俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜
風凛高校最凶の不良グループ「ハナクソ組」は、校内を好き勝手に支配していた。リーダーの桜木蓮は、学校最強の喧嘩屋。口が悪くて短気だが、仲間思いの熱い男だった。ある怠惰な午後、屋上でサボっていると、空から眩い閃光が降り注いだ。
光が消えたとき、彼ら全員が女の子になっていた。
蓮は鏡の前で三秒間じっと自分の姿を見つめ、鳩が逃げ出すほどの大声で叫んだ。友達の杉本耕太は、自分の胸に触れて気絶しそうになった。クールで無口な羽生夏樹は、ただ窓の外を見つめ続けていた。三人とも完全に女性の姿になり、だぶだぶの男子制服を着ていて、ズボンは今にも落ちそうだった。
「呪い」の原因を探る三人が右往左往する中、学校中が大混乱に陥る。男子トイレも女子トイレも使えず、体育の授業は地獄に。何よりも厄介なのは、クラスの女子たちが「ねえ、あいつらちょっと可愛くない?」と言い出し、恋のフラグが次々と立ち始めることだった。
最大の問題は、クラスの美少女・日向あおいがずっと蓮に片思いしていたこと。だが蓮が女の子になった今、あおいはますます動揺し混乱してしまう。一方、クラス委員の三島優希は、以前は蓮をからかっていたが、これ
俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜 - 晴天の悲劇、あるいは最悪の水曜日
ズボンがずり落ちた。
それが、桜木蓮の人生を変えた最初の出来事だった。
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水曜の昼すぎ。フウリン高校、北棟屋上。
蓮は古びたベンチに寝転んで、空を見上げていた。雲一つない、つまらないくらい晴れた空。フェンスの向こうにはミナカゼ市の住宅地が広がっていて、どこかで野球でもやってるのか、金属バットの音がたまに聞こえてくる。風が気持ちいい。授業をサボるには最高の日だ。
「[sarcastic]安田のやつ、また俺を当てようとしてただろ」
ぼやきながら、腕を目の上に乗せる。数学の安田先生——正式には安田敏夫、38歳、ハナクソ組の担任——は毎週30分の説教で有名な男だが、最近は授業中も蓮を狙い打ちにしてくる。完全に戦争だ。
「[laughing]あの先生、毎回蓮を狙いすぎやろ。もはや趣味ちゃうん」
隣でそう笑ったのは杉本耕太。肩までの深緑色のボブカットが風に揺れて、金色のでかい目がくるんと細まってる。身長は160cmで蓮より低いのに、なんか存在感がある。おっとりしてるくせにいつもよく笑う。ハナクソ組の中でいちばん愛されキャラだ、と蓮は思ってる。
「[sarcastic]趣味ならやめてほしいんだが」
少し離れたフェンス際に夏樹が立ってた。羽生夏樹、17歳。真っ直ぐな銀髪が肩にかかってて、右が青、左が赤のオッドアイでぼーっと空を見てる。165cmの細い体でスマホをいじってるだけで、会話に参加する気はゼロっぽい。こいつはいつもこうだ。無口。でも何も考えてないわけじゃない。むしろ一番いろいろ見えてる。蓮はそれを知ってる。
屋上は本来、立入禁止のはずだ。20年前に喫煙問題で閉鎖されて、今も鍵がかかってる——はずなのに、蓮が1年のときに内側のロックをぶっ壊したせいで、ハナクソ組にとってはただの基地になってる。200㎡くらいの平坦なスペース。給水タンクと室外機が二基。南西の角に耕太が拾ってきたベンチ。それだけ。何もないけど、誰も来ない。最高だ。
「[serious]なあ」
急に思い出して、蓮は口を開いた。
「[serious]昨日、2年の誰かが購買部のパン盗んだって話聞いたか」
「[surprised]え、マジで?」
「[serious]俺らじゃないかって疑われてるらしい。ムカつくけど」
耕太の顔が少し曇った。
「[serious]……それ、ほっといていいの」
「[angry]ほっとけるかよ。でも手ぇ出したら余計面倒になる」
ベンチから体を起こして、蓮は空に向かって言った。自分でも整理するみたいに。
「[serious]俺らのルールは一個だけだろ。弱い奴をカモにするのだけは絶対ダメ。それ以外は別にいい」
