俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜
風凛高校最凶の不良グループ「ハナクソ組」は、校内を好き勝手に支配していた。リーダーの桜木蓮は、学校最強の喧嘩屋。口が悪くて短気だが、仲間思いの熱い男だった。ある怠惰な午後、屋上でサボっていると、空から眩い閃光が降り注いだ。
光が消えたとき、彼ら全員が女の子になっていた。
蓮は鏡の前で三秒間じっと自分の姿を見つめ、鳩が逃げ出すほどの大声で叫んだ。友達の杉本耕太は、自分の胸に触れて気絶しそうになった。クールで無口な羽生夏樹は、ただ窓の外を見つめ続けていた。三人とも完全に女性の姿になり、だぶだぶの男子制服を着ていて、ズボンは今にも落ちそうだった。
「呪い」の原因を探る三人が右往左往する中、学校中が大混乱に陥る。男子トイレも女子トイレも使えず、体育の授業は地獄に。何よりも厄介なのは、クラスの女子たちが「ねえ、あいつらちょっと可愛くない?」と言い出し、恋のフラグが次々と立ち始めることだった。
最大の問題は、クラスの美少女・日向あおいがずっと蓮に片思いしていたこと。だが蓮が女の子になった今、あおいはますます動揺し混乱してしまう。一方、クラス委員の三島優希は、以前は蓮をからかっていたが、これ
俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜 - 月曜日の告白爆弾、あるいは親友を守るのがこんなに難しいとは思わなかった件
金曜日のおまじない騒動から週末をはさんで、月曜日の朝がやってきた。
蓮は昨日もあおいの「あとで、ちゃんと話せたら良いな」という声を思い出しながら眠れなかった。考えるな、と自分に言い聞かせても、チャイムに遮られたあの教室の空気がどうしても頭に張りついてくる。
めんどくせぇ、と思いながら登校した。
フウリン高校の南棟、体育館前の廊下。1時間目の体育の前、着替えを終えた生徒たちがぞろぞろと出てくる中で、体育教師の村田が名簿を片手に大声で言った。
「[serious]今日は体力測定だ。女子は先に50メートル走からいくぞ」
蓮、耕太、夏樹の三人に、同時に戦慄が走った。
「[scared]……50メートル走」
「[serious]女子の欄に記録される」
二人の声がほぼ重なった。夏樹は無言で自分の腹を押さえた。
作戦会議は三秒で終わった。
「[sad]先生、腹が痛くて……」
「[sad]あたし、めまいがします……」
夏樹は無言で額を押さえた。
村田が三人を一秒見た。眼鏡の奥の目が、じっとりとした色になった。
「[cold]おまえら三人、同時に全員体調不良はありえない」
一刀両断だった。蓮が「でも測定は——」と食い下がると、村田は静かに言った。
「[serious]今の身体がそうなんだから、仕方ないだろ」
言葉に詰まった。
正論だった。誰より正論だった。そのせいで余計に腹が立った。
結局、片瀬先生への緊急連絡という体裁で測定を棚上げにしてもらい、三人は保健室へ逃げ込んだ。片瀬先生——北棟1階の保健室の養護教諭——はいつものおっとりした顔で「またですか」と言いながら、ICEを持ってきた。
蓮は保健室の壁を、靴の底でどん、と蹴った。
「[angry]俺の記録が女子の欄に残るとか……絶対嫌だ」
「[laughing]でも逃げ切れた!」
耕太がぱあっと明るい顔になった。金色の大きな瞳がきらきらしている。
夏樹が淡々と言った。
「[serious]来週も同じ問題が起きる」
耕太の顔から光が消えた。
蓮も壁を見たまま、何も言えなかった。
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保健室から教室に戻る途中のことだった。
南棟の渡り廊下を歩いていると、耕太が立ち止まって紙切れを見ていた。肩までの深緑のボブカットが、首を傾けるたびに揺れている。
「[surprised]……メモ?」
蓮が覗き込む。
〈杉本さん、校舎裏に来てほしいんだけど〉
字が丸くて、少し震えていた。
「[serious]誰から」
「[surprised]わかんない。名前がない」
