呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
ある朝、目を覚ましたアンジュは、自分の声がやけに低くなっていることに気づく。鏡を覗き込むと、そこには親友カトリーナの顔が! 隣の部屋から悲鳴が響く。慌てて駆けつけると、アンジュの体になったカトリーナが、顔を真っ赤にしてパジャマと格闘していた。
異変は二人だけではなかった。謎の呪いが学園を襲い、ほぼ全員が異性の体に入れ替わってしまったのだ。頼れる委員長のリゼは、小柄で可愛らしい男の子の姿に。普段は無口なエルは、少女の体で無言のまま目を見開いてパニックに。学園は笑いと混乱の坩堝と化す。
原因を探るうち、アンジュとカトリーナは気づく。「これって、私たちのせい?」 前日、二人は古い鏡の前で冗談めかして「君みたいになれたら」と願いを口にしていた。それが学園中を巻き込む魔法の呪文を発動させてしまったらしい。
呪いが解けるまで、皆は入れ替わった体で生活しなければならない。カトリーナとして過ごすアンジュ、アンジュとして過ごすカトリーナ。慣れない体での体育の授業、ドキドキの着替え、そして密かな想い人との突然の接近遭遇。かくして、笑い
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園 - 涙のあとに虹がかかる——七日目の奇跡と新しい私
雨が、やんでいた。
屋上のコンクリートはまだ濡れていて、あちこちにできた水たまりが空の光を映している。雲の切れ間から、細長い光の束が何本も差し込んでいた。
アンジュはゆっくりと目を開けた。
視界いっぱいに広がる、腰まで届きそうな銀の長い髪。自分じゃない、誰かの腕が、アンジュの小さな体をぎゅっと抱きしめている。
(あれ……あたし、まだカトのままなんだ)
隣で、カトリーナも目を覚ました。アンジュの茶色い大きな瞳が、ぱちぱちとまばたきをする。
「おはよう、カト」
「……おはよう、アンジュ」
カトリーナが少しだけ笑った。アンジュの小さな顔が、照れくさそうにほころぶ。
「なんか変な感じ! 自分の体に『おはよう』って言うの!」
「本当ね。鏡に向かって話してるみたい」
二人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。
昨夜の土砂降りの雨が、全部を洗い流してくれたみたいだった。抱き合って泣いて、叫んで、それでもう一度抱きしめて——あの時間が、壊れた友情のかけらを、もう一度つなぎ直してくれた。
「……今日で最後なんだね」
アンジュがぽつりと言った。
「ええ。七日目。呪いが解けるはずの日よ」
「なんか……寂しいかも」
アンジュがカトリーナの体で膝を抱える。長い手足が、まるで自分のものじゃないみたいにぎこちない。
「でも、私たちは変わらないわ。体が元に戻っても、私はアンジュの親友だもの」
カトリーナが、アンジュの小さな手をぎゅっと握った。アンジュの手だから、指は短くて、カトリーナの手の半分くらいしかない。でもその温かさは、間違いなく親友のものだった。
「カトぉ……」
アンジュのカトリーナの紫色の瞳が、じわりと潤む。
その時だった。
バァァン!
屋上の鉄扉が、ものすごい勢いで開いた。
「アンジュ・カトリーナ! カトリーナ・リーベル! ここにいたのか!」
小さな男子の体をしたリゼが、息を切らせて飛び込んでくる。身長153センチの体は、屋上の濡れた床で少し滑りそうになっていた。
「リゼ会長!? どうしたの!?」
「エル・ノクスが旧校舎の地下で待っている。写し鏡に、まだ解明されていない仕組みがあるらしい。急いで来てくれ!」
リゼの切れ長の灰色の瞳が、真剣な光を放っている。
アンジュとカトリーナは、同時に立ち上がった。
旧校舎の廊下は、薄暗くてひんやりとしていた。
カビの匂いが鼻をつく。足音が、石造りの壁にこだまして、やけに大きく響いた。
地下室への階段を降りる。倉庫の棚の裏、隠された通路を通って、封印室へ。
ギイ……
重たい木の扉を開けると、そこには縦長の全身鏡——写し鏡があった。
黒檀の枠に、銀の蔦模様が絡みつくように細工されている。今朝、アンジュとカトリーナが和解したとき、この鏡が学園中を包むほどの光を放った。でも今は、ただの古い鏡みたいに静かだ。
