俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜
風凛高校最凶の不良グループ「ハナクソ組」は、校内を好き勝手に支配していた。リーダーの桜木蓮は、学校最強の喧嘩屋。口が悪くて短気だが、仲間思いの熱い男だった。ある怠惰な午後、屋上でサボっていると、空から眩い閃光が降り注いだ。
光が消えたとき、彼ら全員が女の子になっていた。
蓮は鏡の前で三秒間じっと自分の姿を見つめ、鳩が逃げ出すほどの大声で叫んだ。友達の杉本耕太は、自分の胸に触れて気絶しそうになった。クールで無口な羽生夏樹は、ただ窓の外を見つめ続けていた。三人とも完全に女性の姿になり、だぶだぶの男子制服を着ていて、ズボンは今にも落ちそうだった。
「呪い」の原因を探る三人が右往左往する中、学校中が大混乱に陥る。男子トイレも女子トイレも使えず、体育の授業は地獄に。何よりも厄介なのは、クラスの女子たちが「ねえ、あいつらちょっと可愛くない?」と言い出し、恋のフラグが次々と立ち始めることだった。
最大の問題は、クラスの美少女・日向あおいがずっと蓮に片思いしていたこと。だが蓮が女の子になった今、あおいはますます動揺し混乱してしまう。一方、クラス委員の三島優希は、以前は蓮をからかっていたが、これ
俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜 - 木曜日の恋の嵐、あるいは女になった俺がモテすぎて困る
昨日の夜、蓮はほとんど眠れなかった。
鏡の前に立つたびに見知らぬ女の子がいて、その子が自分だって頭でわかってても、どうにも慣れなかった。耕太からメッセージが来て、夏樹からも来た。『明日どうする……』『制服、女子のを借りるしかない』。片瀬先生——フウリン高校の保健室の養護教諭——が昨日のうちに女子の制服の予備を三人分用意してくれてたのだけが救いだった。おっとりしてるのに、なぜかこういうとき動きが早い人だ。
朝、蓮は鏡をちゃんと見ないようにして着替えた。
スカートをはくのは生まれて初めてで、なんか風が通るし、歩くたびにふわってするし、とにかく落ち着かない。右耳のピアスだけが昨日のまんまで、それだけが「俺は俺だ」って気持ちを保ってくれてた気がした。
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フウリン高校の2年3組の教室の前に立った時、耕太が小声で言った。
「[scared]蓮、なんか……緊張してきた」
「[sarcastic]緊張したって変わんねえだろ。行くぞ」
夏樹は黙って引き戸に手をかけた。
ガラッ。
まず一秒の沈黙があった。
クラス中の視線が、いっぺんに三人に集まった。
それから——爆発した。
「「「えっ」」」
「だ、誰!?」
「転校生!?」
「三人!? 三人同時!?」
男子はパニック。女子もざわざわ。特に夏樹の方を見てる女子グループが「あの子……すごくないか」とか「銀髪の子、目の色ちがくない!?」とかひそひそしてる。耕太は天然の愛らしさで立ってるだけで「かわいい……」って声が聞こえてくる。
蓮は苦虫を噛んだ顔で教室に踏み込んだ。
「[angry]見せもんじゃねえぞ!!」
声が高い。自分でもわかってる。高いのに怒鳴ると余計おかしい。男子の一人が「いや、かわいい……」と小声でつぶやいて、蓮の眉間がさらに深くなった。
そこへ担任の安田先生が入ってきた。38歳、数学教師、毎週30分の説教で有名なひと。メガネをかけた真面目な顔の先生が、教室の惨状を見て止まった。
「え……え、ちょっと……誰?」
メガネを外して眼鏡のレンズを服の裾で拭いて、またかける。三人を見る。また外して拭いて、またかける。
「[serious]俺だよ俺!桜木だ!」
「……は?」
「いやいやいや、桜木はもっとガラの悪い男で……声もずっと低くて……」
「[crying]ほんとです安田先生!杉本です!羽生もいます!」
夏樹が無言で学生証をポケットから取り出して、ぴっと差し出した。
安田先生がそれをゆっくり受け取って、顔と証明写真を見比べた。また見比べた。もう一回見比べた。
そして椅子に崩れ落ちた。
「……何がどうなってるんだ……」
クラスが爆笑した。蓮だけが全然笑えなかった。
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教室の後ろの方で、一部始終を見てた子がいた。
日向あおい——2年3組、廊下側前方の席。腰まである艶やかな紅色のストレートの髪と、頬のそばかすが特徴の女の子。学年一かわいいと言われてて、本人はあんまり気にしてないみたいな顔してる。
