「代わりに何? テオくん、カトのこと『きれいになった』って言ってたよ。よかったね、私の体でそんな風に言ってもらえて!」
言ってしまってから、アンジュは目を見開いた。
カトリーナの顔——自分の顔——が、みるみるうちに歪んでいく。
「……ちが、違うの……アンジュ……私……」
大きな茶色の目から、涙が一粒、こぼれた。
「カト——」
アンジュは手を伸ばしかけて——止めた。
(違う。謝りたいんじゃない。でも、何て言えばいいの)
嫉妬で。自分のふがいなさで。全部がごちゃ混ぜで、何も言葉が出てこない。
二人の間に、これまでにない沈黙が落ちた。
壁を隔てて、隣の部屋の笑い声がかすかに聞こえる。それが、やけに遠く感じられた。
友情の亀裂が、かすかに、しかし確かに、冷たい音を立てていた。
部屋の窓から、月明かりが差し込んでいる。
二人の影は、床の上で触れ合うことなく、別々の方向に伸びていた。Noveliaとは?
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