ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ!
カプセル中学校へようこそ――日本のごく普通の学校。だけど、このクラスは何ひとつ普通じゃない。
転校生のカカロットは、野生の黒髪にいつもニコニコ笑顔、そして唯一の情熱は「昼食のおかわりをできるだけ多くもらうこと」。彼はのんびり屋で心優しく、食べ物と友情以外のことにはまったく無頓着。ところが、なぜか周りの女の子たちが次々と彼に恋心を抱き始めているのだ。
まずは幼なじみのチチ。賢く真面目で、いつか医者になることを夢見ている彼女は、ずっとカカロットのことが好き。毎朝告白の練習を欠かさないけれど、告白しようとすると必ずカカロットに「ねぇチチ、ハンバーグちょうだい?」と邪魔されてしまう。彼女は毎日心の中で悲鳴をあげている。
次にベジータ――ライバルで隣人、そして歩くプライドの塊。誰かを好きだなんて絶対認めないけど、クラスで一番自信満々なブルマに(下手に)アピールしようと奮闘中。その方法は? 彼女を罵倒すること。もちろん全然うまくいっていない。
カカロットの親友クリリンは、ひそかにチチに恋をしている。でもカカロットが親友だから、何も言えずにただ見守り、拳を握りしめるばかり。
第4話では大事
ドラゴンボール学園ラブコメ! オラ、恋愛わかんねぇ! - 転校初日は最悪日和! カレー8杯と15回目の失敗
「[excited]今日カレーですか? おかわり何杯まで大丈夫ですか?」
シーン、とクラスが静まり返った。
9月最終週の月曜日。ミソラ市立カプセル中学校、2年3組の教室。
担任のモリノ先生が黒板に「孫悟空カカロット」と名前を書き終えたちょうどその瞬間、廊下の向こうから漂ってきた匂いが、すべてをぶち壊した。
カレーの匂い。
給食室から、確かに、カレーの匂い。
32人の生徒が一斉に転校生を見る。
カカロットはニコニコしたまま、モリノ先生を真っすぐ見ていた。
モリノ先生は30代の女性で、眼鏡をかけた穏やかそうな顔の人だ。国語の先生らしく言葉を選ぶのが丁寧で、ふだんはおっとりしている。でも今、その顔が微妙に引きつっていた。
「……もう少し自己紹介を続けてもらえませんか」
短い沈黙。
「[whispers]続けてくれませんよね」
先生は小さくつぶやいて、ポケットからサラリと白い錠剤を取り出した。胃薬だ。水なしでそのまま飲む。クラスの何人かが遠い目をした。
カカロットは首をかしげた。黒いぼさぼさの髪がふわっと揺れる。
背は165センチくらい。体つきはがっしりしていて、中学生にしては肩幅がある。黒い詰め襟の制服を着ているけど、第一ボタンがなぜか少しゆるい。明るいこげ茶色の目が、きょろきょろと教室を見回して、それからまた先生に戻る。
笑顔は崩れない。ずっとニコニコしている。
「[gentle]えっと、カカロットです。よろしくな!」
それだけ言って、ぺこりと頭を下げた。
自己紹介、終わり。
モリノ先生がもう一錠、胃薬を飲んだ。
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「席は……窓側の最後列です。案内します」
教室の端、窓際の一番後ろ。
カカロットが歩いていくと、2列前の真ん中の席に座っていた女の子がビクッと肩を震わせた。
チチだ。
深緑色の長い髪が、きれいにまとめられている。落ち着いたグレーの瞳。身長は160センチくらいで、制服のセーラー服をきっちり着こなしている。成績は学年3位。将来の夢は医者。そういう雰囲気が、見ただけでわかる。
彼女は、今、顔が真っ赤だった。
(来た……来た来た来た!)
胸の中で何かが激しく脈打つ。
チチは机の上のノートをぎゅっと掴んだ。
カカロットとは小学校からの幼なじみだ。同じ町内で育って、家も3軒隣で、毎日一緒に登下校していた。小学3年生の時から、ずっと好きだった。6年間。14回、告白しようとして、14回、失敗した。
毎回なにかが邪魔をした。雨が降ったり、カカロットが転んだり、クラスメイトが話しかけてきたり。
でも今日は違う。
転校先でまた同じクラスになれた。これはもう運命だ。絶対に今日こそ言う。
(今度こそ……!)