耕太が「うん」と頷く。夏樹はスマホから目を上げて、一瞬だけこっちを見た。それだけで十分だった。三人ともわかってる。ハナクソ組がカツアゲも万引きもしないのは、最初から決めてたことだ。中1のとき、蓮がそう言って、二人が「それでいい」と言った。それだけの話。
風が吹いた。フェンスが少しだけ揺れた。
耕太がベンチの端に座って、蓋を外したペットボトルをぐいっと飲む。フウリン高校の購買部で売ってる普通のお茶だ。「フウリンあんぱん買ってくればよかった」とぼやいてる。あのあんぱん、130円で結構うまい。
蓮は伸びをした。腕にほのかに残る傷跡が日光に当たって白く光った。右耳の小さなピアスが風で揺れる。短い黒髪が少し跳ねてる。身長170cmの自分の体で、こうして何もしないでいる時間が、正直そんなに嫌いじゃない。
このままダラダラして、終わりのHRだけ出ればいい。
そう思ってた。
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次の瞬間、空が白くなった。
比喩じゃない。本当に、空の色が全部白くなった。
同時に、耳がおかしくなるくらい大きな音。爆発?雷?どっちでもない感じの轟音が頭の上で鳴って、蓮は反射的に立ち上がった。
「[scared]なんだ——」
言葉の途中で、光が落ちてきた。
「落ちてきた」としか言いようがない。屋上全体を包む、白くて熱くて、でも痛くない光。蓮の体がそれに飲み込まれて——
意識が、飛んだ。
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……なんか。
床、冷たい。
蓮はゆっくり目を開けた。コンクリートの天井が見える。屋上だ。まだ屋上にいる。
体を起こそうとして、気づいた。
目線が、低い。
「(……なんで俺、座ったまま……?)」
立ち上がろうとした。その瞬間。
ずるり。
ズボンが落ちた。
蓮は一秒フリーズした。膝まで落ちたズボンを見下ろして、自分の足を見て、自分の手を見た。
手が、細い。
「……たか……」
自分の声を聞いて、蓮は止まった。
高い。声が、高い。一オクターブ以上は余裕で高い。
隣で耕太がえ、え、え、と言ってた。自分の両手をひっくり返したり戻したり、壊れたロボットみたいな動きで繰り返してる。金色の瞳がこれ以上ないくらい開いてる。
夏樹は静かに自分の前髪を一本つまんで引っ張り、確認するみたいにじっと見た。それから小さく、
「[cold]……あ」
と言った。それだけ。
三人とも声が変わってた。全員、明らかに。
蓮はゆっくり自分の手を見た。細い指。小さな手のひら。腕の傷跡は残ってる。ピアスも右耳にある。でもそれ以外の全部が——
「[angry]うそだろ」
声がまた出た。高い。気持ち悪いくらい高い。自分の声じゃない。でも口から出てる。
耕太がゆっくり自分の胸を見下ろして、服の上から触れて、目が点になった。そのまま固まった。失神する一歩手前みたいな顔してる。
「[scared]え、えっ、えっ、えっ……」
「[angry]うるさい落ち着け!!」
叫んだ声が裏返った。高い。やばい。
ズボンが膝のあたりにずり落ちてて最悪だ。男物の制服のシャツがぶかぶかで、腰のあたりで泳いでる。ズボンもウエストがぐらぐらで全然止まらない。夏樹を見たら、夏樹も同じ状態でスカスカの制服を着てた。銀髪が前よりきれいに見える。オッドアイがいつもより鮮やかだ。こいつ、めちゃくちゃ顔いいな——って蓮は一瞬思って、すぐに今そんなこと考えてる場合じゃないと気づいた。
屋上のコンクリートに何か刻まれてるのを、蓮はこの時点では気づかなかった。そんな余裕はなかった。
「[angry]とにかく!上着で腰を巻け!!保健室だ!!」
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北棟の階段を、三人でバタバタと駆け降りた。
蓮は上着を腰に巻いて、ズボンを片手で押さえながら走った。廊下に人がいないことを確認して、角を曲がって、また確認して。授業中でよかったと思った。
保健室は北棟の1階にある。蓮は扉を勢いよく開けた。