耕太は小首を傾げた。天然すぎる顔をしている。このまま一人で行きそうだった。
蓮は「俺も行く」とは言わなかった。でも耕太が角を曲がるのを見届けてから、少し遅れてついていった。
北棟の裏側。給食の搬入口の横、フェンスと壁のあいだの細い通路。日当たりが悪くて、いつも少し薄暗い場所だ。
耕太が角を曲がった瞬間、声が聞こえた。
「[scared]す、杉本さん——!」
蓮は壁の陰で止まった。
校舎裏にいたのは、田辺勇輝だった。2年3組の、普段はあまり目立たない男子。短い黒髪、小さめの体格。今は顔が耳まで真っ赤で、頬どころか首まで赤くなっていた。
田辺は耕太の姿を見るなり、地面に向かって頭を下げた。そのまま膝をついた。額がコンクリートに触れるくらいの勢いだった。
「[scared]女の子になった杉本さんが——ずっと気になってて——好きです!!付き合ってください!!」
声が裏返った。
耕太の顔から、表情が、すうっと消えた。
蓮は壁の陰でそれを見ていた。
耕太は動かない。まばたきもしない。金色の瞳が、土下座している田辺をまっすぐ見ていた。一秒。二秒。三秒。
四秒目に、音を立てずに横向きに倒れた。
「[surprised]耕太——!!」
壁の陰から飛び出した。耕太がコンクリートの上に横たわっている。白目を剥いていた。
田辺が頭を上げてひっくり返った。
「[scared]え、え、え!?」
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保健室のベッド。パーテーションで仕切られた一番奥。
片瀬先生が氷袋を持ってきた。疲れた顔をしていた。
「[serious]……また気絶してる」
小声で言った。蓮は「俺のせいじゃない」とも言えず、椅子に座って耕太の顔を見ていた。
二分後、耕太が目を開けた。
「[surprised]……あれ。あたし、どこ……」
「[serious]保健室。大丈夫か」
耕太が天井を見た。氷袋が頭の横に置かれている。しばらく黙って、それから虚ろな目で言った。
「[scared]……蓮。あたし、どうすれば……」
蓮は即答した。
「[serious]断れ。以上」
一番シンプルな答えだ。間違ってないと思った。
でも耕太が続けた。
「[sad]……田辺って、悪い奴じゃないし。傷つけたくないなって……」
蓮は口を閉じた。
悪い奴じゃない。それはそうだ。田辺は普通の男子だ。ただ耕太のことが好きになっただけだ。でもそれが耕太を困らせている。
断れば傷つける。断らなければ耕太が困る。
返す言葉が出なかった。ハナクソ組のリーダーとして、喧嘩なら誰より先に動ける。でも「好き」という言葉の前では、どうすればいいのか、全然わからなかった。
「[serious]……昼、田辺に話しかけてくる」
それだけ言った。
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昼休み。
蓮は田辺を廊下に呼び出した。南棟3階、2年3組の前。
「[angry]俺の親友に手を出すな」
壁に手をつく勢いで言った。田辺が壁に背中をくっつけた。
「え、で、でも——」
そこへ走ってくる音がした。
「[serious]蓮くん、落ち着いて!」
あおいだった。紅色の長い髪が揺れている。そばかすのある頬が、少し赤い。蓮と田辺の間に入ってくる。
「[sarcastic]あら、面白いことになってるわね」
有希も来た。後ろから興味津々の顔で加わった。
「[angry]杉本さんは女の子じゃないですか!女の子に好きになって何が悪いんですか!」
田辺が声を上げた。顔がまた赤くなっている。今度は怒りで。
「[angry]耕太は元々男だ!」
「でも今は女の子で——」
「[gentle]でも本人の気持ちを無視した告白は——」
「[sarcastic]いや待って、今の桜木さんも女の子なんだから、女の子同士の告白も——」
四人の声が重なった。廊下からクラスメイトが首を出し始めた。「なんか修羅場起きてる……」という声が聞こえた。
「[angry]お前ら全員うるせえ!!俺は耕太を守りたいだけだ!!」
廊下に響いた。
静かになった一瞬、あおいが言った。
