Re:ゼロから始める異世界生活〜全員おかしくなった件について〜
夏木スバルはある朝、ロズワール邸で目を覚まし、鏡に向かって思わず叫んだ。そこに映っていたのは、短い髪で大きく慌てた目をした少女――しかし、それは間違いなく、完全に、紛れもなく彼自身だった。
彼だけではなかった。エミリアス・ヴァレリアは今や少年となり、廊下でぼんやりと困惑した表情で自分の頬をつついている。レムは背の高い静かな青年に変わり、虚ろな表情で自分の手をじっと見つめていた。図書室のビアンカ・ビートリスは、今や小さな少年で、大きな瞳に怒りをたたえていた。
ロズワール邸の全員が一晩で性別を入れ替えてしまったのだ。
原因は?地下室にあった光り輝く石板。古代魔法を研究していたビートリスが「うっかり」触れてしまったという。「警備があまりにも不十分だったのよ」と彼女は目を合わせることなく言い張った。
石板の刻文を読み解いたビートリスは悪い知らせを伝えた。呪いを解くには、全員が石板の近くに集まり「本当の気持ちを正直に伝える」必要があるという。簡単そうに聞こえるが、「本当の気持ち」とは明らかに愛する相手への告白を意味していた。期限は七日間。過ぎれば変化は永遠のものになる。
混乱はすぐに始
Re:ゼロから始める異世界生活〜全員おかしくなった件について〜 - 誰が犠牲になるかで大喧嘩してたら、全部バレてた件について
窓の外が白み始めていた。
スバルはずっと、起きていた。
布団の上で膝を抱えて、石化した左腕を右手でぎゅっと握ったまま——一睡もできなかった。昨夜ビアンカが読み上げた言葉が、ずっと頭の中でぐるぐる回っていた。
『最も愛する者の痛みを引き受ける覚悟を持て』
痛みは慣れている。何度も死んで、また始めて、そのたびに痛くて苦しくて——それでも立ち上がってきた。そういう意味では、誰より覚悟はできているはずだった。
でも、手が震えて止まらなかった。
エミリアスの顔が浮かんだ。涙をこらえてスバルを見つめる、あの紫と銀のオッドアイ。レオンの顔が浮かんだ。拳を壁に叩きつけて、低い声で「守れなかった」と言ったあの横顔。
(どっちも、失いたくない)
ぼんやりとそう気づいて、スバルはちょっとだけ顔を覆った。
(今、そんなこと考えてる場合じゃないだろ、あたし)
東の窓がじわりとオレンジに染まり始めた。鳥の声が遠くから聞こえてくる。ロズワール邸の庭園が、夜明けの薄明かりの中で輪郭を取り戻していく。
スバルは立ち上がった。
「[serious]……よし」
一回だけ呟いた。声が少し震えたが、気にしないことにした。怖くてたまらない。でも、覚悟は決まった。
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大広間に全員が揃ったのは、朝日が窓から差し込み始めた頃だった。
スバルはテーブルの前に立って、石化した左腕を包帯ごとテーブルの上にそっと置いた。
「[serious]みんなに話がある」
声は、思ったより落ち着いていた。震えていたのは、外からは分からなかったかもしれない。
「[serious]あたしが、全員の痛みを引き受ける。だからみんな——ちゃんと本音を言ってほしい」
静かだった。
一秒。二秒。
——椅子が、蹴られた音がした。
「[crying]ダメだよ!!」
エミリアスが立ち上がっていた。銀髪がぐしゃっと乱れて、目に涙が浮かんでいる。淡い紫と銀のオッドアイが、スバルをまっすぐ見ていた。ここ数日で初めて見る、真正面からの顔だった。
「[crying]スバルだけが犠牲になるなんて、絶対ダメだ!」
「[cold]俺が引き受ける。お前は黙ってろ」
レオンがエミリアスを遮った。腕を組んで、赤い縦スリットの目がスバルを見る。一ミリも動じていない顔。
「[serious]魔力量が最も多いのは私じゃ。数字で考えなさいよ」
ビアンカが額に手を当てて割り込んだ。
そこからは早かった。
「[crying]スバルに全部押しつけるなんて——!」
「[cold]俺より魔力量が多いとか関係ない。俺が適任だ」
「[serious]感情論は結構じゃ。効率を考えろと言っているのよ」
「[surprised]ちょっと待って、全員同時に喋らないで!!」
三人の声が重なって、大広間に怒号と涙とため息が渦巻いた。
レオンとエミリアスが同時に息を吸って——同時に口を開いた。
「俺が——」
「ぼくが——」
二人がぴたりと止まった。気まずい沈黙。
「[sarcastic]……二人とも、計算してから言いなさいよ。まったく」
ビアンカが盛大にため息をついた。
スバルは思わず「[laughing]あははっ」 と笑ってしまった。深刻な場面なのに。でも笑ってしまった。レオンが眉をひそめてこっちを見て、エミリアスが頬を赤くして目を逸らした。
ちょっとだけ、空気が緩んだ。
でもすぐに、また言い争いが始まった。
「[cold]お前を失うくらいなら——」
レオンの声が大きくなった。感情を抑えきれなくなった声だった。
「[angry]俺が石になった方がマシだ!!」
——その瞬間。
ビアンカが持っていた石板の欠片が、かすかに白く光った。
全員が動きを止めた。
レオンが欠片を指さして、「[surprised]……壊れてるんじゃないのか、それ」 と硬直した。
誰も何も言わなかった。欠片の白い光が、ゆっくりと薄れていく。
エミリアスが一歩踏み出した。唇を結んで、それから——ほどいた。
「[crying]ぼくは……スバルのことが、好きだから……」
声が震えていた。
「[crying]スバルを苦しませたくないんだ!」
欠片が、また白く光った。さっきより強く。
スバルの胸の中で、何かが跳ねた。
(え。え、今——)
レオンの言葉にも、エミリアスの言葉にも、どっちにも——
(なんで今そんなことに気づいてんだよ、あたし!!)
