俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜
風凛高校最凶の不良グループ「ハナクソ組」は、校内を好き勝手に支配していた。リーダーの桜木蓮は、学校最強の喧嘩屋。口が悪くて短気だが、仲間思いの熱い男だった。ある怠惰な午後、屋上でサボっていると、空から眩い閃光が降り注いだ。
光が消えたとき、彼ら全員が女の子になっていた。
蓮は鏡の前で三秒間じっと自分の姿を見つめ、鳩が逃げ出すほどの大声で叫んだ。友達の杉本耕太は、自分の胸に触れて気絶しそうになった。クールで無口な羽生夏樹は、ただ窓の外を見つめ続けていた。三人とも完全に女性の姿になり、だぶだぶの男子制服を着ていて、ズボンは今にも落ちそうだった。
「呪い」の原因を探る三人が右往左往する中、学校中が大混乱に陥る。男子トイレも女子トイレも使えず、体育の授業は地獄に。何よりも厄介なのは、クラスの女子たちが「ねえ、あいつらちょっと可愛くない?」と言い出し、恋のフラグが次々と立ち始めることだった。
最大の問題は、クラスの美少女・日向あおいがずっと蓮に片思いしていたこと。だが蓮が女の子になった今、あおいはますます動揺し混乱してしまう。一方、クラス委員の三島優希は、以前は蓮をからかっていたが、これ
俺たちガール宣言!?〜ハナクソ組の呪われた青春〜 - 金曜日のただいま、あるいは俺が俺になった午後
耕太からの電話を切った後、蓮はしばらく布団の上に座ったまま、動かなかった。
スマホの画面が暗くなる。部屋がまた静かになった。
(うるせえな、耕太)
でも、足が動いた。自然に。
立ち上がって、鏡を見た。女の顔が映っていた。黒髪が少し跳ねていて、目の下がまだうっすら赤い。右耳のピアスが光を弾いている。
(……俺だ。これも俺だ)
それだけ確認して、蓮は制服に袖を通した。
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フウリン高校の校門に着いたのは、午後の授業が終わる少し後だった。
金曜日の夕方。グラウンドから野球部の声が聞こえる。空は高くて、薄い雲が西の方に流れていた。女子制服のスカートが、ひやっとした風に揺れた。
蓮が校門をくぐろうとして、足を止めた。
いた。
日向あおいと三島有希が、校門の前に並んで立っていた。
あおいの紅色の長い髪が風になびいている。目が真っ赤だ。泣いてたんだろう。有希はいつもの完璧な黒髪のまま、でも唇をきゅっと噛んでいる。いつもみたいにニヤニヤしていなかった。
二人とも蓮を見た。
一拍置いて——ぴったり同時に、頭を下げた。
「「ごめんなさい」」
声まで揃った。
蓮は固まった。
「[surprised]……お前ら、練習したのか」
有希がすかさず顔を上げた。
「[angry]練習なんてしてないわよ!」
あおいも続いた。
「[surprised]してないです! たまたまで……」
「たまたまで揃うか普通」
「普通じゃないからこうなってるんでしょ!」
「そういう意味じゃ——」
三人がわっと声を重ねかけて、蓮は一度目を閉じた。
(やめろ、また言い合いになる)
でも、口の端がにやっとした。笑いをこらえようとして、全然こらえられなかった。
「[serious]……もういい。わかった。行くぞ」
歩き始めた。
あおいが後ろから「[gentle]……ありがとう」 と小さく言った。
蓮は振り向かなかった。でも、少しだけ歩くスピードを落とした。
「[whispers]……俺も、悪かった」
それだけ言って、また前を向いた。
後ろで有希が複雑な顔をして、あおいが嬉しそうに頬をほころばせているのは、なんとなくわかった。見てないけどわかった。
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北棟の屋上。
蓮がドアを押し開けると、夕方前の風が吹き込んだ。
「「[excited]れーん!!」」
耕太が両腕を突き上げて万歳の体勢で待ち構えていた。深緑のボブカットが風でぱさっと揺れる。金色の目がきらきらしている。元気すぎる。
夏樹は壁に背をもたせかけて腕を組んでいた。銀色の髪が光を弾いている。左右で色の違う目——右が青、左が赤——が静かに蓮を映した。小さく頷いた。それだけだった。
そして。
古びたベンチに腰かけた白衣の人物が、のんびりと紙コップのお茶を飲んでいた。
片瀬ルミ先生だ。フウリン高校の養護教諭。おっとりした顔で、あらまあ、という表情でこちらを見ている。メモ帳まで膝に載せていた。
「[surprised]……なんで先生までいるんですか!!」
片瀬先生がお茶を一口飲んで、にこっと笑った。
「[gentle]だって、呪いが解けるかもしれないって聞いたら、見届けたいじゃない。医療的な記録として……」
メモ帳のページをぱらっとめくった。
「[angry]医療的じゃない!!」
耕太が天然の顔でうなずいた。
「[gentle]でも先生がいてくれたほうが安心だよね? 何かあったとき」
有希が頷いた。「同意見」 あおいも「そうだよね」 と続いた。
蓮は四人の顔を見た。全員「それが正しいだろ」という顔をしている。
「[serious]……なんか変な奴らだな、お前ら」
ぼそっと言った。
耕太がにやっとした。
「[laughing]それ、君が一番だろ」
蓮は「うるせえ」 と言いながら、でも力が抜けた。
張り詰めていたものが、すうっと薄れた気がした。
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蓮は歩き始めた。