片瀬ルミ先生——養護教諭、29歳——がびっくりした顔でこっちを見た。おっとりした雰囲気の人で、白衣がよく似合う。勘は鋭いらしいけど、基本ふわっとしてる。
「[serious]先生!俺ら、女になりました!!」
片瀬先生の目がぱちくりした。
「……え」
「[serious]女になったんです。今すぐ確認してほしい」
「[gentle]……あなたたち、いつもそういうジョーク言いに来るじゃない。ほら、先週も安田先生から逃げるために——」
「[angry]ジョークじゃない!!!」
蓮が叫ぶと、後ろで耕太がおずおずと言った。
「[sad]俺も……本当に、女になってます……」
耕太の声も高い。深緑のボブカットが情けなく揺れてる。消え入りそうな声だった。
夏樹が静かに一歩前に出た。
「[cold]声も変わってます。確認してください」
片瀬先生は三人の顔を順番にじっくり見た。一人目、二人目、三人目。また一人目。また三人目。
しばらくして、パーテーションに手をついた。
「……え?」
間があった。
「え……ちょっと待って……」
また間があった。片瀬先生の顔が段々青くなってくる。保健室のベッドが三台ある。室外の廊下から誰かの笑い声が遠く聞こえた。どこかのクラスが体育の時間らしい。
「……確かに、声が……」
「[angry]だから言いましたよね!!」
「わかった、わかった。落ち着いて」
片瀬先生は深呼吸した。プロだ、と蓮は思った。こっちが落ち着けって言いたいくらいの状況なのに、先生はとりあえず落ち着こうとしてる。
「[gentle]……とにかく。今日は早退してください」
それから棚を開けて、ごそごそやって、三つ折りにした布を抱えてきた。
「[gentle]あと、これ使って」
女子用の予備制服が三セット。
蓮は受け取った。スカートが入ってる。スカートだ。スカートが入ってる。
「[angry]……」
文句を言おうとしたけど、言えなかった。今の状況でズボンずるずるで帰るのとどっちがマシかって考えたら、答えは一個しかない。
世界で一番困惑してるのは片瀬先生かもしれない、と蓮はぼんやり思った。
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保健室のパーテーションで着替えた。
スカートを履いた瞬間、蓮は30秒くらい動けなかった。
「[angry]……なんでこうなってんだ俺」
「[gentle]スカート……思ったより動きやすいな」
「[angry]今それどころじゃねえだろ!!」
耕太はぴゅっと首をすくめた。夏樹は黙ってスカートの裾を見下ろしてた。表情が変わらない。でも目が少し遠い。何か考えてる。
三人でこそこそ校門を出た。午後の日差しが強い。ミナカゼ市の住宅地は静かで、平日の昼間だからほとんど人通りがない。カザマチ駅まで徒歩12分の道を、蓮は歯を食いしばって歩いた。スカートが風でふわっとする。最悪だ。
カザマチ駅に向かう通学路の途中に、デイリーポケットがある——駅の手前100mくらい。コンビニだ。店長の宮内さんがいて、ハナクソ組がたまり場にしてる場所。
「[serious]寄っていくか」
なんとなく口から出た。喉渇いてたし。
そしたら、ちょうどそのタイミングで、デイリーポケットの自動ドアが開いた。女子生徒が二人出てきた。
同じ制服。同じ学校だ。
三人は反射的に電柱の陰に飛び込んだ。蓮が一番前で、耕太が後ろで、夏樹がいちばん端っこ。息を殺して気配を消す。これは得意だ。喧嘩のとき使うやつ。
女子二人が歩いていく声が聞こえた。
「——あれ、今、知らない女の子いなかった?」
「え、どこ?」
「電柱のとこ。かわいくなかった?」
「見逃した——あ、でも、日向さんが好きな桜木くんって最近どこ行ったの?今日も授業いなかったじゃん」
「さあ。サボってんじゃない、いつも通り」
声が遠くなった。
蓮はしばらく電柱の陰で固まってた。
「(……俺のことを言ってる……?)」
かわいい。俺が。かわいい。
頭がぐるぐるした。それより、さっきの会話の後半。日向さんが好きな桜木くん。日向あおい——同じクラスの、学年一の美人って言われてる子。あの子が、俺のことを……?
