呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園
ある朝、目を覚ましたアンジュは、自分の声がやけに低くなっていることに気づく。鏡を覗き込むと、そこには親友カトリーナの顔が! 隣の部屋から悲鳴が響く。慌てて駆けつけると、アンジュの体になったカトリーナが、顔を真っ赤にしてパジャマと格闘していた。
異変は二人だけではなかった。謎の呪いが学園を襲い、ほぼ全員が異性の体に入れ替わってしまったのだ。頼れる委員長のリゼは、小柄で可愛らしい男の子の姿に。普段は無口なエルは、少女の体で無言のまま目を見開いてパニックに。学園は笑いと混乱の坩堝と化す。
原因を探るうち、アンジュとカトリーナは気づく。「これって、私たちのせい?」 前日、二人は古い鏡の前で冗談めかして「君みたいになれたら」と願いを口にしていた。それが学園中を巻き込む魔法の呪文を発動させてしまったらしい。
呪いが解けるまで、皆は入れ替わった体で生活しなければならない。カトリーナとして過ごすアンジュ、アンジュとして過ごすカトリーナ。慣れない体での体育の授業、ドキドキの着替え、そして密かな想い人との突然の接近遭遇。かくして、笑い
呪いで逆転?! アンジュとカトリーナのドタバタ☆入れ替わり学園 - 体育で大逆転!? お互いの体で見つけた本当のスゴさ
教室の窓から差し込む光が、妙にまぶしく感じられた。
入れ替わり二日目。朝のホームルームが終わると、クラス中がソワソワと落ち着かない空気に包まれる。今日の三限目は体育。しかも種目はバレーボールだと、体育委員が黒板に大きく書いていた。
「やったー! 球技だって! 楽しみすぎる!」
アンジュはカトリーナの長い脚をバタバタさせながら、隣の席を振り返った。そこには、アンジュの小さな体で教科書をきちんと机にしまっているカトリーナがいる。
「アンジュ、私……球技はちょっと苦手で……」
カトリーナが不安そうに、自分のものじゃない小さな手を見つめた。
「大丈夫だって! なんとかなるって!」
アンジュはカトリーナの手を取って、ぎゅっと握る。自分の手なのに、カトリーナが入ってるとこんなにほっそりして見えるんだ、とアンジュはちょっとだけ不思議な気持ちになった。
「なんとかなるって、そればっかりね」
カトリーナの口から、アンジュの声でそんな言葉がこぼれる。その声は少しだけ震えていて、でも笑ってるみたいにも聞こえた。
「だってそれが私の口癖だもん!」
二人で顔を見合わせて笑う。周りのクラスメートたちも、入れ替わった体でお互いを指さしながら騒いでいた。
「男子、女子の体で体育とかマジ無理なんだけど!」
「こっちの台詞よ! 男の体で走るとか恥ずかしすぎる!」
「もう、みんなうるさいわね」
教室は朝からちょっとしたお祭り騒ぎだった。
***
三限目のチャイムが鳴った。
アンジュはカトリーナの体操服に袖を通しながら、自分の体じゃない感触にまだ慣れないでいた。長い腕、長い脚。動かすたびに、自分の意思と体の動きがちょっとだけズレてる気がする。
「うーん……この体操服、カトのだよね。なんかちょっと胸のあたりがキツいかも」
着替えを終えて、アンジュは自分の胸元をチラッと見下ろした。カトリーナの体は、アンジュの体よりずっとグラマラスだ。体操服の布地がピンと張っていて、動くたびに余計に目立つ気がする。
「アンジュの体操服、すごくぶかぶかなのよ。アンジュってこんなに小さかったのね……」
隣で着替えていたカトリーナが、ダボダボの体操服の袖をまくりながらため息をついた。アンジュの体は小柄で華奢だから、標準サイズの体操服だと肩のあたりがズリ落ちてしまう。
「それ、いつもの私のだよ! ほら、行こ!」
アンジュはカトリーナの手を引っ張って、体操服のまま体育館へ駆け出した。
体育館にはもう、ほとんどの生徒が集まっていた。
高い天井から吊り下げられたバスケットゴール。壁際に積まれたマット。そして床に引かれたバレーボールコートの白いライン。体育館の空気はいつもより少し冷たくて、靴がキュッキュッと鳴る音があちこちから聞こえてくる。
「全員、整列しろー!」
体育教師のヴェルデ先生が、いつも通りのよく通る声で怒鳴った。いつも通りに見えるけど、先生は入れ替わっていない。入れ替わりが起きた時に敷地の外にいたのだと、昨日誰かが話していたのをアンジュは思い出した。
「今日はバレーボールの試合形式で行う。男女混合のチーム戦だ。入れ替わった体でも、精一杯やれ。いい経験になるぞ!」
ヴェルデ先生がニヤリと笑う。
「いい経験って……」
カトリーナが隣で小さくつぶやいた。アンジュの茶色い大きな目が、不安そうに揺れている。
「よーし、やるぞー! カトの体なら絶対すごいプレーできるって!」
アンジュは拳を握って気合を入れた。
チーム分けが発表され、アンジュとカトリーナは同じチームになった。相手チームには、運動神経のいい男子たちが何人もいる。
試合開始のホイッスルが鳴った。
最初のサーブは相手チーム。
バシン!