内心で叫んだ。欠片をじっと見つめながら、顔が熱くなるのをひたすら我慢した。
ビアンカが欠片をすっと目の前に持ち上げた。
「[gentle]……ねえ、みんな」
静かな声だった。いつもの冷めた計算じゃない、ただの声。
「[gentle]欠片の色が、変わってきているのよ」
全員の口が閉じた。
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ビアンカが欠片を観察しながら、ゆっくりと言葉を選んだ。
「[serious]レオンが叫んだ時。エミリアスが泣いた時。石化した部位が一瞬だけ色を戻していたのよ」
「[surprised]……え」
「[serious]本音を言うたびに、石化の進行が遅くなっている。犠牲じゃない——共有が、真の解呪条件だったのよ」
ビアンカの金色の目が、欠片からゆっくりと全員を見回した。
「[serious]石板は、誰かのために自分を差し出す覚悟を試していた。その覚悟が全員にあれば——痛みは一人に集中しない」
静寂。
スバルは石化した左腕を見た。包帯。冷たい、感覚のない腕。それから欠片を見た。さっきより白くなっている。
鼻の奥がじんとした。目が熱くなってきた。
そして——笑えてきた。
「[crying]……なんだよそれ」
涙が出てきた。笑いながら出てきた。こんなの初めてだった。
「[crying]最初から言えよ!!!」
声が大広間に響いた。重苦しかった空気が、ぱんっと弾けた気がした。
エミリアスが「あっ」と小さく声を上げて、自分の頬を押さえた。顔が真っ赤だった。
レオンが腕を組んだまま、視線を天井に向けた。
「[cold]……今のは。誰も聞いていないことにしろ」
「[surprised]ぼくも! ぼくが言ったことも、なしにできない?」
「[serious]できないのよ。欠片が全部記録しているのよ」
淡々と告げた。容赦なく。
どこからともなく、ラムの声がした。
「[cold]さっきおっしゃっていたこと、全部覚えておりますわよ」
全員が、揃って顔を覆った。
スバルは手で顔を押さえながら、まだ笑っていた。泣きながら笑っていた。なんだよこれ。こんな終わり方があるか。七日間、全員が自分を傷つけながら抱え込んで、犠牲になろうとして言い争って——答えは最初から、全員でぶつけ合うことだったなんて。
「[gentle]……じゃあ、明日」
声を落ち着かせた。石化した左腕を見て、それから全員を見回した。
「[serious]ちゃんとみんなの前で叫ぼう。全員で、一緒に」
レオンが珍しく、腕を解いた。
「[gentle]……一緒に、か」
呟いた声は低くて、でもいつもの鋭さがなかった。
エミリアスが頷いた。銀髪が揺れた。
「[gentle]スバルが一緒なら……今度は、ちゃんと言えると思う」
欠片がほんのり白く光った。
「[serious]感傷に浸るのは7日目が終わってからにしなさいよ」
ビアンカが手を叩いた。
「[serious]石化の進行はまだ止まっていないのよ。タイムリミットは今夜の深夜まで。分かってるでしょ」
全員がぱっと現実に戻った。
「[surprised]あ、そうだった!!」
「[cold]分かってる」
「[gentle]は、はい……」
解散する時だった。
エミリアスがスバルの隣に来た。小さな声で言った。
「[whispers]明日……ちゃんと、そばにいてね」
スバルは何も言えなかった。頷いた。
廊下に出たら、今度はレオンが隣に並んできた。先を歩きながら、振り返らずに言った。
「[cold]次は俺の番だからな」
それだけ言って、先に歩いて行った。
スバルは廊下で一人になって、石化した左腕をそっと右手で包んだ。冷たい。でも——さっきより、少しだけ軽い気がした。
夜になった頃、スバルは部屋でポケットから欠片を取り出した。
白かった。さっきまであんなに赤みを帯びていたのに、今は確かに白くなっている。でも完全には消えていない。赤が、まだほんのり残っている。
タイムリミットは、もう今夜の深夜まで。
スバルは欠片を握って、目を閉じた。明日——全員で、ちゃんと叫ぶ。それだけを、考えた。