俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜
風凛高校最凶の不良グループ「ハナクソ組」は、校内を好き勝手に支配していた。リーダーの桜木蓮は、学校最強の喧嘩屋。口が悪くて短気だが、仲間思いの熱い男だった。ある怠惰な午後、屋上でサボっていると、空から眩い閃光が降り注いだ。
光が消えたとき、彼ら全員が女の子になっていた。
蓮は鏡の前で三秒間じっと自分の姿を見つめ、鳩が逃げ出すほどの大声で叫んだ。友達の杉本耕太は、自分の胸に触れて気絶しそうになった。クールで無口な羽生夏樹は、ただ窓の外を見つめ続けていた。三人とも完全に女性の姿になり、だぶだぶの男子制服を着ていて、ズボンは今にも落ちそうだった。
「呪い」の原因を探る三人が右往左往する中、学校中が大混乱に陥る。男子トイレも女子トイレも使えず、体育の授業は地獄に。何よりも厄介なのは、クラスの女子たちが「ねえ、あいつらちょっと可愛くない?」と言い出し、恋のフラグが次々と立ち始めることだった。
最大の問題は、クラスの美少女・日向あおいがずっと蓮に片思いしていたこと。だが蓮が女の子になった今、あおいはますます動揺し混乱してしまう。一方、クラス委員の三島優希は、以前は蓮をからかっていたが、これ
俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜 - 金曜日の電話一本、あるいはお前はお前だと叫んだ日
金曜日の朝。
フウリン高校2年3組の教室は、いつも通りにうるさかった。
でも一つだけ、違う場所があった。
窓際最後列。桜木蓮の席だ。
誰もいない。ランドセルも……じゃなくて、カバンも、教科書も、ない。ただ椅子が引かれたまま、そこにある。
あおいは、その空席をじっと見た。
昨日の夕方のことが、頭から消えない。屋上で、泣いていた蓮の背中。「俺のことはほっといてくれ」という声。そのまま駆け下りていった足音。
(私たちのせいだ)
そう思った瞬間、胸がきゅっとした。
「[whispers]……桜木さん、休みか」
隣から声がした。有希が、窓の外を見たまま、ぽつりと言った。いつものニヤニヤがない。珍しく、口が一文字に結ばれていた。
あおいは「……うん」と答えた。言葉にならなかった。
安田先生がホームルームを始めて、出席を取った。桜木蓮の名前が呼ばれた。返事はなかった。先生が「……欠席ですね」と言って、次の名前に移った。それだけだった。
でも、あおいにとってそれは「それだけ」じゃなかった。
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昼休み。教室が空いた隙に、あおいは有希の席に近づいた。
「[gentle]……有希さん」
有希が顔を上げた。
「[sad]昨日のこと……私、ずっと考えてて」
有希は少しの間、黙っていた。それから、短く言った。
「[serious]私もよ」
ニヤニヤしていない有希は、なんか……普通の女の子に見えた。あおいは少し驚いた。
「[gentle]放課後、一緒に蓮くんの家に行きませんか」
有希が、あおいをじっと見た。
「[sarcastic]……一緒に、ね」
「張り合いとかじゃなくて。ただ、謝りたくて」
沈黙。
「[serious]わかったわ」
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一方、耕太は朝からずっと、ポケットの中の紙をぎゅっと握りしめていた。
田辺からのメモだ。昨日の放課後、また来た。また待っていた。でも耕太は顔を見る前に逃げた。夜、布団の中で何度も「ごめんなさい」の言い方を練習した。
今日、言う。
そう決めた。
「[serious]……今日、ちゃんと断りに行く」
廊下を歩きながら、隣に並んだ夏樹に搾り出すように言った。
夏樹が耕太を見た。銀色の髪が朝の光を弾いている。左右でオッドアイの瞳が、静かに耕太を映した。
「[serious]それでいい」
たった四文字。でも耕太には、それで十分だった。
グッとして……ちょっと泣きそうになった。やばい。ここで泣いたら終わりだ。耕太はぱちぱちと瞬いた。