ボールがアンジュたちのコートに飛び込んでくる。
「私が取る!」
アンジュはカトリーナの長い脚で地面を蹴った。
すると思った以上に高く跳べた。視界がスッと上がって、ネットの向こう側がはっきり見える。今まで見たことのない景色だった。
ボールをレシーブする。腕に当たったボールが、きれいにセッターのところへ飛んだ。
「すごい! 私、めっちゃ動ける!」
アンジュのテンションが急上昇する。
味方のセッターがトスを上げた。ボールがアンジュの目の前でふわりと浮かぶ。
アンジュは思い切りジャンプした。
カトリーナの体は、アンジュの体よりずっと軽く感じる。筋力があるから、同じ体重でも自分の体よりずっと身軽に動けるのだ。
右手を振り抜く。
バシン!
スパイクが相手コートに突き刺さった。
「うおっ! カトリーナさん、すごいスパイク!」
「やったー! ナイスキー!」
味方チームから歓声が上がる。
「えへへ、決まっちゃった!」
アンジュは嬉しそうにピョンピョン跳ねた。カトリーナの長い銀髪がポニーテールになって、背中で揺れる。
「すごいわ、アンジュ。今の、本当にきれいなスパイクだった」
カトリーナが小さな手をパチパチと叩いて褒めてくれた。
「カトの体のおかげだよ! ジャンプ力が違いすぎる! もっかいもっかい!」
アンジュは調子に乗って、次のプレーでもスパイクを決めた。
バシン!
また決まった。
バシン!
三連続。
「カトリーナさん、今日めっちゃ調子よくない!?」
「いつもはもっとおとなしいのに、どうしたの!?」
「まじでエースじゃん!」
周りの声援が、ますますアンジュの気分を高揚させた。今まで運動オンチで、球技のたびにみんなに迷惑をかけてばかりだった自分が、こんなに活躍できるなんて。
でも、その時だった。
相手チームの男子が、じっとアンジュを見つめているのに気づいたのは。
その視線は、スポーツの応援のそれとは違っていた。アンジュがスパイクを打つために跳ぶたび、体操服の上からはっきりわかる胸が揺れる。長い脚が伸びる。そのたびに、男子たちの目がそっちに向いている。
(え……?)