カカロットが席にたどり着いた。
チチの斜め後ろ。
二人の距離、1メートルもない。
「[excited]チチ! 久しぶり! 大きくなったな!」
「[surprised]えっ……あ、う、うん! 久しぶり……!」
顔が燃えそうだった。声が震えた。6年分の気持ちが喉の奥にぎゅっと詰まっている。今だ、今言え、今しかない——
「[excited]ところで今日カレーだよな? おかわり何杯まで行けると思う?」
チチの思考が止まった。
カカロットはキラキラした目で続ける。前の学校ではカレーの日に8杯いけたとか、ここの給食は量が多いって聞いたとか、ヤマダさんっていう調理の人がすごく優しいとか。
チチは机の下で、ゆっくりと拳を作った。
15回目の失敗が、静かに始まろうとしていた。
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「[cold]オレの席の近くに来るな。邪魔だ」
低くて短い声。
カカロットが席に座ろうとした瞬間、最前列の廊下側から声が飛んできた。
振り返ると、そこにいたのは濃紺の髪の男だった。尖った感じの、逆立った髪型。燃えるような赤い瞳。身長は173センチくらいあって、中学2年にしてはすらっと背が高い。腕を組んで、眉をひそめて、完全に不機嫌な顔をしている。
学年1位、ベジータ。
黒板に一番近い席を自分で選んだ男。そういうやつだ、と隣の席の生徒がこっそり教えてくれた。
「[gentle]まあまあ、ベジータ。初日だし」
横からひょいと顔を出したのが、クリリンだった。
淡い水色の丸坊主頭。暖かい金色の瞳。168センチくらいで、カカロットとそう変わらない身長。顔はにこっと柔らかく笑っている。いつもそういう顔をしている。空気を読んで、丸くおさめようとする。そういうやつ、というのが第一印象だった。
「[angry]お前も邪魔だ」
クリリンが一瞬固まった。
カカロットはベジータをまっすぐ見て、それからニコニコ笑った。
「[gentle]ベジータって名前か。かっこいい名前だな」
クラスがまた静まり返った。
ベジータの眉がぴくりと動いた。赤い目がわずかに見開かれて、それから頬にじわりと赤みが差す。
「[angry]そ、そういう問題じゃない!」
顔を赤くしながら前を向いて、それきり黙った。
クリリンが小声でカカロットに囁いた。
「[whispers]よく言えたな、それ」
「[gentle]え? 本当にかっこいいと思ったんだけど」
クリリンが苦笑いした。
廊下の外では、給食室の方角から、さらに濃くなったカレーの匂いが漂ってきた。
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昼休み。
カプセル中学の給食室は、1階の西側にある。
毎日500食を作る調理主任のヤマダさんが、今日は出来立てのカレーをご機嫌で並べていた。
カカロットがおかわりに来たのは、1杯目が終わって3分後だった。
2杯目。
3杯目。
「[excited]うまい! めちゃくちゃうまい!」
4杯目、5杯目。
「[laughing]食べるね〜!」
ヤマダさんは50代の女性で、ガタイのいい、豪快な笑い方をする人だ。カカロットがおかわりのたびに目を輝かせるのを見て、だんだん顔がほころんでいった。
6杯目。
「[laughing]うちのエース! ついにうちのエースが来た!」
7杯目、8杯目。
カカロットが給食を8杯平らげた頃、廊下でチチが待っていた。
「……ちょっと。話があるんだけど」
声はできるだけ落ち着かせた。
顔は、たぶん赤い。
背中をまっすぐ伸ばして、グレーの瞳でカカロットを見る。
カカロットが振り返る。
ニコニコしている。
(今だ)
チチの口が開こうとした、まさにその瞬間——
「[excited]ごめん! 9杯目いけるかヤマダさんに聞いてくる!」
走り去った。
廊下に、チチだけが残った。
しばらくそのままでいた。
廊下の窓から、コモレビ丘陵の緑が見えた。空が青かった。9月の風が少し涼しかった。
チチはゆっくりと壁に背中を預けて、そのままずるずると座り込んだ。
(……15回目も失敗)