知らなかった。というか、考えたことなかった。
「[serious]行くぞ」
自分でも思ったより低い声で言って、蓮は歩き出した。耕太と夏樹がついてくる。
胸のあたりがなんかもやもやしてたけど、それが何なのかは考えないことにした。
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家に着いた。
玄関を開けた瞬間、台所で音がした。家族がいる。蓮は靴を脱いで、音を立てないで廊下を抜けて、階段を上がって、自分の部屋に滑り込んだ。
ドアを閉める。
鍵をかける。
息をついた。
部屋の隅に、全身が映る鏡がある。蓮はゆっくりそっちを向いた。
女の子がいた。
短い黒髪で少し跳ねてて、深い茶色の目で、右耳に小さなピアスがある。腕に傷跡。女子用の制服を着てる。どう見ても女の子だ。でも顔立ちは——見覚えがある。なんか見たことがある顔だ。
自分だ。
「うおおおおっ!!!!」
叫んだ。高い声で、思いきり叫んだ。壁に響いた。下の階から「どうしたの!?」って声が聞こえたけど、「なんでもない!!」と叫び返して、そのまま床に崩れ落ちた。
しばらく、床の上で丸まってた。
カーペットの模様をぼーっと見てた。三年前に安物で買ったやつ。色あせてきてる。耕太が遊びに来たとき「これ味あっていいじゃん」って言ってたやつ。
外からカラスの声が聞こえた。ミナカゼ市はカラスが多い。ミナカゼ川の近くに住みついてるらしい。どうでもいい話だ。でもなんか頭に浮かんだ。
蓮はゆっくり起き上がった。また鏡の前に立った。
女の子が鏡の中に立ってた。
蓮はその顔をまじまじと見た。睨みつけた。
「[serious]……俺は、桜木蓮だ」
声は高いまま。でも確かに自分の口から出た。
「[serious]不良で、ハナクソ組のリーダーで……」
言葉が続かなかった。鏡の中の顔が、少し歪んだ。声が小さくなった。
「[sad]……なんで、こんなことになってんだよ」
わからない。ほんとに何もわからない。屋上に光が落ちてきて、気づいたら女になってた。意味がわからない。理由もわからない。元に戻れるかどうかも、わからない。
強がりの下で、怖かった。正直に言うと。ちょっと怖かった。
でも、怖いって誰に言う。耕太も夏樹も同じ状況だ。蓮がへこんでる場合じゃない。
スマホが振動した。耕太からだ。
『蓮、どうする……?』
蓮はメッセージを見た。しばらくして、返信した。
『明日、屋上にもう一回行く。絶対に元に戻る方法、見つけてやる』
送信。
画面を閉じた。
鏡の中の自分を、もう一度見た。深い茶色の目が、こっちを見返してる。怖がってるのか、怒ってるのか、自分でもよくわからない顔をしてる。
蓮はゆっくり、口の端を上げた。
笑ったつもりだったけど、たぶん笑えてなかった。でも、まあ。
やるしかない。
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部屋の窓から、ミナカゼ市の夕暮れが見えた。
コマチ丘陵のシルエットが遠くに黒く浮かんで、空がオレンジに染まってる。どこかでミナカゼ川の水音がする気がした。気のせいかもしれない。
明日の朝、どの制服で登校すればいいのか。クラスメイトにどう説明するのか。そもそも、何がどうなったのか。
全部、まだわからないまま。
蓮は鏡の中の自分を睨みつけたまま、拳を握った。
窓の外で、カラスが一声鳴いた。