その前に、一人の少女が立っていた。
いや、少女じゃない。
腰まで届く艶やかな銀色の髪。左が深い紫、右が金色の——オッドアイ。美術部の制服に、いつものスケッチブックを抱えている。
エル・ノクスだ。
エルの隣には、もう一人。
蜂蜜色の巻き毛をかきあげながら、心配そうな顔で鏡を見つめる長身の男子。
「テオくん!?」
テオ・グランツが振り返った。その空色の瞳が、アンジュの——カトリーナの姿を見る。
「あ、カトリーナさん。それに、アンジュさんも。よかった、無事だったんだね。エルくんが『全員集まれ』って言うから……」
テオの視線が、カトリーナの体に入ったアンジュと、アンジュの体に入ったカトリーナを、交互に見つめる。
(あ……テオくんの声だ)
アンジュの胸の奥が、きゅうっと痛んだ。
大好きな人の声。でも、その声はまだ、アンジュ自身に向けられたものじゃない。テオは、カトリーナの外見を見つめて話している。
「全員、揃ったね」
エルが、静かに口を開いた。
無表情のまま、スケッチブックを広げる。そこには、写し鏡の蔦模様が精密に描き写されていて、模様の中に隠れるようにして、見慣れない文字が浮かび上がっていた。
「古ルミエーラ語だ。『互いに羨む心が、真に溶け合うとき、鏡は正しき姿を返す』。これが解呪条件」
「でも、昨夜、屋上で僕たちはちゃんと本音を言い合ったよ。それで鏡が光ったじゃないか」
「まだ、完全じゃない」
エルが首を振った。長い銀髪が、さらさらと揺れる。
「一方的な羨望を、ただ溶かすだけじゃ足りない。鏡が求めてるのは、『互いの痛みを理解して、それでも相手を大切に思う心』だ。友情だけじゃ、半分しか満たせてない」
「……半分?」
カトリーナが、アンジュの小さな体で、不安そうにエルを見上げた。
エルの金色の瞳が、ちらりとアンジュの方を向く。
「君がまだ、隠してる気持ちがある。恋心だ」
封印室の中に、重たい沈黙が落ちた。
アンジュの——カトリーナの——紫色の瞳が、大きく見開かれる。
「……っ」
何も言えなかった。
テオへの気持ち。ずっと胸の奥にしまい込んで、誰にも言えなかった想い。カトリーナにさえ、ちゃんとは伝えられなかった、秘密。
「アンジュ」
カトリーナが、アンジュの小さな手で、アンジュの——自分の——手を握った。
「テオくんへの気持ち、ちゃんと伝えなきゃダメよ。隠してたら、羨む心は溶けないんだわ」
「で、でも……!」
アンジュの声が震える。
「あたしの声、今カトの声なんだよ!? こんな落ち着いたきれいな声で、自分の恋の話なんて……なんか変じゃん! 自分の言葉に、自信が持てないよ!」
「私の体じゃなくて、アンジュの心で話して。アンジュは、どんな体でもアンジュよ。明るくて、まっすぐで、ちょっとドジで——でも、誰よりも人の気持ちがわかる、私の一番の親友じゃない」
カトリーナの声は、穏やかで、それでいて強かった。
アンジュは唇をぎゅっと噛んだ。
そして、一歩、踏み出す。
テオの前に立った。
「……テオくん!」
大きな声だった。
カトリーナの落ち着いたトーンの声が、封印室に響き渡る。テオが、びっくりしたようにアンジュを見つめた。
「あたし、テオくんのことがずっと好きだった!」
リゼが、小さく息を呑んだ。エルが、無表情のままスケッチブックを握りしめる。
「でも、カトみたいにきれいじゃないし、スタイルもよくないし、テオくんに釣り合わないって……ずっと思ってた。言ったって、どうせダメだって。だから、ずっと言えなかった」
涙が、カトリーナの紫色の大きな瞳から、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
「でも……でも、今は違うの! カトと喧嘩して、仲直りして、カトがこんなに小さくて大変な体で頑張ってるのを見て……あたし、思ったんだ。逃げちゃダメだって。自分の気持ちに、ちゃんと向き合わなきゃダメだって」
テオは、ただ黙って聞いていた。
蜂蜜色の巻き毛が、かすかに揺れている。空色の瞳が、じっとアンジュを見つめていた。
「あたしは、カトみたいになれない。でも、あたしはあたしのままで、テオくんに好きだって伝えたい。私のままで、ちゃんと伝えたい!」
その瞬間——。
写し鏡が、まばゆい金色の光を放った。
バアァァァン!