「[gentle]その気持ちはわかる。でも桜木くん——耕太くん本人は、どうしたいか聞いた?」
蓮は止まった。
聞いていなかった。さっき保健室で「断れ」と一言言っただけで、耕太が何を望んでいるかを聞いていなかった。
「[sarcastic]……うるさい」
顔を背けた。その瞬間、自分の頬が熱くなっているのに気づいた。怒りなのか、恥ずかしさなのか、わからなくて余計に腹が立った。
有希がその顔を見逃さなかった。
「[sarcastic]あら……」
口角が上がりかけた。あおいがじっと有希を見た。有希は小さく肩をすくめて黙った。
廊下の空気が、妙な重さになった。
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放課後。
保健室のベッドで半分起き上がった耕太のそばに、蓮は一人で戻った。片瀬先生が「書類があるので少しだけ」と言って席を外した。
静かだった。窓から夕方前の光が入ってくる。
耕太が上を向いたまま言った。
「[gentle]なあ蓮……田辺って、変な奴じゃないよな?」
「[serious]……普通の奴だと思う。でもだからって——」
「[sad]あたし、正直どうしたらいいかわかんない。断るのが正解なのはわかってる。でも……なんか、怖い」
蓮が聞いた。
「[serious]怖い?」
「[sad]誰かに好きって言われたの、初めてで。断ったら相手が傷つくって考えたら……」
耕太の言葉が止まった。
蓮はしばらく黙っていた。
喧嘩なら動ける。仲間が危ない時は体が先に動く。でも今の耕太が怖いと言っているのは、誰かを傷つけることへの怖さだ。蓮にはその答えが出せない。自分が告白されたことも、されそうなことも、ない。好きという言葉の前で何をすればいいのか、教えてくれた人間もいない。
「[whispers]……俺には、わかんね」
絞り出すように言った。
耕太が少し苦笑いした。
「[sad]蓮も同じか」
二人でしばらく黙って天井を見た。
親友同士なのに、答えを持っていない。それが、これまでなかった種類の重さで、二人の間に漂っていた。
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保健室を出た蓮は、廊下からあおいと有希が教室で片付けをしているのを横目で見た。
昼間の恋愛議論の残り香みたいなものが、まだあそこに漂っている気がした。あおいに「本人の気持ちを聞いた?」と言われた時に言葉が出なかった自分のことが、ずっと胃の底に引っかかっていた。
蓮は一人で北棟の階段を上がった。
屋上のドアを開ける。夕暮れ前の風が吹いた。スカートがふわっとなって、それを無言で押さえた。
給水タンクの横に座り込んで、コンクリートの床を見た。
——本当の自分を見つけたとき、呪いは解ける。
まるで最初からそこに埋め込まれていたような文字が、夕方の光の中でくっきりと見えた。
「[whispers]本当の自分ってなんだよ……俺は桜木蓮だ。それだけだろ」
低い声でつぶやいた。
耕太の「怖い」という声が頭の中で繰り返した。あおいの「本人の気持ちを聞いた?」という言葉も。何も言い返せなかった自分も。
女の体になっても俺は俺だ、とずっと思っていた。でも今日、耕太の怖さの前で何もできなかった。あおいの一言の前で黙り込んだ。本当の俺は、こんなに何もできないのか——
その考えが頭の隅をよぎった瞬間、蓮は立ち上がった。
「[serious]余計なこと考えんな」
自分に向かって言った。落書きに背を向けて、階段のほうへ歩き出した。
ちょうど階段を下りかけたとき、一階の廊下から声が聞こえてきた。
「[serious]明日も来ます。杉本さんに、ちゃんと答えてもらうまで」
田辺の声だった。誰かに言い聞かせるような、しっかりした声だった。
蓮の足が止まった。
教室の窓から、あおいが屋上のほうをそっと見上げていた。有希が横で言った。
「[sarcastic]行かなくていいの?」
あおいは少しだけ間を置いて、視線を手元に落とした。
「[whispers]……今日は」
それだけ答えた。
昼間の修羅場で生まれた微妙な空気が、二人の間にまだ残ったままだった。