そのあおいが、蓮が教室に入った瞬間から、固まっていた。
動けない。声も出ない。顔だけが、じわじわと赤くなっていく。
友達が「あおい? 大丈夫?」と顔を覗き込んでも、あおいは返事ができなかった。
ホームルームが終わって廊下に出た蓮を、あおいが小走りで追いかけてきた。
「[gentle]さ、桜木くん……!」
蓮が振り返る。
あおいは蓮の顔をまじまじと見て——息が、止まった。
「か……かわいい……」
口から出た。本人もそれに気づいて、両手で口を押さえた。
「ち、ちがっ、えっと、その……! あのね、そうじゃなくて……!」
手がバタバタする。耳まで赤い。
蓮は頬が熱くなるのを感じた。かわいいって言われたのなんて生まれて初めてで、どう反応すればいいかわからなくて、思わず目を逸らした。
「[sarcastic]な、なんだよ……変な顔で見んな」
「……ううん、そうじゃなくて。あのね」
あおいが少し落ち着いた声で続けた。
「[gentle]私、中学の頃からずっと……桜木くんのこと——」
言いかけて、ぱっと口を押さえた。顔がまた真っ赤になる。そのまま「ごめん!」と言って走り去った。
蓮はしばらく廊下に突っ立って、あおいの背中が曲がり角に消えるのを見てた。
(なんだったんだ、今の……)
胸のあたりがなんかざわついてたけど、考えないことにした。
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「[sarcastic]あら。なかなか可愛くなったじゃない」
背後から声がした。
振り返ると、三島有希がニヤニヤしながら立っていた。
有希は2年3組の委員長で、フウリン高校風紀委員会の副委員長でもある。成績は学年12位。いつも蓮をからかうのが日課みたいな顔してる。スカートのひだがきれいに整ってて、制服の着方がきっちりしてて、そこだけ見ると模範生なのに、目の奥がいつも何か企んでいる。
有希は蓮の周りをぐるっと一周した。
「[sarcastic]ふーん。胸もあるし、腰も細いし。結構いい女になってるわね」
「[angry]うるせえ!放っといてくれ!」
「[cold]そういうわけにはいかないわ」
有希の顔が、急に真剣になった。
「[serious]だって私は——あなたが元に戻る手伝いをするから」
その目が、全然真剣じゃなかった。
口では助けるって言ってるのに、目が面白がってる。面白い玩具を見つけた猫みたいな目だ。
「[sarcastic]面白そうじゃない? 男の子が女の子になって、その女の子を別の女の子たちが取り合うなんて」
「[angry]取り合う!? 誰が誰を取り合うんだよ!」
そのタイミングで、あおいが戻ってきた。さっき走り去ったのに、引き返してきたらしい。
「[gentle]桜木くん、さっきの話の続き——」
有希を見て、固まった。
「[surprised]……三島さん。どうしてここに」
「[sarcastic]ちょうどいいわ。日向さんも協力してくれる?」
有希がにっこり笑う。温度のない笑顔だ。
あおいの柔らかい茶色の目が、じっと有希を見た。
「[serious]……三島さん、桜木くんのこと、本当に手伝う気がある?」
「[sarcastic]もちろん。ただ、私のやり方で、ね」
二人の間の空気が、ピリッとした。
蓮はその真ん中で、どうすればいいのか全然わからなかった。
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放課後。
「[serious]行くぞ。屋上」
耕太と夏樹を引き連れて、蓮は北棟の階段を上がった。
屋上のドアは蓮が1年のときに内側のロックを壊してあるから、普通に開く。外に出た瞬間、夕方前の風が吹いた。スカートがふわってなって、蓮はとっさに押さえた。まだこの感覚に慣れない。
200平米ほどのコンクリートのスペース。給水タンクと室外機が二基。南西の角に耕太が拾ってきた古びたベンチ。
昨日、光が降ってきた場所を三人で歩いた。
「[serious]昨日はここらへんにいたよな」
「[serious]うん。あの給水タンクの横」
夏樹がコンクリートの床をゆっくり見ながら歩いた。そして止まった。
「[serious]これ」
二人が近づく。
コンクリートの床に、文字が刻まれていた。
筆跡じゃない。まるで最初からそこに埋め込まれてたみたいな、くっきりとした文字。
——『本当の自分を見つけたとき、呪いは解ける』
「[surprised]これ……昨日あったっけ」
「[serious]昨日はなかった。光が降った後にできた」
珍しく断言した。夏樹が断言するときは、たいてい確信がある。