空気が震える。蔦模様の一本一本が、まるで生きているみたいに光り輝き、封印室の壁や天井に、複雑な光の模様を映し出す。
「条件が、満たされた」
エルの声が、かすかに震えていた。
光は鏡の中から溢れ出し、部屋を満たし、廊下へ、階段へ、校舎中へと広がっていく。あたたかい光。朝日よりも優しくて、月明かりよりも強くて——それでいて、泣きたくなるほど懐かしい光。
アンジュの体が、淡く発光し始める。
「え……?」
自分の手が、透けて見える。でも怖くない。
ふわりと、体が浮き上がるような感覚。何かに引っ張られるみたいに、視界がぐるんと回った。
——そして。
ドサッ。
尻もちをついた。
自分の、小さな手。短い足。肩までかかる明るい茶色の髪が、視界の端で揺れている。
「戻った……あたしの体だ!」
アンジュは叫んだ。
それは、自分でもびっくりするくらい高い声だった。カトリーナの落ち着いた声じゃない。いつもの、ちょっと子供っぽくて、元気いっぱいの——アンジュの声。
「私も……戻ってる……!」
隣で、カトリーナが自分の銀の長い髪を両手でつかんで、涙ぐんでいる。腰まで届くストレートの銀髪。深い紫色の大きな瞳。長い手足。まぎれもなく、カトリーナ・リーベルの体だった。
「戻ってる……私の体だ……!」
リゼが、自分の手を見つめて震えている。長身で、肩のあたりで切りそろえた青みがかった黒髪。切れ長の鋭い灰色の瞳。小さな男子の体じゃない、本来のリゼ・ヴィクトリアだ。
エルも、無表情のまま、自分の手をじっと見つめていた。腰まで届く銀髪。オッドアイ。男の子の体に戻った彼は、何も言わずに小さくガッツポーズをした。
「やった! 戻った!」
アンジュは飛び上がった。
そして——。
「テオくん!!」
自分の足で、テオの前に立つ。
158センチの小さな体。見上げるテオは、183センチ。ずいぶん高い。カトリーナの体だったときは、こんなに見上げる感じじゃなかった。
でも——これが、あたしの目線だ。
「テオくん、さっきはカトの体で変なこと言ってごめん! でも、今から言うことは、全部、本当のあたしの言葉!」
アンジュは大きく息を吸った。胸の奥がドキドキ鳴っている。手のひらは汗でびっしょり。膝も、ちょっと震えてる。
でも、もう逃げない。
「あたし、テオくんが好きです!」
大きな丸い茶色の瞳が、まっすぐにテオを見上げる。
「ずっと前から、好きだった! テオくんがサッカーしてるところも、困ってる人を放っておけないところも、ちょっと鈍感なところも——ぜんぶ、好き!」
テオの空色の瞳が、大きく見開かれる。
「で、でも、今すぐ付き合ってほしいとかじゃなくて! 友達からでいいから、あたしのこと、ちゃんと知ってほしい! あたし、ドジだし、勉強もあんまりできないし、朝は弱いし、すぐ転ぶし——でも、テオくんのこと、誰よりも大好きなんだ!」
アンジュは、涙と笑顔がぐちゃぐちゃになった顔で、テオを真っ直ぐ見つめていた。
テオは、ぽかんと口を開けていた。
蜂蜜色の巻き毛が、封印室の残り香の風でふわりと揺れる。首元の銀のクロスネックレスが、かすかに光を反射した。
「……アンジュさん」
テオが、困ったように後ろ頭をかいた。
そして——その顔が、耳まで真っ赤になった。
「アンジュさんって、前より……なんか、キラキラしてるね」
「……え?」
「俺、正直言うと、入れ替わりのこと、よくわかってなかったんだ。でも、今のアンジュさんの言葉——すごく、嬉しかった」
テオは照れくさそうに笑うと、アンジュに向かって、拳を差し出した。
「友達から——よろしく」
アンジュは、一瞬、その拳をじっと見つめた。
でも、次の瞬間——。
「うん!!」
自分の小さな拳を、テオの大きな拳に、そっと合わせた。
やわらかい衝撃。
初めて、対等な関係を手に入れた気がした。
アンジュの目から、とめどなく涙が溢れる。でも、それはもう、悲しい涙じゃなかった。
その様子を、封印室の入り口から見つめる影が一つ。
カトリーナ・リーベルだった。
腰まで届く銀の長い髪が、かすかに揺れる。
深い紫色の瞳が、うっすらと潤んでいた。
「……よかった、アンジュ」
カトリーナは口元を手で隠すと、そっと、その場を離れた。
柱の影で、一人、静かに涙をぬぐう。
彼女もまた、アンジュの体で過ごした七日間で、テオの優しさに触れて、少しだけ心が揺れていた。
でも——今は、親友の笑顔が見られた。それだけで、十分だった。
放課後。
中庭「ミラージュガーデン」の藤棚の下。
白と薄紫の小さな花が、風に揺れている。噴水の水音が、あたりに涼しげな音を響かせていた。