誰にも聞こえない声で、つぶやいた。
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放課後。
下駄箱の前で、カカロットが上履きを脱いでいた。
「今日の給食、9杯目断られたんだよな」とひとりごとを言いながら、のんきに靴を履き替えている。
「[angry]あんたって本当に人の気持ちがわからないのね! 最低!」
突然の声に、カカロットは顔を上げた。
チチが立っていた。
グレーの目が、今はうっすら赤くなっている。声は震えていた。でもまっすぐカカロットを見ている。怒っているんだと、誰が見てもわかった。
「[surprised]え? オレ、何かした?」
本気でわからない顔だった。
首をかしげて、ぼさぼさの黒髪を揺らして、こげ茶色の目を丸くして、まっすぐチチを見ている。
(わかってない。本当に、何もわかってない)
チチの喉の奥がぎゅっとなった。
怒りなのか、悲しいのか、自分でもよくわからなくなっていた。6年分の何かが、ぐちゃぐちゃに混ざった感じ。
「[angry]……最低」
もう一度だけ言って、外に出た。
カカロットはしばらく下駄箱の前に立っていた。
(何がいけなかったんだろう)
本当にわからない。
カレーは8杯食べた。9杯目は断られた。チチに声をかけてもらった。給食室に走った。チチが怒った。
どこで何が起きたのか、まったく理解できない。
風が吹いて、下駄箱の前のドアがかたりと揺れた。
カカロットはとりあえず外に出た。とりあえず歩いた。
(明日、また聞いてみよう)
深刻に悩む性質じゃない。
それがカカロットという人間だった。
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屋上では、クリリンがひとりでいた。
本来は立入禁止の場所だ。でも非常階段から上がれることを、このクラスの生徒はほぼ全員知っている。
クリリンは金属の柵にもたれて、校舎の下を見ていた。水色の丸坊主頭に夕方の風が当たる。金色の目は静かだ。
さっきチチが怒鳴っていた方角。下駄箱の辺り。もうどちらの姿も見えない。
(チチが……)
胸の中に、何かが引っかかった。
うまく言葉にならない。
ずっと前の学校にいた頃から、チチのことが気になっていた。カカロットとチチが並んで話しているのを見るたびに、自分でも気づかないうちに目がそっちを向いていた。
カカロットのことは好きだ。本当に好きな友達だ。
そのカカロットのせいで、チチが泣きそうな顔をしている。
クリリンは視線を落として、柵の端をぎゅっと握った。
「[whispers]……オレが、守ってやりたいのに」
誰も聞いていない。
風だけが聞いていた。
ミソラ市の空が、少しずつオレンジに染まっていく。コモレビ丘陵の方に太陽が沈んでいく。丘陵の南側にはコモレビ公園があって、そのあたりからハヤセ川まで、ミソラ市の夕暮れがゆっくり広がっていた。
クリリンはしばらくそこにいた。
何も決めない。
ただ立って、夕暮れを見ていた。
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カカロットは帰り道、定食屋「モグモグ亭」の前を通った。
ハヤセ通り商店街の端の方にある、昔からある定食屋だ。店主のタツオさんがガタイのいい体で「いらっしゃい!」と声をかけてくる。モグモグ定食は大盛りご飯におかず3品で650円。転校してくる前に調べて、もうここが気に入っていた。
でも今日は素通りした。
なんとなく、チチのことが頭から離れなかった。
何がいけなかったのか、やっぱりわからない。
でも、チチの目が赤かったのは覚えている。
(明日……ちゃんと聞いてみよう)
家に帰ったら、じいちゃんが夕飯の準備をしているはずだ。業務用の冷蔵庫が2台あって、じいちゃんはいつもたくさん作る。今日は何だろう。
カカロットはぼさぼさの頭を少し掻いて、東丘台の住宅街を歩いた。
とりあえず今日は、転校初日だった。
給食は8杯食べた。かっこいい名前の男に絡まれた。チチに怒られた。
盛りだくさんだったな、と思った。
夕風が制服を揺らした。
空の端っこが、もうすっかり暗くなっていた。