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昼休み後。耕太は田辺を校舎裏に呼び出した。
北棟の裏、給食の搬入口の横。日当たりの悪い、薄暗い通路。ここで田辺が土下座した場所だ。
田辺が来た。緊張した顔で、耕太を見た。
「杉本さん……」
「[serious]田辺くん」
耕太は、まっすぐ田辺を見た。
深緑のボブカットが、風で少し揺れた。金色の大きな瞳は、逃げなかった。
「[serious]あたし、元は男なんだ。この体はたぶん、呪いで変わっちゃったやつで……元に戻るつもりでいる。だから田辺くんの気持ちには、応えられない。ごめんなさい」
頭を下げた。深く。
田辺が、しばらく固まっていた。
それから、小さく「……わかりました」と言った。声が少し震えていた。でも、ちゃんとした声だった。
「[serious]正直に言ってくれて、ありがとうございます」
田辺は踵を返した。背中が、少し丸まっていた。
耕太は、それを最後まで見送った。
(ごめん、田辺くん。でも……よかった)
胸がズキっとした。でも足が、軽くなった。
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教室に戻った耕太の顔を、夏樹は見た。
一目でわかった。やり切った顔だ。
耕太が入り口で夏樹と目が合って、照れながら親指をぐっと立てた。
夏樹は……小さく、笑った。
ふ、と。ほんのちょっとだけ。
それを見ていた窓際の男子二人が「え、羽生ってあんな顔するの……?」とざわついた。夏樹は気づかなかった。
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放課後。
「[gentle]蓮のこと、わかった気がする」
夏樹が、廊下を歩きながら言った。
耕太が、ぱっと目を丸くした。
「[surprised]え? ほんとに?」
夏樹は静かに続けた。
「[serious]呪いのヒントは『本当の自分』って部分だけど。それって、元の男の自分に戻ることじゃないかもしれない」
耕太が「……うーん」と首をひねった。
「[gentle]屋上、行こう」
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北棟の屋上。
鍵は壊されたまま。ドアを押すと、夕方前の風が吹き込んだ。給水タンクが二基、低く唸っている。
二人は落書きの前に並んで座り込んだ。
コンクリートの床に刻まれた文字。
——本当の自分を見つけたとき、呪いは解ける。
「[gentle]本当の自分って、なんだろ」
素直に首をかしげた。耕太らしかった。
夏樹が、落書きを見たまま言った。
「[serious]蓮は、女になってから……あおいのこと、気にするようになった。俺たちのことも、大事だってわかってた。でもそれを認めたくなくて、逃げてる」
耕太が「あー……」と声を出した。
「[gentle]あたしも、田辺くんに告白されて初めて、好きって怖いってわかったしなあ」
夏樹が、耕太を見た。
「[serious]それは、ちょっと違う」
「[surprised]え! どう違うの!?」
「[serious]……勇気の話だ。蓮のは」
耕太がぽかんとして、それから目をぱちくりさせた。
「[excited]なんかかっこいい!!」
夏樹が苦笑いした。
「[serious]蓮に電話しろ」
「[surprised]え、今すぐ!?」
「今すぐ」
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その頃。
蓮は、部屋の布団の中にいた。
昨日から、ずっとここにいる。朝、お母さんが「学校は?」と聞いてきた。「行かない」とだけ言った。それ以上は聞かれなかった。
お母さんは、蓮の扱いがうまい。
昼過ぎに、チャイムが鳴った。玄関でお母さんの声がして、「桜木さん……いますよ」という声だけが廊下から聞こえた。あおいと有希の声だ、とわかった。でも布団から出なかった。
しばらくして、静かになった。
(帰ったのか)
そう思ったとき、胸に変な感じがした。ほっとしたのか、それとも……。