アンジュの笑顔が、少しだけ曇った。
サーブを待つ間、隣のコートにいる男子二人がヒソヒソと話しているのが聞こえた。
「カトリーナさんってさ、やっぱスタイルいいよな」
「今、ジャンプした時、けっこう見えたよな」
「お前、どこ見てんだよ」
「いや、だって目に入るんだもん」
クスクスという笑い声。
胸のあたりが、ズキリと痛んだ。
これはアンジュの体じゃない。カトリーナの体だ。だから、見られているのもアンジュじゃなくてカトリーナのはずなのに。
でも、今この体を動かしているのはアンジュだ。そのアンジュに向けられた視線が、スポーツを見る目じゃなくて、体を見る目だったことが、やけに生々しく胸に刺さった。
(カトは、いつもこんなふうに見られてたんだ……)
アンジュは思い出した。
カトリーナはいつも、男子からチヤホヤされていた。美人でスタイルがいいから、廊下を歩くだけで視線を集める。でも、カトリーナはそういう時、いつも少しだけうつむいて、口元を手で隠して笑っていた。
あれは、嬉しかったんじゃない。
見られることが、息苦しかったんだ。
「…………」
アンジュは無言で、次のプレーに備えた。
さっきまでの楽しい気持ちが、急に重くなった気がした。
***
一方、同じコートの隅では、カトリーナが苦戦していた。
「あっ……」
アンジュの小さな体でジャンプしても、ボールに手が届かない。一生懸命に腕を伸ばすけど、今まで自分が届いていた高さとは全然違う。
「アンジュ、ナイスファイト!」
チームメイトが励ましてくれるけど、カトリーナの心はどんどん沈んでいく。
今度はサーブの番が回ってきた。
カトリーナはボールを手に取る。アンジュの小さな手では、ボールがやけに大きく感じた。
深呼吸して、サーブを打つ。
でもボールは力なくフラフラと飛んで、ネットの手前で落ちた。
「あー、ドンマイ!」
「次、頑張ろう!」
カトリーナは申し訳なさでいっぱいになった。
そして、その直後だった。
相手チームの強烈なスパイクが、カトリーナの顔面に一直線に飛んできた。
避ける暇もなかった。
ガッ!
衝撃で、視界が真っ白になる。
「「きゃあああっ!」」
「カト! 大丈夫!?」
アンジュが慌てて駆け寄る。カトリーナはその場にしゃがみ込み、鼻を押さえていた。指の隙間から、赤い血がポタポタと床に落ちる。
「いたい……すみません、私のせいで試合が……」
カトリーナの声が震えている。アンジュの声で、涙混じりにそう言うのを聞いて、アンジュの胸がぎゅっとなった。
「試合なんてどうでもいいよ! 保健室行こう!」
アンジュはカトリーナの肩を抱いて、体育館を出た。後ろから、ヴェルデ先生の「保健室に行けー!」という声が飛んでくる。
廊下はしんと静まり返っていて、体育館の歓声が遠くに聞こえた。
「ゆっくりでいいからね」
「ええ……ありがとう」
二人は並んで、保健室へと歩いていった。
***
保健室には、薬品のにおいが漂っていた。
白いカーテンが窓からの風でふわりと揺れている。ベッドが四台、きちんと並んでいた。
養護教諭のミセス・ハナブサは、落ち着いた手つきでカトリーナの鼻にガーゼを当てた。
「鼻血はすぐ止まるわ。でも、しばらく安静にしていなさい」
「ありがとうございます……」
カトリーナは小さな声でお礼を言った。鼻に詰められたガーゼのせいで、声が少しこもっている。
ミセス・ハナブサがカーテンを閉めて、席を外した。
静かな保健室に、二人だけが残される。
「ごめんね、カト。私が調子に乗って浮かれてたから」
アンジュがベッドの横の丸椅子に座って、うつむいた。
「アンジュのせいじゃないわ。私が運動音痴なだけよ」
「違うよ! カトは運動音痴じゃないもん。今は私の体だから動きにくいだけだって」
すると、カトリーナの目からポロリと涙がこぼれた。
「アンジュはいつもこの小さな体で、明るく振る舞ってたんだね。体育でうまくできなくても、男子にからかわれても、いつも笑って『なんとかなるって』って言ってた。私、今までアンジュの気持ち、全然わかってなかった」
涙が、アンジュの茶色い目から次々と溢れ出す。自分の顔が泣いているのを見るのは、なんだかすごく変な気持ちだった。
「カト……」
アンジュはカトリーナの小さな手を、両手で包み込んだ。カトリーナの大きな手が、アンジュの小さな手をすっぽり覆う。