アンジュとカトリーナは、並んでベンチに座っていた。
「いやぁ、ドタバタの七日間だったね!」
アンジュが、小さな体をのけぞらせて笑う。
「本当に。人生で一番濃い七日間だったわ」
カトリーナが、長い銀髪を耳にかけながら、上品に微笑んだ。
「あたしね、カトの体で過ごして……すごくわかったことがあるんだ」
アンジュが、ふと真面目な顔になった。
「あたし、ずっとカトが羨ましかった。きれいだし、スタイルいいし、なんでもできて——でも、それだけだった。カトが一人でどれだけ頑張ってたか、全然気づけてなかった」
「……アンジュ」
「あたし、自分が小さくて、運動もできなくて、すぐ目立たなくなっちゃうのがコンプレックスだった。でも——カトの体で生活して、わかったんだ。外見がどうとかより、大事なのは中身だって。そんなの当たり前なのに、全然わかってなかった」
アンジュは、自分の小さな手をぎゅっと握った。
「カト、ごめんね。あたし、カトの孤独に、全然気づけてなかった」
「私もよ、アンジュ」
カトリーナが、アンジュの手をぎゅっと握り返した。
「私、アンジュの体で過ごして、アンジュがどれだけ大変かを初めて知ったわ。小さくて、周りから子供扱いされて、それでもいつも明るく振る舞って……。私、アンジュの自由さや明るさを、ずっと羨ましいと思ってた。でもそれ以上に、アンジュの強さを知ったの」
「カト……」
「私たち、お互いにないものねだりをしてたんだわ。でも、今は違う。私は、私のまま。アンジュは、アンジュのまま。それでいいんだって、やっと思えた」
紫色の瞳と、茶色の瞳が、見つめ合う。
「あたし、これからもカトの一番の親友だよ!」
「ええ。私もよ、アンジュ」
二人は、がっちりと握手を交わした。
小さな手と、少し大きな手。でも、繋がった力は、どちらも同じくらい強かった。
「二人とも、ここにいたのか」
声がして振り返ると、リゼが藤棚の入り口に立っていた。
肩のあたりで切りそろえた青みがかった黒髪。切れ長の鋭い灰色の瞳。172センチの長身に、凛とした制服姿。
「今度こそ、誰もが自分のままでいられる学園を作る。外見や立場じゃなく、中身で生徒を評価する。それが、小さな男子の体で学んだ、私の新しいリーダーシップだ」
リゼの声には、今までにない力強さがあふれていた。
「リゼ会長……かっこいい!」
「……君たちの友情に、教えられただけだ」
リゼが、わずかに頬を染めて、そっぽを向く。
その時だった。
スッ……と、一枚の紙が差し出された。
エル・ノクスだ。
いつの間にかそこに立っていた彼は、相変わらず無表情で、いつものスケッチブックを開いている。
そこには——。
元の体に戻ったアンジュとカトリーナが、藤棚の下で笑い合っている絵が描かれていた。
小さなアンジュが、大きなカトリーナの手を引っ張って笑っている。カトリーナも、口元を手で隠しながら、優しく微笑んでいる。
「エルくん、これ……!」
「すごいわ……まるで写真みたい」
「……記念。いい絵が描けた」
エルはそれだけ言って、スケッチブックを閉じた。
「あ、もしかしてエルも私たちの仲間になりたいんじゃない?」
「……仲間?」
エルが、左の紫色の瞳と、右の金色の瞳をぱちぱちさせた。
「そうよ。次の学園祭、一緒に準備しましょう。エルくんの絵の才能があったら、ポスター作りも完璧だわ」
「いい考えだ。美術部の協力は必須だな」
「決まり! エルくん、よろしくね!」
エルは、一瞬だけ目を見開いて——それから、ほんの少しだけ、口元をゆるめた。
「……了解」
短い返事。でも、その声はいつもより少しだけ温かかった。
中庭に、四人の笑い声が響く。
藤棚の花が、風に揺れて、甘い香りを漂わせた。
夕日が、フィオレンティア学園の時計塔をオレンジ色に染めていく。
噴水の水面が、キラキラと輝いて、光の粒をあたりにまき散らしていた。
「よーし! 明日から新しい日常だ! なんとかなるって!」
アンジュが、小さな体を思い切り伸ばして、大きく叫んだ。
カトリーナがそれを見て、くすくすと笑う。
昨日までとは、何かが違う。
自分自身と向き合って、親友と向き合って、好きな人に向き合って——そうやって一つ一つ、大事なものを取り戻した日々。
入れ替わりの七日間は、彼女たちに、かけがえのない宝物を残した。
外見じゃない。中身の輝きこそが、本当の私なんだと——そう思える強さを。
空には、うっすらと虹がかかっていた。
朝まで降っていた雨の、最後の贈り物。
新しい風が、学園に吹き始める。
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