わからない。全部、わからない。
布団を頭まで被って、天井を見た。暗い。自分の息だけが聞こえる。
そのとき、スマホが鳴った。
画面に光が走った。
——杉本耕太——
蓮は、画面をじっと見た。
一回、鳴った。切れた。
また鳴った。切れた。
三回目。
(……めんどくせぇ)
渋々、電話に出た。
「[angry]蓮!!! お前はリーダーだろ!!」
開口一番、でかい声が飛んできた。
蓮は電話を耳から少し離した。
「[angry]男でも女でも、桜木蓮は桜木蓮だろ!! 逃げてる場合か!!」
屋上だ。風の音が聞こえる。
耕太が屋上から叫んでいる。その横に夏樹がいるんだろう。目を細めて、耕太のうるさい声を聞いているんだろう。
蓮は、布団の中で、じっとしていた。
「[gentle]なあ、蓮……」
声のトーンが、落ちた。
耕太の声が、急に柔らかくなった。
「[gentle]お前が桜木蓮じゃなくなったことなんか、一回もないから。あたし、ちゃんと見てたから」
喉に、何かが詰まった感じがした。
蓮は、唇をきゅっと結んだ。
(うるさい、耕太)
(うるさいけど……)
目の奥が、熱くなった。くそ、泣くな。昨日も泣いた。もう泣かない。
絞り出すように、蓮は言った。
「[whispers]……うるせぇ。でも、ありがとな」
電話を切った。
屋上では、耕太が夏樹を振り返った。
「[gentle]……伝わったかな?」
夏樹が、短く答えた。
「[serious]伝わった」
二人は、落書きをもう一度見た。
夕暮れの光が、コンクリートの文字を斜めに照らしていた。文字は変わらない。でも耕太は、なんとなく、さっきとは読み方が変わった気がした。
「[gentle]本当の自分って……変わっていく自分も、全部なのかもな」
ぼそっと言った。
夏樹が、黙って頷いた。
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部屋の中で、蓮は布団を剥いだ。
起き上がって、鏡の前に立った。
女の顔が映っていた。短めの黒髪が少し跳ねていて、右耳に小さなピアス。目の下が少し赤い。
(これが今の俺か)
涙を手の甲でぐいっと拭いた。
しばらく、鏡をじっと見た。
それから、小さく言った。
「[serious]……明日、行くか」
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一方、蓮の家から帰る道。
あおいと有希は、並んで歩いていた。
夕暮れのカザマチ商店街。アーケードの端に、たこ焼き屋「マルタコ」の煙が上がっている。いつもの匂いだ。でも二人は無言で、それを通り過ぎた。
しばらくして、有希が口を開いた。
「[serious]……私、桜木さんにひどいことしたと思う?」
唐突だった。あおいは少し驚いて、有希を見た。
「[gentle]……三島さんも、反省してるんですね」
「[sarcastic]反省というより……悔しいのよ」
素直に言った。珍しかった。あおいは、小さく笑った。
有希がそれを見て、口を尖らせた。
「[sarcastic]あなたが笑えるなら、私の立場がないわね」
「[gentle]笑いましたよ。でも、私も同じです」
しばらく、また無言で歩いた。
角を曲がる少し手前で、有希が立ち止まった。
「[serious]明日、一緒に謝りに行きましょ」
手を差し出した。
あおいが、びっくりして有希を見た。有希は正面を向いたまま、手だけこっちに伸ばしていた。顔はちょっと赤かった。
「[sarcastic]……どうせ先に謝ったほうが、有利でしょ」
すぐに付け加えた。
あおいは、苦笑いした。
(この人、本当に……)
でも、手を取った。
「[gentle]一緒に行きましょう、有希さん」
有希が「有希さん、ね」と言って、少し表情を緩めた。
ライバルのまま、でも今だけは、足並みがそろった。
夕日が商店街のアーケードの向こうに沈んでいく。マルタコのたこ焼きの匂いが、風に乗ってふわっと流れてきた。
明日、蓮が学校に来る。そのときにどんな顔をするか、どんな言葉をかけるか、まだ全然わからない。
あおいには、もう一つ、言いたいことがあった。ずっと言えていないことが。
それは、明日まで待つことにした。