「私こそ、今までカトの気持ち、全然わかってなかった。カトみたいにキレイだったらなって、そればっかり考えてた。でもカトは、見られることで傷ついてたんだね。さっきの体育の時、私、初めてわかったの。男子たちの視線が、すごくイヤで、苦しくて」
カトリーナが目を大きく見開いた。
「アンジュ、気づいてくれたの?」
「うん。カトはいつも、私にだけは本当の顔を見せてくれてたんだね。廊下でうつむいてたの、恥ずかしがってるんじゃなくて、視線から逃げてたんだ。そういうのも、今まで全然気づかなくて、ごめんね」
「アンジュ……ありがとう」
カトリーナはもう一度泣き出して、アンジュの手をぎゅっと握り返した。
保健室の静かな空気の中で、二人はしばらく手を握り合っていた。
窓の外から、体育の授業が終わったことを知らせるチャイムが聞こえてくる。
「カト、鼻血、もう止まった?」
「ええ、大丈夫よ。ガーゼを取っても平気かしら」
カトリーナが鼻のガーゼをそっと外す。血はもう止まっていた。
「よかった! じゃあ、放課後、中庭のベンチでおしゃべりしない? 今日のこと、もっと話したいな」
「ええ、そうしましょう」
二人は顔を見合わせて、今度は本物の笑顔で笑った。
***
放課後。
中庭の藤棚は、午後のやわらかい日差しに包まれていた。
まだ花は咲いていないけど、蔓がぐるぐると絡まった藤棚の下にある木のベンチは、いつも涼しい風が通る。生徒たちの待ち合わせスポットとして有名な場所だけど、今日はなぜか誰もいなかった。
アンジュはカトリーナの長い脚を伸ばして、ベンチに座った。隣には、アンジュの体に入ったカトリーナが、ちょこんと小さく座っている。
「今日は本当に、いろんなことがあったね」
「そうね。体育の授業は大変だったけど……でも、よかったこともあったわ」
「よかったこと?」
「ええ。アンジュが、私の気持ちに気づいてくれたこと。それに私も、アンジュの小さな体のつらさが少しだけわかった。今までは、ただ親友として一緒にいるだけで満足してたけど、お互いの体になることで、初めて本当の意味でわかりあえた気がするの」
カトリーナはそう言って、膝の上で小さな拳をぎゅっと握った。
「私もだよ。カトって、いつも落ち着いてて大人っぽくて、何でもそつなくこなしてて、悩みなんてないんだと思ってた。でも本当は、そうじゃなかったんだね」
アンジュは空を見上げた。
中庭の向こうに見える時計塔が、午後の日差しを浴びてキラキラと輝いている。その隣にそびえる本校舎の白い壁に、藤の蔓の影が揺れていた。
「今まで、私、カトみたいにキレイだったらなってばっかり思ってた。でもカトはカトで、見られることで傷ついてた。私、自分のことばっかりで、カトの本当の苦しさを全然わかってなかった。本当にごめんね」
カトリーナがアンジュの顔をじっと見上げた。
「アンジュ、あのね」
「なに?」
「私ね、アンジュがいてくれたから、今まで孤独じゃなかったの。どんなに周りからチヤホヤされても、本当の私を見てくれるのはアンジュだけだった。アンジュはいつも、私の外見じゃなくて、私の中身を見てくれていた。それがどんなに心強かったか。だから私、アンジュのそういうところが大好きなのよ」
カトリーナの声は震えていて、でもすごく真っ直ぐだった。アンジュの声で、こんなに優しい言葉を言われると、なんだか胸の奥がじわりと温かくなる。
「カト……」
アンジュは思わず、カトリーナの小さな体をギュッと抱きしめた。
「カトがいたから、あたしもずっと笑ってられたんだよ。本当にありがとう」
「こちらこそよ、アンジュ」
二人はしばらく、藤棚の下で抱き合っていた。
風が吹いて、藤の葉っぱがサラサラと音を立てる。噴水の水音が、遠くに聞こえた。この中庭はいつも誰かがいるのに、今は世界に二人だけみたいに感じられた。
「なんだか、入れ替わりも悪くないかもね」
アンジュが涙を拭いながら笑うと、カトリーナも同じように笑った。
「そうかもしれないわね」
「でも、やっぱり早く元に戻りたいな。テオくんに、ちゃんと自分の顔で話したいし」
アンジュがポツリとつぶやくと、カトリーナの顔が少し曇った。
「テオに……アンジュの体で話すと、なんだか変な感じがするの。彼はとても優しいんだけど、私、アンジュの代わりにテオと仲良くなるのは、なんか違う気がして」
「だよね。私も、カトの体でテオに話しかけるのは、なんかヤダなって。これ、私のわがままなのかな」
「わがままじゃないわ。アンジュの気持ちは、アンジュだけのものだもの」