給水タンクの横を通り過ぎて、屋上の中央へ。コンクリートの床を踏みしめながら、みんなが黙って見守る中、落書きの前に立った。
——本当の自分を見つけたとき、呪いは解ける。
文字は変わらない。ずっとそこにある。何日もここに来て、怒鳴って、泣いて、それでもずっとそこにあった。
しばらく、ただ見つめた。
背後で耕太が息を呑むのがわかった。あおいが小さく体を硬くした。夏樹が壁から離れて、一歩前に出た。有希が唇を引き結んだ。片瀬先生がメモ帳を握り直した。
全員が、待っていた。
蓮は深く息を吸った。
「[serious]俺は桜木蓮だ」
静かな声から始まった。でも続きは違った。
「[serious]ちょっと前まで、ただの不良で——女になってパニックになって、耕太のこと助けられなくて、有希にはムカついて、あおいのことは見ないふりして……全部めんどくさくてうるさくて、逃げてた」
スカートが風に揺れた。
「[serious]でも。女になってわかったことが、ある」
声が大きくなっていった。
「[serious]あおいの気持ち、ちゃんとわかった。耕太と夏樹がどれだけ大事か、身に染みてわかった。有希はうざいけど——頼りになる。そういうのが全部、今の俺を作ってる!!」
空に向かって叫んだ。
「[excited]これが俺だ!! 今の、本当の桜木蓮だ!!」
声が屋上に響いて、広がって、消えた。
——その瞬間だった。
落書きの文字が、淡く光った。
じわっと。コンクリートに染み込んでいた光が、じわじわと表面に滲み出てくるみたいに。白い光が文字のあとをなぞって、そこから広がった。
あおいが「あっ」 と声を上げた。
光は蓮の足元から伸びて、少し離れた耕太と夏樹を包んだ。三人を同時に。
「[scared]え、え、え!?」
耕太がぶんぶん手を振った。夏樹が目を細めた。蓮は光の中で目をつぶらなかった。まっすぐ前を見た。
数秒後——光が収まった。
耕太が恐る恐る自分の手を見た。
「[surprised]……手」
大きい。男の手だ。肩幅が変わった。声が、低くなっていた。
夏樹が自分の銀髪をひとつかみにした。表情は変わらないが、目が少し丸かった。
蓮は自分の手を見た。傷の残った、もとの腕だ。右耳のピアスに触れた。ある。ちゃんとある。
(戻った)
そう思った瞬間。
ビリッ!!
盛大な音がした。
蓮が着ていた女子制服のスカートが——いや、スカートの下に残っていた細いズボンの生地が、元の体格に戻った途端に縫い目から派手に破けた。片側の太ももがまるっと見えた。
一秒間の沈黙。
「「「「「ぷっ」」」」」
全員吹き出した。
「[laughing]ズボン!!」
「[laughing]盛大に!!」
有希が口を手で押さえて肩を震わせていた。夏樹まで、ふっ、と口の端を上げた。
「[angry]待って!! ちょっと待って!! 笑うな!!」
蓮が頭を抱えた。真っ赤な顔で腰を押さえている。
片瀬先生がメモ帳にさらさらと何か書き込んでいた。
「[gentle]ズボンの破損——記録完了」
「[angry]そこメモするとこじゃない!!!」
耕太がお腹を抱えて笑い転げた。夏樹が小さく「よかった」 と呟いた。その一言だけで、なんか全部言い終えたみたいな声だった。
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笑いが収まりかけたとき、あおいが蓮のそばに来た。
小走りで。紅色の長い髪を揺らしながら。柔らかい茶色の目が、もう泣きそうになっていた。頬のそばかすが、夕方の光の中で見えた。
そのまま、蓮の腕を掴んで、抱きついた。
「[crying]おかえりなさい……っ」
声が震えていた。本気で泣いていた。
蓮は——逃げなかった。
今まで何度もこういう場面があったら絶対に一歩引いていたのに。今日は体が動かなかった。動こうとしなかった。
顔が熱かった。耳まで赤くなってるのが自分でもわかった。でも。
「[whispers]……おう。ただいま」
かすかに、呟いた。
耕太が目を剥いた。
「[surprised]え……え!? 蓮、逃げなかった!?」
「うるせえ」
有希は、それを見ていた。
複雑な顔で。唇を一文字に引き結んで、窓の外を向いた。
負けた。そう思っているんだろうと蓮は思った。見えてないけど、わかった。そういう顔を何度も見てきた気がする、不思議なことに。
片瀬先生がまた何か書いていた。
「[serious]患者の精神的回復を確認しました」
「[angry]患者じゃないし!!」
あおいが蓮にくっついたまま笑い声を上げた。耕太がまた吹き出した。屋上が、またわいわいした。
夕暮れの光が、コンクリートを斜めに照らしていた。
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全員でわいわいしながら階段を下りる少し前。
夏樹だけが、落書きをもう一度見た。
光は収まっていた。文字は変わらない——変わらないはずだった。
でも。
夏樹は目を細めた。
もとの文字の下、コンクリートの灰色に溶け込むように、薄く、かろうじて読めるかどうかの線が浮かんでいた。文字の形をしている。でもまだ半分しか見えない。光が足りないのか、それとも——まだ「その時」じゃないのか。
「[surprised]夏樹、何見てんの?」
耕太が振り返った。
「[serious]……なんでもない」
夏樹は視線を外して、みんなのいる方へ歩き出した。
胸の中だけに、その文字の欠片を、静かに入れた。
まだ、全部は読めない。でも確かに、そこにある。
呪いは解けた。
でも落書きは——消えていない。