蓮はその文字をじっと見た。
「[angry]本当の自分ってなんだよ……俺は俺だろ」
耕太がしゃがんで、文字を指でそっとなぞった。
「[gentle]でも……もし俺ら、今は女になってる自分が本当だったら、どうする?」
天然で核心を突いた。
「[angry]うるせえ!それ以上言うな!」
夏樹は答えなかった。ただコンクリートの文字を見ていた。その左右で色が違う目——右が青、左が赤——が、静かに何かを考えてた。
意味はわからない。解き方もわからない。ただその一文だけが、今のところ唯一の手がかりだった。
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カザマチ駅前。
カザマチ商店街の入り口あたりで、蓮は耕太と夏樹と別れた。二人は自転車置場に向かって、蓮は徒歩で駅のほうへ歩いた。
夕方の駅前は人が多い。サラリーマン、買い物帰りの主婦、制服姿の学生。蓮は俯いてさっさと歩いた。女子の制服で歩くのが恥ずかしいのか、怒ってるのか、自分でもよくわからなかった。
「ねえちょっと、フウリンの子?」
声をかけられた。
振り返ると、制服の詰め襟がゆるんだ男子三人組。胸ポケットにキタグチ工業——ミナカゼ市内の私立高校——のバッジが見えた。
「めっちゃかわいいじゃん。これから暇?」
腕を掴もうとする手が伸びてきた。
「[angry]触んな!!」
蓮は反射的に振り払って、拳を構えた。
殴りかかろうとした瞬間——女の体だと、腕が全然言うことを聞かない。力が弱い。昨日まで持ってた自分の体と全然違う。
「[laughing]ちょっと、生意気でかわいいじゃん」
面白がった声が聞こえた。蓮の拳が空を切った。悔しかった。こんなに怒ってるのに届かない感じが、余計に悔しかった。
「[angry]ちょっと!!何してるんですか!!やめてください!!」
大きな声が割り込んできた。
あおいだった。いつ来たのか、蓮と男子三人の間に飛び込んできて、蓮の手を引いた。
「[serious]駅前の交番に言いますよ!!」
一喝。声のトーンが普段と全然違った。男子三人がちょっとひるんだ。そのすきにあおいが蓮を引いて走り出した。
駅前のロータリーを抜けて、細い路地に入って、止まった。
「[sad]っ……はぁ……はぁ……」
あおいが息を切らせて壁に寄りかかった。蓮も息が荒かった。
「[gentle]大丈夫? 怪我ない?」
あおいが蓮の顔を覗き込んだ。距離が近かった。
蓮は肩をあおいに掴まれたまま、その顔を見た。
腰まである紅色の髪が、走ったせいで少し乱れてる。頬が赤い。そばかすが夕方の光に浮いてる。柔らかい茶色の目が、まっすぐ蓮を見てた。
胸の奥で、何かが激しく打ち始めた。
(なんだ……これ)
怒ってるわけじゃない。走ったせいでもない、たぶん。なんか、おかしい。あおいの顔が目の前にあることで、こんなにおかしくなるなんて、昨日まで一回もなかった。
あおいも気づいた。蓮の顔が近くにあることに気づいて、ぱっと目が大きくなった。
二人で、数秒間、見つめ合った。
「「……!」」
同時に一歩下がった。
「[angry]な、なんでお前が助けるんだよ!俺が助ける側だろ!!」
「[gentle]だ、だって……心配で……それに、桜木くんが女の子になっても、私はやっぱり……あなたが……」
言葉が、詰まった。
あおいは口を閉じた。うまく言えなかった顔で、少し俯いた。
蓮は何も返せなかった。
さっきの胸の鼓動が、まだ続いてた。怒りじゃない。パニックでもない。じゃあ何なんだと言われたら——蓮にはわからなかった。でも、わからないことが、怖かった。
「[serious]……帰るぞ」
踵を返して歩き出した。
数歩歩いてから、足が少しだけ遅くなった。
「[whispers]……ありがとな」
小さかった。本人もびっくりするくらい小さかった。
後ろで、あおいが小さく「うん」と言ったのが聞こえた。声が笑ってた気がした。
蓮は振り返らなかった。
路地を抜けて、カザマチ駅の方へ歩く。ミナカゼ電鉄の改札が見えてくる。夕方の空がオレンジに染まってて、コマチ丘陵のシルエットが遠くに黒く浮かんでた。
(俺の感情は……呪いのせいなのか)
(それとも——本物なのか)
わからない。全然わからない。
ただ、屋上に刻まれてた言葉が頭の中でぐるぐるした。
——本当の自分を見つけたとき、呪いは解ける。
(本当の自分って……なんだ、俺の)
改札を抜けながら、蓮はため息をついた。
そして有希のことを思い出した。あの目が、全然本気じゃなかった。助けるって言いながら、何かを企んでる目だった。あいつが次に何をしてくるのか——それだけが、今はっきりしてる不安だった。