カトリーナはそう言って、そっとアンジュの手を握った。
「七日間だけ。それまでは、お互いの体を大切にしよう。そして元に戻った時、ちゃんと自分の気持ちを伝えればいいと思うわ」
「……うん。そうだね。じゃあ約束だよ。絶対に元に戻ろうね」
アンジュは小指を差し出した。
カトリーナも、アンジュの小さな小指を、アンジュの小さな手で絡める。
「ええ、約束よ」
ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ます。
そんな子供っぽい約束をして、二人は笑い合った。
夕日が、中庭をオレンジ色に染め始めていた。
***
その夜。
アンジュは一人で、女子寮の廊下を歩いていた。カトリーナは先に部屋に戻っている。
消灯まであと十五分。廊下にはまだ数人の生徒がいて、入れ替わった体で互いに愚痴を言い合ったり、笑い合ったりしている。
女子寮の入り口にあるラウンジの明かりが、廊下に漏れていた。
その時、アンジュの耳に、聞き覚えのある声が届いた。
「アンジュさん、今日の体育、頑張ってたね。無理しないでよ」
心臓が、ドクンと跳ねた。
テオの声だ。
アンジュは柱の陰に隠れて、そっとラウンジの中を覗き込んだ。
そこには、アンジュの体に入ったカトリーナが立っていた。そしてその向かいに、蜂蜜色の巻き毛を揺らしたテオが、優しい笑顔で立っている。
テオの空色の瞳が、廊下の明かりを反射してキラキラと輝いていた。いつも通りの爽やかな笑顔。その笑顔は今、まっすぐにカトリーナに向けられている。
「テオくん……ありがとう。でも、全然ダメだったの。鼻血も出ちゃったし」
カトリーナが照れながらそう言うと、テオは少しだけ眉を下げた。
「そうだったんだ。でも、あの体でよく頑張ってたと思うよ。君はいつも小柄なのにすごく動くから、見ててハラハラするんだ」
「テオくんって、本当に優しいのね」
カトリーナが、アンジュの顔で微笑む。
その笑顔は、今までアンジュが見せたことのない、ちょっとだけ大人びた、落ち着いた笑顔だった。
テオが、そんなカトリーナを見つめて、少しだけ目を細める。
「アンジュさん、最近、雰囲気が変わったよね。前よりも落ち着いたっていうか、なんか……きれいになった」
「えっ。そ、そうかしら……」
カトリーナがうつむいて、耳を赤くした。
それを柱の陰から見ていたアンジュの胸の奥が、ギュッと締め付けられる。
(私の体なのに……私じゃない)
テオが今、優しい目で見つめているのは、アンジュの体に入ったカトリーナだ。テオが言った「雰囲気が変わった」というのも、「きれいになった」というのも、全部カトリーナの振る舞いに対する言葉だ。
(テオは、今の私の体――つまりカトリーナの外見は見ても、私自身は見てくれないんだ)
そんなことを考えて、アンジュは唇を噛んだ。
(カトが悪いわけじゃない。カトは私の体で、ただいつも通りに振る舞っているだけだ。でも……)
それでも、胸の奥に小さな棘が刺さったような、チクチクした痛みがあった。
これは何の感情なんだろう。
親友に対する嫉妬? それとも、自分が伝えられない想いをもどかしく思う気持ち?
どちらにしても、今まで感じたことのない、黒くて冷たいものが、胸の中に広がっていく。
「それじゃあ、おやすみ。アンジュさん」
「おやすみなさい、テオくん」
二人が別れるのを見て、アンジュは慌てて柱の陰に身を隠した。
テオの足音が遠ざかっていく。カトリーナも、205号室へと戻っていった。
アンジュは一人、薄暗い廊下に残された。
「……なにやってんだろ、私」
小さな声で呟いて、アンジュはうつむいた。
カトリーナの銀色の長い髪が、肩からスルリと落ちる。その髪が視界に入るたびに、今の自分はカトリーナなんだと思い知らされる。
窓の外を見ると、中庭の向こうに男子寮の明かりが見えた。そのどれかがテオの部屋かもしれないと思うと、胸がさらにギュッと痛んだ。
入れ替わりが解けるまで、あと五日。
それは短いようで、アンジュにとっては途方もなく長く感じられた。
自分の気持ちも、体も、全部がぐちゃぐちゃのまま。
アンジュは深いため息をついてから、205号室へと戻っていった。
静かな廊下に、彼女の足音だけがコツコツと響いていた。Noveliaとは?
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